本の舞台裏(インタビュー):野口尚子さん
こんにちは、みなさんお久しぶりです。タバコが値上がりしましたが、それとは関係なく禁煙というか節煙している編集部の村田です。なんだか肺が痛くて。
さて、今回は野口尚子さんにお話を伺ってきました。野口さんは、BNNの2009年10月発行書籍『デザインとものづくりのすてきなお仕事』のなかで、「印刷コーディネーター」という肩書きで登場なさっています。また最近は、『AR三兄弟の企画書』という本のデザインを手掛け、さらに『印刷・加工DIYブック』という本の執筆をなさったりと、幅広くご活躍の方です。

『デザインとものづくりのすてきなお仕事』
矢崎順子さん編著の素敵な本です。
__野口さん、よろしくお願いします。まずはかんたんに自己紹介してもらえますか。
野口:こんにちは、「印刷の余白Lab.」という個人事務所を営んでいます、野口です。そうそう、BNNさんの書籍でも仕事について取材いただいたことがあるのですよね。そのころは「IID世田谷ものづくり学校」という、廃校をリノベーションした施設に事務所を借りていました。
主な業務は印刷・加工のディレクションなのですが、装丁やデザインもやりますし、書籍の編集をお手伝いさせていただいたり、あとは「紙ラボ!」という紙と印刷についてのセミナーや見学会を企画して喋ったりもします。印刷を軸にしてどんなことが成り立つかをいろいろ考えるのが仕事、でしょうか。
「印刷コーディネーター」も苦し紛れに出したものですが、肩書きを特定できないので屋号をつけといて良かったなと思います。我ながらぴったりだなあと。屋号に仕事させられてる感すらあります。
__「印刷」を軸に据えたのはなぜですか? 印刷の何が野口さんの心をとらえたのでしょう? もともとはムサビの基礎デ出身ですよね。大学で勉強なさっていたことと、今やっていることの間には、素人目には開きがあるように感じます。
野口:うーん、基礎デで考えていたことは、デザインという考え方をどう活用していくか、ってこと……かな? 基礎デを受けたこと自体、当時(高校生の時)認知言語学やロボティクス、その背景にある言語の仕組みに興味があって、そういった研究と表現の合間を漂っていられそうな場所を探していて、基礎デのカリキュラムを見て「ここはヤバい」と思ったのがきっかけです。
10代でたまたま研究職の方々と出会う機会が多かったのですが、すごく面白い知識や技術を持っている人たちがいて、でもその技術をいかに使うかというのは研究するのとはまた別のスキルだな、と思ったんですね。その合間を繋ぎたいと思ってました。これは印刷でも一緒で、様々な機械、素材、それを扱うプロがいて、でもそれを使うのはデザイナーですよね。印刷を活用するためには、もっとお互いの間に共通言語を作りたいなと。
その一方で、もっと小さい頃から絵ばっかり描いてきた自分もいて、水彩・油彩・アクリル・カラーインク……等々、画材によってどうなるのかメーカーごとに描き比べたり。印刷も高校のときから発注してましたから、表現手段のひとつという感覚でした。しかし本気で扱うには専門的な知識が必要で、調べはじめるとどこまでも広がっていくのが面白くて。
答えになってるか自信がなくなってきましたが(笑)、自ら研究することと、それを活用することのバランスが取れそうだったのが「印刷」なんです。いまのところ。その仕組みの考え方は、基礎デザイン学で学ばせてもらったことだと思います。
__なるほど。面白いです。難しいけど。「繋ぐ」ってことですよね。あるいは行き来するというか。ぼくもデザインとエンジニアリングの交差するところにずっと興味があるのでなんとなく理解できる気がします。ただ、もっとシンプルに「印刷物が好きだから」というのはないのですか?
野口:そうですねー。中学高校を京都で暮らしてたんですけど、カフェや本屋やアパレルショップ、いたるところにフリーペーパー置き場があるんですよ。それもR25みたいに企業が気合い入れてやってるのじゃなくて、多色刷りとかコピー機で刷っただけみたいなお金かかってないやつが大半で。そういうの見てるのがとても面白くて好きでした。フルカラーの綺麗なものよりもよっぽど工夫の跡が見えて。でも印刷物と同じくらいデジタルデバイスも好きです。

野口さんがブックデザインを担当した『AR三兄弟の企画書』(川田十夢 著、日経BP社)。
ちなみにこの本のカバーは3色刷り。ソデの著者近影はシアンなしで分解しているらしい。
__いま扱っているお仕事での成果物は、やはりちょっと変わった印刷加工をするようなものが多いのですか? 最近の印刷ディレクション仕事を教えてください。
野口:多くの方の目に触れる機会があるものだと、東京ミッドタウン デザインハブの『PACIFIC PEDAL LIFE DESIGN展』『タイのデザイン展』のDM・ポスターとか…ですかね。前者は印刷の乗りづらい紙にいかにスミベタを乗せるか、とか、後者は蛍光マゼンタとゴールドとニスの組合わせがポイントです。
必ずしも変わったものばかりではないですが、「ちょっとこだわりたい」というご相談は多いですね。せっかく印刷物を作るなら、工夫したところはここ、というポイントが欲しいという。加工を入れると分かりやすいですが、上のようにオフセットでも素材やインキにこだわる方法もあります。特殊印刷と言われるものも、普通に印刷表現の一種なので特殊というイメージはないですね。
__この仕事の喜びと辛さを教えていただけますか。
野口:辛いのは……スケジュールに余裕がないとき。予算が限られる場合でも、時間があればもっとコストダウンや見せ方の工夫ができるのに、と思うことは多いですね。印刷現場の方への負担にもなりますし、事故も起きやすくなります。
嬉しいことは、ひとつは印刷が専門ではない方々と仕事させていただく機会が増えてきたことですね。インテリアやWebや映像など、それぞれに専門をお持ちの方々に「印刷」担当として声をかけていただけるのはありがたいですし、様々な分野の話が聞けるのは楽しいです。
もうひとつは、やはりイメージが人の手を通して形になること。印刷は最後は職人に託すものですし、意図や思いを込めて託したものが形をもって返ってくるのは嬉しいです。やってみないと分からないことが多いので、出来上がるまではハラハラですが。

『印刷・加工DIYブック』(大原 健一郎、野口 尚子、橋詰 宗 著、グラフィック社)
『デザインのひきだし』を出しているグラフィック社さんならではの素晴らしい一冊。
__ちょっと話を戻しますが、野口さんの活動により、印刷側とデザイン側の「共通言語」を作ることはできましたか?
野口:それは村田さんが「世の中を変える本ができた?」って聞かれるくらい簡単にはできないことだと思いますけど、まずは職人にもデザイナーにもお互いに「向こうに相手がいる」ってことを意識してもらえるようにしたいと思ってます。
ディレクションならば、印刷所の方にはできるだけデザイナーの意図やどういう背景の案件かを伝えるようにしますし、デザイナーにも難しい加工ほど生産工程を説明して理解いただくようにしています。
「紙ラボ!」を始めたときも、紙や印刷の知識をつけるよりも、いつもは裏方にまわっている方々に出てきてもらって、印刷業界でどのような人たちが働いているのか知ってもらいたいという気持ちでした。伝える相手が分かれば、ことばは自然に寄り添っていくものじゃないかなって。
__うんうん。そう信じてがんばっていくしかないですよね。 そろそろ締めます。野口さんは「自分の仕事をつくる」ということを実現しているわけですが、非常に軽やかにしなやかに活動しているように見えます。その軽やかさ・しなやかさの秘訣、それを支えるものは何なのでしょう?
野口:最初に「印刷の余白Lab.」という名前をつけたことかな。かっこいー! …冗談です(笑)。でも本当、たぶんそれだけです。
これは書籍のインタビューでも話したことですが、会社を辞めるって決めてから小さなオフィスを探していて、縁あって世田谷ものづくり学校のブースに応募を出しました。ちょうど一昨年の今頃です。そのときに10日間で突貫でつくった事業計画書と事務所名で審査が通ってしまい、この名前でしばらく頑張ってみようと思って、岡本健くんという友人のデザイナーに刺繍で小さな看板を作ってもらいました。
みんなデザイナーって名乗ればデザインをするし、営業って名乗れば営業をする人になるし。私はそれを肩書きじゃなく屋号にしているだけです。印刷の余白Lab.と名乗ることによって、自分の仕事を「印刷」の枠に縛るかわりに、その範囲ならできるかぎり挑戦する人、ってことにした。もう呪いみたいなもんですよ。村田さんが言ってくれるほど全然軽やかじゃないし、裏でいつもジタバタしてますが、名乗っちゃったのでしょうがないです。
__ふむふむ…奥深いです。 あと最後に、今後の展望、野望について聞かせてください。
野口:やっぱり印刷以外の仕事をしている方々とコラボレーションの機会を作りたいですね。あと、来年に向けて紙ラボ!の活動を再構築したいなと。いつか美大や専門学校で印刷の話をしてみたいです。あとはそうですね……とりあえずこの屋号で、まだできることを模索していこうと思っています。

まぶしそうな野口さん。Zine Picnic@代々木公園でのひとコマ。
お忙しい中ありがとうございました。
さて、今回は野口尚子さんにお話を伺ってきました。野口さんは、BNNの2009年10月発行書籍『デザインとものづくりのすてきなお仕事』のなかで、「印刷コーディネーター」という肩書きで登場なさっています。また最近は、『AR三兄弟の企画書』という本のデザインを手掛け、さらに『印刷・加工DIYブック』という本の執筆をなさったりと、幅広くご活躍の方です。

『デザインとものづくりのすてきなお仕事』
矢崎順子さん編著の素敵な本です。
__野口さん、よろしくお願いします。まずはかんたんに自己紹介してもらえますか。
野口:こんにちは、「印刷の余白Lab.」という個人事務所を営んでいます、野口です。そうそう、BNNさんの書籍でも仕事について取材いただいたことがあるのですよね。そのころは「IID世田谷ものづくり学校」という、廃校をリノベーションした施設に事務所を借りていました。
主な業務は印刷・加工のディレクションなのですが、装丁やデザインもやりますし、書籍の編集をお手伝いさせていただいたり、あとは「紙ラボ!」という紙と印刷についてのセミナーや見学会を企画して喋ったりもします。印刷を軸にしてどんなことが成り立つかをいろいろ考えるのが仕事、でしょうか。
「印刷コーディネーター」も苦し紛れに出したものですが、肩書きを特定できないので屋号をつけといて良かったなと思います。我ながらぴったりだなあと。屋号に仕事させられてる感すらあります。
__「印刷」を軸に据えたのはなぜですか? 印刷の何が野口さんの心をとらえたのでしょう? もともとはムサビの基礎デ出身ですよね。大学で勉強なさっていたことと、今やっていることの間には、素人目には開きがあるように感じます。
野口:うーん、基礎デで考えていたことは、デザインという考え方をどう活用していくか、ってこと……かな? 基礎デを受けたこと自体、当時(高校生の時)認知言語学やロボティクス、その背景にある言語の仕組みに興味があって、そういった研究と表現の合間を漂っていられそうな場所を探していて、基礎デのカリキュラムを見て「ここはヤバい」と思ったのがきっかけです。
10代でたまたま研究職の方々と出会う機会が多かったのですが、すごく面白い知識や技術を持っている人たちがいて、でもその技術をいかに使うかというのは研究するのとはまた別のスキルだな、と思ったんですね。その合間を繋ぎたいと思ってました。これは印刷でも一緒で、様々な機械、素材、それを扱うプロがいて、でもそれを使うのはデザイナーですよね。印刷を活用するためには、もっとお互いの間に共通言語を作りたいなと。
その一方で、もっと小さい頃から絵ばっかり描いてきた自分もいて、水彩・油彩・アクリル・カラーインク……等々、画材によってどうなるのかメーカーごとに描き比べたり。印刷も高校のときから発注してましたから、表現手段のひとつという感覚でした。しかし本気で扱うには専門的な知識が必要で、調べはじめるとどこまでも広がっていくのが面白くて。
答えになってるか自信がなくなってきましたが(笑)、自ら研究することと、それを活用することのバランスが取れそうだったのが「印刷」なんです。いまのところ。その仕組みの考え方は、基礎デザイン学で学ばせてもらったことだと思います。
__なるほど。面白いです。難しいけど。「繋ぐ」ってことですよね。あるいは行き来するというか。ぼくもデザインとエンジニアリングの交差するところにずっと興味があるのでなんとなく理解できる気がします。ただ、もっとシンプルに「印刷物が好きだから」というのはないのですか?
野口:そうですねー。中学高校を京都で暮らしてたんですけど、カフェや本屋やアパレルショップ、いたるところにフリーペーパー置き場があるんですよ。それもR25みたいに企業が気合い入れてやってるのじゃなくて、多色刷りとかコピー機で刷っただけみたいなお金かかってないやつが大半で。そういうの見てるのがとても面白くて好きでした。フルカラーの綺麗なものよりもよっぽど工夫の跡が見えて。でも印刷物と同じくらいデジタルデバイスも好きです。

野口さんがブックデザインを担当した『AR三兄弟の企画書』(川田十夢 著、日経BP社)。
ちなみにこの本のカバーは3色刷り。ソデの著者近影はシアンなしで分解しているらしい。
__いま扱っているお仕事での成果物は、やはりちょっと変わった印刷加工をするようなものが多いのですか? 最近の印刷ディレクション仕事を教えてください。
野口:多くの方の目に触れる機会があるものだと、東京ミッドタウン デザインハブの『PACIFIC PEDAL LIFE DESIGN展』『タイのデザイン展』のDM・ポスターとか…ですかね。前者は印刷の乗りづらい紙にいかにスミベタを乗せるか、とか、後者は蛍光マゼンタとゴールドとニスの組合わせがポイントです。
必ずしも変わったものばかりではないですが、「ちょっとこだわりたい」というご相談は多いですね。せっかく印刷物を作るなら、工夫したところはここ、というポイントが欲しいという。加工を入れると分かりやすいですが、上のようにオフセットでも素材やインキにこだわる方法もあります。特殊印刷と言われるものも、普通に印刷表現の一種なので特殊というイメージはないですね。
__この仕事の喜びと辛さを教えていただけますか。
野口:辛いのは……スケジュールに余裕がないとき。予算が限られる場合でも、時間があればもっとコストダウンや見せ方の工夫ができるのに、と思うことは多いですね。印刷現場の方への負担にもなりますし、事故も起きやすくなります。
嬉しいことは、ひとつは印刷が専門ではない方々と仕事させていただく機会が増えてきたことですね。インテリアやWebや映像など、それぞれに専門をお持ちの方々に「印刷」担当として声をかけていただけるのはありがたいですし、様々な分野の話が聞けるのは楽しいです。
もうひとつは、やはりイメージが人の手を通して形になること。印刷は最後は職人に託すものですし、意図や思いを込めて託したものが形をもって返ってくるのは嬉しいです。やってみないと分からないことが多いので、出来上がるまではハラハラですが。

『印刷・加工DIYブック』(大原 健一郎、野口 尚子、橋詰 宗 著、グラフィック社)
『デザインのひきだし』を出しているグラフィック社さんならではの素晴らしい一冊。
__ちょっと話を戻しますが、野口さんの活動により、印刷側とデザイン側の「共通言語」を作ることはできましたか?
野口:それは村田さんが「世の中を変える本ができた?」って聞かれるくらい簡単にはできないことだと思いますけど、まずは職人にもデザイナーにもお互いに「向こうに相手がいる」ってことを意識してもらえるようにしたいと思ってます。
ディレクションならば、印刷所の方にはできるだけデザイナーの意図やどういう背景の案件かを伝えるようにしますし、デザイナーにも難しい加工ほど生産工程を説明して理解いただくようにしています。
「紙ラボ!」を始めたときも、紙や印刷の知識をつけるよりも、いつもは裏方にまわっている方々に出てきてもらって、印刷業界でどのような人たちが働いているのか知ってもらいたいという気持ちでした。伝える相手が分かれば、ことばは自然に寄り添っていくものじゃないかなって。
__うんうん。そう信じてがんばっていくしかないですよね。 そろそろ締めます。野口さんは「自分の仕事をつくる」ということを実現しているわけですが、非常に軽やかにしなやかに活動しているように見えます。その軽やかさ・しなやかさの秘訣、それを支えるものは何なのでしょう?
野口:最初に「印刷の余白Lab.」という名前をつけたことかな。かっこいー! …冗談です(笑)。でも本当、たぶんそれだけです。
これは書籍のインタビューでも話したことですが、会社を辞めるって決めてから小さなオフィスを探していて、縁あって世田谷ものづくり学校のブースに応募を出しました。ちょうど一昨年の今頃です。そのときに10日間で突貫でつくった事業計画書と事務所名で審査が通ってしまい、この名前でしばらく頑張ってみようと思って、岡本健くんという友人のデザイナーに刺繍で小さな看板を作ってもらいました。
みんなデザイナーって名乗ればデザインをするし、営業って名乗れば営業をする人になるし。私はそれを肩書きじゃなく屋号にしているだけです。印刷の余白Lab.と名乗ることによって、自分の仕事を「印刷」の枠に縛るかわりに、その範囲ならできるかぎり挑戦する人、ってことにした。もう呪いみたいなもんですよ。村田さんが言ってくれるほど全然軽やかじゃないし、裏でいつもジタバタしてますが、名乗っちゃったのでしょうがないです。
__ふむふむ…奥深いです。 あと最後に、今後の展望、野望について聞かせてください。
野口:やっぱり印刷以外の仕事をしている方々とコラボレーションの機会を作りたいですね。あと、来年に向けて紙ラボ!の活動を再構築したいなと。いつか美大や専門学校で印刷の話をしてみたいです。あとはそうですね……とりあえずこの屋号で、まだできることを模索していこうと思っています。

まぶしそうな野口さん。Zine Picnic@代々木公園でのひとコマ。
お忙しい中ありがとうございました。



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