撮影コーディネート『四方山ばなし』

タイに住んでいて気づいた事等を、適当に書いていきます。
期待しないでね!

真保裕一 著『奇跡の人』(新潮文庫2000年2月)

2009年04月16日 17時02分52秒 | ✜独断中古書評✜

 この著者の作品を批評するのは2度目だ。前回は『奪取』という偽札作りに魂を燃やす活劇だったけど、今日紹介する『奇跡の人』は、交通事故に遭って事故以前の記憶どころか知力までも全て失ってしまった青年が、事故前の自分を捜し求める、厳しくて切ない物語です。この青年は事故後ほぼ脳死状態になったにもかかわらず、奇跡的に命を取り止め、しかし普通なら植物状態になってしまうほどの脳の状況を乗り越え、更に奇跡的に多少の障害が残るけど話し、食べ、歩けるようになった奇跡の物語が、それを見守り続けた母の日記と現在の彼の状況を織り交ぜながら進んでいきます。
 僕も18歳の時にバイクで事故って瀕死の重傷を負った経験があり、実際僕も事故にあったその日の朝から、事故に遭って病院に運ばれるまでの記憶が全くありません。気がついたら手術室で傷だらけの顔の形成手術中で、最初の一言は「ここはどこ?」でした。この事は当時誰に言っても全く信用してもらえなかったのだけど、後にビートたけしがバイクで事故ってやはりその前後の記憶を失っていたことが語られるにあたって、ようやく僕の話しも信じてもらえたのです。
 実際、この物語のように記憶どころか知力まで全て失って赤ん坊のような状態になることはまず無いと思うけど、著者の筆力と言うのか、うまく引かれたストーリーによってすっかりそんな事もあるのだろうと思わされます。そしてメインの自分探しの旅。辛く厳しい本当の自分が徐々に判明し、それにつれて主人公の精神はだんだんと狂っていきます。そして切ない最後の章。ハッピーエンドではないけど、とても切ない何とも言えない印象を残して物語は終わります。何も賞はとってないけど、秀逸な作品です。
  よかったら、どうぞ。《90/100》

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

湊かなえ 著『告白』(双葉社2008年8月)

2009年04月07日 13時06分21秒 | ✜独断中古書評✜
 この本、いつもと違って古本じゃありません。現に、昨日「2009年本屋大賞」に選ばれたばかりです。なのでまだ文庫本にはなってないです。実は先日のプーケットロケの時に、いつも良くして頂いている編集の方が飛行機の中の暇つぶしにと買って、撮影期間中におもしろくて読み終わってしまったからと、読書好きの僕にくれたのです。
 『告白』と言うタイトル通り、6章に分かれたそれぞれが5人の告白という形式の一人称で物語りは進んでいきます。舞台はある中学校、そこで起きた事故に関係する教師と生徒達、そしてその保護者。刑法の壁、少年法と復讐心との間を揺れる担任教師。その真相を告白された生徒達の行動。今までに無いタイプの作品です。惜しむらくは、最後の最後がちょっとフィクションとしても都合が良すぎで、しかもだいぶ弱い。もったいない。
 よかったら、どうぞ。《75/100》
第二十九回 小説推理新人賞
2009年   本屋大賞
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

東野圭吾 著『幻夜』(集英社文庫2007年3月)

2009年04月01日 01時38分55秒 | ✜独断中古書評✜
 前回の『白夜行』の続編です。何の先入観も無く読むと続編とはしばらく気づかないので、ここで僕がバラしてしまってすみません。まぁ、この本の帯にも書いてあるし。
 この作品も長いです。僕好みです。779項あって、更に文字も小さいです。そしてやっぱりまた独特の空気が全編にわたって溢れています。まぁ、『白夜行』が大傑作だったのでそれには及びませんが、この作品ももう4度読み返しました。最後のページが終わって『あぁ、もっともっと・・・』なんて思って解説を読むと、更に続編がありそうな気配です。早く読みたいな。そして、著者もガリレオシリーズもいいけど、やっぱり彼風のノワールの作品をもっと書いて欲しい。いわゆる謎解きやトリックはもう飽きた。もっと東野ワールドの冷たい迫力に押しつぶされたい衝動を抑えられません。
 よかったら、どうぞ。《93/100》
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

東野圭吾 著『白夜行』(集英社文庫2002年5月)

2009年03月07日 11時09分50秒 | ✜独断中古書評✜
 久しぶりにこの『白夜行』を読んだ。この作品を読むのはもう4度目だ。東野圭吾は福山雅治が主演したフジテレビのドラマ『ガリレオ』で読書家以外にも一気にブレイクしたけど、僕的にはその原作になった『探偵ガリレオ』はあまり好きではない。この著者はいわゆる本格ミステリーもの、パロディものなど多岐にわたる作風を持っているけど、僕が好きなのはそういうのじゃなくて『鳥人計画』『パラレルワールド・ラブストーリー』『殺人の門』など、淡々と冷たく進んでいく話しで、今回の『白夜行』はその中でも大傑作である。一度読んだらもう一度確認のために読みたくなる。あいだを置くとまた読みたくなる。全部で854ページもある超長編で持ち歩きに向かない分厚さだけど、読み出したら止まらない。外出先でも少しの時間があったら読みたくなる、そんな作品です。
 事件は1973年の10月に始まり、物語はそれから19年後まで様々な事件を伴いながら繋がっていく。そしてそれらの事件のつど、映画『ロッキー』やバブル景気とその後、インベーダーゲームにコンピューター通信の誕生など、その当時の時代を反映する事象を上手に巻き込んでいて、現在30代半ば以降の人が特に心を揺さぶられる構成になっている。そして何よりこの作品が優れているのは、読んでいるだけでその場面の空気の温度を感じられる緻密で繊細な叙述。TBSで既にドラマ化されているけど、ドラマでは絶対に表現できない、全編を通して貫かれるその冷たい迫力を是非感じてもらいたい、そんな作品です。
 よかったら、どうぞ。《100/100》
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

真保裕一 著『奪取(上)(下)』(講談社文庫1999年5月発売)

2009年01月23日 13時15分14秒 | ✜独断中古書評✜
 この本は長いです。僕好みです。1冊だけでも普通ならけっこうな長編の厚みがあるけど、それが2冊です。内容は偽札製造の話しなんですが、最初読み始めて上巻の真ん中ぐらいでもう話しが終わりそうで、どうしたのかと思ってると、更にもうひとつの話し、そしてさらにもうひとつと、どんどん展開していきます。かなり細かい所まで丁寧に取材していて、逆に減点部分は細かすぎて飛ばして読みたくなることかな。偽札製造に興味のある方、必見です。
 僕はこの著者の作品を始めて読んだのは『連鎖』(講談社文庫)という本なのだけど、どちらもあまり本を読まない方でも入りやすいと思います。ちょっと展開に強引な部分があるのだけど、それはドラマだと思って読み進めれば大丈夫。機会があれば他の作品も手にとって見ようかと思える安定感のある作家さんだと思います。だけど、読み終わって突き抜けるよな、話しが終わってしまって寂しいような、もっとずっと読んでいたいような、そういうことを感じさせるようなすごいパワーがちょっと足りないかな。
 よかったら、どうぞ。《75/100》
第五十回 日本推理作家協会賞
第十回   山本周五郎賞
コメント (2)
この記事をはてなブックマークに追加