Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/9(金)依田真宣&須関裕子/スーパーリクライニング/明瞭な力感と豊かな抒情性で存在感を発揮

2017年06月09日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第126回 スーパー・リクライニング・コンサート
依田真宣&須関裕子 デュオ・リサイタル


2017年6月9日(金)19:30〜 Hakuju Hall 指定席 A列 6番 2,000円
ヴァイオリン:依田真宣
ピアノ:須関裕子
【曲目】
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第18番 ト長調 K.301
ストラヴィンスキー:イタリア組曲
チャイコフスキー/クライスラー編:弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 作品11 より 第2楽章 アンダンテ・カンタービレ
ラヴェル:ツィガーヌ
《アンコール》
 ドヴォルザーク/クライスラー編:我が母の教えたまいし歌
 プロコフィエフ:歌劇『3つのオレンジの恋』より「行進曲」

 Hakuju Hall(白寿ホール)が主催する「スーパー・リクライニング・コンサート」シリーズで、依田真宣さんと須関裕子さんのデュオ・リサイタルを聴く。このホールの座席は特別仕様で、背もたれが倒れるリクライニング・シートになっている。本シリーズでは、1列おきにしか客を入れず、シートを倒して、うたた寝をしながら聴いても良いことになっている、おそらく日本ではここだけでしか行われていないであろうコンサートの形式だ。しかしこのシリーズは優れた才能を持つ音楽家が出演し、かなりクオリティの高い演奏をしてくれるので、実際に寝ている人はほとんどいない。私などは背もたれは立てて、背筋を伸ばしてキチンと聴く。本日も実に素晴らしい演奏で、もったいなくて寝ているどころではなかった。


 ヴァイオリンの依田真宣さんは、東京藝術大学の大学院修士課程を修了、在学中より才能を認められて様々な音楽賞を受賞し、ソロ、室内楽、協奏曲などで幅広く活躍、各地のオーケストラのゲストコンサートマスターなども務めた。現在は東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターという重責を担っている。若いながらも実力派といえる存在だ。東京フィルの定期シリーズではいつも指揮者の真後ろの席で聴いているし、室内楽のコンサートも何度が聴かせていただいたことはあるが、ソロは初めてなのでとても楽しみにしていた。


 一方のピアノの須関裕子さんは、数々の国際ピアノ・コンクールの受賞歴を持ち、ソリストとして活躍する一方で、室内楽・アンサンブル奏者として国内外の演奏家から抜群の信頼を寄せられている。とくにチェロの堤剛先生の信頼が厚くコンサートやCD録音などで度々共演していることもあり、チェロを初めとする弦楽器奏者との共演が多いのは知っての通り。

 本日のデュオ・リサイタルのプログラムは上記の通りだが、一見すると取り留めがなくバラバラに好きな曲だけを集めたように見える。ところが、依田さんの説明によると、ここに集めた作曲家、すなわちモーツァルト、ストラヴィンスキー、チャイコフスキー、ラヴェル、アンコールのドヴォルザークとプロコフィエフに共通する要素は、オペラやバレエに傑作を残した作曲家、ということである。依田さんの所属する東京フィルは、オペラやバレエのピットに入ることが多く、シアター・オーケストラとしての側面も持っている。そこでの演奏は、シンフォニー・オーケストラとはまたひと味違った、「歌」や「踊り」を創り出していく。このような作曲家達の音楽に込められた「歌」や「踊り」を感じながら演奏してみたいとのことであった。

 1曲目はモーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ 第18番 ト長調 K.301」。2楽章形式の可憐なソナタである。曲が始まって感じたのは、依田さんのヴァイオリンは芯が通ったクッキリとしたタッチと明るい音色で、アンサンブルの時とは違う明瞭さを発揮している。古典的な造形の中でもロマン派のような情感を豊かに、旋律がよく歌っている。対して須関さんのピアノはまさに玉を転がすよう。音の粒立ちが丸く、キラキラと輝きを放つが、決して出しゃばることなく、この小さなホールに合わせて抑制的なのは、いかにも須関さんらしい。曲自体がサロン音楽的な可憐なものだが、2人の演奏も聴いている私たちを包み込むような優しさが感じられた。

 2曲目はストラヴィンスキーの「イタリア組曲」。新古典主義時代の曲で、原曲は管弦楽によるバレエ音楽『プルチネッラ』だが、バロック音楽的な主題を元にヴァイオリンとピアノのための6曲の組曲に作曲者自身の手によって編曲されたものだ。ヴァイオリンの世界ではとても人気のある曲で、リサイタルなどでもしばしばプログラムに載る曲である。
 いつもは女性ヴァイオリニストの演奏を聴くことが多いこともあり、今日の依田さんの演奏はとても新鮮なものを感じた。全体的に明るく陽性な響きであることは違いないが、立ち上がりがクッキリとしていて音量も豊かで、そして音がやや太い。ダイナミックレンジも広く、力強さもあり、そういう意味では男性的なのだ。低音域の大らかな豊かさ、高音域も緊張感よりは豊かさを感じさせる。かといって攻撃的なわけではなく、マイルドで優しいのだ。この辺りは演奏者の人柄によるのだろう。
 須関さんのピアノは、ヴァイオリンと適度なバランスを保ち、見事なアンサンブルを組み立てている。ピタリと寄り添い、歌うように、踊るように、ヴァイオリンだけでは表現できないリズム感の良い演奏で曲の根幹を支えるとともに、ヴァイオリンが気持ちよさそうに歌うのをさりげなくサポートしている。その音楽的な表現力や構成力に使われているのは高度な技巧だと思うが、それを感じさせない巧さが須関さんの真骨頂といったところだろう。
 この「イタリア組曲」は私も大好きな曲のひとつだが、今日のお二人の演奏は、聴き慣れた曲からとても大らかな響きと感性豊かな瑞々しい表現を引き出していて、新鮮な感動を覚えた。素晴らしい演奏だったと思う。

 3曲目はチャイコフスキー作曲、有名な「弦楽四重奏曲 第1番 」 の第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」をクライスラーの編曲で。天才的なメロディ作曲家であるチャイコフスキーは三大バレエ曲やオペラにも『エフゲニー・オネーギン』などの傑作がある。この「アンダンテ・カンタービレ」も、甘美な抒情性と浪漫性を遺憾なく発揮している。依田さんのヴァイオリンは情感豊かに、そして細やかなニュアンスを込めて歌う。繊細にして優美だが、男性的な力感もあり、軟弱でないところが良かった。

 プログラムの最後はラヴェルの「ツィガーヌ」。ラヴェルはスペインのバスク人系の血を引くフランス人だが、この曲にではハンガリー系のロマの音楽が採り入れられている。前半のヴァイオリンの独奏部分では、依田さんの力感溢れる演奏がホールに響き渡った。立ち上がりが鋭角的で、音量も大きく、内なる魂が叫ぶような熱いイメージ。音のひとつひとつにも情感が込められていて質感が高い。途中からピアノが入って来ると、民俗的な音楽の中に近代的な和声が持ち込まれて来る。須関さんのピアノは様々なカタチに変化するラヴェルの音楽を、クリスタルのような光彩を放つところから人の持つ不快感を増長させるような歪な不協和音に至るまで、多彩な色合いを付けて表現している。ヴァイオリンとの相性も良く、細やかなアンサンブルもしっかりと構築しているし、クライマックスでも叫ぶようなヴァイオリンの音を引き立たせるように微妙なパワーのかけ方をしている。見事にサポートぶりであった。

 アンコールは2曲。まず、ドヴォルザークの有名な歌曲「我が母の教えたまいし歌」をクライスラー編曲のヴァイオリン版で。この曲もロマの音楽ではあるのだが、甘美な旋律があまりにも有名で、あたかも「ロマンス」のようである。ヴァイオリンがカンタービレを効かせてすすり泣くように歌うのにこれ以上の曲もないというところ。依田さんの選曲もけっこうロマンティックである。
 最後はプロコフィエフの『3つのオレンジの恋』より「行進曲」。このオペラが上演される機会はほとんどないが、この「行進曲」だけは有名すぎるくらい。依田さんのヴァイオリンが不気味に不安感を募るような旋律を刻み、須関さんのピアノが躍動的な強烈なリズムをクレッシェンドしていく。互いに存在感を主張刷るような力感溢れる演奏であった。


 終演後、お二人がロビーに出て来られたので、ご挨拶と写真撮影。依田さんはいつもは東京フィルに出演しているためなかなかお話しするような機会がないので、今日は滅多にないチャンスとばかりにご挨拶に押しかけ、少しお話しさせていただいた。ステージを終えたばかりの表情は柔和で、なかなかの好青年である。今日の演奏は(こういっては失礼かもしれないが)想像していたのより遥かに素晴らしく、すっかりファンになってしまった。普段の演奏活動が忙しいであろうし、リサイタルを開く機会はあまりないかもしれないが、今後も追いかけてみたいヴァイオリニストのひとりになった。
 須関さんは弦楽器奏者や室内楽奏者から引っ張りだこで超人気者のピアニスト。演奏会も多いし、音楽祭に参加したり、放送用やCD用のレコーディングに参加したりと大忙しのようだ。この後は6月24日にリサイタルを、7月2日にはヴァイオリンの会田莉凡さんとチェロの上村文乃さんとのトリオを聴きに行く予定。いずれも小さなサロン(東京・駒込のソフィアザール)でのコンサートだ。彼女の弾くピアノは聴く者に優しく届き、共感を得るタイプだから、梅雨時の休日の午後を爽やかな気持ちにしてくれるに違いない。

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