弁理士の日々

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消尽-キャノン特許発明(2)

2006-04-08 00:03:53 | 知的財産権
前回図1に基づいて従来技術を見ました。今回は図2に基づいてキャノンの本件特許発明を検討します。

本件請求項1に係る発明を、判決では以下のように分説しています。分かり易いように符号を追加しました。
「A 互いに圧接する第1負圧発生部材132B及び第2の負圧発生部材132Aを収納するとともに液体供給部114と大気連通部112とを備える負圧発生部材収納室134と,
B 負圧発生部材収納室134と連通する連通部140を備えると共に実質的な密閉空間を形成するとともに負圧発生部材132へ供給される液体を貯溜する液体収納室136と,
C 負圧発生部材収納室134と液体収納室136とを仕切るとともに連通部140を形成するための仕切り壁138と,
D を有する液体収納容器において,
E 第1負圧発生部材132B及び第2の負圧発生部材132Aの圧接部132Cの界面は仕切り壁138と交差し,
F 第1の負圧発生部材132Bは連通部140と連通するとともに圧接部132Cの界面を介してのみ大気連通部112と連通可能であると共に,
G 第2の負圧発生部材132Aは圧接部132Cの界面を介してのみ連通部140と連通可能であり,
H 圧接部132Cの界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材(132B,132A)の毛管力より高く,かつ,
K 液体収納容器の姿勢によらずに圧接部132Cの界面全体が液体を保持可能な量の液体が負圧発生部材収納室134内に充填されている
L ことを特徴とする液体収納容器。」

構成Hの「毛管力」とは、毛管現象で液体をどれだけの高さまで吸い上げられるかを意味し、吸い上げ高さ(mm)で表されます。

図1に示す従来技術では負圧発生部材32は1つでしたが、本件発明では、図2(a)でわかるように、第1(132B)、第2(132A)の2つの負圧発生部材が圧接されて用いられます。本発明では毛管力に差をつけます。実施例(明細書【0049】)では、第1部材132Bの毛管力(吸い上げ高さ)P1=110mm、第2部材132Aの毛管力P2=80mm、圧接部の毛管力PSはP1, P2のいずれよりも大きくします。P2<P1<PSとします。

図2(b)はインク満タンでプリンターに設置した状態であり、このときの働きは従来技術の図1(b)と同様です。ポイントとしては、負圧発生部材の境界部132Cよりも高い位置までインクを充填しておきます。

従来技術と違うのは、運搬中に図2(c)のような姿勢になったときです。この姿勢で、第2の負圧発生部材132B中に吸収されたインクは、この姿勢での下方に下がります。一方、第1の負圧発生部材132Bに充満していたインクは、境界部132Cから第2の負圧発生部材132Aの側へ漏れ出てきません。毛管力がP2<PSであり、PS-P2の値が、液面Lと仕切壁138の高さ差よりも大きいからです。この点は、本件明細書の【0019】あたりから読みます。
そのため、輸送中に図2(c)の姿勢になっても、第1の負圧発生部材132Bの部分では仕切壁138とインクとが密着しており、空気が連通口140まで到達することができません(本件明細書【0020】【0045】~【0048】)。従って、液体収納室136内のインクはこの室内にとどまり、負圧発生部材収納室134に漏れ出てこないので、従来のように漏れ出たインクによって手が汚れる、といった問題が発生しないのです。

以上のように、本件発明の特徴は、2つの負圧発生部材を圧接し、毛管力をP2<PSの関係とし(構成K)、インク満タン時において負圧発生部材収納室側には少なくとも第1の負圧発生部材132Bを満たす以上のインクを充填しておくことです。この後半部分は構成Hから読むのですが、構成というより機能として表現しており、明細書の【0020】【0045】~【0048】を併せて読まないと理解できません。

このようなキャノンの液体収納容器のインクを使い切って空になった後、これを回収して中を清掃し、再度インクを充填する行為(リサイクル・アシスト社の行為)によって、特許権は消尽しなくなるのか否か、この問題について次回論じます。
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