Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/27(土)CHANEL Pygmalion Days/田原綾子/少ない中からヴィオラの名曲たちを集めて充実の1時間

2017年05月27日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
CHANEL Pygmalion Days/田原綾子

2017年5月27日(土)14:00〜 CHANEL NEXUS HALL 自由席 2列左ブロック 無料招待
ヴィオラ:田原綾子
ピアノ:原嶋 唯
【曲目】
クラーク:ヴィオラ・ソナタ
ストラヴィンスキー/ドゥシュキン編:オペラ・ブッファ『マヴラ』より「ロシアの歌」
ヒンデミット:ヴィオラ・ソナタ 作品11ー4
《アンコール》
 山田耕筰:からたちの花

 「CHANEL Pygmalion Days」のコンサートで、ヴィオラの田原綾子さんのリサイタルを聴く。
 ご存じのように、CHANELでは毎年5名程度の将来有望の若手音楽家を「CHANEL Pygmalion Days アーティスト」に選定し、各自が年間6回、60分間のリサイタルを行う場を設ける。曲目や共演者の選定などは、アーティトが自由に考え、決めることができるらしい。会場は東京・銀座3丁目にあるシャネル銀座ビルディングの4階にある「CHANEL NEXUS HALL」。入場は無料の一般公開だが、公募・抽選制である。CHANELでは、そのシリーズとは別に「室内楽シリーズ」というのを年2回、短期集中的に開催している。こちらは「CHANEL Pygmalion Days アーティスト」の卒業生や海外から招いたアーティストも加わる。
 田原さんは、一昨年からこの「室内楽シリーズ参加アーティスト」に選ばれていて、その関係で、単発のリサイタルの機会をいただいてるということだ。実際問題として、ヴィオラ・リサイタルで年6回のコンサートを組むだけの曲がないという事情もあってのことらしい。そういうわけで、田原さんは昨年度も4月に1回だけリサイタルを開催している。確かに、ヴィオラには単体で世間に知られている曲がかなり少ない。オーケストラでも室内楽でも内声部を受け持つという楽器の持つ音域と性格のせいもあり、主役になりにくいのである。

 こうした一般的な事情のため、ヴィオラ・リサイタルでの演奏曲目は、あまり普段聴くことのない作曲家が登場することになる。本日演奏される、クラークやヒンデミットのヴィオラ・ソナタは、特にヴィオラに強い関心を持っていない限り、一般的にはCDなどを持っている人も少ないだろうし、聴いたことがないという人がほとんどだろう。作曲家の名前さえ聞いたことがないという人も多いかもしれない。だから、ヴィオラ・リサイタルはかなりマニアックな内容になってしまうのである(ただしCHANELのコンサートは公募・抽選制なのでマニアックな人はあまり来ない??)。
 私は、田原さんと知り合ったことをきっかけにヴィオラに関心を持つようになり、魅力を感じるようになった。ヴィオラの音楽を聴くようになったし、普段のオーケストラや室内楽などのコンサートでも、ヴィオラのパートに聴き耳を立てるようになった。そうなると、ヴィオラの持つふくよかな音色がますます好きになってくるのである。
 本日共演のピアニストは原嶋 唯さん。田原さんとは高校・大学と一緒だったクラスメイトで、最近は共演することが多い。昨年2016年7月には、東京・紀尾井町サロンホールで二人でデュオ・リサイタルを開いている。また、今年の3月には「CHANEL Pygmalion Days」の毛利文香さんのリサイタルにも出演していた。現在は桐朋学園大学大学院音楽研究科に在籍している。


 さて1曲目はクラークの「ヴィオラ・ソナタ」。レベッカ・クラーク(1886〜1979)はアメリカ人の父とドイツ人の母の元にイギリスで生まれ、王立音楽院や王立音楽大学でヴァイオリンや作曲を学んだ。後にヴィオラに転向し、女性で初めてのオーケストラ奏者となった。演奏活動でアメリカ合衆国に渡り、作曲も行うようになる。「ヴィオラ・ソナタ」は1919年の作で、現在では彼女の代表作のひとつになっているが、当時はまだ女性が作曲をするということが社会的に認められていない時代で、様々な差別的苦労を強いられたため世に出た作品は少なく、したがって長い間あまり評価もされなかったが、実際には才能のある作曲家だった。とくに自身がヴィオリストであったため、ヴィオラの特性を最大限に活かした魅力的な作品として評価が高い。数少ないヴィオラのための名曲のひとつなのである。
 田原さんの演奏でこの曲を聴くのは2度目。前回は2014年5月、音楽ネットワーク「えん」のコンサートであった。まる3年の前のことになる。その間に格段の進歩を遂げているに違いない。
 第1楽章の冒頭から、インパクトの強い立ち上がりを聴かせ、響きのデッドなこのホールにおいても十分に豊かに楽器を歌わせる。Impetuoso(激しく)と指定があるように、激情に流されるような曲想の主題が形を変えて繰り返される。田原さんの演奏は表情が豊か。曲相に応じて、時には叫ぶように、時には耐えてすすり泣くように、あるいは憧れを語るように・・・・。
 第2楽章はスケルツォに相当するVivace。激情的にリズムを刻む主題の間に諧謔的なフレーズがキラリと光る。目まぐるしく変わる曲想にも柔軟に反応して、ピツィカートやグリッサンドなどの技巧も的確だ。
 第3楽章は10分を超える長さで、前半がAdagioの緩徐楽章に相当し、後半はAllegroのフィナーレ楽章に相当する。前半は幻想的な雰囲気を漂わせる抒情的な旋律が美しい。ヴィオラの中高音域の夢幻的な響きが、キラキラと煌めくような原嶋さんのピアノと美しい対比を見せる。テンポが上がる後半には第1楽章の主題が回帰してくるが、それを否定するように嵐のような主題が激しく刻まれていく。ヴィオラの弾く主題は走馬燈のように変化する。それを力感溢れるタッチで弾いていく田原さんだが、音質に潤いを持たせてリズミカルに演奏することで、焦燥感いっぱいの音楽が少し柔らかくなって安らぎを取り戻すようであった。曲全体にクラークの苛立ちが詰まっているように感じるからである。

 2曲目はストラヴィンスキー(1882〜1971)のオペラ・ブッファ『マヴラ』より「ロシアの歌」。オペラは1922年の作というからストラヴィンスキーの「新古典主義」時代の作風となる、30分くらいの作品だという。もちろん観たことも聴いたこともない。「ロシアの歌」はこのオペラの冒頭で歌われるアリアを弦楽器用にポーランド系アメリカ人のヴァイオリニスト、サミュエル・ドゥシュキンが編曲したもの。田原さんは、CHANELの創業者ココ・シャネル(1883〜1971)がストラヴィンスキーと交流(不倫関係?)があったということからCHANELでのリサイタルで弾けるストラヴィンスキーの曲を探したのだそうだ。「ロシアの歌」はヴァイオリン用の曲だが、本日はヴィオラでの挑戦である。哀愁を帯びた民俗調の旋律が淡々と語られていく。元が歌唱用のアリアだけに、人声に音域がもっとも近いとされるヴィオラだけに、雰囲気は抜群で、ことさら丸みを帯びた音色で、柔らかく浮遊感のある演奏に終始した。低音域でもエッジを立てない柔らかな音色が優しく響き、中音域ではつぶやくような調子が印象的な演奏であった。

 短い休憩を挟んで後半は、ヒンデミットの「ヴィオラ・ソナタ 作品11ー4」。パウル・ヒンデミット(1895〜1963)はドイツの作曲家でヴィオラ奏者でもあった。ヴィオラ用の作品を多く残しているので、ヴィオラ界では大きな存在の作曲家となっているが、作曲家としては、オペラ、交響曲などの管弦楽曲、協奏曲、室内楽曲、器楽曲、合唱曲や歌曲など、幅広い分野で沢山の作品を残している。委嘱作品も多いので、存命中に評価の高かった作曲家だったことは確か。しかし現在ではあくまり演奏されることはない。ヴィオラとピアノのためのソナタは3曲あり、本日演奏された作品11-4と作品25-4が有名で、ヴィオリストには欠かせないレパートリーになっている。私は両方とも田原さんの演奏で聴いたことがある。
 第1楽章は「Fantasie」。親しみやすいロマンティックな主題が様々に姿を変えていく。田原さんのヴィオラは穏やかで柔らかな演奏で始まり、曲相に応じて色調が変化していく。深めのヴィブラートが美しい。カデンツァっぽい装飾的な早いパッセージも挿入されるが、柔らかなフレージングのまま技巧的な部分も華麗に流れている。
 アタッカで演奏される第2楽章は「主題と変奏」で、ゆったりとしたテンポで提示される主題はともかく、変奏が進んで行くに従って、複雑で混沌とした曲想へと変わっていくのは、近代の音楽らしい。
 さらにアタッカで第3楽章に入ると、何と第2楽章の変奏の続きが始まるといった、かなり変則的な構成になっている。要するにこの曲は全体が幻想曲のようなもので、変奏曲形式が多用される。近代の変奏曲だから曲相の変化は激しく、主題は明確にロマン派のものだが、変奏の展開は徐々に混沌としていく。非常に面白い構造だが、演奏する側としては高度な技巧はもとより、多彩な表現力と色彩感を持っていなければ演奏自体が難しい曲だと思われる。
 田原さんの演奏は非常に多様性があり、変奏の変化に対応している。基本的には陽性で明るい音色を持っているので、聴いていても常にフレッシュな印象を発揮し続けることになるが、その中にも、従来よりも陰影が深くなったようで、色彩感もバリエーションが明らかに増えている。この辺りはパリ留学の成果が早くも現れ始めているのだろう。それと気が付いたのは、低音部の音色がマイルドになっているところだ。従来は強く弾くとガリガリっと音が硬くなる傾向があったが、今日はそういう音が全くなく、柔らかく深みのある音色に変わっていた。デッドな音響のこのホールでも、ヴィオラならではの大きく包み込むような柔らかな響きが生み出されていた。豊かになった表現力にBrava!!を贈ろう。

 アンコールは山田耕筰の「からたちの花」。田原さんのアンコールは、いつも日本の歌曲をヴィオラ用に編曲したオリジナルのものを演奏している(編曲は森円花さん/今日も会場でお見かけしたが・・・)。これまでに、「浜辺の歌」(3回くらい聴いている)「ふるさと」(昨年のCHANELのアンコール)そして「紅葉」(これだけ聴いていない)などがあった。今日は「からたちの花」だが編曲ものではなくて、歌曲の伴奏ピアノにヴィオラを乗せて演奏した。1番の歌詞の部分は1オクターヴ下げてヴィオラならではの低音を響かせると、それだけでもぐっと新鮮な音楽になる。いつもはソプラノさんの歌唱で聴いているので、今日はアルトの「からたちの花」であった。人の温もりと優しさがしみじみと伝わって来るような素敵な演奏であった。

 終演後は、関係者やファンの方たちとの交流の合間を縫ってご挨拶。今日はお師匠さんの藤原浜雄先生が来ておられて、ステージの左角の1列目で聴いておられた(CHANELのリザーブ席!!)。演奏する方は緊張してしまうからできるだけ見ないようにしていたとか(笑)。実は私は浜雄先生のすぐ後ろの席で聴いていたのだが、けっこう良いポジションで、ヴィオラとピアノのバランスがとても良かった。
 田原さんの今回のCHANELは弾丸ツアーのようなスケジュールで、5月25日にはまだ留学先のパリにいて、学校の試験があったとか。飛んで帰ってきてリハーサルとコンサート本番、翌日にはもうパリに戻るとのこと。これじゃ、時差ボケしてるヒマもなさそう。若いっていいなァとつくづく思う。こうした過酷な状況の中でも、素晴らしい音楽を生み出して、私たちに届けてくれるのだから。


 この後も田原さんは夏のシーズンにはハードスケジュールが続きそう。7月12日(水)にはJTアートホールアフィニスで田原さんもメンバーになっている「ラ・ルーチェ弦楽八重奏団」のコンサートがある。7月23日(日)にはコンチェルティーナGINZAでリサイタル(ビアノは原嶋さん)があり、8月16日(水)には東京オペラシティコンサートホールで仲道郁代さんのリサイタルにゲスト出演、9月6日(水)にはサントリーホール・ブルーローズで「サマーフェスティバル」のコンサートに参加、9月17日(日)にはブルーローズで「チェンバーミュージック・ガーデン」に参加する。聴く方もこの夏は忙しくなりそうだ。

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