弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

実験ノート

2014-04-19 23:18:39 | サイエンス・パソコン
小保方事件以来、実験ノート(ラボノート)が話題になっています。
私自身は実験ノートを使ったことがありません。一方、アメリカでは、特許制度が「先発明制度」であったこともあり、最初に発明したことを証明するための唯一の証拠として、ラボノートが極めて大事にされていたことは知っています。
米国で先発明を証明するためのラボノートについては、厳格なルールがあります。私が知るところでは以下のようです。
(1)ページの抜き差しができないノートを用い、鉛筆などの消せる筆記具は用いない。第1ページから記載し、余白を設けない。
(2)定期的に、読んで理解できる人に読んでもらい、読んで理解した旨の署名をもらう。当然日付を記入する。

調べてみると、日本の研究界においてもラボノートが非常に大切にされているらしいことは見えてきました。さて、日本で常用されているというラボノートは、どんなルールで記入されているのでしょうか。
コクヨがラボノートを販売していることを知り、一番安い「エントリーモデル」を1冊買ってみました。
コクヨ リサーチラボノート エントリーモデル 研究記録用ノート A4 ノ-LBB205S
クリエーター情報なし
コクヨ

ちなみに、コクヨのホームページエントリーモデルの内容が掲載されています。
値段の高い「ユニバーサルモデル」では、最初から各ページに連番のページがふられ、改ざんを防止するレインボー色のかがり糸が使われています。エントリーモデルでは、連番のページ数は購入者が自分で記載します。かがり糸は使われておらず、その代わりに改ざん防止パターン(左下写真)が印刷されています。
最初のページには、「RESEARCH LAB NOTEBOOK(研究ノート)記載上の注意」が記入されています(右下写真)。
 

『この研究ノートは、研究者が研究開発の内容を自ら整理して記録するものです。研究者の貴重な財産となると共に、研究者のかけがえのない研究成果を、知的財産権として最適に保護する際の貴重な証拠資料にもなるものです。研究ノートへはその日の研究内容を記録します。その際、各種のデータの他に、着想に至った背景や目的、具現化の手段・方法なども併せて書いておくと、特許出願時により使いやすく便利です。』
次に「必ずお守りください」として、
『◆記入年月日・記入者の署名・確認者による署名と署名日の記入を各ページに行う。』とあります。エントリーモデルでは、各ページの最下段に「記入者」欄、「確認者」欄、「日付」欄が設けてあります(下写真)。


時を同じくして、理研でも「理研の実験ノート」が理研敷地内で売り出されました。
小保方さんも使った?理研販売の実験ノート人気
読売新聞 4月19日(土)15時42分配信
『理研関連のグッズ販売所には、論文問題で話題になった実験ノートも並び、一部の販売所では午前中に売り切れる人気ぶりだった。理研研究者が実際に使っている本物だが、理研の広報担当者は「小保方晴子ユニットリーダーが使っていたノートと同じ種類かどうかはわからない」という。』

写真を見てびっくりしてしまいました。「これはコクヨのエントリーモデルそのものではないか」
コクヨのホームページでも「企業名や大学名を名入れしませんか? ◆表紙に箔押し名入れいたします。◆オリジナル表紙などの別製も承ります。」と記載されています。「理研の実験ノート」の表紙に記入された理研の標識は、コクヨに別注で造らせただけで、内容はエントリーモデルそのものなのではないか、と疑われます。

さて、理研において小保方さんは実験ノートの記入についてどのような指導を受けていたのでしょうか。
先日理研の監督責任でも書いたように、理研には「科学研究上の不正行為の防止等に関する規程」というのがあり、その第4条に「所属長の責務」が規定されています。
『第4条 所属長は、その所掌する組織における研究不正を防止するため、次の各号に掲げる事項を遵守するものとする。
(2)所掌する組織の研究員等に対し、・・・ラボノートブックの適切な記載の方法を指導すること。』

4月9日、理研の野依理事長が衆議院文部科学委員会に出席し、民主党の笠浩史議員からの質問に答えたところによると、小保方ユニットリーダーについては、センター長が上記4条の「所属長」に相当するそうです。
理研における「実験ノート記載の指針」がどのようなものであるか、まだ不明ですが、売り出された「理研の実験ノート」がコクヨのエントリーモデルと同じなのだとしたら、「各ページで確認者の署名を得ること」が必須となっているはずです。
センター長は、小保方リーダーに対する「所属長」として、実験ノートの各ページに確認者の署名を受けるように指導したのかどうか、ということです。もし、しかるべき確認者の署名を定期的にもらっていさえすれば、「3年間で2~5冊」であったという事実を今はじめて知った、ということにはならないはずです。

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