【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

現代の探検家《田邊優貴子》 =96=

2017-04-23 14:25:07 | 浪漫紀行・漫遊之譜

○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 南極の森 = 3/3= ◇◆

  この地球の果ての水中の世界には、遥か遠い昔、わたしたちの知らない小人たちの文明があって、それが滅び、長い年月をかけて植物に覆われ失われようとしている姿を、今こうして見つけた———そんな失われた世界の物語を話し聞かされたとすれば、わたしは信じただろう。 あるいは、今まさにこの一つ一つの小さな緑の塔の中に不思議な生きものが棲んで暮らしている、ここは誰も知らない不思議の森なんだよ———そう聞いたとしても信じてしまったかもしれない。


 気が遠のいてしまいそうだった。 現実を確かめるために、今自分が降りてきた水面のほうを見上げた。 ボートが水面でゆらゆらと揺れている。 宙に浮かぶ飛行船のような、輪郭が不確かなその様子は、ますますわたしを非現実の世界に引き込んでいった。

 この辺りにある100以上もの湖は、最終氷期が終わるころに氷床が後退して誕生した。 地球最果てにあるこの緑の森は、数万年かかって築き上げられたのだ。 不気味なほどの沈黙が押し寄せ、聞こえるのは私の呼吸音だけだった。 それは一度も乱されることなく流れてきた太古の静けさのような気がした。

 誰かに伝えたい衝動に駆られた私は、水面に向かって浮上し始めた。 上には水色のゆらゆらした空の蓋、下には針葉樹林の森のジオラマのような光景。 まるで空中を自由に飛び回り、小さな地球を見下ろしているかのようだった。 徐々に水面が近づき、湖の外に顔を出すと、輪郭がくっきりとした世界が飛び込んできた。 仲間たちの視線はすべて、水中から帰ってきた私に集中している。目が覚めた瞬間だった。

 「すごい! すごいよ!!!」  レギュレーターを外した瞬間、自分の口から出てきた言葉はそれだけだった。 興奮していた私は咄嗟にうまい表現を見つけられなかった。 しかし、このあと冷静になってどんな言葉を使って説明したとしても、今私が見てきたあの不思議の森をうまく言い表わすことができないこともよくわかっていた。

 その後、昼に休憩をはさみ、午前と午後に1回約1時間ずつ、合計2回のダイブをしての作業となった。 他のダイバーたちとともに水中に潜り、水上の仲間たちと協力し合いながら、計画していた水中ビデオの設置と湖底の植物の採集を滞りなく終えた。

 調査を終えるころには体温がかなり奪われた状態になっていた。 陸に上がった私は手がかじかんでしまい、自分でグローブを脱ぐ力さえなく、陸上で待機していた隊員の医師に手を差し出し、外してもらった。 かぶっていたフードを脱ぐと、髪の毛がみるみるうちに凍りついていった。

 潜水調査の成功を祝し、その夜はみんなで宴となった。 小屋の中には収容人数を有に超えた10名もの人。 誰もが高揚し、賑やかな熱気が溢れていた。 私も全身疲れているはずなのに、数時間前に目にした神秘という言葉だけでは片付けられない水中の世界に未だ興奮冷めやらぬ状態がいつまでも続き、宴が終わり静かになってもなかなか寝つくことができなかった。
 深夜0時、小屋の外に出ると、同じようにこの素晴らしい気分の日を惜しむかのように浜辺には数名の仲間が座り込んでいた。 浜の向こうに険しくそびえ立つ岩壁“シェッゲ”が、高度の下がり始めた太陽でオレンジ色に染められていた。 私も座り込み、そのオレンジ色の光景をしばらく見続けた。

 いつの間にか全員が寝静まり、浜辺にはわたし一人だけになっていた。 冷えた体を暖めようと、海岸沿いを少し歩いた。 風のない静寂の中、立ち止まると、ふと、海からかすかな音が聞こえてきた。 それは、わずかな物音にかき消されてしまうほど小さい、透き通る高音の歌声のようだった。 歩き出すと、自分の足音で聞こえなくなる。 音の正体がなんなのかは結局わからないまま、いつしか海の中に消えていった。

  氷の海の妖精が歌を唄っていたんだろうか……そんなことを思いながら、もとの方向にゆっくりと歩いていった。
 この日、ついに白夜が終わった。

もうすぐ本当の夜がやって来る。

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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