弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

原発事故とヨウ素剤の服用~三春町の奇跡(1)

2012-07-31 20:16:22 | サイエンス・パソコン
チェルノブイリ原発事故では、多くの子供が甲状腺ガンを発症しました。甲状腺ガンから子供を守るためには、放射能が到来する直前か直後に安定ヨウ素剤を服用することが重要といいます。チェルノブイリ事故で、ベラルーシ、ロシア、ウクライナでは甲状腺ガン患者が多数発症したのに対し、国民に安定ヨウ素剤を服用させたポーランドでは、甲状腺ガンの発症が皆無であったといいます。
このブログでも取り上げた松野元著「原子力防災―原子力リスクすべてと正しく向き合うために」85ページによると、ベラルーシで15歳以下の甲状腺ガン発症が増え始めたのは、事故があった1986年から5年経過した90年になってからです。93年には、ベラルーシで10万人あたり甲状腺ガン発症率が5.5人、95、97年には5.6人に達しています。今回の福島事故でも、甲状腺ガンが増えるかどうかはこれから顕在化する問題となるでしょう。
今回の福島原発事故であれば、3月15日に放射能プルームが原発から北西方向に流れた際に、その方向にいた住民、特に子供に安定ヨウ素剤を服用させるべきでした。そして、安全委員会は安定ヨウ素剤を投与させるべきとの助言を行ったのですが、なぜかその助言が現場に届かず、福島県は安定ヨウ素剤服用の指示をとうとう出しませんでした。

安定ヨウ素剤服用の指示は複雑な伝言ゲームを経由することになっていました。

安全委員会 → 国の災害対策本部(ERC) → 現地災害対策本部 → 福島県 → 各市町村 → 住民

3月13日午前、安全委員会は、1万cpmを超えた者には安定ヨウ素剤を投与すべきことを記したコメントをERCに送付しました。しかし、このコメントは、ERCから現地対策本部には伝わりませんでした。
安全委のコメントが安全委員会からERCにFAX 送信され、これをERCに詰めていた安全委所属のリエゾンが受け、災害対策本部(ERC)の医療班の人間に渡したといいます。しかし現地本部側は「そんなファックスを受けとった者はいない」ということです。
安全委の助言が現地に届いていないことは、安全委でも把握されたはずでしたが、安全委は確認や再度の助言を行いませんでした。

朝日新聞2012年7月25日朝刊第3面

福島県の防災計画によると、県知事は、国の指示を待たずとも独自の判断で服用指示を出すことは可能でした。また、県は服用指示を出すための情報をある程度は持っていました。しかし、福島県知事は服用指示を出しませんでした。

国会事故調報告書本文446ページでは、「責任は、緊急時に情報伝達に失敗した原災本部事務局医療班と安全委員会、そして投与を判断する情報があったにもかかわらず服用指示を出さなかった県知事にある」と断じています。

ところで、県からは服用指示が出なかったにもかかわらず、市町村が独自の判断で、住民に安定ヨウ素剤を配布し服用指示した市町村がいくつかありました。政府事故調中間報告第5章308ページでは以下のように報告されています。
『福島第一原発周辺の幾つかの市町村は、3月15日頃から、独自の判断で、住民に安定ヨウ素剤の配布を行っていた。例えば、三春町は、3月15日、配布のみならず、服用の指示もした。三春町は、14日深夜、女川原子力発電所の線量が上昇していること、翌15日の天気予報が東風の雨で、住民の被ばくが予想されたことから、安定ヨウ素剤の配布・服用指示を決定し、同日13時、防災無線等で町民に周知を行い、町の薬剤師の立ち会いの下、対象者の約95%に対し、安定ヨウ素剤の配布を行った。なお、三春町が国・県の指示なく安定ヨウ素剤の配布・服用指示をしていることを知った福島県保健福祉部地域医療課の職員は、同日夕方、三春町に対し、国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが、三春町は、これに従わなかった。』

三春町は、県からの服用指示が出なかったにもかかわらず、なぜ住民への服用指示を決定できたのでしょうか。それも、3月15日という、まさにぴったりの日時に服用できたというのです。

朝日新聞の朝刊では、「プロメテウスの罠」という連載記事がずっと掲載されています。私は普段はこの記事を読んでいないのですが、たまたま7月16日頃、ちょうど三春町での安定ヨウ素剤服用に関するドキュメンタリーシリーズが掲載されていることに気づきました。もう第9回まで進んでいたのですが、あわてて古新聞をあさり、第6回以降のスクラップを入手することができました。

以下次号
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