弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

金賢姫拘束の真相(6)

2008-07-01 20:23:32 | 歴史・社会
金賢姫拘束の真相(5)では、実際の立役者である矢原純一さんに、実際に起こった事柄をお話しいただいています。また、金賢姫拘束の真相(4)では、krishunamurtiさんから、NHKが放映した番組での様子(特に在バーレーン韓国大使館代理大使キム・ジョンキさんのインタビュー結果)について教えていただきました。
これらの情報に、不明な点は砂川昌順著「極秘指令~金賢姫拘束の真相」の内容を加味し、私が理解している状況を整理してみます。

矢原純一さん、今後コメントを頂く場合は、この記事のコメント欄にコメントしていただくとありがたいです。


【1987年11月29日】
外務省本省の領事第2課(海外における邦人保護担当)首席事務官からアブダビとバクダッドの日本大使館に「大韓航空機858便が、アブダビを発った後行方不明である。日本人乗客の有無を調べろ。」という電話連絡が来ます。これに対し、アブダビもバクダッドの日本大使館も調査の結果、「日本人乗客なし。」と報告しています。
在アラブ首長国連合日本大使館(アブダビ)の矢原純一さんは、この日隣のドバイに出張しており、夕刻帰宅します。

【11月30日】
[在アラブ首長国連合日本大使館]
本省から、この件に関して主管課を領事2課から北東アジア課へ変更するとの連絡が来ます。
この日の矢原さんの分析の結果、大韓航空機は爆破された可能性が大であるとの結論に達し、再度大韓航空アブダビ支店に依頼し、搭乗者リストを入手、「シンイチ」「マユミ」の日本人名を発見します[お昼過ぎ]。
矢原さんが大使を説得し、本省への電報発信許可を得ます。
第一報の内容は、①KE858にバクダッドから搭乗しアブダビで降りた乗客リストにSHINICHI/MR及びMAYUMI/MISSの2名の日本人名が発見されたこと。
②当館の分析では、当該KE858が爆破された可能性があり、その方法は、バクダットから機内に持ち込んだ爆発物(時限発火装置付)を機内に残致しアブダビで降りた可能性もあり得ること。
第一報の宛先にバハレーンは入っていません。

第一報の電報を起案し、大使の決済を受けているとき、大韓航空の「金」アブダビ支店長から電話がありました。「日本大使館は昨日から何度も問い合わせをしてきているが、一体何を調べているのか。」という問いでした。
金支店長からの問い合わせに、①858便の乗客の中、アブダビで降りた乗客の中に二人の日本人名が見つかったこと。②その名前はSHINICHI / MR. MAYUMI / MISSとなっていること。③この二人が何者か、またこの二人が858便の行方不明に関わりが有るか否かは不明。と答えるとともに、今後の情報交換を約束しました。この時点で初めて韓国サイドが日本人乗客の存在を知ることになったのです。
しばらくすると、大韓航空と韓国大使館から、アブダビ空港での二人の日本人らしい人物の目撃情報、この二人がガルフ航空でバハレーンに向かったとの情報がもたらされました。

第一報電報を参事官にまわし、合議後ただちに電報を発信するように依頼し、矢原さんはアブダビ空港内のガルフ航空事務所に赴きます。
ガルフ航空では直ぐに二人の使用済航空券の控えを提示してくれました。ここで初めて、二人の足取りを矢原さんの眼で確認できました。アブダビからバハレーンへは、当初GF353(14:45アブダビ発)を予約してありましたが、隣に手書きで「GF003」と書かれてありました(09:00アブダビ発)。

1時間ほどして大使館に戻ると、驚くべきことに、参事官はまだ第一報電報を発信していませんでした。そうこうしている中に、韓国大使館から正式に二人の身元確認の要請が来ましたので、第一報の電文に「当地駐在韓国大使館より本人の身元確認を依頼越している。」という文章を追加してしまいました。
参事官の合議の不手際で遅くなってしまった第一報と、矢原さんが空港に行っている間に政務担当の2等書記官(キャリア官僚)が起案した第二報、続けて、空港での確認事項を矢原さんが起案した第三報の3通がほとんど時間差無く続けて発電される結果となりました。

第二報の内容は、
①在アブダビ韓国大使館からの情報によると、KE858にてバクダッドより当地で降機した乗客のうち日本人らしい二名が、ガルフ航空でバハレーンへ向かったこと。
②この二人は、男性(Mr. Shinichi)は約70歳くらい、もう1人は(Miss Mayumi)は約25歳くらいのこぎれいな女性であった由。
③当該2名の詳細については、当地GF(ガルフ航空)支店に現在照会中。
そしてこの電報が、バハレーンが受け取るこの事件に関する最初の電報となりました。
第二報を発信する前に、電話でバハレーンの夏目参事官(当時臨時代理大使)にこれまでの経緯などを連絡しています。

第三報の内容は、矢原さんがアブダビ空港のガルフ航空事務所で確認した情報と大韓航空から得た情報です。
①二人が11月19日ウィーンで航空券を現金で購入していること。
②二人が使用した航空便
 23日 14:25 ウィーン発 OS821
 28日 14:30 ベオグラード発 IA226
 28日 23:30 バクダッド発 KE858
 29日 14:45 アブダビ発 GF353
アブダビ-バハレーン間はGF353からGF003(09:00アブダビ発)に変更し搭乗していること。
③大韓航空支店長からの情報として、マユミの性はハチヤ(漢字不明)で旅券番号が判明したこと。(旅券番号も報告電報には記載しています。)
④29日、二人がバハレーンに入国していること。
これが電報の内容ですが、バハレーンへは電報を発信する前に必ず電話で夏目臨代に話をしています。

[在バハレーン日本大使館]
(以下は、12月2日バハレーン大使館から本省へ報告された11月30日のバハレーン大使館の行動の一部です。)
16:00 アブダビからの大至急電報で調査開始。ガルフ航空へ問い合わせをしたこと。
16:30 ガルフ航空マネージャーMR.ADNANから二人が入国した形跡がある旨の連絡を受けたこと。
17:00 塩原書記官、砂川副理事官が空港に到着、MR.ADNANに連絡後、空港の入国管理事務所に調査を依頼したこと。
18:00 2人の入国カードを発見し、書き写したこと。
その他MR.ADNANから乗客名簿を入手したこと。

(砂川さんの著作から)
塩原氏と砂川氏が、空港で2人の入国カードを発見します。滞在先としてディプロマットホテルと書かれています。
ディプロマットホテルに行って確認すると、2人は宿泊していませんでした。

夜、参事官宅で、本省の審議官を迎えての夕食懇談会が開かれます。
その席で、バハレーンのホテルに電話して2人を探そうということになります。まずリージェンシーホテルに電話すると、果たして2人は宿泊していました。電話は2人の部屋に繋がれてしまいます。(多分参事官が)ハチヤシンイチと電話で話します。「電話の様子から、2人はただの旅行者とは思えなかった」とフジテレビ番組で参事官が話していた記憶があります。

[在バハレーン韓国大使館]
同じ夜、在バーレーン韓国大使館副領事の金正奇がホテルを訪れ、『蜂谷真一』『蜂谷真由美』に面会、尋問したのですが、2人は、自分たちは日本人の父娘だと繰り返すだけでした(李鍾植著「朝鮮半島最後の陰謀」より)。

[日本本国外務省本省]
アブダビからの電報が本省に着信したのは日本時間22時頃と思われます。このときに、受信した領事1課の首席事務官や領事1課長がうまく捉まらなかったら、本省が実際に動き出したのは日本時間で翌12月1日朝からであったろうと推察されます。


【11月1日】
[在バハレーン日本大使館]
(砂川さんの著作から)
現地時間午前5時過ぎ、本省からの電話で「マユミのパスポートは偽造である」ことが判明します。
参事官の指示で、砂川氏と塩原氏はホテルで見張ることになります。バハレーンの官憲への通報は見送られます。

シンイチ、マユミの2人がフロントでチェックアウトするとき、2人のパスポートのコピーを取るまではできましたが、2人がホテルを出るところで見失ってしまいます。
砂川氏はあわてて空港へ走ります。
空港に到着すると、空港警察の警備部長、出入国管理官らに協力を依頼し、何とか出国を阻止しようとします。
チェックイン中の2人を見つけ、出国審査のためにパスポートを提示した時点でパスポートを預かり、出国阻止することに成功します。
そして別室で尋問中、2人は服毒自殺を図るのです。

[在バハレーン韓国大使館]
NHK番組では、ふたりに接触した当時の韓国の代理大使キム・ジョンキさんにもインタビュー。彼は接触した感触から、「この年老いた男性と、苦労したこともないような上品な娘さんが大韓航空機失踪に関わっているとは思えない」と感じたそうです。韓国側はこれ以降、ふたりを追うことをやめたそうです。
服毒自殺を図った2人が病院に搬送された後、金副領事が空港に飛び込んできます。
韓国大使館が、マユミのパスポートが偽造であることの連絡をどの時点で受けたのかはまだわかりません。


【まとめ】
《11月30日》
大韓航空機の乗客名簿からシンイチとマユミの名前を見つけたのは、矢原さんの能力と努力のおかげです。また、大使を説得して速やかに電報発信に至ったのも矢原さんの功績です。
2人がGF003でバハレーンへ向かったことを突き止めたのは、アブダビの大韓航空と韓国大使館です。
その知らせを受けたアブダビ日本大使館は、情報をバハレーン日本大使館に連絡します。
バハレーンの日本大使館と韓国大使館は、それぞれ独自にリージェンシーホテルに滞在する2人に到達します。
《12月1日》
バハレーンの日本大使館は、早朝に本省から「マユミのパスポートは偽造」との通報を受け、リージェンシーホテルへ急行して見張ります。
空港チェックイン直前に2人を足止めできたのは、バハレーンの日本大使館の功績と思います。
バハレーンの韓国大使館はこの点で後れを取りました。「2人は無関係」と思い込んでしまったことと、「マユミのパスポートは偽造」の情報を早期に受けられなかったためではないかと推察します。
コメント (34)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする