constructive monologue

エゴイストの言説遊戯

続投表明のバランスシート

2007年07月31日 | nazor
「歴史的大(惨)敗」にもかかわらず、続投を表明した安倍首相の行動に対してメディアなどで賛否が巻き起こっている。ポスト安倍を目指す人材が自民党内で枯渇状態にあることや、年金や事務所費問題などの「瑣末な問題」に足元を掬われただけで、戦後レジームからの脱却を通した「美しい国」作りという理念は間違っていないし、むしろ国民から支持されている(はずだ)という(妄想に近い)認識に支えられた形での続投表明といえる。この選択が今後の政局にどのような影響を与えるのかは未知数であるものの、「政治家」としての安倍晋三の資質が試されることだけは確かである。

「国民的な人気がある」あるいは「選挙で勝てる」といったイメージが安倍首相の主要な政治的な(権力)資源だったとすれば、それが虚構に過ぎないことを今回の参議院選挙は証明した。あるいは自民党幹事長として陣頭指揮を執った2004年参議院選挙の結果辞任したことを考えれば、再チャレンジに失敗したというのが適切だろう。また選挙期間中に「私の内閣の実績」と訴えていた教育基本法、国民投票法や公務員制度改革などが可決成立できたのは、郵政民営化を単一争点とした2005年衆議院選挙における圧勝という小泉首相の遺産に拠るところが大きい。いわば先代の敷いてくれたレールの上を安全運転していれば、「実績」は自然と蓄積されていく構造になっているわけで、そこに安倍首相の政治手腕を看取することは難しい。

他方で彼の存在感を知らしめ、「国民的人気」という幻想を作り出すことに寄与した拉致問題に関しては、首相就任以降ほとんど進展がなく、六カ国協議における孤立が噂されるように、手詰まり状態にある。国内的には北朝鮮に対する強硬姿勢は国民の不満の捌け口として機能するが、それが意味をもつのは拉致問題が解決されないまま凍結状態にあるからであって、むしろ拉致問題の解決/解消は、北朝鮮という異質な他者の存在なしには成り立ち得ない安倍政権の密教的位相を白日の下に曝しかねない。選挙戦終盤になって『産経新聞』などの一部メディアや塩崎官房長官など政府関係者は「安倍政権の敗北は北朝鮮を利することになる」という言説を盛んに吹聴していたことも北朝鮮と安倍政権の共依存関係を物語っている。拉致問題をどのような手段で、かつどのような過程を経て解決していくのかという道筋が安倍政権によって提示され、それに基づいた対北朝鮮外交が行われた形跡は乏しく、「出口戦略」を欠いたまま国内向けに「毅然とした」態度をアピールしている現状は、拉致問題の政治利用といわれても反論の余地はないだろう。

こうしてみれば、今回の参議院選挙は、安倍首相を取り巻く数々の虚像をすべて剥いでしまったといえる。結果を受けて退陣する選択を採れば、いくつかの虚像は維持され、近い時期に再登板の可能性が残されたであろうが、あえて続投を表明したことによって、安倍首相は政治生命を賭ける困難な道を歩むことになったといえる。ただそうした現実の厳しさを十分に認識しているかどうかは、昨日の記者会見などからは感じられず、「自分の政策や理念は間違っていないはずだ」という自己暗示にも等しい観念論が依然として窺え、そこに結果に対する自省的な姿勢を見出すことは難しい。自省的な姿勢ないしは他者とのコミュニケーション/対話への契機が欠落しているのは、「数の論理」に基づく強行採決を最終手段として行使できた構造的な側面とともに、これまでの記者会見やぶら下がり取材における記者との噛み合わないやり取りに見られるように安倍首相自身のコミュニケーション能力に起因しているともいえる。さらに対決型の政治よりも合意形成型の政治が基調となっていく今後の国会運営は、一歩間違えば旧来の国対政治に逆行しかねず、いっそう「国民」との乖離が促進されることになる。その意味で野党との闘技を演出しながら、討議倫理に依拠した合意形成を目指す複雑で困難な政治手腕が要求されていることを理解しているかが安倍首相の命運を左右するだろう。
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33→27→10

2007年07月19日 | hrat
新規参入3年目にして、5位で前半戦を終えることになった楽天。36勝46敗2分の借金10という成績は、28勝61敗1分(2005年)や30勝57敗(2006年)と比較して「お荷物球団」の地位から脱却したといってもよさそうである。

とはいっても、開幕時点のチーム編成を思い出してみたとき、当初の構想とは異なる状況になっている。投手陣で見れば、ローテーションの二本柱として期待された岩隈と一場が故障で脱落し、林恩宇とインチェの台湾組も結果を出せず、結局のところルーキー田中に頼り切っている印象が否めない。またリリーフ陣も抑えの福盛が不安定な状態にある点が気がかりである。バスとドミンゴを急遽獲得して何とかローテーションをやりくりしているものの、チーム防御率が唯一の4点台(4.61)にある現実は重い(失点もダントツの429点)。

打撃陣では、フェルナンデスの調子が上がってこない中で、代わりに山崎武が予想以上の活躍を見せてくれたことで打線の核が不在という問題は解消された。またその前後を打つ高須、磯部、リックもコンスタントに数字を残しているので、そこそこ機能する打線になっている。

オールスターで燃え尽き症候群に陥り、指定席に落ち着くことがないように期待したいところである。
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候補と受賞の間

2007年07月18日 | nazor
例年であれば、完全スルーの話題である芥川賞。今回に限り、川上未映子の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」(『早稲田文学0』)が候補に挙がっていたため、ちょっとした関心を持ってその結果に注目していた。

「文筆歌手」という肩書き、掲載媒体が主要文芸誌以外では8年ぶりとなる『早稲田文学0』、そしてかなり癖があり、読み手を選ぶ独特の文体(ブログ川上未映子の純粋悲性批判)など作品それ自体というよりもむしろそれを取り巻き、構成する「イロモノ」的要素に注意が向かってしまうことはある程度予想されたことでもある。

したがってたとえば「文学賞メッタ斬り!」を代表とするような受賞予想の議論から明らかなように、選考委員の好き嫌いによってその評価がはっきり分かれることが確実視され、今後の期待値あるいは布石としての意味合いが強いと考えるべきかもしれない。であるとすれば、今回受賞できなかったことは想定内ということになるだろうし、反対に受賞していればそれなりの「衝撃」をもたらしたといえる。

他方で芥川賞の候補に挙がったことによって、活動の比重がいっそう文筆にシフトし、歌手・未映子が後景に退いてしまうのではないかという懸念を抱いてしまうのも事実である。
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