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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/5(月)アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル/可憐なシューベルトと豪放な「展覧会の絵」

2012年11月07日 00時52分55秒 | クラシックコンサート
アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル
Alice Sara Ott Piano Recital 2012


2012年11月5日(月)19:00~ 東京オペラシティ・コンサートホール S席 1階 1列 14番 5,400円(会員割引)
ピアノ: アリス=紗良・オット
【曲目】
モーツァルト: デュポールのメヌエットによる変奏曲 ニ長調 KV.573
シューベルト: ピアノ・ソナタ 第17番 ニ長調 D.850
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」
《アンコール》
 リスト: パガニーニによる大練習曲 第5番 ホ長調「狩り」
 シューマン: ロマンス 第2番

 そういえば、アリス=紗良・オットさんのリサイタルは久しぶりのような気がしたので調べてみると、前回は昨年2011年1月のことであった。会場は今日と同じ、東京オペラシティ・コンサートホール。およそ20ヶ月ぶりである。その間、何度か内外のオーケストラとの共演で協奏曲を聴いている。今年の6月にはパーヴォ・ヤルヴィさんの指揮するフランクフルト放送交響楽団との協演でリストのビアノ協奏曲第1番を、また先週のNHK音楽祭で、ロリン・マゼールさんの指揮するNHK交響楽団との協演では、グリーグのピアノ協奏曲を聴いた。いずれもフレッシュな感性が煌めく名演であった。結局は東京での演奏はほとんど聴いていることになる。久々のリサイタルは、じつくり聴くことができるので、期待も高まるというものだ。

 アリスさんの今回の来日公演ツアーでは、札幌から北九州まで、全国10都市で10公演。先月リリースしたばかりのCD「PICTURES」(今年2012年7月、サンクトペテルブルグでのライブ録音)と、ほぼ同じ曲目を引っさげての全国ツアーである。今日の東京オペラシティ・コンサートホールは、7回目の公演であった。
 今日のアリスさんは紫のお衣装で、ふわりと登場。やはり裸足である。ふと思い立ってキャッチ・コピー「裸足の妖精」………ありきたりでしたか。失礼しました。



 1曲目はモーツァルトの「デュポールのメヌエットによる変奏曲」。可愛らしい主題がモーツァルトの手にかかって次々と華麗な変身を遂げていく曲だ。アリスさんを見ると(今日も1列目の正面やや鍵盤側)、ペダルをほとんど使っていない。打鍵は軽くしなやかで、いわゆる音の粒立ちが揃った、転がるような瑞々しい音色だ。弱音がとくに美しい。ペダルを使っていないということは、キータッチの時間が音色を決めていくことになる。速いパッセージでも、左手の分散和音なども、澄んだ音色の清涼感溢れる演奏だったが、一方で古典的な風合いもうまくミックスされていて、なかなか素敵なモーツァルトであった。

 2曲目はシューベルトの「ピアノ・ソナタ 第17番」。40分近い大曲ではあるが、いかにもシューベルトらしい歌曲的な旋律の美しさと、同じ音形が繰り返されながら変化していくのが特徴で、ちょっと冗長ともいえる。この曲はライブCDにも収録されている。当然のごとく、シューベルトになると音色が変わる。ダイナミックレンジも上がり、楽想に応じて多彩な音色が繰り出されてきた。ペダルも効かせるようになり、和音や旋律にも深みが増している。やはり、アリスさんのピアノはロマン派が素敵なような気がする。初めて彼女のピアノを聴いた時に感じたスケールの大きさ、懐の深い音楽性のようなものを再び感じたものである。
 第1楽章の快活さ、第2楽章の抒情性、第3楽章の諧謔性、第4楽章の多様な感性と歌謡性…。それぞれにアリスさんのピアノは雄弁に音色を変化させ、実に多彩な表現力を発揮していた。演奏している時の表情も明るく、時に微笑みを浮かべ、時には旋律を口ずさんでいるのが聞こえた。全体を貫くロマン的な瑞々しさは、若い女性ならではの屈託のなさ。とても可憐であり、美しい演奏であるのは、ご本人の容姿を映したようであった。

 後半はムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。アリスさんはステージに登場し椅子に腰掛けるなり、ためらいもなくプロムナードを弾き出す。鍵盤に対して指を垂直にぶつけるような強い打鍵で、強烈なフォルテ。最前列・最短距離で聴くと、のけぞるような音圧を感じた。ダイナミックレンジは、シューベルトの倍もあろうか。凄まじいばかりの演奏が続く。これはCDで聴いていたライブ録音とはまったく違うアプローチだといえる。とにかく、今までに聴いたことのあるどの「展覧会の絵」よりも鮮烈なイメージを描き出していた。徹底的な標題音楽であるこの曲へのアプローチとしては、はたしてこの解釈はおかしいのではないか、という考えも一瞬脳裏を掠めたが、ここまで自信たっぷりにガンガン弾かれると、完全に寄り切られてしまった。アリスさんの勝ちである。思うに、あまり標題音楽に拘らず、むしろ純音楽的に楽譜を読み込んでいった上での挑戦であったのではないだろうか。純音楽として捉えれば、ピアノという楽器の機能とスタインウェイの性能を最大限に発揮させて、楽曲の表現の幅を最大限に広げて、思いっきり弾いてみた、という感じがである。
 各曲毎に変化する多彩な音質と表現の幅も広く、とくに「キエフ大門」になだれこんでいく部分の緊張感と期待感の描き方は素晴らしい!! もちろん「キエフの大門」は途方もない音量がホールを揺るがすような大迫力。とにかくスゴイ演奏なのである。解釈云々などと野暮なことはいわずに、今日はアリスさんのピアノをすべて受け入れて、Braaaava!!
 1週間前に聴いたNHKホールでの協奏曲と比べても、今日の「展覧会の絵」の方が、遥かにピアノが鳴っていた。ピアノがこれほど大きな音が出る楽器なのだということを再認識した次第である。また、東京オペラシティ・コンサートホールの音響の素晴らしさも再認識させられた。豪快な叩き付けるような重低音から、高音域の小さな音まで、楔形に尖った天井がとても自然な美しい響きをもたらした。左右の幅がないホールだけに音が拡散せずに、空間を緊密に音が満たしていくといったイメージ。最高の音響である。NHKホールで聞かされた金属音や乾いた音は、今日はまったくなく、目の前で聴いているのに、どんな強奏でも音そのものはあくまで豊かで澄んでいた。
 曲が終わった瞬間に会場が沸騰した。Bravo!の声が飛び交う。演奏を終えたアリスさんは肩で息をしているような状態。お疲れ様でした。
 アンコールはなくても良かったのに、と思ったが、2曲弾いてくれた。リストの「パガニーニによる大練習曲「狩り」は、先週のNHK音楽祭と同じ。シューマンの「ロマンス 第2番」は、会場の興奮した空気を沈静化するしっとりした演奏だった。

 終演後は恒例のサイン会。もともとが超人気者であるのに、新譜CDがリリースされたばかりということもあって、あっという間に長蛇の列ができてしまった。300人くらい、あるいはもっと多かったかもしれない。最前列で最後のカーテンコールまで拍手を続けていると、サイン会にはどうしても出遅れてしまうので、今日の所は断念することにした。またいずれ、機会があるだろう。
 今日は演奏だけでお腹いっぱいであった。

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