今日のひとネタ

日常ふと浮かんだことを思いのままに。更新は基本的に毎日。笑っていただければ幸いです。

「70年代日本の超大作映画」

2007年01月07日 | ブックレビュー
 正しくは「『砂の器』と『日本沈没』70年代日本の超大作映画」というタイトルの本を読みました。2004年3月筑摩書房の発行で著者は樋口尚文氏。この人はキネマ旬報ベストテン、毎日映画コンクール、日本民間放送連盟賞などの審査員をつとめているそうです。

 70年代日本の超大作映画とは「砂の器」「日本沈没」「戦争と人間」「犬神家の一族」「華麗なる一族」「八甲田山」などに代表されますが、著者によると「その見ごたえゆえにお祭り的なベストテンの上位に選ばれることはあったものの」、「批評として真っ向からとりあげる価値はないという認識であったに違いなく」、「その不出来さ加減を嗤って愉快がるような読み物のたぐいでたまにとりあげられるばかり」だったとされています。(確かにそうでしょう)

 そこでこの本は「70年代の大作映画を論ずるのは過去を回顧することではなくて、そこには今の日本映画がなぜ力を喪失しているのか、それを考える鍵が含まれているような気がする」というのが趣旨なわけで 前書きでは、そんな70年代の大作映画が生まれるいきさつとして当時の日本映画を取り巻く時代背景にも触れられています。

 以下目次からの抜粋ですが、

第一章 泣かせと旅情の文芸大作「砂の器」
第二章 社会派という名のメロドラマ大作「戦争と人間」「華麗なる一族」
第三章 国民的スケールで構えるパニック大作「日本沈没」「八甲田山」
第四章 語りで見せきる啓蒙大作「人間革命」「ノストラダムスの大予言」
第五章 アイディアで疾走するサスペンス大作「新幹線大爆破」
第六章 ビジュアルで主張するミステリー大作「犬神家の一族」
休 憩 異色の大作たち
第七章 伝統と切り結ぶ時代劇大作「柳生一族の陰謀」
第八章 メディアミックスで装う角川大作「人間の証明」
第九章 大胆で繊細な作家的大作「太陽を盗んだ男」

という構成になってます。

 各章で紹介されている作品は、第一章「砂の器」「飢餓海峡」「幻の湖」「八つ墓村」、第二章「戦争と人間」「華麗なる一族」「金環触」「不毛地帯」「皇帝のいない八月」「悪魔の飽食」「白の謀略」、第三章「日本沈没」「八甲田山」、第四章「人間革命」「ノストラダムスの大予言」「トラ・トラ・トラ」、第五章「新幹線大爆破」「君よ憤怒の河を渉れ」、第六章「犬神家の一族」「幸福」、休憩「ブルークリスマス」「夜叉が池」「黄金の犬」「戒厳令の夜」、第七章「柳生一族の陰謀」「仁義なき戦い」「宇宙からのメッセージ」「赤穂城断絶」、第八章「人間の証明」「野生の証明」「復活の日」「天と地と」、第九章「太陽を盗んだ男」「青春の殺人者」「連合赤軍」など。
 (作品にまつわるエピソードを語っている関係で70年代でない映画も話題に出てきたり、中にはボツになった企画の話も出てきます。)

 感想として、凄く興味深く読みました。70年代というと私は小学生~高校1年という年代でしたので、大作と聞くと「凄いなぁ」と思ってただけでまともに自分で評価しようとは思ってなかったです。なにしろ上記の作品で映画館で見たのは「日本沈没」と「ノストラダムスの大予言」だけですし。その後、テレビとかビデオで見たのも入れると八割方押さえているという感じ。

 ただ、角川映画のあの派手な宣伝で洗礼を受けた田舎の中学生としては、作品の一般的評価は別にして「映画って楽しそう」と思い込んでいたわけで、今になって「あの時代はいったいなんだったんだろう?」という気持ちにカタをつけたいとは思っていたわけです。

 そんな作品たちを、製作されるに至った背景とか、当初の企画(「人間の証明」の監督は、最初大島渚に依頼したが断られたなど)のこと、各作品の監督、脚本家からカメラマンに至るまで過去の作品との関わりなど細かく解説してあり、「おお、そうだったのか」といちいち感心させられる箇所も多数ありました。(細かすぎるきらいもありますけど)

 なお、著者曰く「本書で挙げた大作群のうち、手放しで賞賛できるのはわずかに長谷川和彦の『太陽を盗んだ男』一本のみ」ということでした。私はこの作品を最初テレビで見て、その後ビデオを借りてきて見て、WOWOWで録画して見て、去年は日本映画専門チャンネルでDVDに録画して保存版にしてます。妙に気になるのは、世間一般の評価も高いせいなんですね。

 で、この本を読んでもう一度ちゃんと見てみたくなった映画は「ノストラダムスの大予言」「新幹線大爆破」「黄金の犬」「宇宙からのメッセージ」など。(本書で「黄金の犬」は酷評されていますが) ただ、「ノストラダムスの大予言」は物議を醸すシーンが多くビデオ発売はされていないとのこと。残念。 

 この本の評価自体はどうなのか知りませんが、邦画ファンの人、私と同年代の人、これから日本映画の歴史を調べたいと思ってる人にはお奨めの本です。ただし私は図書館で借りてきたのですが…すんません。