Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/28(水)アンサンブル・サモスココス/女声だけのア・カペラで現代によみがえる古来の民謡世界

2016年09月28日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
アンサンブル・サモスココス 2016
クセナキス「ヘレネ」をめぐって 〜アジアの女たちの声〜


2016年9月28日(水)19:00〜 白寿ホール 指定 A列 13番 3,000円
メゾ・ソプラノ:波多野睦美
アンサンブル・サモスココス
  石井奈央   岡本寿美
  小倉麻矢   乙顔有希
  小野敬子   白石明子
  鈴木絵麻   田端祥江
  豊田結実子  野村ゆう子
  人見珠代   渡辺まどか
ダンス:辻田 暁(ゲスト)
【曲目】
宮崎県民謡:刈干切歌(ソロ:岡本寿美/波多野睦美)
戸島美喜夫:ホラねろねんねろ 〜福島の眠らせ歌
戸島美喜夫:おっくんさん 〜愛知のわらべうた(初演)
戸島美喜夫:盆ならさん 〜愛知のわらべうた(初演)
宮内康乃:ポリリズム
高橋悠治:クリマトーガニ(ソロ:岡本寿美)
辻田 暁のダンス・ソロ
ヤニス・クセナキス:ヘレネ À Hélène
《アンコール》
 ハジダキス:好きなの
 高橋悠治編:沖縄民謡 じんじん

 今回はちょっと風変わりなコンサートにお邪魔した。もっとも風変わりなどと言ってしまっては、演奏者の方々に対して失礼になってしまうおそれがあるが、これはあくまで私にとってはまったく未知の、というか新しい分野だという意味なのである。曲目を見ても分かるように、そもそも今日のコンサートはクラシック音楽という枠組みには、おそらく収まらないものなのだろう。
 アンサンブル・サモスココスは、メゾ・ソプラノの波多野睦美さんが中心となって結成された、女声だけのア・カペラのグループである。「サモスココス Samoscochos」という名前もまったく意味が分からないと思っていたら、これはコスモスcosmosとカオスchaosをバラバラにして組み合わせた造語だという。統一と混沌を一緒にした世界。・・・・はて、どういったものなのだろう。

 最初の宮崎県民謡の「刈干切歌」が始まると、いままでに体験したことのない音楽世界が、じわりと拡がって行く。ア・カペラによるヴォカリースの合唱(?)がオルガンによる伴奏のように、あるいは田園を渡る風のように響き、そこに地方の農村に伝わる民謡が波多野さんとソプラノの岡本寿美さんの独唱で乗るカタチなのだが、何とも不思議な、それでいて自然な空気感があって、妙に心地よい。日本旋法(ここでは陽旋法)の民謡は非常にのどかな、日本の原風景のような印象で、心を癒す効果があるような気がする。
 続いては作曲家・戸島美喜夫さんの編曲のによる福島の眠らせ歌「ホラねろねんねろ」。こちらは多声的なア・カペラ女声合唱。もとよりア・カペラはキリスト教の教会音楽の形態だと思うが、そのような宗教的な雰囲気も漂う清らかさのある「音」で描かれる日本旋法は、とても新鮮な響きだ。
 続いて戸島さんによる愛知のわらべうたの初演を2曲。「おっくんさん」と「盆ならさん」。女声のみだと児童合唱のような清らかさと可憐さが際立つ。和声が複雑で、アンサンブルもちょっと先鋭的で面白い。白寿ホールは音響が素晴らしく、適度な残響が含まれたハーモニーがとても美しく響いた。
 前半の最後は、宮内康乃さんという若い女性作曲家の作品で「ポリリズム」。楽譜のない「声」によるパフォーマンス作品とのことで、現代音楽に通じるものがある。波多野さんがステージ中央で小型のコンガのような打楽器でトントンと刻むリズムに乗って、メンバー各自が短いパルス音(オノマトペのような、擬音のような・・・)を発していき、それらが多声的に重なり、あるいはずれて行くことで深く奥行きのある「声」による音空間が立体的に広がっていく。途中、手拍子が加わったりもする。空間に満たされている様々な「音」を持つ「声」が複雑に絡み合い、反応し合ってエネルギーが増幅していく感じ。そのミニマル・ミュージック的な「声」の広がりは、一見して前衛的だが聴く者の心には自然に共鳴していくようで、心拍数を高めていくような働きがあるようだ。これこそがサモスココスなのかもしれない。

 後半は、高橋悠治さんの作曲による「クリマトーガニ」。もとは混声合唱のための曲で、沖縄県の来間島に伝わる「水汲み歌」わ元に、台湾先住民やインドネシアのケチャックの手法を加えて作曲されたという。確かに琉球系の旋法が女声ア・カペラという特殊な音楽空間に描かれる時、以外にも力強いエネルギーに未満ち、さらには限りなく透明で清らかな響きを持つ。そこに岡本さんの伸びやかなソプラノ独唱が乗る。
 最後はヤニス・クセナキスの作曲による「ヘレネ À Hélène」。ギリシャ悲劇である「トロイのヘレネ」から題材を採った2部合唱曲ということだが・・・・まあ、ギリシャ悲劇の素養などまったく持ち合わせない私には背景となる物語が分からない。分からないものは仕方がないので、目の前にあるステージで行われているものに目を向けると・・・・。ア・カペラ合唱によるかなり先鋭的な「声」(荒野に吹きすさぶ冷たい風のような・・・・)に乗せて、辻田 暁さんがソロで現代舞踊。その鋭い動きにしばらくの間、目を奪われる。曲の前半は、このダンスが強烈な視覚的なパフォーマンスとなっているが、後半は合唱が存在感を強烈に主張する。音楽的には調性がなく現代的だが、力強く大きくうねるような曲想が、ある種の客観性のある調子で抑制的に語られていく。本日の曲の中では唯一日本的(アジア的)ではない世界観。とはいえそれがギリシャ悲劇的なのかどうかはよく分からない。テクストの内容はギリシャ悲劇から採られているが、音楽的には鋭さと論理性の高い現代音楽に聞こえ、そのギャップも面白い効果を発揮していた。

 アンコールは2曲。ハジダキスの「好きなの」は波多野さんのア・カペラ独唱と辻田さんの踊り。異文化のコラボレーションのようで、穏やかで温かい歌唱であるのに、とてもシャープな印象を残した。
 2曲目は高橋悠治さんの編曲で「沖縄民謡 じんじん」。全員によるア・カペラ合唱がとても可憐でもあり美しい。辻田さんの踊りも加わっていた。

 さて今日はまったく未知の世界の体験となったわけだが、全体的に非常に新鮮な印象を持った。クラシックの音楽家である皆さんの現代的な、実験的な音楽の創造。そこにあったのは新しいものを生み出してみたいという想像力の現れであろうか。女声のみのア・カペラ・グループという形態は斬新で、生み出される音楽は、単純に音としては極めて清冽で美しく感じられた。限りなく透明な響きは、たとえ音楽理論上の不協和音が含まれていても、人間が生み出す声は必ず響き合うもののようだ。そこが器楽とは違うところかもしれない。人の「声」はどんなに客観的・論理的になっても、温かく優しい。そのことに気づかされた思いである。貴重な体験の一夜であった。


 画像は終演後のロビーにて記念撮影。
アンサンブル・サモスココスの主宰者である波多野睦美さんとソプラノの岡本寿美さん。


← 読み終わりましたら、クリックお願いします。


★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの筆者がお勧めするコンサートのご案内です。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓





★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの人気ページをご紹介します。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓







コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 9/25(日)佐野成宏リサイタル「... | トップ | 9/30(金)アリス=紗良・オット/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事