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「洞窟の中の心」4・アフリカのサン族の岩絵(1)・・「ラスコー洞窟展」に行ってきた(8)

2017-10-18 | アフリカ・オセアニア


昨秋に行ってきた「ラスコー展」のすばらしさを、ことばに置き換えたくて、参考資料として「洞窟の中の心」という本のご紹介を続けさせていただいたいます。リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。

次は、同書の中の、アフリカ原住民・サン族(ブッシュマンと呼ばれていました)の岩絵について書かれたところです。

サン族の岩絵が、数万年前の後期旧石器時代の洞窟壁画とほとんど同じものであることが、詳しく書かれています。

         *****



       (引用ここから)

「第5章・南部アフリカ・サン族の岩絵」

1874年、ドイツの言語学者ブレークは、サン族(当時はブッシュマンとも呼ばれていた)の人々と親交をもつ機会を得た。

彼らは、自分たちの言語と民間伝承をブレークに教える機会ができたことをとても喜んだ。

彼らは自分たちの生活様式、言語、宗教、つまり民族のすべてが、植民地の拡張によって脅かされていることを認めていた。


南部アフリカのサン族の共同体で、古くからの生活様式を今なお維持し、昔からの言葉を話している部族は、もう一つも残っていない。

彼らはすでに別の集団に吸収されたり、周辺の土地に追いやられたりしてしまった。

言語学者ブレーク一家が研究を行ったサン族の人々は皆、白人の入植者に遭遇した経験があった。

白人たちは、はるか遠くへと、部族の地にまで入植の幅を広げ、植民地を拡張させた。

その結果、植物を荒らし、それ以前は自由に動き回っていた獣たちの群れを絶滅に追いやった。


彼らサン族の親たちの世代は、白人たちがやってくる以前からそこで暮らしていたのであり、まさに古き民話の宝庫だった。

ケープタウンに来たサン族の人々も、彼らの祖先も、ともに石器を制作し、弓矢で狩りをし、致死的な毒物をどう使えばよいかを心得ていた。

つまり、サン族は石器時代人で、狩猟採集を行う共同体だったのである。


ブレークと義姉ロイドは、サン族が岩絵(絵文字)と彫刻(線刻画)を制作することを知っていたが、2人とも、描かれた絵がまだ新鮮な輝きを放ち、図像が岩に刻み込まれたばかりの現場を訪れたことはなかった。

1875年、ブレークは、完成度の高い、フルカラーの模写画を見る機会を得た。



それは大いなる可能性を秘めており、限りなく高尚な趣味と、私達が最も豊かな想像力によって期待するものをはるかに凌駕する芸術的な達成を示していた。


サン族の男が、その岩絵の模写を見て発した言葉には、「ギ―テン」についての信仰の情報も含まれていた。

その語の最初の音「ギー」は、「超自然的な潜在力」を意味する。

これはいたずら好きな神(トリックスター神)であるツァンゲンが、人間にあてた一種の「電気」であり、偉大なる動物たち、特にアフリカのアンテロープの中で最も大型のエランド(オオカモシカ)に備わっているとされる。

「ギー」とは男性であれ女性であれ、超自然的な潜在力を持つ人物のことを指す。

ロイドはこの語を、「魔術師」と訳した。


サン族の居住地にいる男性のおよそ半分と、女性の3分の1ほどがシャーマンだった。

サン族は、霊的な領域の存在を信じているが、そこには神とその家族、神の所有する多くの動物達、人々に‶病の矢″を放つ死霊、奇妙な怪物たちが住んでいる。

サン族のシャーマンの務めは、自らの「超自然的な潜在力」を活性化し、その力が煮えたぎって、背骨を駆け上り、頭頂部で爆発して、自分たちを霊的な領域へと一挙に引き上げるようにすること、すなわち「強度に満ちた意識の軌道」の極点において、トランスの状態に突入することである。

サン族にとって、このような横断的な旅は、呪術医と治癒の踊りとダンスの最中や、夢の中で、あるいは2、3人だけが参加する特別な治療儀礼の中で行われる。


これらの偉大なる踊りは、サン族の宗教儀礼の中心をなす。

老若男女も訪問者たちも、すべての人々が踊りに参加する。

彼らは、皆シャーマンに手をかざされることで治癒を受けるが、これは人々が気づかぬうちに体の中に‶病の矢″を撃ち込まれているからだろう。



南部アフリカの岩絵は、深南部の地方には多様な踊りの型が存在していたことを示している。

今日見られる踊りのパターンは、円陣を組むものである。

中央では、力の源として火が焚かれる。

そのまわりには、お互いの肩がぶつかるぐらい、間を詰めて女性たちが座り、輪を作る。

彼女たちは歌をうたい、手をたたいて、潜在力があるとされる呪術の歌の複雑なリズムを刻む。

女性たちの輪の外がわでは、男たちが輪になって踊る。

男たちは足を踏み鳴らして踊りのリズムを取り、ふくらはぎに結びつけたダンス用のガラガラの音でリズムにアクセントをつける。

彼らは‶病の矢″を払い落とすために、動物の尾で作った‶ハエ払い‴を手に携えている。

それを使うのは踊りの中だけである。


サン族は、幻覚剤は使わない。

その代わり、徹底した集中と、聴覚を刺激する持続的でリズミカルな動き、そして呼吸の亢進(速くて浅い呼吸)によって意識変容状態をひきおこす。

踊りの間、女性のシャーマンは火の周りを囲んでいる輪から時折立ち上がり、男たちより優美なステップと身のこなしで、彼らの輪に加わる。

サン族にとって、踊りがもっとも重要な宗教儀礼であることに、疑問の余地はない。

踊りはシャーマンにとっても重大で、しばしば危険をともなう務めである。

彼らが自らえた力をコントロールできなくなれば、強硬症になって地面に倒れ、全身が引きつってしまう。


サン族の人々は、ドイツ人研究者ブレーク達に「シャーマンが体を激しく痙攣させながら踊ると、その背中にはライオンの鬣が生える」と語った。

ライオンや他の動物に「変身」することは、サン族の「霊的な経験の鍵」となる部分である。

自らの潜在力を使いこなせる大シャーマンは、人々から病を抜き取れて、それを自分の身体に移すために、手の平をかざして回る。

そして、猛々しい叫び声と共に、シャーマンは抜き出して、取り込んだその病を、自分の首の後ろの穴から外に捨て放つ。

こうして病は、それを初めに送り込んだ指令の元へ戻ってゆく。


サン族のシャーマンが深いトランス状態に入ると、時に鼻から出血することもある。

人々は、この血の臭いが病気を寄せ付けないと信じて、それを患者に塗布した。

深いトランス状態の中でシャーマンの魂は、頭頂部を通り抜けて、体から離脱すると信じられている。

その魂は、彼らの国の別の土地に行って、友人や親せきの暮らしぶりを確認し、あるいは神の家に行って、病人の命乞いをする。


今日のカラハリ砂漠では、サン族のシャーマンの名声は高く、治療をしてもらうために、人々が遠くから彼らを呼び寄せることもある。

        
            (引用ここまで)

写真は、サン族が描いた岩絵の「舟型」と「動物」。ラスコーなど旧石器時代の動物図像とそっくりです。


              *****
    
              ・・・

>南部アフリカのサン族の共同体で、古くからの生活様式を今なお維持し、昔からの言葉を話している部族は、もう一つも残っていない。

彼らはすでに別の集団に吸収されたり、周辺の土地に追いやられたりしてしまった。

言語学者ブレーク一家が研究を行ったサン族の人々は皆、白人の入植者に遭遇した経験があった。

白人たちは、はるか遠くへと、部族の地にまで入植の幅を広げ、植民地を拡張させた。

その結果、植物を荒らし、それ以前は自由に動き回っていた獣たちの群れを絶滅に追いやった。


彼らサン族の親たちの世代は、白人たちがやってくる以前からそこで暮らしていたのであり、まさに古き民話の宝庫だった。

              ・・・

この部分を読んで、このブログの主テーマであるホピ族のことを思い出しました。

さらに、踊りの仕方も、ホピ族の踊りとしてご紹介している「足にガラガラをつけて、地面を踏み鳴らし、輪になって踊る」という踊り方と、全く同じであることに驚きました。

              ・・・

>男たちは足を踏み鳴らして踊りのリズムを取り、ふくらはぎに結びつけたダンス用のガラガラの音でリズムにアクセントをつける。
 
              ・・・

とても興味深いことだと思います。

また、男性の半分、女性の3分の2がシャーマン、というのもすごいことです。

つまり、彼らにとっては、シャーマニックな現象が日常であり、現実であるのだと思います。

人間にとっての本来の在り方を、考えさせられます。


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