Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/1(火)アジア・ユース・オーケストラ/ゲストのサラ・チャンが迸るようなシベリウスVn協奏曲を熱演/青少年の情熱に応える

2017年08月01日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
アジア・ユース・オーケストラ ワールド・ツアー2017 日本公演
Asian Youth Orchestra / World Tour 2017 in Japan

2017年8月1日(火)19:00〜 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 2列 17番 4,000円
指揮:リチャード・パンチャス
ヴァイオリン:サラ・チャン*
管弦楽:アジア・ユース・オーケストラ
【曲目】
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」作品20
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 作品92
《アンコール》
 ロッシーニ:歌劇『ウィリアム・テル』序曲より「スイス軍隊の行進」

 プレ・プロフェッショナルのユース・オーケストラで、ユーディ・メニューインとリチャード・パンチャスさんによって1987年に設立された「アジア・ユース・オーケストラ」。100名を超えるメンバーは、中国、香港、台湾、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムから、厳しいオーディションを経て選出された17歳〜27歳の演奏家たちによって構成されている。香港で3週間のリハーサルを行い、続く3週間でワールド・ツアーを行う。

 今年は、中国の香港特別行政区成立20周年記念を兼ねて、中国では北京と香港で2回、日本では東京で2回、アメリカのカリフォルニア州サンノゼ、バークレー、ヴァージニア州ヴィーナ、ノースカロライナ、ニューヨーク、イタリアのパッサーノ・デル・グラッパ、フランスのトゥールーズ、スペインのサンタンデール、サンセバスティアン、イタリアのラヴェッロ、スイスのルツェルン音楽祭、イタリアのメラーノ音楽祭、ドイツのベルリン、チェコのプラハ、ベルギーのブリュッセル、と世界各国で合計21回のコンサートが行われる。7月25日から9月5日にかけてのツアーなので、現時点ではまだ始まったばかりである。

 ツアーを率いるのは創設以来芸術監督を務めるリチャード・パンチャスさんと首席指揮者のジェームズ・ジャッドさんの2人で、交替で指揮をする。1回だけスイスの指揮者マティアス・バーメルトさんが客演する予定。同行するソリストは、ヴァイオリンのサラ・チャンさんとワディム・レーピンさんの2人で、サラさんはシベリウスのヴァイオリン協奏曲を、レーピンさんはブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番で共演することになっている(東京公演だけチェコのジャン・マレーセックさんが代役)。オーケストラのプログラムとしては、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」、ベートーヴェンの交響曲 第7番、そしてマーラーの交響曲 第1番「巨人」などが用意されている。

 日本では、7月31日(月)と本日8月1日(火)の2回、東京オペラシティコンサートホールで公演があり、昨日はジャッドさんの指揮で、ブルッフのヴァイオリン協奏曲とマーラーの「巨人」というプログラムだった。そして本日は、サラ・チャンさんをゲストに迎えてのシベリウスとベートーヴェンの第7番というわけである。

 私はといえば、だいぶ以前からサラさんのファンであったが、なかなか来日してくれないのが残念で仕方なかった。2008年のNHK音楽祭に来日して、ノセダ指揮N響と共演でブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を演奏して鮮烈な印象を残したままだったが(実はテレビで観ただけ。もちろん録画して保存してあるが)、今年の3月25日に新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に客演して、シベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏したが、その日は別の公演があって行くことができず、かなり悔しい思いをしたのである。
 そして今年は、AYOのワールド・ツアーに同行して再び日本に来て、同じシベリウスを演奏するというので、今度こそという思いで、ちょっと苦労して2列目センターの席を取った。何しろ、天才少女サラ・チャンはCDは多分全部持っていて、彼女が子供の時から聴いているわけだが、ナマの演奏を聴くのは何を隠そう今日が初めてなので・・・・コチラの方が緊張してしまった。そういうわけなので、AYOの演奏については後でまとめるとして、まずはサラさんの演奏についてレビューしたい。

 サラさんといえばお馴染みの感がある鮮やかなグリーンのドレスで登場。日本ではかなり珍しい、上手からの入場である。1980年生まれだから、かつての天才少女も今年で37歳になる。ちょっとボリュームが増した感じだが(失礼!)、相変わらず何ともいえない妖艶な雰囲気を漂わせていて、小柄なのに存在感は抜群。圧倒的なオーラを放っている。
 第1楽章がサワサワと始まり、すーっとヴァイオリンが入って来る。最初はかなりの弱音。おそらくわざとそうすることで、オーケストラのメンバーがサラさんのヴァイオリンに意識を集中させるようとしたのだと思う。その直後から、サラさんのヴァイオリンがうなりを上げる。芯がハッキリしていて、鋼のように強靱。立ち上がりが鋭く、一瞬の迷いもなく突き進んで行く。しかし音楽は若竹のようにしなやかにスイングし、旋律が、フレーズが息づいて歌う。そして豊かな音量。大人数のオーケストラがブンブン鳴っても、決してかき消されることのないサラさんのヴァイオリンには、他の人にはない独特の調子があるように感じられる。
 まず、独奏ヴァイオリンとオーケストラが微妙に合っていないことに気付いた。もちろんこれは意図的にそうしているに違いない。つまりテンポを細かく揺るがすことの出来ないオーケストラに対して、サラさんのヴァイオリンは自由度を高く歌わせる。オーケストラと縦の線をわざと外すことによって、ヴァイオリンの音が浮き上がってくるのだ。どちらかといえば、フレーズの頭は早めに突っ込んで行くのに、テンポはオーケストラと同じに保つ。前のめりのタイミングだけど、引っ張りはしないのである。
 さらには音程の取り方。とくに感じたのは、馬力をかけるG線の低音部で、ほんのわずか音程を高く演奏する。これによってヴァイオリンの音がオーケストラに飲み込まれなくなり、常に鮮やかに聞こえてくるのだ。そして音が活性化して音楽に高揚感が漲るようになる。だから、サラさんのシベリウスは、極寒のイメージではなく、氷の下で燃えたぎる溶岩のような、熱く燃えるような感情が前面に出てくる。こういった演奏は、CDなどの録音にはないもので、ライブならではの一期一会のものである。
 第2楽章は緩徐楽章。独奏ヴァイオリンが低音域で強い情念を歌い上げていく。しなやかに歌いながらも、くっきりとした立ち上がりと深いヴィブラートが陰影の深い音楽を創り出している。
 第3楽章独奏ヴァイオリンの力強い主題の提示で始まる。沸き立つような地下の鼓動に呼応して、民族調の旋律が沸き上がってくる。サラさんのヴァイオリンには、何とも力強いパッションが込められていて、触れると火傷しそうな感じ。そこから噴出されて来るエネルギーがオーケストラに影響を与えないはずはなく、息つく暇もないほど高い緊張感に包まれたまま、ドラマティックに、エネルギッシュに、駆け抜けるように曲が終わった。
 今日の演奏は、私がこれまでに聴いたシベリウスのヴァイオリン協奏曲の中でも、一二を争うくらいの素晴らしい演奏だと思う。オーケストラがプロではないとはいえ、かなりレベルが高いのでまったく遜色はなく、サラさんのヴァイオリンは世界の最高峰であることも改めて実感できた。彼女と同じステージの上で演奏することが出来たAYOのメンバーは幸せだ。音楽の持つ力や音楽を創り出すチカラを目の前で体験し、共有することが出来たのだから。

 そしてAYOの演奏について。
 前半の最初の曲は、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」である。絢爛豪華なオーケストラによる音の絵巻。3管編成の大オーケストラから生み出される豊潤な後期ロマン派の音楽。曲が始まってすぐに感じたのは、このオーケストラのレベルの高さだ。木管も金管も各パートがただ演奏しているだけでなく、実に物語的な情景描写に長けている。パンチャスさんたちの指導も素晴らしいのだろうが、何よりも感じる前向きな音楽への気持ちというか、良い音楽を作ろうとメンバーの気持ちが中心に向かっているのがよく分かる。そこには成熟したプロのオーケストラにはない生命力がある。それが感じられるから、聴いていて清々しいのである。「ドン・ファン」を聴いて清々しいというのもちょっとヘンな言いぐさかも知れないが、そう感じたものは仕方がない。演奏自体もかなり上手く、どこかの国の何とかフィルとかいうプロのオーケストラよりも余程聴き応えがあったことは確かだ。

 プログラムの後半は、ベートーヴェンの「交響曲第7番」。言わずと知れた名曲。別名「リズムの権化」。
 第1楽章。長い序奏は全合奏の柔らかい立ち上がりと各楽器の独奏が高い水準で組み立てられていき、細やかなニュアンスの表現なども見事だ。ソナタ形式の主部に入ると、リズムの権化たる、弾むようなリズムが刻まれ、主題が提示される。初めの方は金管のリズムがやや重く、モグモグしていたが、すぐに立ち直り、展開部あたりからはノリの良いリズムに乗って、オーケストラ全体が歌い出す、というか踊り出すといったイメージ。一旦ノリ出すと若い奏者だけなので、実にフレッシュな躍動感が生まれる。
 第2楽章はテンポ設定はAllegrettoだが実際には緩徐楽章に相当する。主題を提示する弦楽のアンサンブルがバランス良く、澄んだ音色で清涼感がある。葬送行進曲のような曲想だが、とても美しいのだ。中間部は爽やかな青空が広がるようなイメージ。そして全体を貫くイメージは、リズム感にもたつきがなく、とても流れが良くて、聴く者を退屈させないのである。
 第3楽章はスケルツオ。陽気で諧謔的な三拍子のリズムが、実に軽快。テンポもやや速めだ。オーケストラ全体がリズム感の良い躍動感に包まれている。ダイナミックレンジも広く、メリハリも十分に効いている。中間部も速めのテンポで大袈裟にすることなく、むしろ軽快に流れていて、そういうところも若々しくて良い。
 第4楽章はソナタ形式のフィナーレ。アウフタクト(アフタービート)のリズムが特徴的で、この曲がロックンロールの元祖だと指摘する人もいる。演奏はやはりリズムのキレが良く、聴く者をグイグイと引き込んでいく。やや前のめりのタイミングで、スピード感を創り出しつつ、アウフタクトのアクセントも前のめりで出てくるので、推進力が生まれ、躍動感が増してくるといったところだ。所々には怪しいところもあったが、流れにスピード感があるのであまり気にならない。とにかく聴く者の鼓動を高めてくれるようなフレッシュなリズム感が素敵で、若くなければ出来ない演奏なのかもしれないと思った。

 アンコールは、ロッシーニの『ウィリアム・テル』序曲より最後の部分で「スイス軍隊の行進」。トランペットのファンファーレ以降だ。かなり慣れているらしく、ここに至ってはパンチャスさんはほとんど指揮をせず、オーケストラの中を歩き回り、皆と握手したり、聴衆の手拍子を煽ったり、粋なところを見せる。アンコールのためだけにトロンボーンが加わったためか、全合奏の最後の音をトロンボーンだけで演奏させて会場の笑いを誘う。楽しい雰囲気のまま、オーケストラのメンバーも皆、笑顔のままコンサートが終わった。
 カーテンコールの後、パンチャスさんのご挨拶があり、10の国と地域から参加しているメンバーを立たせて紹介した。言葉も文化も異なる若者達が均等に参加していて、これだけ見事な演奏をするまでに指導されたパンチャスさんと、素晴らしい演奏を聴かせてくれたAYOの皆さんにBravo!を贈ろう。

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