弁理士の日々

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プロダクト・バイ・プロセス・クレームと発明の要旨

2012-04-13 18:51:53 | 知的財産権
「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の解釈について判断した知財高裁大合議判決については、「知財高裁大合議判決「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の解釈」で速報を紹介すると共に、「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの記載要件」に続いて、前報では「プロダクト・バイ・プロセス・クレームと発明の技術的範囲」について記事にしました。
今回は、《プロダクト・バイ・プロセス・クレームと発明の要旨》です。
「発明の要旨」とは、発明の新規性や進歩性などの特許要件を審査する際の発明の範囲をいいます。
今回も、今回の大合議判決に記述された下記2つの判断基準をそれぞれ、パテント誌にならって《結果物特定説》、《過程限定説》と呼ぶことにします。
『特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶ』 → 《結果物特定説》
『特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定される』 → 《過程限定説》

パテント誌と中山注解に紹介されていた判例から、《発明の要旨》に関するものをリストアップすると以下のようになります。ここでは、それぞれ対象出願の出願年と、判決がどの説を採用したかを記載しました。

ここで、結果物特定説と過程限定説とを、場合によって使い分ける説を《併用説》と名付けました。どのように場合分けるかというと、『「真正PbPC」なら「結果物特定説」、「非真正PbPC」なら「過程限定説」』というようにです。

《特許性判断における発明の要旨認定》
東京高判平9・10・28(化粧料封入袋事件) → 結果物特定説
東京高判平9・2・13(転写印刷シート事件)昭和59出願 → 結果物特定説
東京高判平14・6・11(光ディスク用ポリカーボネート成形材料事件)昭和62出願 → 結果物特定説
知財高判平19・9・20(ホログラフィック・グレーティング事件)平成12出願 → 結果物特定説
知財高判平18・12・7(スピーカー用振動板の製造方法事件)平成13出願 → 結果物特定説
知財高大合議平24・1・27(プラバスタチンナトリウム事件)平成12優先日併用説

前回報告したように、《侵害判断における特許発明の技術的範囲》とは異なり、《特許性判断における発明の要旨認定》においては、平成6年特許法改正以後の出願について、「結果物特定説」による判決が2件出ているのに対し、今回の大合議判決は「併用説」に変更になりました。
即ち、化粧料封入袋事件、転写印刷シート事件、光ディスク用ポリカーボネート成形材料事件は平成6年改正前の適用で《結果物特定説》でいいのですが、ホログラフィック・グレーティング事件とスピーカー用振動板の製造方法事件は改正後の適用にもかかわらず《結果物特定説》であり、今回大合議判決の《併用説》と異なっています。

「ホログラフィック・グレーティング事件」は、拒絶査定不服審判を請求するときに補正を行い、補正前が「ホログラフィック・グレーティング」発明から補正後の「ホログラフィック・グレーティングの製作方法」でした。審判では、「審判請求時の補正要件を満たしていない」として補正却下と共に請求棄却審決をしました。これを不服とする審決取消訴訟です。
従って、確かに審決取消訴訟ではありますが、今回の検討対象である「発明の要旨の認定」とは関係のない判決であることが判明しました。

次に「スピーカー用振動板の製造方法事件」(平成13出願)です。
判決では一応、発明の要旨認定において「結果物特定説」を採用しており、その根拠について
『物の「製造方法」ではなく,「物の発明」について特許を得ようとする者は,本来,当該発明の対象となる物の構成を直接的に特定すべきであり,プロダクト・バイ・プロセス・クレームという形式による特定が許されるのは,当該発明の対象となる物の構成を製造方法と無関係に直接的に特定することが,不可能ないし困難であるか,不適切であり,その物の製造方法によって物自体を特定することに合理性が認められるような例外的な場合に限られるというべきであるが,その場合にも,当該製法はあくまでもその結果製造される「物」の構成を一義的に特定するための指標として機能するものであって,当該製造方法とは異なる方法により製造された物であっても,「物」の構成が客観的に同一であれば,当該発明に包含されるものと解するのが相当である。』(43ページ)
と判示しています。
平成13年出願が対象であり、平成6年改正法が適用されるので、必ずしもプロダクト・バイ・プロセス・クレームが例外的にのみ認められるものではない筈であるにもかかわらずです。
ただし、その後の具体的当てはめにおいて、(クレーム中に記載された)『製造方法によって製造された「多層構造のスピーカ用振動板」と客観的に同一の構成の「多層構造のスピーカ用振動板」を当業者が容易に発明をすることができたかどうかは,審判請求の対象となっていない』ことを理由に、審判請求人側の「取消事由」を「理由がない」といって退けているのです。
ですから、この事件において、「結果物特定説」を採用するかそれとも「過程限定説」を採用するかは、決してクリティカルなことではなく、いずれであっても特許権者の主張が採用されたのでした。

以上のように検討してきたところ、結局、ホログラフィック・グレーティング事件とスピーカー用振動板の製造方法事件はいずれも、「大合議判決と真っ向から対立する判決である」といって大騒ぎする対象ではないことが判明しました。

ここまで来たら疲れてしまいました。後は次号に回します。
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