弁理士の日々

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震災前に東電が行った津波試算の経緯

2011-10-17 23:22:28 | 歴史・社会
東電が、福島第一原発で10mを超える津波を想定した試算を過去に行っていながら、あくまで「仮定の試算」であるとの理由で対策を講じてこなかったことがわかっています。
私も、「10mの津波来襲は『有り得ない』が、仮に来襲したとしてその際の被害状況を試算した」ということであれば、試算結果を対策として反映する必要はないだろう、と考えていました。
しかし、最近の報道によると、『有り得なくはない』仮定であったことがわかってきました。

1677年 M8の房総沖地震 13メートル津波 浸水想定
東京新聞 2011年10月4日 朝刊
『福島第一原発が想定を超える津波に襲われる可能性があると東京電力が予測していた問題で、房総沖地震(1677年)と同規模のマグニチュード(M)8クラスの地震が福島県沖で発生した場合にも、同原発が最大13メートルの津波で浸水するとの予測を東電がまとめていたことが3日、本紙の情報公開請求に対して経済産業省原子力安全・保安院が開示した資料で分かった。
原発への津波予測を再検討している土木学会は昨年12月、福島第一原発への津波は、この地震などをもとに想定する方針を固めていたが、東電は予測結果を公表せず、対策を先送りしていた。
開示されたのは、東電が福島第一原発直前の3月7日に保安院に提出し、「取扱注意 お打ち合わせ用」と題された三枚の資料。
それによると、東電は2002年に国の地震調査研究推進本部がまとめた「東北から房総にかけての日本海溝沿いなら、どこでもM8級の地震が起きる」という報告を基に、福島第一、第二両原発への津波の高さを試算した。
その結果、福島県沖で房総沖津波が発生したと仮定した場合、福島第一原発は最大13.6メートル、福島第二は14.0メートルの津波に襲われると試算。いずれも想定波高の倍以上で、敷地の一部が浸水すると予測していた。
同じくM8クラスの明治三陸地震(1896年)と同等の地震が起きた場合は最大15.7メートルの津波で浸水し、貞観地震(869年)の場合は、最大9.2メートルで浸水しないと結論付けていた。
東電の松本純一原子力・立地本部長代理は「房総沖津波の試算は土木学会の方針に基づいて行ったが、まだ研究段階で、対策を取るには議論が不十分だった」と話している。』

2002年に国の地震調査研究推進本部が「東北から房総にかけての日本海溝沿いなら、どこでもM8級の地震が起きる」と報告しており、この報告をもとに試算したら、福島県沖で房総沖津波(1677年)と同じものが発生したと仮定した場合、福島第一原発は最大13.6メートル、福島第二は14.0メートルの津波に襲われるとの結果が得られたわけです。

この経緯をたどれば、国の地震調査研究推進本部が「起こりえる」と報告した地震とそれに起因する津波の高さが13.6mと算出されたのですから、決して「有り得ない」仮定ではありません。「あり得る」仮定です。
朝日新聞10月13日の記事によると、東電が上記試算を行ったのは08年とあります。この時点から公開の議論を重ね、必要な対策を講じていれば、今回の津波までに最低限の対策が間に合っていた可能性があります。02年の地震調査研究推進本部報告直後から試算と対策を行っていれば、もっと完璧に対策が完了していたでしょう。

なぜ試算の実施が遅れ、試算結果は隠されていたのか。
東電はお役所以上にお役所体質であり、先輩の仕事にケチをつけるような発言は御法度だと聞いたことがあります。「先輩が策定した地震対策が不十分だったとの結論を出したら、先輩の仕事にケチをつけることになるから許されない」という理由で試算結果が闇に葬られていたのだとしたら、返す返すも残念なことです。
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