【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

現代の探検家《田邊優貴子》 =102=

2017-05-05 12:56:23 | 浪漫紀行・漫遊之譜

○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子= ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 人間の時間と地球の時間-最終章- = 3/3= ◇◆

  生まれたての地球に出会ったときに感じた悠久の時間──それはめぐりめぐって、より一層、その“瞬間”を際立たせ、煌めくものにしていた。 奇跡だったのかもしれない。 地球に流れるはるかな時間、そして、人間が生きることができる時間と、その中で起きたほんの一瞬の出来事。 そんな出来事に、この世で何度めぐり会えるのか。 あの光景はずっとわたしの胸に焼きついたまま、いつまでも消えないだろう。

  深夜になると、暗い夜の闇が訪れた。 もうすぐ長い夜が支配する季節がやって来る。 冷え切った空気の中、シェッゲの肩にかかった夜の月が透明に輝いていた。

 翌朝、予定通りきざはし浜をあとにしたわたしたちは、昭和基地を経由したのちに、しらせへと戻った。 2月14日、観測隊員を全員載せたしらせは、とうとう北上を開始した。 1週間後には氷海の縁に達した。 氷縁は、比較的たくさんの動物に出会うことができるエリアだ。 氷縁の内側では、アデリーペンギンの群れの他に何組ものコウテイペンギンの群れ、外側ではザトウクジラの群れと遭遇した。

 アデリーペンギンやザトウクジラは、冬が来る前にそろそろ北へ向けて旅立つころだろうか。 そして、コウテイペンギンはこれから過酷な繁殖期に向けて南へ旅をするのだろうか。 

 氷海を脱出したしらせは針路を東にとった。 まだ南緯60度ではあるが、海が氷に閉ざされていない風景は、急に南極から遠く離れてしまったような気分にさせられる。 

 東進中のある夜、わたしの船室の電話が鳴った。 「オーロラ・オーストラリスから無線で呼び出しが来ています。 至急、艦橋(ブリッジ)へ」

  オーロラ・オーストラリス号──それはオーストラリアの南極観測船のことである。 近くを航行中らしいという噂は聞いていた。

 帽子をかぶり、わたしは急いでブリッジへ向かった。 ブリッジに入ると真っ暗闇だった。 夜の航海中は船外部の監視の妨げにならないよう、灯りを消しているのだ。 すぐには暗闇に目が慣れず、ブリッジで任務遂行中の人とぶつかりそうになる。

  「こちらです」 手すりを伝いながら、声のするほうへ慎重に歩いた。 少しずつ目が慣れ、無線担当者の姿がおぼろげに見えてきた。 無線機を手にとり、呼びかけた。 「オーロラ・オーストラリス、オーロラ・オーストラリス、こちらしらせ。 感度いかが?」

 「しらせ、しらせ、こちらオーロラ・オーストラリス。 感度良好、どうぞ」 ブリッジに上がってくる前から、相手が誰かはもうわかっていた。 無線機の向こうから聞こえてくる声の主は、大学院博士課程時代の研究室の同期だった。 彼はペンギンの研究者で、オーストラリア南極局で研究していた。 この夏、オーストラリアの南極基地へ調査に出かけ、ちょうどオーストラリア基地からタスマニアへ向けての帰途のようだった。

 目を凝らしても、外は深い闇。 まるでオーロラ・オーストラリス号が見えるような気配はない。 しかし、無線が届くのはほんの35マイル圏内だという。 この地球の果ての広大な南極海で、同じ瞬間にばったり出くわす……なんて奇跡的なのだろう。

 わたしたちは束の間の交信を楽しんだ。 お互いの野外調査の話、5か月ぶりに日本語を話すということ、今日の午後に双眼鏡でしらせが見えたこと、おかげで嬉しくて無線交信したい気持ちを抑えられず呼び出してしまったこと。

 月のない真っ暗闇の夜、懐かしい声なのに実体の見えない話し相手、穏やかで静かな南極海……まるで時空旅行でもしているような気分だった。 世界はぼんやりとした輪郭でしかなかった。 この2か月間、白夜の世界で暮らしてきたわたしにとって、闇夜は少し恐ろしく、けれどその反面、忙しく騒がしかった心に落ち着きが戻ってきたことも感じていた。

 不思議な、不思議な夜だった。 闇夜の交信が終わり、ブリッジの外へ出ると、天上には無数の星が瞬いていた。 ひときわ明るく輝く白い星“カノープス”……一万数千年もすれば南極星になるという。 それは、気の遠くなるような、つかみどころのない時間ではないような気がした。 南極で出会ったいくつもの風景がわたしの体の中に同化し、いつの間にか、はるかな時の流れが漠然としたものではなくなっていた。

 刻々と風が強さを増してきた。 進行方向の空に、ぼんやりと青白い光が現れ、一本の狼煙のように上がっていった。 やがて明るくなり、ゆっくりと生き物のように形を変え始め、放射状に広がった。

 わたしはその場に寝転び、深呼吸するように南極海に漂う冷たい空気と匂いを体の中に残そうとした。 オーロラはしばらくゆらゆらと揺れながら、南極海の上空を悠然と舞っていた。 オーロラの背後には、空高く、南十字星が凛然と光り輝いていた。

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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