弁理士の日々

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組織行動の「まずい!!」学

2006-08-18 00:09:56 | 趣味・読書
樋口晴彦著「組織行動の『まずい!!』学」(祥伝社新書)を読みました。
組織行動の「まずい!!」学―どうして失敗が繰り返されるのか (祥伝社新書)
樋口 晴彦
祥伝社

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JR西日本福知山線事故、三菱重工客船火災事故など、記憶に新しいいくつもの事故の原因を探りながら、これらの事故がどのような原因によって大惨事に至ったのかを紐解きます。
著者の樋口氏は1961年生まれ、東大経済出身で警察庁に入り、現在は警察大学校教授として危機管理分野を担当しているそうです。

取り上げられている事例は、
・チェルノブイリ原発事故
・JR西日本福知山線事故
・三菱重工客船火災事故
・スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故
・WBC誤審騒動
・えひめ丸衝突事故
・スペースシャトル コロンビア号事故
・JCO臨界事故
・クロネコメール便未配達事件
・美浜原発蒸気管爆発事故
・ボパール化学工場事故
・中華航空機墜落事故
・六本木ヒルズ回転扉事故
・和歌山砒素カレー事件
・不正経理事件
・耐震強度偽装事件
・大和銀行巨額損失事件
・東京女子医大手術ミス隠蔽事件
と盛りだくさんです。

これだけの内容を新書にまとめているのですから、ひとつひとつについてはそれほどのページ数は割いていません。しかし、内容については貧弱ではなく、必要な事柄がコンパクトに論じられています。

この本を読んで再認識するのは、「安全対策に近道はない」ということです。安全に携わるひとりひとりが、研ぎ澄まされた感性を磨き、細かいことをおろそかにせず、「安全は大切だ」と日々思い出しながら責任を持って仕事をするしかなさそうです。

通常、すべての作業は少しぐらい標準から外れても大事故に至らないような余裕しろを持っています。作業者はそれを知っているので、「この程度標準から外れても大丈夫だろう」とちょっとだけ楽をします。しかしこの「ちょっとだけ」が幾重にも重なり、ある日突然大事故の発生に至るのです。

世の中が注目する事故が発生すると、「その点についてのマニュアルが整備されていなかった」と鬼の首を取ったようにマスコミが書き立てます。今回の流れるプール事故もそうです。
しかし、あらゆる想定事項をすべてマニュアルに記載したら、マニュアルは膨大になり、だれも読まなくなり遵守しなくなります。絶対に守らなければいけない事項がかえって埋もれてしまいます。
三菱重工客船火災事故は、溶接作業者が遵守すべき事項を守らなかったために発生しましたが、その裏側には、あまりにも膨大なマニュアルの存在があったようです。
最近の家電製品の説明書がそうですね。最初の数ページはPL法対応の分かり切った注意が並び、読み手が本当に読みたい内容がどこに書いてあるのかわかりません。

「1件の重大事故の背後には、29件の小事故と、300件のトラブルが存在する」(ハインリヒの法則)が紹介されています。
今回の流れるプール事故がそうです。文部省やプール関係者は最初「特別例外的な事故」のような顔をしていましたが、私はハインリヒの法則どおりに多くの小事故やトラブルが潜在しているだろうと予測していました。
上記「トラブル」を現場では「ヒヤリハット」と呼んでおり、この本でもそのように紹介されています。「ヒヤリとしたりハッとした経験は、やり過ごしたり隠したりせず、職場の共有知識とし、対策を講じることによって大事故を防ごう」という運動です。

この本は、安全に対する入門書でわかりやすいですが、安全に携わるプロが座右の書とするだけの価値もあると思います。この本を何回も読み返すことにより、安全管理の感性が研ぎ澄まされていくのではないでしょうか。
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