弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

政府事故調・水素漏れ経路の再現実験断念

2012-05-30 20:56:34 | サイエンス・パソコン
5月29日の日経朝刊に以下の記事が掲載されました。
政府事故調、再現実験を断念 畑村委員長
2012/5/28 22:21
『政府の東京電力福島原子力発電所の事故調査・検証委員会の畑村洋太郎委員長は28日、会合後の記者会見で、事故時の様子などを再現する実験を断念したことを明らかにした。
畑村氏は「時間と人員(の制約)でできなかった」として、水位計の誤表示や水素漏れの経路について「少なくともこういう現象が起こったはずだと言えないまま終わりそうだ」と述べた。その上で「こう考えるのが一番良いのではないかという表現の方法で、やれるところまで表現したい」と話した。
再現実験は事故の正確な原因解明につなげる狙いで、畑村委員長が実施に意欲を示していた。』

昨年3月12日の1号機の水素爆発、13日の3号機の水素爆発については、それぞれ、各号機の圧力容器で発生した水素ガスが、まず格納容器に漏れ出し、何らかの経路で建屋に充満し、それが爆発して建屋の爆発に至ったことは明らかです。
ところで、格納容器から建屋までの水素漏洩の経路については、2説あります。

《第1説》
格納容器の圧力が上がり、格納容器の気密が破られ、格納容器のいずれかから水素を含むガスが漏れ、そのまま原子炉建屋内を上昇し、建屋上部に充満して爆発に至った。
《第2説》
格納容器のベントを行った際、格納容器から排出されたガスが排気管を経由して排気煙突に至るまでの過程で、水素ガスが排気系を逆流し、建屋上部にいたって爆発の原因となった。

新聞などの論調を見る限りは、第1説が多数説であるようです。東電などはこの説に立っているでしょう。
一方、われわれ(このブログで意見を発表されたxls-hashimotoさん及びこのブログのブログ主)は、第2説に依っています。例えば、去年6月4日のブログ記事「水素爆発とベントの関係」で議論しています。そうそう、朝日新聞の板橋洋佳記者も第2説支持者ですね。

第1説に立てば、「水素爆発が起きたのはベントが遅れたからだ。もっと早くベントしていれば、水素爆発は起きなかった。」という結論が導かれます。
一方、第2説に立てば、「ベントをする限り水素爆発は免れなかった。もっと早くベントしていれば、もっと早く水素爆発しただけだ。」という結論になります。

今回の政府事故調の畑村委員長の発言から推し量ると、政府事故調は、上記第1説と第2説のいずれが正しいか現時点で結論に至っていないということのようです。そして政府事故調は、結論を出すために再現実験を企画したのでしょう。しかし、時間と人員の制約で断念したのです。

この推論が正しければ、政府事故調の最終報告書では、「水素爆発の原因となった水素の経路については、最も可能性が高いのはこの仮説だ」という程度しか記述されないのでしょう。

ところで、4号機も昨年3月15日の朝に水素爆発しています。4号機では水素ガスが発生する原因がありません。一方、3号機と4号機は、排気ガスの排気煙突を共用しています。4号機の水素爆発の原因となった水素ガスについては、3号機のベントで排出された水素ガスが排気煙突にいたり、そこから4号機の排気配管を逆流し、4号機の建屋にいたり、そこに充満して爆発した、という推論が立てられています。
3号機からの水素ガスが4号機の配管を逆流するぐらいですから、3号機の排気管を流れる水素ガスが、どこかの合流管で逆流して建屋に充満することは十分にあり得る話です。
コメント
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