弁理士の日々

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プロダクト・バイ・プロセス・クレーム 最高裁判決

2015-06-07 21:53:05 | 知的財産権
3年前、202年1月27日、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許に対して知財高裁大合議判決が出されました。
今年6月5日、当該知財高裁大合議判決に対する上告審の最高裁判決が2件、出されました。いずれも「原判決を破棄する。本件を知的財産高等裁判所に差し戻す。」との主文です。

最高裁判決の結論
平成24年(受)第1204号 特許権侵害差止請求事件
(特許発明の技術的範囲の認定)
『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。』

平成24年(受)第2658号 特許権侵害差止請求事件
(特許発明の要旨の認定)
『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その発明の要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当である。』

上記判決の結論だけ見ると、『最高裁判決は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について、技術的範囲、要旨認定のいずれでも、「結果物特定説」を採用したな』との理解でおわることになります。

実は今回の最高裁判決、特許実務において、上記結論以外の部分で、きわめて大きな解釈変更がなされているのです。

平成24年(受)第1204号》判決5ページ12行
『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。』

「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在する」のでない限り、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、「明確性違反」ということで拒絶・無効になるというのです。

平成6年に特許法第36条が改正され、その結果として、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの作成は原則として許容されるようになったと解釈されています。
平成7年10月発行の「解説 平成6年改正特許法の運用」の42ページに,
『(2)製法による物の特定を含む請求項(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)について
生産物、その製造方法によって特定しようとする記載を含む請求項の場合にも、35条6項2号の趣旨を踏まえると、単に製造方法によって物を特定しようとする記載があると言うことのみをもって36条6項2号に違反することは適切でない。
ただし、このような記載がある結果、特許を受けようとする発明を出願時の当業者が明確に把握できないことになる場合は、36条6項2号違反となる。特に、製造方法により生産物を特定しようとする記載がある場合は、発明の外延が不明確な場合に該当するおそれがあるので、注意する必要がある。』
と記載されていることを確認しています。

今回の最高裁判決は、平成6年改正法の解釈をひっくり返す内容になっているのです。

弁理士としての私の実務経験によると、特許庁の審査実務においては、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを広汎に認める審査を行っています。「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに補正すれば特許する」との補正の示唆を審査官から受けることもたびたびです。
そうして特許査定を得た特許が、大量に成立しています。ほとんどの場合、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在する」との事情は存在しないでしょう。
今回の最高裁判例によると、このような特許は、今後無効審判で無効にされても致し方ない、というのです。

さて、この騒動、今後どのように進展していくのでしょうか。

なお、知財高裁大合議判決が出た当時の当ブログ記事を下記に示します。
知財高裁大合議判決「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の解釈
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの記載要件
プロダクト・バイ・プロセス・クレームと特許発明の技術的範囲
プロダクト・バイ・プロセス・クレームと発明の要旨
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