弁理士の日々

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消尽-キャノン特許発明

2006-04-07 00:05:30 | 知的財産権
昨日は、キャノンvsリサイクル・アシスト大合議判決(知財高裁平成17(ネ)10021)(インクタンク事件)の中で、消尽の一般論について検討しました。本日と明日は、キャノンの本件特許発明の内容を調べます。
取り敢えず物クレーム(請求項1)(本件発明1)についてです。

従来技術の液体収納容器を図1に、本件発明の液体収納容器を図2に示します。

まず、従来技術から見ていきます。
対象は、インクジェットプリンターのインクを収容する液体収納容器です。図1の(a)はインクが空の状態の断面図です。右側に液体収納室36、左側に負圧発生部材収納室34、その間を仕切壁38が仕切り、仕切壁38の最下端に連通口40があります。負圧発生部材32とは、要するにフェルトのようなもので、インクを毛管現象で吸い上げることができます。吸い上げて負圧にするので負圧発生部材と呼んでいます。負圧発生部材収納室34の下端の液体供給口14の先にプリンターの印刷ヘッドが配置され、ここにインクを供給します。負圧発生部材収納室34の上端に大気連通口12が開口しています。
図1の(b)はインクを満タンにした状態です。液体収納室36はインクでみたされ、室36の上端に開口がないので液面は下がりません。負圧発生部材32にインクが吸い込まれ、液体-気体界面Lまでインクが存在します。

液体供給口14の位置でインクに正圧がかかっていると、インクが漏れだしてしまいますが、負圧発生部材32、要するにフェルトのようなものの毛管現象でインクを吸い上げているので、液体供給口14付近のインクは負圧になっています(多分)。プリンターヘッドで消費される分だけのインクが順次吸い出されていきます。

液体供給口14からインクが徐々に消費されていくと、室32内のインクが減少し、液面Lが下がります。大気連通口12が存在するので液面低下が可能です。さらに液面Lが低下して大気導入溝50まで下がると、この溝50を通じて空気が連通口40方向に吸い込まれます(多分)。連通口40位置で圧力は負圧だからです。この空気が連通口40を通って液体収納室36に入ると、空気は室36の天井部に溜まり、結果として室36の液面が下がって、室36に入っていたインクが順次室34に供給され、室34の液面Lが維持されます。こうして、室36に貯蔵していたインクが順次消費されていきます。
以上が、プリンターに接続された液体収納容器の動作です。

ところで、インクが満たされた液体収納容器を運搬する際、図1(c)のような姿勢になることもあります。このとき、負圧発生部材収納室34内の液面Lは(c)に示す位置に来るので、液面Lと仕切壁38との空隙は大気導入溝50まで繋がり、空気が連通口40を経由して液体収納室36に入り込んでしまいます。その結果、室36内のインクが室34に漏れ出てしまい、余剰のインクは図1(c)左下にインク25と書かれたように溜まります。これが大気連通口12から漏出し、あるいは液体供給口14から垂れて使用者の手を汚すことになります。

このような問題を解決するためになされたのがキャノンの本件特許発明です。これについては次回検討することにしましょう。
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