Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/29(土)東京二期会『ばらの騎士』グラインドボーン音楽祭との提携による美しいヴィジュアルとクオリティの高い歌手陣による夢舞台

2017年07月29日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
東京二期会/グラインドボーン音楽祭との提携公演
リヒャルト・シュトラウス作曲『ばらの騎士』(全3幕/字幕付き原語[ドイツ語]上演)
平成29年度 劇場・音楽堂等活性化事業(共同制作支援事業)


2017年7月29日(土)14:00〜 東京文化会館・大ホール A席 2階 R1列 16番 13,000円(会員割引)
指 揮:セバスティアン・ヴァイグレ
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:荻原尚子
合 唱:二期会合唱団
演 出:リチャード・ジョーンズ
装 置:ポール・スタインバーグ
衣 装:ニッキー・ギリブランド
演出補・振付:サラ・フェイ
照 明:ミミ・ジョーダン・シェリン
音楽アシスタント:森内 剛
合唱指揮:大島義彰
舞台監督:幸泉浩司
【出演】
元帥夫人:林 正子(ソプラノ)
オックス男爵:妻屋秀和(バス)
オクタヴィアン:小林由佳(メゾ・ソプラノ)
ファーニナル:加賀清孝(バリトン)
ゾフィー:幸田浩子(ソプラノ)
マリアンネ:栄 千賀(ソプラノ)
ヴァルツァッキ:大野光彦(テノール)
アンニーナ:石井 藍(アルト)
警 部:斉木健詞(パス)
元帥夫人家執事:吉田 進(テノール)
ファーニナル家執事:大川信之(テノール)
公証人:畠山 茂(バス・バリトン)
料理屋の主人:竹内公一(テノール)
テノール歌手:菅野 敦(テノール)
3人の孤児:大綱かおり(ソプラノ)
      松本真代(ソプラノ)
      和田朝姫(メゾ・ソプラノ)
帽子屋:藤井玲南(ソプラノ)
動物売り:芹澤佳通(テノール)
モハメッド:ランディ・ジャクソン(黙役/文学座)
レオポルト:光山恭平(黙役/文学座)

 東京二期会の7月の公演は、リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』が新制作で登場。今回は、英国のグラインドボーン音楽祭との提携公演で、リチャード・ジョーンズさん演出のプロダクションをそっくり持ってくる形で上演された。指揮はセバスティアン・ヴァイグレさん、管弦楽は読売日本交響楽団がピットに入った。ヴァイグレさんは、日本ではあまり知られていないような気がするが、2008年からフランクフルト歌劇場の音楽総監督を務めている他、ドレスデンやMETなどの歌劇場への客演や、バイロイトでも指揮している。とくにワーグナーやリヒャルト・シュトラウスの評価が高い。昨年2016年の8月に読響に客演していて、今回は2度目の顔合わせとなる。ドイツ系を得意とするオペラ指揮者の名匠ということで、演目が『ばらの騎士』なら期待できそうだ。

 東京二期会の『ばらの騎士』は、前回はびわ湖ホールと神奈川県民ホールとの共同制作で、ベルリン・コーミッシェ・オーパーのプロダクションを持ってきた。アンドレアス・ホモキさんの先鋭的な演出で、2008年のことだった。今回のプロダクションは、その時と比べればかなり「普通」な感じに見える。演出全体を貫く作品自体への解釈にも特段変わったところは見られず、ホフマンスタールの台本とシュトラウスの音楽に沿ったまま、うまく表現できるようにオーソドックスにまとめている。
 舞台装置などによる場面(3つの幕)の作り方は、美術的には美しく仕上げているが、物語の内容をリアルに造形したものではなく、現代の演劇らしい観念的な情景を作り上げている。
 たとえば、第1幕の冒頭などは、普通は元帥夫人とオクタヴィアンがベッドで夜明けを迎えるシーンで始まるが、今回は何と元帥夫人がシャワーを浴びている(ちょっとドッキリ)。元帥夫人の居間に、オックス男爵をはじめ、3人の孤児や帽子屋、動物売り、テノール歌手などが押し掛けてくるが、その空間は狭く、人がいっぱいになる。
 第2幕の冒頭は、ファーニナルの屋敷の大広間ではなく、その控え室から始まる。豪華絢爛な音楽とはいささか合わないような・・・・。ただし演劇的な演出としては面白い。
 第3幕は料理屋(怪しげな居酒屋)の場面だが、電動で壁からベッドが出て来たりして笑わせる。皆がお化けに扮してオックス男爵を驚かすシーンは何だかよく分からなかった。第1幕と第3幕の最終場面に出てくるモハメッド(元帥夫人の召使いのアラブ系の少年)は子供ではなく青年で、元帥夫人の脱ぎ捨てた下着を見て興奮したり・・・・。
 オペラの演出は、現代においては万人を満足させることは不可能なようで、今回の演出は、『ばらの騎士』の作品の持つ世界観を概ね表現しながら、現代風の観念的な舞台空間との調和を図ったといったところだ。これなら、初めて『ばらの騎士』を観たひとでもある程度はその世界観を理解できるだろうし、このオペラを何度も観ている人にもある程度は新鮮さを届けることができたと思われる。さすがにグラインドボーン音楽祭のプロダクションだけあって、演出も、舞台装置も、衣装も、そのクオリティは高い。なかなか素敵なステージであった。

 オーケストラの演奏の方は、読響が頑張っていた。ヴァイグレさんの指揮は、全体的には速めのテンポ感で、「会話オペラ」と呼ばれるこの作品がダラダラしないように快調に走らせる。メリハリもあるが、ダイナミックスよりもスムーズな流れを意識しているようだ。従って、読響の持つ馬力を発揮させることはなく、むしろ抑制的な中から、柔らかくしなやかで、とても澄んだサウンドを引き出していた。『ばらの騎士』が持つ、ウィーン風の空気感が出ていたかどうかは何ともいえないところだが、演奏自体は美しいサウンドに彩られていて、もちろん及第点である。

 『ばらの騎士』の主役は誰なのか、常に議論になる課題だが、作品の解釈によって、あるいは配役によって、変わってくる。重要な登場人物は、元帥夫人、オクタヴィアン、オックス男爵、ゾフィーの4人。元帥夫人は非常に重要な役割を果たしているが、第1幕は出ずっぱりでも後は第3幕の終盤に出てくるだけ。オクタヴィアンはタイトル役だから主役には違いないし、全幕に登場するのに存在感がイマイチ。オックス男爵は第1幕の中盤、第2幕も中盤以降、第3幕は中盤に出てくるものの、クライマックスを前にして退場してしまう。ゾフィーは第2幕からの登場で第3幕は終盤以降。物語のヒロインとしては存在感がイマイチなのである。こんな具合だから、結局誰が主役なのか・・・・。いずれにしても、この4人の配役が上演の出来不出来を決めることは間違いない。

 さて歌手陣についてであるが、前回の公演からは9年も経っているので、歌手陣もかなり入れ替わっている。4人(ダブルキャストなので実際は8名)のうち、前回も出ていたのは幸田浩子さんただ1人。やはり世代交代ということだろうか。

 元帥夫人役の林 正子さんは、最近、東京二期会のシュトラウス作品ですべて主役を張っている。『サロメ』、『ダナエの愛』、『ナクソス島のアリアドネ』を経て『ばらの騎士』の元帥夫人へと続く。ドイツ系のドラマティック・ソプラノともいうべき、芯の強い、張りのある声質で、声量もタップリ。立ち姿も美しく、存在感も抜群である。第1幕の主役たる元帥夫人自身の存在感とリンクしてくる。第1幕では冒頭からは若いオクタヴィアン相手に華やいだ明るい声質で歌い、オックス男爵登場以降は翳りが見えてくる。1人になってからのモノローグは憂鬱な心情と葛藤を、しっとりとした情感を込めて歌うが、声はよく通って来る。
 オクタヴィアン役の小林由佳さんは、無難に役柄をこなしていたことは確かだが、全体的に存在感がやや薄く感じられた。もっともそれは、今回の演出がオクタヴィアンを地味な役柄に、つまり常に脇役のような扱いにしていたからかもしれない。第1幕の後半から第2幕にかけての青年貴族の颯爽としたイメージが、終わった後に記憶に残っていないのである。別に小林さんの出来が悪いということではなく、メゾ・ソプラノとしてはよく声が通っていたし、第3幕の後半からクライマックスの三重唱にかけて、素晴らしい歌唱を披露していたと思う。
 オックス男爵役の妻屋秀和さんは、歌唱も演技も存在感抜群。世界の第一線で活躍してきた人だけに、その「場」の作り方が上手く、登場シーンでは常に聴衆の視線を集めてしまう。古い時代を代表する下品で粗野な田舎貴族のオックス男爵は、本作では「悪役=憎まれ役」にあたるわけだが、そのキャラクタにどこか憎めないところがある。シュトラウスもオックス男爵に一番美しい「ワルツ」をライトモチーフとして与えており、まさに主役級の扱いになっているのだ。妻屋さんが演じるオックス男爵は、とぼけた味わいがあり、声量もたっぷりのバスで軽妙に歌っている。ただ、演出面で彼の行動が今ひとつ分かりにくかったのが残念だった。
 ゾフィー役は幸田浩子さん。キレイな高音域は健在だ。今回の演出では、新興ブルジョワジー階級の箱入り娘にしては、ちょっと勝ち気で我が儘、自己主張が強く、庶民感覚の振る舞いをするキャラクタに描かれているようで、美しい旋律のロマンティックな音楽との間に若干のギャップが感じられた。
 その他の登場人物も平均的には優れていると思ったが、ファーニナル役の加賀清孝さんは第2幕冒頭の登場シーンではもう少し輝かしい歌い方が欲しかったし、第1幕のテノール歌手役の菅野 敦さんはもっと朗々とやり過ぎるくらいの歌い方が欲しかった。ヴァルツァッキ役の大野光彦さんはあまり声が聞こえてこなかった。・・・・まあ、言い出したらキリがないのだが、脇役陣の歌唱や演技のレベルが高いほど、上演のクオリティがたがることは確かだ。

 最後にクライマックスの三重唱について。音楽史上最も美しいといわれる三重唱は、『ばらの騎士』最大の聴かせ所であり、元帥夫人とオクタヴィアンとゾフィーのそれぞれの思いが同時に歌われて、三人三様の心の葛藤がカタルシスを迎えて、音楽が光り輝くのである。三重唱が始まると、各人の歌唱がよく通るようにオーケストラがかなり控え目に抑えられ、転調を繰り返して3人の感情が高まっていき、オーケストラも徐々に盛り上がっていく。それが頂点に達すると(ティンパニの連打が入るところ)声とオーケストラの音の奔流が、光り輝くように聞こえて来る。オペラの醍醐味がそこにはある。『ぱらの騎士』は、休憩も含めるとこの劇的なクライマックスまで3時間40分もかかる。それを長く感じるか、短く感じられるかが、上演の出来不出来だということになる。3時間40分も待って、クライマックスが盛り上がらなかったら・・・・。

 『ばらの騎士』は私が最も好きなオペラであって、上演があるときは必ず観に行く。もちろん、いつもが名演とは限らない。今回の、東京二期会の公演は、グラインドボーン音楽祭との提携公演ということもあって、客も大入りであったから、公演自体は大成功といったところだろう。私自身の感想はといえば、まあ、好きなオペラや好きな曲はどうしても採点が厳しくなってしまう傾向があるので、その点を踏まえた上で、75点〜80点といったところだ。普段オペラや音楽に対して採点などはしないが、今日は、とても素晴らしい公演であったとは思うが、ちょっとモヤモヤしたところが残っていて、それを表すためにあえて点数にしてみたのである。出演者達の歌唱と演技、指揮者の解釈とオーケストラの演奏、演出、舞台美術や衣装、そしてその日の出来具合など、総合芸術たるオペラは多くの変数によって成り立っている。だから満点になることなんて、絶対と言ってよいくらいない、のである。今回の東京二期会の『ばらの騎士』の評価は、良い方だと思う。

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