採擷一縷微風

採擷一縷微風

る岩壁の下に潜りこ

2017-05-16 11:09:20 | 日記

ってしてもまったく理解できない方言を使っていた。働いている者はもっぱら港湾労働者や無許可の行商人のように生計をたてていたものの、しばしばギリシア料理のレストランで給仕をしたり、街角の新聞売店で店番をしたりすることもあった。しかし大半の連中はとりたてて職ももたず、密輸や「酒の密売」以外は記すこともはばかられる、暗黒街の営みにかかわっているようだった。彼らはどうやら不定期貨物船でやってきて、月のない夜にボートに移されると、とあみ、隠された運河伝いに、ある住居の地下にある秘密の池まで行くのだ。マロウンがこの岩壁も運河も住居もつきとめられなかったのは、情報提供者たちの記憶がはなはだ混乱しているばかりか、その話の内容たるや、最も優秀な通訳にしたところでほとんど理解できないようなものだったからで、かくも組織だった密入国をくわだてるべき理由についても、具体的な情報は何一つ得られなかった。情報提供者たちも出身地の正確な場所となると口を閉ざし、自分たちを探しだして行動を指示した組織を明かすほど、十分に警戒を解くこともなかった。事実、ニューヨークにあらわれた理由をたずねられると、何か激しい恐怖のようなものをつのらせるばかりだった。他の人種のならず者たちも同様に口数が少なく、ようやく集めえた最大限の情報によると、彼らは神か大司祭のような者によって、見知らぬ国での前代未聞の権力と、尋常ならざる栄光や支配者としての地位を約束されたものらしい。
 サイダムの警戒厳重な夜の集会には、新参者と古くからのならず者の双方が、きわめて規則正しく出席しており、警察がまもなくつきとめたのは、かつての隠者が別にいくつかフラットを借りうけ、合言葉を知っている者たちに提供しているばかりか、あげくには三軒の家屋を占有して、奇妙な取り巻きの多くを常時かくまっている事実だった。サイダムはもうフラットブッシュの屋敷で暮すこともなくなり、書物をとりだしたり持ちかえったりするためだけに出入りしているようで、その容貌や振舞が驚くほど荒あらしいものになっていた。マロウンは二度にわたってサイダムから話を聞こうとしたが、いずれの場合も木で鼻をくくったような態度ではねつけられた。謎めいた陰謀にせよ動向にせよ、そんなものについては何も知らんし、クルド人たちがどうやって入りこんだのか、何を求めているのかなど、見当もつかんというのだった。この地区の移民すべての民間伝承を、誰にも邪魔されずに調べようとしているだけなのだから、警官がいらぬおせっかいをやくものではないともいった。マロウンはカッバーラー等の神話に関するサイダムの小冊子を賞讃したが、老人が表情をなごませたのはつかのまのことにすぎなかった。サイダムが私事に立ちいられていると思い、話をつづけることをあからさまに拒否したため、マロウンもうんざりしてひきあげ、他の情報源にあたることにした。
 マロウンがそのまま事件の捜査をつづけていたら、はたして何がつきとめられていたかは、誰にもわからないことだが、事実をいえば、市警と連邦捜査局のあいだに愚かしい意見の対立があって、捜査は数ヵ月にわたって中断し、その間マロウンは他の任務に忙殺されていたのだった。もっとも一度とて事件に関心をなくしたことはなく、ロバート・サイダムにおこりはじめた変化に驚かないわけがなかった。誘拐と失踪《しっそう》が頻発してニューヨークが興奮の波に呑

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