弁理士の日々

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グレン・グリーンウォルド著「スノーデンが私に託したファイル」

2015-05-04 11:30:49 | 歴史・社会
暴露:スノーデンが私に託したファイル
グレン・グリーンウォルド
新潮社

スノーデン氏は、米国の国家安全保障局(NSA)や中央情報局(CIA)の中枢で勤務して種々の機密情報に触れ、これら2つの組織が行っている監視や盗聴が、米国憲法が保障するプライヴァシーの侵害に当たると確信し、自分の人生と引き替えにこれら機密情報を公開する決意をしました。
そのスノーデン氏が、情報公開するための仲介者として選んだのが、この本の著者であるグリーンウォルド氏です。グリーンウォルド氏は、フリーランスのジャーナリストとして、米国当局の問題を指摘する急先鋒でした。グリーンウォルド氏の仲介により、スノーデン氏が託した機密情報は、英国のガーディアン紙から公開されることとなりました。
スノーデン氏が直接グリーンウォルド氏に接触しようとしてなかなかうまくいかず、映画制作者であるローラ・ポイトラス氏にも接触しました。グリーンウォルド氏は、結局ローラを通じてスノーデン氏と接触を開始することになりました。(以下、敬称略)

公表メディアとしてガーディアンを選んだのは、グリーンウォルドがガーディアンに記事を書いていたこと、アメリカ政府となれ合いになっていないこと、からでした。グリーンウォルドは、ガーディアンのアメリカ版編集長を務める英国人であるジャニーン・ギブソンに連絡を取りました。

当時、スノーデンは長期休暇を取って香港に滞在していました。
このあと、グリーンウォルドとローラが香港にでかけ、スノーデンと接触し、スノーデンから極秘情報を受け取って記事を執筆し、ガーディアンはジャニーンを中心として記事公表のための準備に取りかかります。
この間のいきさつを、著者は著者の時系列と著者の目線で描いていきます。手に汗握るサスペンスを読み進めているような興奮に包まれました。

スノーデンの人柄について、米国政府とそれに癒着したマスコミはネガティブキャンペーンをはっています。それに対してグリーンウォルドは、スノーデンと腹を割って長期間議論した唯一のジャーナリストとして、スノーデンの人となりを描写しています。それによれば、スノーデンはコンピュータソフトに関して秀でた才能を持ち、NSAやCIAではあっという間に欠くことのできない人材として重用されるようになりました。だからこそ、機密情報にも接することができたのです。
スノーデンは、NSAやCIAが行っている監視活動が、外国人はもちろん米国人に対しても許されないプライヴァシーの侵害であると判断し、たとえ自分の人生を棒に振ったとしても、この事実を公にすべきであると決心したのです。
CIAの機密情報を開示すると、情報提供者の身が危険にさらされます。そこで情報公開のソースをNSAに限ることとし、わざわざ希望してCIAからNSAに異動までしました。
そして必要な情報を入手すると、病気療養を理由に休暇を取り、香港に滞在し、グリーンウォルドやローラとの接触を試みたのです。

スノーデンからグリーンウォルドに渡された極秘情報をもとに、グリーンウォルドは次々と記事を執筆し、ガーディアンからオンラインで公開されていきます。そして予定通り、スノーデンは自ら名乗り出ました。
世界中からマスコミが香港に殺到し、スノーデンの滞在ホテルが露見するのも時間の問題です。今すぐスノーデンを香港の弁護士の元で保護すべきということになり、スノーデンは弁護士と合流しました。
これが、グリーンウォルドとスノーデンとの別れとなりました。その後のスノーデンの足取りについて、本書には描かれていません。

本書では、このあと、ページ数の半分ぐらいをさいて、スノーデン文書を紐解いていきます。機密文書は数万に及び、NSAという巨大組織内のありとあらゆる部署・部門によって個別に作成された文書の他、同盟国の諜報機関による文書も含まれていました。

アメリカで行われる、あるいはアメリカを経由するありとあらゆる通信(電話やメール)は、そのすべてがNSAによって収録された、といって過言ではないでしょう。何らの容疑がなくてもです。それも、オバマ政権になってからひどくなっているようです。オバマ政権は、リベラルな性格を持って誕生したと思っていましたが、実態はその正反対を歩んでいるようです。

本書の最後の1/4は、ジャーナリズムの危機に関してです。
ジャーナリズムは、政権を監視する「第四の権力」とも呼ばれてきました。しかし、現在のニューヨーク・タイムスやワシントン・ポストなどは、たとえ極秘情報を入手してそれを公表するにしても、政府のダメージが最小になるように手心を加えているというのです。

オバマ政権ではさらに政権の圧力がエスカレートしています。
ジャーナリストが情報提供者から得た機密情報に基づいて報道を行うと、そのジャーナリスト自身が情報漏洩の“共謀者”にされてしまうというのです。調査報道に携わるジャーナリストであれば誰もが日常的に行っている取材活動が、すべてスパイ防止法違反で告発される対象になるというのです。

私は、日本のジャーナリズムが政権のポチに成り下がっていることについては何度も触れました。このブログでは以下の記事をアップしています。
上杉隆「ジャーナリズム崩壊」
長谷川幸洋「日本国の正体」
牧野洋「官報複合体」
それに対してアメリカのジャーナリズム、例えばニューヨークタイムズなどは、政権監視機能を十分に備えている、と理解していました。しかしその理解がどうも間違っているようです。日本のジャーナリズムほどではないにしても、アメリカのジャーナリズムも、政権監視機能を十分には果たしていないようです。
今回、スノーデン情報の公開場所として、ニューヨークタイムズやワシントンポストを忌避し、ガーディアン紙を選んだのはそのような理由からでした。
アメリカのジャーナリズムも腐りかけているということのようです。
コメント
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