Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/8(水)CHANEL室内楽/瀧村依里・田原綾子・伊藤悠貴・加藤文枝らによる重量級プログラム

2016年06月08日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
CHANEL PYGMALION DAYS/CHAMBER MUSIC SERIES 2016
シャネル・ピグマリオン・デイズ 室内楽シリーズ


2016年6月8日(水)18:30~ CHANEL NEXUS HALL 自由席 3列 左ブロック 無料招待
アーティスティック・デレクター:大山平一郎
ピアノ:ウェンディ・チェン
ヴァイオリン:瀧村依里
ヴァイオリン:マーティン・ビーヴァー
ヴィオラ:田原綾子
チェロ:伊藤悠貴
チェロ:加藤文枝
【曲目】
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44(チェン/瀧村/ビーヴァー/田原/伊藤)
ブラームス:ピアノ四重奏曲 イ長調 作品26(チェン/ビーヴァー/田原/加藤)

 CHANELが提供するピグマリオン・デイズ・アーティストたちによる室内楽シリーズをまた聴く機会に恵まれた。今回のシリーズは6/7、6/8、6/10、6/11の4日間にわたり、過去のピグマリオン・デイズ・アーティストの皆さんや元東京クヮルテットのメンバーであるマーティン・ビーヴァーさんなどを招いて開催される。出演者は開催日や曲目毎に異なるので、短いリハーサルの時間で演奏を仕上げていくだけでも高い能力が要求されるところだろう。
 今回のメンバーのうち、瀧村依里さんは2010年のピグマリオン・デイズ・アーティストで、私は2013年にCHANELでリサイタルを聴かせていただいたことがある。その後読売日本交響楽団に入団して、現在は第2ヴァイオリンの首席奏者を務めているのは皆さんご存じの通りである。チェロの伊藤悠貴さんと加藤文枝さんは、昨年2015年11月のCHANEL室内楽シリーズに登場していたヴィオラの田原綾子さんは、この4月にCHANELで単発のリサイタルを聴かせていただいたばかりだが、本来はピグマリオン・デイズ室内楽アーティストという位置付けである。そのため、今回の室内楽シリーズでは、全日にわたって出演し合わせて5曲の演奏に参加するというハード・スケジュール。しかも今日だけは全曲に加わる。メンバーがすべて異なるのでリハーサルのタイミングなどが大変そうだが、今回は海外の一流アーティストたちも加わっているので、持ち前の積極性で、素晴らしい体験をすることになりそうである。

 プログラムはなかなかの重量級だ。通常、CHANELのコンサートは1時間くらいの規模で行われている。無料招待で行われるものなので、普通の有料のコンサートの半分強というのはちょうど良いサイズだと思う。ところが今日の選曲にはちょっとボリュームがあった。前半のシューマンが30分くらい、後半のブラームスは50分に及ぶ大曲なので、間の5分間程度の休憩を挟むと、およそ90分近くなる。さすがにアンコールはなかったが、正味の演奏時間からみてもちょっとしたフルサイズのコンサート並みのスケール。聴く方にとってはありがたいことだが、演奏する方は大変だ。

 前半は、シューマンの「ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44」。演奏するのは、ピアノがウェンディ・チェンさん、
第1ヴァイオリンが依里さん、第2ヴァイオリンがビーヴァーさん、ヴィオラが田原さん、チェロが伊藤さんというメンバーである。いつも言っていることだが、室内楽に関してはほとんど知識がないので、単純に聴いた上での感想を述べることにしよう。
 この曲は1842年の作で、シューマンは幸せの最中にあり、作品群も充実している時期でけあって、いかにもロマン派というような、自由な感情表現な彩られていて、抒情的な喜びが溢れているような曲想だ。第1楽章は、活発な喜びの感情が止まらない第1主題、ロマンスがいっぱいの第2主題。時折見せる不安な表情も、幸せの中にいつまで続くのかという憂いが秘められる。第2主題の展開が楽章の中で多くの部分を占めているのも、作曲者の心情の表れであろう。演奏はまさに若い人たちならではの屈託のなさ。明るい音色と弾むようなリズム感に支配されていて、聴いている方も若い人たちのエネルギーをいただくような気分になって、とても嬉しい。明るく煌びやかなピアノと抒情的に歌うチェロが素敵だ。
 第2楽章は変奏曲形式の緩徐楽章。主題はトーンを落とし、憂いの方が前面に出てくる。不安の要素がカタチを変えてヴァリエーションを聴かせる。
 第3楽章はスケルツォ。嬉しい感情を上昇する旋律に乗せている。A-B-A-C-Aの形式で、主部はチェロが、中間部Bはヴァイオリンが、中間部Cはピアノが活躍する。
 第4楽章は、Allegroのフィナーレ楽章。憧れを乗せたような伸びやかな主題がチェロを中心に登場する。第1ヴァイオリンとチェロに重きが置かれていて、ピアノは全体を華麗にバックアップする。第2ヴァイオリンとヴィオラは内声部を受け持つためにあまり目立たない。終結部になると、第1楽章の主題が回帰してきて、各パートに分かれ推進力のあるフーガを構成する。それらがひとつにまとまって曲が華やかに終わる。
 CHANEL NEXUS HALLは音があまり響かないので、音がプツプツと切れてしまうのがいかにも惜しい。もう少し残響音があれば、もっと若々しくフレッシュなイメージが増したであろうことは想像に難くない。演奏の方は端正にまとまっていて、しっかりとした造形を打ち出していたが、ロマンティックで活発な雰囲気は表れていたものの、少々まともすぎたようにも思えなくもない。やはり限られたリハーサルの時間の中で、曲を仕上げる方に求心力が向かったようにも感じられた。

 後半はブラームスの「ピアノ四重奏曲 イ長調 作品26」。演奏は、ピアノがチェンさん、ヴァイオリンがビーヴァーさん、ヴィオラが田原さん、チェロが加藤さんというメンバーである。この曲は1861年の作で、ブラームスがベートーヴェンの正統な後継者たるべく、交響曲作りに悩んでいた時期の作品。1876年に完成する交響曲第1番の作曲に20年間も試行錯誤を繰り返し悩んでいた、その間である。従って作曲の方法論としては交響曲の習作という要素もあり、演奏時間も長く、壮大なスケールを持っている。
 第1楽章が始まると、確かに交響曲のような大きなスケール感がある。ブラームスという人もあまり優れたメロディ・メーカーではなかったので、最初に提示される動機を展開して積み上げるような楽曲を構築している。理論的に積み上げられていく部分と、その間に表れる感傷的で抒情的な主題が鮮やかに対比するのもブラームスらしい。経過句に新しい旋律が次々と出てくるのも自由な表現のロマン派ならではである。その理論的に構築されている部分が、ややもすると同じような音型の繰り返しが続き、冗長に感じる部分もある。このような曲では、演奏していく上で緊張感を如何に保つか、集中を途切らせないことが大切だろう。何しろ交響曲をたった4名で演奏しているようなものなのだから。
 第2楽章は抒情的な緩徐楽章。短い動機を重ね合わせて主題を構築していく展開で、田原さんのヴィオラがようやく聞こえて来た。ブラームスもヴィオラには内声部を厚くする役割を多く与えていて、ヴィオラがひとりで主題を弾くところは少ない。しかし弦楽が厚いアンサンブルを聴かせて抒情的な主題を弾くと、実に奥行きが広がるようで素敵だ。あまり響かないホールだけに、内声部の役割は大きいのではないかと思う。
 第3楽章はスケルツォ。明るく弾むような生命力の溢れる音楽である。チェンさんの華やかなピアノが踊り、弦楽の明るいアンサンブルが眩しく聞こえる。若き日のブラームスの音楽故か、若い演奏家達のアンサンブルが新鮮なイメージを創り出していく。やはり内向的な音楽よりは、外に向かう音楽の方が、若い人たちの演奏には合っている。無理に難しく考えずに、素直に演奏する方が良い場合もあるようである。この楽章は複雑な構造で長い。スケルツォの主部と中間部がそれぞれ独立したソナタ形式で書かれている。主題が多く提示、再現と繰り返されるため、いささか冗長に感じる。
 第4楽章は明るく弾む舞曲風のフィナーレ。楽曲としては華やか、壮大にフィナーレを構築していくが、演奏している方はかなり疲れてくるところだろう。全体に音量が小さめになりメリハリも少なくなってきたように感じたが、疲れていたのは私の方で、気のせいだったのかもしれない。何しろ50分に及ぶ大曲なのに、交響曲などの管弦楽曲と違って、ピアノ四重奏では休む間もなく演奏し続けなければならない・・・・。それはともかくとして、アンサンブルの集中は最後まで高く保ったまま、とても良い演奏だったと思う。会場からも盛大なBravo!!が飛んでいた。

 結局、シューマンとブラームスの2曲はかなりハードなプログラムであったといえよう。両曲を演奏したビアノのチェンさんはともかくとして、ヴァイオリンのビーヴァーさんとヴィオラの田原さんにはかなりの重量級であったに違いない。最後までしっかりと演奏してくれて、「お疲れ様!!」と声をかけたくなってしまったくらいである。実際に疲れていたのは聴いていた私の方だったのだけれど。ここはやはり、皆さんの素晴らしい演奏にBravo!!を贈ろう。

 終演後は、それぞれの出演者を囲んでの歓談の時。ホールのあちこちに人の輪ができていた。私は親しいのは田原さんだけだったので、またいろいろとお話しする時間が比較的ゆっくりと取れた。何よりも嬉しいのは、彼女の演奏を聴く機会に恵まれたことで、CHANELの室内楽とリサイタルはかなり充実した内容だからである。こんな演奏会を無料で聴かせていただけるのは本当に幸せなことだと思う。心より御礼申し上げます。


 田原さんはこの後もCHANELの室内楽シリーズがあと2日ある。大学も4年生になれば相当忙しくなると思う。この後も桐6月17日に朋学園大学「第38回作曲作品展」での演奏があるので、昨年に続いて聴きに行く予定だし、7月9日にはリサイタルもある。他にも本番がいろいろとあるようで、ハード・スケジュールが続くようだ。留学も決まったということなので、今年は大きな飛躍の年になりそうである。可能な限りは聴きに行くことで応援したいと思う。

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