【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

現代の探検家《田邊優貴子》 =97=

2017-04-25 12:52:53 | 浪漫紀行・漫遊之譜

○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 生と死の風景 = 1/3= ◇◆

  その日、わたしは椿池という湖を調査していた。 南極大陸に覆い被さる巨大な氷床の末端にある淡水の湖である。 スカルブスネス露岩域の最南東の氷河に接し、氷河で削られた細かい粘土質の粒子が大量に流れ込むため、椿池の水はミルキーブルーの色をしている。 まるでソーダアイスのような色だ。

 チャプ…………。 湖の真ん中辺りにボートを浮かべ、水面から水質計をゆっくりと下ろしていく。 水中に沈み込んでゆく水質計をジッと見つめていると、その輪郭はすぐおぼろげになり、ミルキーブルーの水に吸い込まれるように一瞬で消えてなくなった。 そこから下はもう暗闇に包まれた世界だ。

  南極の湖のほとんどはかなり透明度が高く、いつもなら水質計の姿は湖底に到達するまで水面から見ることができるのだが。これがミルキーブルーの色をしている所以である。 この、水の中へと調査器材が沈んでいく様子がわたしは大好きだ。 静かに、静かに、ゆらゆらと。 色が変わり、輪郭がおぼろげになり、水に吸い込まれ、同化していく。 

  今自分がいる陸上の世界とはまったく違う世界がすぐ真下に存在していることを実感できて、無性にワクワクするのだ。 このまったくと言っていいほどに環境が連続していない境界面に、自分が相対していることが感動的なのかもしれない。 だって、ほんの1cm先にはわたしが決して生きることのできない、劇的に異質な環境があるのだから。

 南極のとある湖を調査していたときのこと。 気温は0℃、まだ湖面には半分以上もの氷が残っていた。 そんななか、水面から湖底に向かって水深1メートルごとに水を採取していった。 初めに汲んだ水深1メートルの水は気温や氷の温度と変わらない0℃くらいだった。 ところが、水深5メートルになると自分の手に持ったボトル越しに、汲んだ水からなんとなく温もりを感じるということに気づいた。 水温を測定すると、水温計にはなんと“15℃”と表示されているではないか。

 また、とある別の湖でのこと。 その日の気温は5℃以上にもなる真夏の盛りだった。 いつものように水質計を水中に下ろし、水面から湖底までをゆっくりと往復させて水質を計測した。 湖岸に戻り、水質計のデータを見てみると、そこに表示されていた水面の温度は5℃。 

  が、水深2メートルで15℃。 そして水温は湖底の直上で急激に下がり、最深部である水深8メートルの水温はなんと“マイナス12℃”であった。 液体の状態のマイナス12℃の水なんて……信じがたい気持ちになったのを今でもよく覚えている。

 椿池の真ん中でボートに乗ってひっそりと調査をしていると、氷河末端側の湖岸から水が流れる音が聞こえてきた。 

  水上からの調査を終え、水の音がするほうを目指してボートを漕いだ。 ちょうどそこの湖岸は平らになっており、ボートを着けやすそうな地形になっている。 湖の周囲の様子を歩き回って調べるため、どこかに上陸しようと考えていたわたしはそこへ向かうことにした。

 ほどなくして、氷河から融け水が流れ込む湖岸に到着した。 上陸し、ボートが流されないように陸の上に引き上げ、早速わたしは歩き出した。 目の前には急峻な沢があり、水が勢いよく岩壁沿いに落ちてくる。沢の上には真っ白な雪と氷の塊が迫ってきている。

 湖の畔を歩いてみても、生き物の気配がまったくない。 赤茶けた荒々しい岩肌が湖を取り囲み、岩にピッタリと貼り付いて暮らす地衣類がわずかに見つかるだけだった。 知らない惑星に迷い込んだような気分だった。 岩石砂漠のような世界が続くなか、湖岸の砂地をしばらく歩き回っていると、ふと前方の砂地に見慣れない色を見つけた。

 “緑色だ! きっと、コケの群落かな” 南極を歩いていると、普段なかなか目にすることのない緑色。 鮮やかなその色に嬉しくなり、わぁっと駆け寄った瞬間だった。 

 “!!!!”   “アザラシのミイラだ—————”  急に飛び込んできたその光景にわたしは釘付けとなった。

 そこに横たわっていたのは小さい、体長80〜90センチメートルくらいのアザラシのミイラだった。 おそらく、まだ赤ちゃんだろう。 その状態から、かなり古いものだと想像できた。 すぐ傍らには鮮やかな緑色のコケが眩しく輝いている。

 小さなアザラシが横たわっている背後では、椿池の水面(みなも)が午後の太陽でキラキラと反射していた。 椿池の向こうには氷で閉ざされた白い海と、そこに浮かぶいくつもの巨大なテーブル氷山が果てしなく遠くまで続いていた。

 南極から一部持ち帰ったアザラシのミイラを年代測定すると、2千年ほど前のものだという値が出たことを最近聞いたばかりだった。 バクテリアも少なく、低温で乾燥しているこの土地では、ものがなかなか腐敗しない。 はるか昔、この幼いアザラシは海から湖に迷い込み、そのまま命を落としてしまったのだろう。 それから何百年、いや、何千年もの時間、その体は朽ち果てることなく、静かに、静かに、人知れずこの場所で眠り続けているのだ。

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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