僕らの神様は泣き虫だ。

一人の人間の頭の中の広がりがここに展開されてるといいなあ。

天使が遺したアナグラム #2 選択的特異点

2017年05月14日 16時44分00秒 | 人形劇

プロローグ

 身体が震える。わからない、わからないことばかりだ。この世界、いや、私が触れている世界は、何を望んでいるのだろう。彼は、扉の無い部屋の中で、いつもの様に一人悩んでいた。大して家具も置いていないのに部屋は狭く、小さな木製の椅子に殆ど身動きの取れない状態で腰掛けている。隠れ家だろうか。少なくとも、大きな背丈の彼にはあまり居心地の良い空間ではないと見て取れた。椅子の横の台には、煙草と、半透明な携帯情報端末、小さな犬をモチーフにしたキャラクターの置物が転がっていた。年齢はやや不詳だが、20代の半ばから30代前半くらいに見える。落ち着いた印象であるが、背景を感じさせない、独特の雰囲気を持っていた。彼の生き方によるものだろう。こんな小さな箱の中で、彼はいつも通り悩んでいた。
 時間をかけてみても、やはり答えは出ない。この閉じた部屋では、彼に答えを与えられない。彼自身それを理解しているはずなのだが、それでも諦められない。まるで人間みたいだな、と彼は考えていた。
 彼、人形(ひとがた)はふと立ち上がり部屋の隅へ歩いていき、そのまま壁を無視して歩き出した。彼の向かう先の壁が脈絡も無く消え、照明もなく暗闇の中をただ真っ直ぐ歩いていた。200メートルほど進んだだろうか、彼は突然落下した。床が無かったためだ。数メートル落下し、人形は少しふらついたが、すぐに前を向いた。すると、そこは建物の中だった。一般企業のオフィスの中だろうか、20畳程度の広さで、ごくごく一般的な内装で、幾つかのデスクとPCが並ぶ。壁に掛けられた時計の針は、2時を指していた。部屋の中に人間は一人だけで、モニタへ向かう男性が居た。残業中なのだろうか、疲れた顔をしていた。人形は、少しだけ悲しそうな顔をした。
 突然、部屋に変化が始まった。先程まで白かった壁がゆっくりと暗い紫色へ変化し、デスクやPCは暗くなっていた。時計の文字も解読不能な言語になり、輪郭がはっきりしない。水色の蛍光灯に照らされた部屋の中、残業中の男性は、青くなった顔のまま、緑の文字を眺めていた。その変化は人形も例外ではなく、その両手はまだらなピンク色になっていた。
「面白い手品ですね。あなたの仕業ですか?」
 人形が声を発した。その声は明らかにこの状況を楽しんでいた。ピンク色の身体を動かしゆっくりと彼へ歩み寄る。本来間合いを詰める必要も無いのだが、興味があるのだろう。
「しかし色だけで内装自体は変化しないんですね。もしかして、何か別のレイヤーを被せている? なんて、あっ…… 」
 人形が立ち止まった、男性が消えていたからだ。
「お仕事は終わったのでしょうか……」
 誰も居ない部屋に、人形は一人で立ち尽くしていた。

1 壊すだけの神様
「少し走るわね」
 巳様虹乃花(みさま このか)がそう言うと、背後に居た男性は黙って頷いた。大きな工場の敷地内のような、広く建物が幾つも立ち並ぶ道を彼らは走っていた。太陽も沈み空はすっかり暗くなっていた。ついてなかったな、と背後に居た男性、人形は考えていた。巳様虹乃花の長い黒髪と、紺色の長いコートが揺れるのを眺めながら、ただ追いかける。彼女は間違ってはいないが、本当にやるつもりだろうか? 人形は考える。例えば現在は違法ではないが、数代後に子どもが産まれなくなってしまうような後遺症のある、ある病気のワクチンが存在するとする。その真実を知る者はどうすべきか? 証明する術を持たないとして。人形は自問していた。無意味に例え話を用いる点や、今置かれている状況を意識していない点が彼らしかったが、今日も答えは見付からなかった。
 予め調べておいたのか、偶然なのかは彼女にしかわからないが、駐車場のトラックの横までたどり着いた。そして、おもむろに一台のトラックの鍵穴に何かを差し込む。
「これで逃げるわ、人形くん、運転して」
「えっ、僕大型の免許持ってないですよ」
「いいから、お願い」
「……わかりました」
 しぶしぶ運転席に乗り込む人形、迷っている時間は無い、追われており、逃げているのだ。巳様虹乃花は既に助手席へ乗り込み、辺りを見渡していた。
「西の門が開く手筈になっているからそっちへ向かって。あと、途中に一番高い棟を横切ると思うけど、そこだけ60kmちょうどで走って」
「わかりましたが、理由を聞いても良いですか?」
「普通の人間の仕業に見せたいのと、一番高い棟に用事があるの」
「わかりました」
 人形は色々疑問が残るがとりあえず納得することとした。巳様虹乃花の黒い瞳は、これ以上何も語らないだろう。
「えっ、何してるんですか」
「これで狙撃します、時速60km、距離120m。緊張するわね。あっ、警備員は轢かないで」
 そう言いつつ静かにライフルを構える彼女に、人形は苦笑いするしかなかった。言われたとおりに、駆け寄ってきた警備員を避けて運転する。人形はバックミラーを眺めながら、どうせ教習所では習わないテクニックだったな、とぼんやりと考える。そして目的の棟の横に差し掛かった。
「時速60キロです、うおっ」
 人形がそう話しかけた時、同時に虹乃花は発砲していた。乾いた音だけを人形は観測したため、結果はわからなかったが、彼女は目的を達成したのだろうか。
「終わったわ、行って」
 人形は言われるがままにした。巳様虹乃花はもう弾丸の行く先を見ようともしない。全てを飲み込む暗い瞳は、ただ前だけを見据えている。彼女の性格を象徴しているかのような行動であった。トラックは開いた門から勢い良く飛び出し、二人をその場から遠ざけた。翌日以降、人形は複数の新聞に目を通した。事故については記載されていたが、結局人形が期待したような情報は得られなかった。

2 水鏡御館
「あなたは暗くても見えて良いわね」
 大きな暗視ゴーグルを身に着け、暗い森の中を歩きながら、巳様虹乃花は横を歩く男性へ声をかけた。
「ええ、僕から視界を奪うことは不可能です」
 人形が答える。彼等は暗い森の中を歩いていた。背の高い樹木が立ち並び、彼らを見下ろす。葉や枝に遮られ、殆ど空は見えず、夜であったが月も見えない。
「……これよ」
 巳様虹乃花の視線の先には、小さな祠のようなものが存在した。人形が首を傾げる、こんなものに何の意味があると言うのだろう、と。半径2mにも満たない、苔の生えた石畳の上にそれは存在していた。中を見ると、小さな鏡が台座の上に配置されていた。大きさ15cm程の、縁の無い丸い鏡だった。巳様虹乃花の白い手が、静かにそれを手に取る。そして、どこからか取り出した別の鏡を代わりに置いた。
「ねぇ人形くん、この鏡、消せない? 持って帰ると祟りそう」
「……消せますが、理由を聞いても良いですか?」
「悪用されると人が死んで、なかなかそれが表に出ないものであるから、かな。あまり細かく言いたくないけど」
「何か知っていますね? 可能であればお聞きしたいです」巳様虹乃花がやっと視線を人形の方へ向けた。
「……これは狭い範囲で異なる世界を重ね合わせる道具で、元々は占い師が用いたものなの。魔術に分類されるけど、独自の体系を持っていて、もう失われた知見で作られている。そのせいで悪用されるととても厄介。私の知る事件だと、この鏡のおかげで直接1200人……間接的に200000人は亡くなった、行方不明者まで含めるとその3倍は被害が出ました」
「わかりました……」
 人形がそう答えると、鏡を手に取った。すると、何の脈絡も無く、まるで初めから存在しなかったかのように、鏡は消えていた。人形は何故か少し笑顔だった。
「ありがとう」巳様虹乃花が感謝の言葉を述べる。
 そして、彼等は帰路へ向かって歩き出した。人形は巳様虹乃花の足取りに、どこか寂しさが含まれることを、敏感に感じ取っていた。

3 関係性の悪魔
「いつでもどこでも誰とでも♪」「あなたの心にエゴサーチ♪」
 巳様虹乃花はA4サイズの薄いタブレットを、ソファーに寝転びながら、自らの事務所で眺めていた。画面の中では2名の女性が写っており、巳様虹乃花にはよくわからない発言を繰り返していた。どうやら地下アイドルのネット配信を観ているようだ。
「そろそろかなあ。多分、間違いないのだけれど」
 巳様虹乃花は独り言を呟いた、非常に眠そうな声だった。その間も画面の中の女性は、巳様虹乃花にとって退屈な情報を提供し続けていた。
「あ」 巳様虹乃花が呟いた。配信中に探していたものを見付けたからだ。それは、画面の中の女性が描いた絵にあった。暗い背景に、デフォルメされた天使が、翼を折られている絵。三角形の眼からは表情も伺えない。これが何を意味しているかわからないが、画面の中の女性はそれを手に持ちただ笑っていた。
「残念ね」
 それを確認すると、巳様虹乃花はタブレットを放り出し、そのままソファーの上で眠りについた。閉じたカーテンの隙間から、朝日が少しだけ差していた。

4 嘘の証明
「終わりかな」
 巳様虹乃花は液体で赤く染まった自らの両の手を、白いハンカチで拭いながら吐き捨てた。今日は一人のようだ。狭いビルの一室、散らかった部屋を見下ろす。先程まで生きていたはずのそれを眺める瞳は、相変わらず何も語らず、全ての色を飲み込むだけだ。その姿は不気味に落ち着いていて、とてもこの場を演出した人間には見えない。巳様虹乃花はコートのポケットから小さな箱を取り出すと、赤い水溜りへ放り投げ、建物の出口へ向かった。もう振り向きもしなかった。しばらくして爆発音が聞こえたが、彼女は何も表情を作らなかった。

5 猫の手
「まだ立てるのか」
 声の主は、意外そうに口を動かした。変わった容姿と、手に持ったライフルが印象的な女性だった。髪の毛は長いストレート、色は銀で、白い肌と赤い瞳にマッチしていた。服装は黒いブラウスに黒いスカート、季節に合わない軽装だ。見た目と表情の作り方の幼さから、年齢はまだ10代だろうと見て取れた。
「ホーランドアンドホーランドね、良い物持ってるじゃない。高かったでしょう? それ」
 巳様虹乃花は、コートに空いた穴を確認しながらそう言った。真っ暗な瞳は何も語らないが、少し楽しそうな声だった。巳様虹乃花の事務所の中で、彼女達は互いに向き合っていた。事務所は散らかっており、テーブルには穴が空き、先程までコーヒーを飲んでいたのだろう、カップは割れ床へ散乱していた。
「おい、状況を理解しているのか?」
 声の主は、銃口を巳様虹乃花の胸元へ向けた。
「ええ、だいたい。ところで、目的は? 教えてくれても良いんじゃないかしら?」
「…………質問がある………神撫製薬の所長室を狙撃したのはお前か?」
「…………ええ、そうですけど」
「何故だ? しかも所長の不在時に」
「話す必要はないけど、ある研究を遅らせることが目的の一つだった」
「私の仕事を邪魔する目的はあったか?」
「いいえ、それはないわ。何か邪魔したとしても謝る気も無いわ。でも、あなたも事務所を荒らしたからお互い様」
「……そうか、邪魔したな」 声の主は銃口を下へ向け、そして窓の方へ視線を送った。
「待って、二色空木月下(にしきうつぎげっか)ちゃん」 巳様虹乃花が優しい声で語りかける。銀髪の少女は眼を見開いた。
「私を知っているのか? まずありえないはずだが」
「ええ、噂では聞いていたわ。直接姿を見るのは初めてだけど、噂どおり、凶暴で、優秀そうね」
「……調査が甘かったようだな……」
 声の主、二色空木月下はいつの間にか虹乃花の目の前に迫っていた。気付けば銃を捨て右手にナイフを握り、虹乃花の首へ向けて静かに振りかざしていた。洗練された動きだ、動作の最中に感情を全く感じさせない。常人には何も見えない速さだったが、虹乃花はかろうじて後ろへ飛び退く。しかし、そのままよろけ倒れてしまった。それほど彼女の動きは速かった。しかも躱したはずの首筋に線が浮かび、血が滲む。
「なかなか速いわね、人間の中なら最上位かなあ。判断も良いわね、銃では掠りもしなかったと思う。あれ、追い打ちしないのね。チャンスだったのに、私が」
 巳様虹乃花がゆっくりと立ち上がりながら優しい声で呟く。首筋の線はもう消えており、表情は落ち着いていて、僅かな動揺すら見られない。ただ黒い瞳が月下を見据えていた。
「いきなり襲われて、怒らないのだな。さっきもだけど」
「別に、今襲われないと思って生きていないからね。まあそれは良いとして、今ので決めた。月下ちゃん、ああ、そう呼ばせて貰うわね? 今度私とお仕事しましょうよ。報酬も悪くないし、何より面白い案件ばかりよ。連絡先教えて貰えない? とりあえず、名刺も渡しとくわ」
「……………………この流れでか? ……ええと……」
 二色空木月下は差し出された名刺を、とりあえず受け取る。こんな人間は初めてだ、今まで出会ったどんな人種とも異なる。全く正体が見えない、ただただ不気味だ。ここはとりあえず引きたいな、と二色空木月下は考えていた。それは賢明な判断で、巳様虹乃花と事を構えるには、彼女はあまりに幼過ぎた。ただの勝負であれば、月下がかなり有利ではあるはずなのだが、こと殺し合いとなれば、彼女に全く勝ち目は無かっただろう。
「私は巳様虹乃花と申します。最近はこの界隈で仕事をさせて貰ってるわ。あなたみたいな人を探してるの」
「……私に何を求めているのだ?……暴力くらいしか能がなく、おそらくお前より弱い私に……」
「謙遜しないで、あなたは優秀だわ。それに、まだ引き出しがありそうだし」
「……それはお互い様だろう、巳様虹乃花。正直、さっきナイフを躱された時、殺されるかと……消えた傷跡も怪しい」
「ははは」 巳様虹乃花は、器用に口元だけで笑ってみせた。
「笑えないぞ……ところで、お前の目的は? お金だけ貰って片道で仕事することは好きではない……」 二色空木月下は、ソファーに腰を掛けた。不安の裏返しの行動であった。
「別に話しても良いけど、つまらないかもよ?」 巳様虹乃花は穴の空いたテーブルへグラスを運びながらそう言った。
「構わん。教えてくれ……」 巳様虹乃花も、向かい側のソファーへ腰掛ける。
「一言で言うと、この世界の未来を変えたいと考えているわ。そのために、あれこれ活動を行っている。多少のルールは無視してね。おかげで、短期的に見れば、誰かの邪魔ばかりしているけど」
「……すまない……よく理解出来ないが……結局は非合法の仕事なのだな」
「仕事は二種類よ。依頼されたことと、自分の目的のためにやること。依頼されることは、多分あなたが考えているような仕事。何か依頼を受けて、仕事をし、報酬を受け取る。その仕事の中で、あなたの力が必要になるわ」
「自分の目的とは? 宗教とか? 別に構わないが」
 月下が少しだけ表情を曇らせる。
「詳細はまだ言えないけど、まずは止めたいことがあるの。そのために、今は準備をしている」
「事情はわからないが、わかった。私の信念に反さない限りは許容しよう」
「まあ、今度依頼させて貰いますね。お互いの理解を深めるのは、その後でも別に構わないでしょう。お金の話もあるし。では、近い内に連絡するわ」
 巳様虹乃花がそんな台詞を吐くと、あっさりと場は終了した。

6 見えない糸
「早速かかったわ」
 巳様虹乃花はそう言うと、冷たいモニタを眺めながら手を動かす。二色空木月下との接触の翌日、巳様虹乃花を調べる者が現れたのだ。先日から続く意図の読めない行動も、このために行っていたのだろうか。
「ターゲットですか?」
 人形が後ろから声をかける。虹乃花の事務所の中、彼女が作業するデスクの後方、壁にもたれかかり立っていた。背は180cmくらいで、年齢は30歳から35歳程度に見える。安っぽい黒髪は、最近自分で染めたように見えた。紺色のスーツ姿だが、ネクタイは締めていない。彼は、虹乃花の仕事仲間としての地位を確立しつつあり、今日も彼女に事務所へ呼ばれていた。
「ええ、間違いない。このタイミング、アクセス方法、かなりのものと見て間違いない。相当なプロの仕事ね、使っているエージェントと数も適切。白々しいくらい」
「なんだか嬉しそうですね」
「どうしてかな、少し喜んでいるのは事実。見付からなかったら、手遅れになるかもしれなかったから。あ、二時間後出発するから準備して、心の。結構危なそうだから覚悟して、あなたなら気にしないと思うけど」
「わかりました。あなたがそんなに急ぐなんて、なかなか優秀なのですね、相手も」
「私を排除するつもりかも知れない。先手を打ちたいの。この対応の早さが組織力によるものなら、多少放置しても問題無いけど、個人だったら恐ろしい」
「わかりました、コーヒーでも飲んでます」
 そう言うと、人形はソファーへ向かった。余計な詮索はしたくなかったのだろう。巳様虹乃花は立ち上がり、窓際へ向かうと、少しだけ外を見てまたデスクへ戻った。
「ミサイルでも撃ち込めれば早いのだけれど、流石に許されないわよね」
 虹乃花が楽しそうに考えてもいない独り言を呟く。何かが始まるのだろう。彼女にとって重要な何かが。人形はソファーに腰掛け、虹乃花の目的について思考していた。今度の仕事は、おそらく彼女の本質を垣間見ることになるだろう。それは、今度の相手は巳様虹乃花をそれなりに知っており、難敵だと考えたからだ。おそらくその中で、彼女は自分の本性を浮かばせるだろう、そうしなければ生き残れない。そしてそこで自分は知るのだ、巳様虹乃花という人間を。巳様虹乃花は、未来の叡智を持ち込んで、この世界を滅茶苦茶に破壊してしまう悪魔なのか? それとも、終わったはずの世界の先を見せる神の使いのような存在であるのか。自分は神も悪魔も信じていないが、世界を創れば神で、壊せば悪魔と呼んで差し支えはないと思う。
 人形は考える。例えば彼女が悪魔だったとして…………、ふと恥ずかしくなった。こんな極端な考えで、相手を推し量る自身が。結局自分は、彼女を理解したいと言いつつ、それに付き合うことを今放棄しようとしていたのだろうな。巳様虹乃花を、分類して押し込んで、理解したと思い込みたかったのだろうな、と。結局、彼は二時間、全くその場から動かず座ったままだった。

7 邂逅
 幸神市の虹乃花の事務所から車で約1時間、都心からかなり離れた倉庫が、彼女達の目的地だった。倉庫は4階建てで外装は銀色で統一され、隣接する立体駐車場もあり、物流施設というより、まるでオフィスビルのようだった。
「なんだか倉庫って雰囲気じゃないわね、随分お金をかけているし。税金面とかで何かしら有利だったりするのかしら」
 巳様虹乃花がぽつりと呟く。無難な白いシャツと紺色のスカート、真紅のコートを羽織り、いつもよりカジュアルな服装だ。右手だけ白い手袋を嵌めているが、これは何か仕込んでいるのだろう。どうやら右手の動きで、網膜へ表示する映像を制御しているようだ。二人は見張りが居ないことを確認し、あっさりと門を乗り越える。監視カメラが設置されているが、そんなことお構い無しだ。
「カメラには絶対に映らないのですか? 相手はあなたのことを知っているのだろうし、気付かれる可能性があるのなら急ぎたいですが」
 人形が疑問を呈す。虹乃花から何かしらの手を打ったことを説明されたようだが、完全に信じてはいないようだ。いや、想定外を想定しているだけだろう。当然の疑問だった。
「大丈夫。ちゃんと機構は動作してるわ。まず平気。但し、あなたの大きさが半径2.5mを上回らなければ」
 虹乃花は中の様子を確認しつつ、倉庫の裏口を目指す。その足取りは全く迷いが無く、何の気負いも浮かんでいない。倉庫の横を少しだけ歩き、裏口に辿り着いた。カードキーによる施錠が行われていたが、虹乃花が右手をかざすだけで、あっさりと解錠される。
「なんでもアリですね」
 人形の言葉は無視される。中へ入ると、想定通り、全面が白い通路になっていた。扉は幾つもあるが中は見えず、大規模なデータセンターを連想させる作りで、持ち主の性格が現れていた。
「随分お金があるみたいだけど、なんだかロクな部屋が無さそう。少しは見たいけど、拷問部屋とかあったら嫌ね」
「……近いのはありますね。見えます、右の手前から3つ目の扉です。性質の悪い取り調べ室かも知れませんが。警備員はあなたもご存知の通り4名。あと色々ありそうですが、とりあえず黒です。あ、3階の黒の扉の向こう側は見えません。多分、何かしらおかしな力を使ってます」
 人形が伝える。彼の目には、扉などあって無いようなものだ。扉の向こうが見えないことなんて、虹乃花と一緒の時にしか起こらない。
「うーん、そうね。想定の範囲内だけど、まあまあ悪いわね。とりあえず接触するけど、交渉は難しいかもね」
 虹乃花が3階を目指し歩きながらぼやく。人形にも見えない扉の先には、多分ターゲットが居るのだろう。そしてそれは、相手が何かしら現実を超えた能力を持っていることを示していた。また、非合法な活動の形跡もあり、何をしてくるかもわからない。そして、目的の扉の前へ辿り着いた。
「私が開けるわね」
 虹乃花が右手でドアノブを握ると、あっさりと扉は開いた。
 中はまるで、一人暮らしの若者の部屋のようになっていて、隅のベッドに誰かが寝ていた。ベッドの横のデスクにはノートPCが置いてあり、横には数冊の専門書が重ねられている。小さなキッチンまであった。あまりのギャップに、人形が不審な顔をする。しかし虹乃花はまるで自分の部屋へ入るように、その一歩を踏み出した。すると、床は虹乃花が乗った途端割れてしまった。至って普通のフローリングに見えるのだが、感覚は薄いガラス張りのようだ。虹乃花はかろうじて踏みとどまり、差し出された人形の左手を掴んだ。そして感謝の言葉を述べようとしたところで、二人の足元の床が割れ、そのまま落下した。
「大丈夫、手を離さないで」
 人形が呟くと、虹乃花が軽く頷く。難しい表情で、先の展開を考えているようだ。
 4~5秒程落下しただろうか、やっと二人は着地した。まるで彼らはそこに突然現れたかのように、落下の衝撃は全く見えない。落下した先は、とても広い空間になっており、天井や壁が遠くにただ青白く見える。床には足首まで浸かる程度に液体が満ちていて、優しく青く輝いており、それが光源となっているようだ。
「ありがとう」
 そう言いつつ虹乃花は、右手を動かし、何やら空を眺めていた。網膜に浮かぶ映像から、何か情報を得ているのだろう。
「虹乃花さん。この部屋ですが、大体50mの立方体に近い形をしています。入口は天井に沢山ありますが、出口は横に2つだけです。片方は隠してあり、片方は高い位置にあります」
 人形が部屋の状況を説明する。虹乃花も視力はとても良いのだが、彼には遠く及ばない。
「ありがとう。ここは、死体置き場なのかもね。しかし気になるのは、我々を落とした際のトリガー。私が落ちそうになったところはわかるけど、人形くんはまだ部屋に入っていなかった。何かしらの意思が介入していそう。私達が落下して、死んだと思ってくれれば良いのだけれど。死体の振りをするにも、ここの水は冷たいし、趣味じゃないけど」
 虹乃花がその場を動かずに話す。波紋を起こすことを懸念しているのだろうか。
「でも動きましょうか。出口へ案内して貰えるかしら。隠している方が良いわね」
 人形が先を歩く。二人の歩みが波紋となって広がり、水面を揺らす。虹乃花は、人形の背中と波のパターンを眺めつつ、この状況に思考を巡らせていた。
「人形くん、今の内に一言言わせて。多分、この倉庫の持ち主は、我々を殺すつもりよ」
「同感です。少なくともなぶり殺しにすることを楽しんでいると、私には見えました」
 虹乃花が隠し扉を開く。窪みに手を当てると、扉は自動で開いた。中は長い直線の廊下になっていたが、横幅が1m弱しかなく歩き難い。壁も床も白く、無機質な印象。二人は虹乃花を先頭に廊下を進み、幾つかの扉を潜り、広い空間へ辿り着いた。
「多分、あの奥の部屋ね」
 虹乃花が黒い扉を指差す。そして扉の横へ歩み寄り、注意深く観察したり、壁を叩いたりしていた。しかし、何も不審な点は見付からなかったようで、ゆっくりと扉を開いた。すると中はまるで、一人暮らしの若者の部屋のようになっていて、隅のベッドに誰かが寝ていた。ベッドの横のデスクにはノートPCが置いてあり、横には数冊の専門書が重ねられている。小さなキッチンまであった。要するに、先程の部屋と同じ内装だった。
「入るわよ。さっきは確信持てなかったけど、多分知ってる人」
 そう言い放つと、虹乃花は一歩を踏み出した。しかし、今度は床が割れることは無く、その部屋は存在し続けた。虹乃花は、ベッドの横まで歩いて行く。
「起きて、遊びに来たわよ。リリス」
 虹乃花が寝ている人物に呼びかける。知り合いなのだろうか。声をかけられた人物は、まず金色の髪が目を引く女性だった。背は高く、170cmはあるだろうか。色が白く、まるで作り物の理想のような容姿だった。虹乃花が声をかけると、一瞬、部屋の電気が消える。そして次の瞬間、部屋が明るくなる。ただそれだけだったが、ベッドの中には誰も居なくなっていた。まるで、映画のシーンが切り替わるみたいに。
「おはようございます。虹乃花さん、200年振りくらいですかねえ」
 虹乃花と人形が、声の方へ振り向くと、彼女、九条リリス(きゅうじょう りりす)はそこに居た。壁にもたれかかりながら腕を組み、眠そうな声と瞳を虹乃花へ向ける。服装は、上下黄緑と白のストライプの寝間着姿だった。
「こんな格好でごめんなさあい。寝ていたものでして。思ったより早かったですねえ、わたしてっきり、あと2、3日かかるかなあと思っていたのですが」
 九条リリスは、突然の訪問にも慌てている様子は無かった。しかし、完全に想定していた訳でもないようで、軽めの探りを含みつつ返答する。
「ええ、夜遅くにごめんなさい。でも、確かめたかったの。少し込み入った話をしても良いかしら?」
「良いですよお、わたしも虹乃花さんと、久々にお話したかったですし」
 九条リリスがにっこりと笑った。まるで子どものように無邪気な笑顔だった。
「単刀直入に聞くけど、あなたの目的は? 私は、未来を見るためにここに来た」
 虹乃花が真っ直ぐな言葉を投げる。黒い瞳は相変わらず何も語らないが、それでも真剣さが現れていた。
「やだなあ、やめてくださいよー。目的だとか、理想だとか。そんな話は。虹乃花さん、相変わらずですねえ。楽に生きましょうよー。でも、なんでしょう。多分あなたとは、違うかなあって気がしてます」
 九条リリスがはぐらかす。少し楽しんでいるような表情だ。
「少し質問を変えるわ。何をする気なの? わざわざここまで来て。随分お金を集めて、色々努力しているみたいだし、非合法にも手を染めているようだけど」
「細かくは話しませんけど、世界はやっぱり滅びるべきだと思うのですよう。窮屈な世界はまっぴらです。真面目な虹乃花さんは、勿論反対されると思いますけど。ところで、そちらの方はどなたですかあ? ここは男子禁制ですよう」
 九条リリスは、あっさりとそう言い放った。人形が気不味そうな顔をする。
「彼は人形、私の仕事仲間。ところで、世界を滅ぼす下りは聞き逃さないわよ」
「あれ、やっぱりダメですかあ? わかってくれると思ったのになあ」
「あなたは全く変わってないわね、その性格」
「わたしはわたしですよう、でも、いずれ滅びる世界なのに、どうして未来が見たいのですかあ? 別に何にも変わらないのに。生まれていない人は、生まれなかった後悔なんてしませんよ? 楽しくないお喋りは苦手です」
 九条リリスが少し退屈そうな表情を浮かべる。虹乃花はただ黙って、彼女を見つめていた。
「なら、どうしてここへ? 我々の知っている世界なら、…………もう滅びかけてたけど」
「甘いですよお。あんなんじゃ手ぬるいし、全然足りてないんですってえ。それにわたしは、もっと丁寧に観察したかったですし、もっと主体的にそれを実現したかった。収束にも種類がある。だからあ、わざわざ特異点の前のここまで来たんですよう」
 九条リリスが吐き捨てる。視線は退屈そうに、窓の無い部屋で、ただ空を眺めている。
「大体わかったわ、何か作ろうとしているわけね。どうせ何かの呪いとか、魔術の類いよね? だから人を攫って、実験を行っている。相変わらずオカルトが好きねあなたは。確かに、この時代ならそれが可能、バレないわ。でもお金も必要で、こんな設備を準備する仕事も必要だった訳だ」
 その発言を受け、九条リリスが虹乃花の方を見る。明らかにさっきより楽しそうだ。
「さすが巳様虹乃花、やりますねえ。かなり近いです、30ポイント差し上げます」
「要らないわ。ところで、一応確認しとくけど、私の味方になる気は無い? 特異点は、多分あなたでも単独では掌握出来ないし、私と居たらきっと楽しいわよ」
「………………世界を創りたい虹乃花さんと、壊したいわたし。手を繋いで……仲良くだなんて無理ですよう。エラーチェックした方が良いのではあ? それにわたし達、敵対していた方がきっと面白いですよう」
「そうかしら、あなたはただ世界を壊したいと考えているとは思えない。壊したら、あなただって死ぬじゃない。あなたはただ、好き勝手したいのよ。あ、続けて良い?」
「続けてください、真面目なお話みたいですし」
「その欲求へ対して、開放する手段が無秩序な方向へ向かっているだけ。ただ壊すことは、確かに安易に刺激を得られるわ。でも、それはただ消費しているだけ、とも言えるわね」
「じゃあどうすれば良いのかなあ、ボランティアでも始めますかあ? 良いことをしたって、誰かに言って貰います? わたしは正直楽しくないですし、なんだか癪に触ってます」
「今はそれでも良い。世界にとって、実はそれは些細なことだから。でも、特異点へ対しては、慎重に行動しなければならない。その為に、その時だけも良いから、協力すべき」
「虹乃花さんの言いたいこと、伝わりました。でも駄目なんですよう、もう、遅いのです。わたし、これまでに他人を搾取し過ぎました。それに、わたしを信じている人だっています。もう、これを失ったら、わたしはわたしじゃない。世界が本当に壊せなくたって、もうやるしかないとさえ思う。そのためだったら、虹乃花さんだって、殺せます」
 九条リリスが、ブルーの瞳で虹乃花を見据える。表情は穏やかだが、まるで今にも割れてしまいそうな危うさがあった。
「……思ってたより責任感があるのね。私は殺されたくないから、帰ろうかしら」
「嘘じゃないですかあ、それ。仲間に誘ったのも、断ったら殺すつもりに聞こえましたあ」
 九条リリスがそう言ったが、巳様虹乃花は置かれた状況のあまりの変化に、ただ辺りを見回すことしか出来なかった。今の今まで屋内に居たはずなのだが、空には大きな満月が見えており、辺り一面赤い液体で 満たされており、スカートまで濡れてしまっていた。遠くには大きな木々が見える。九条リリスはと言うと、何も変わらず、寝間着のまま膝まで濡らしてただ立っていた。
「あれ、あなたこんなに器用だったかしら。今夜は満月ではないけれど、綺麗ね」
 虹乃花はそう言いながら懐から銀色の拳銃を取り出し、満月へ向かって発砲した。何かを確かめるつもりだろうか。銃弾はどこにも接触する様子は無く、夜空へ吸い込まれていった。
「これくらい一般教養です。虹乃花さんに通用するなら、誰でも殺せるかなあ。あのー、そこで提案なのですが、今日は本当に帰っていただけませんか? 殺し合いはまた今度で」
 九条リリスが赤い液体を両手で掬い、指の間からゆっくりと落ちる様子を眺めながらそう語りかける。虹乃花へ視線を送るが、その暗い瞳からは何も読み取れない。
「誤解しないで、ここに来るまで、実はあなたが居ると思ってなかったの。まあ、誰かを確認したかったのだけれど」
 そう言いつつ、虹乃花の右眼から、黒い涙が流れたように見えた。すると、また狭い部屋の中へ戻っていた。虹乃花の周囲の床だけ、暗闇を溢したように円形に黒く染まっている。半径1m程であったが、まるでそこだけ空間が切り取られたかのようだ。人形は何故か天井へ逆さに立っていて、二人の動向を静かに見守っている。九条リリスはただ穏やかに微笑んでいたが、その瞳はとても眠そうだ。
「やだなあ、冗談ですよう、冗談。虹乃花さんにはかなわないなあ」
「追いかけないでくださいね。可能であれば、このままお引き取りを」
 空条リリスが二人に背を向け、壁の方へ歩き出した。すると、そのまま壁に吸い込まれるように消える。
「虹乃花さん、追いかけますか?」
「そうね。不本意だけど、やるしかなさそう。少なくとも彼女はやる気だわ。余罪が結構あるのでしょうね、リスクを排除しなければ安心出来ないでしょう。裏切り者は人を信じられない……」
 二人が壁へ向かって動き出すタイミングで、突然床の全面に線が入る。いや、床だけではない、壁も、ベッドも、机にも線が入っていた。
「これは、まさかのまさかでしょうか」
「……多分、割れるのね」
 次の瞬間、部屋中の何もかもが、落とした硝子のグラスのように割れて飛散した。

8 赤
 巳様虹乃花と人形は、一辺が50m程度の大きな立方体の中に存在していた。天井や壁が遠くにただ青白く見える。床には足首まで浸かる程度に液体が満ちていて、優しく青く輝いている。二人は、その液体の上に座り込む形で濡れていた。
「死ぬかと思いました」
 そうぼやく人形の身体には、無数の赤い線が走り、どれもが致命傷になり得る深さであるように見えた。
「あなた、真っ向から耐えたのね。そっちの方が怖いわ」
 珍しく虹乃花が微笑む。彼女には全く外傷は無かったが、右の瞳だけ色がグレーに変わっていた。
「でも、捕まえた」
 虹乃花が右手を動かすそぶりを見せると、高い場所で扉の開く音がした。高さ20m程だろうか、入る方法のわからない場所にそれは存在していた。そこに、九条リリスの姿が見えた。かなり焦っている様子で、右手を抑えている。いや、右手にひきずられているようだ。何か言っているが、よく聞こえない。しばらく抵抗を見せたが、やがてその足は、踏み場を無くした。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああ」
 九条リリスが叫ぶ。興奮し、空中でもがく姿を、虹乃花はただ無表情に眺めていた。助けようとしたのだろうか。何かしようと立ち上がる人形を、虹乃花が左手で制す。すぐに九条リリスは床と接触し、大きな水しぶきが上がり、そしてすぐに静かになった。
「殺したのですか…………?」
「死ぬ訳無いわ、この程度で。多少大人しくなってくれれば良いけど」
 どの程度で? と人形は思ったが黙っていた。気付けば、九条リリスが立ち上がり、こちらへ歩み寄って来ている。足取りは重く、今にも倒れそうではあるが。虹乃花は素早く拳銃を取り出し、九条リリスへ向けた。
「リリス、止まりなさい。自分も死なない、あなたも殺さない。折り合いも付ける。私にとってそれはやれないことではないわ。無駄なエネルギーは使いたくない」
 九条リリスが、かろうじて笑顔を作り虹乃花を見据える。血で染まったシャツが痛々しい、まだ血も止まっていないようだ。足元の液体に血液が混じり、赤みを帯びてどこか美しく輝いていた。
「痛かったです」
 そう言いつつ、九条リリスは立ち止まり、自身の着ている寝間着のシャツのボタンに手をかけ、上から一つずつ外していく。半分程進んだところで、一つを乱雑に引き千切った。両手で小さなボタンを持ち、そして割る。その不可解な行動に、虹乃花が眼を細める。すると、九条リリスが視界から消えた。虹乃花が反射的にその場から素早く移動する、経験による動きだろう。
「後ろです!」
 人形の声と同じタイミングで振り向いた虹乃花の視線の先に、九条リリスは背を向けて立っていた。
「やるしかなさそうですねえ」
 リリスさんはこの手の戦闘に慣れているな、と人形はこの時感じていた。視界から消えて、探せばすぐ見付かる場所に居る。そして、背を向けることで、相手に一瞬想像させる。彼女は何をするのだろうと。そんな想像も、巳様虹乃花が相手では虚しいものなのだが。
「大丈夫? ボロボロじゃない、ちゃんと戦える?」
 虹乃花が銃を両手で構えたまま声をかける、九条リリスが振り向くまで待っているのだろうか。いや、次の瞬間には発砲していた。九条リリスの背中に血が滲み、そのまま倒れる。
「きっと銃弾もあなたの能力で割れるのよね。と、思って、先程より大口径のものを使用しました。大丈夫? まだやる?」
 水面を揺らしながら、巳様虹乃花が歩み寄る。九条リリスは、血まみれだが致命傷は負っておらず、ゆっくりと立ち上がる。困ったような表情で、相変わらず眠そうな瞳を虹乃花へ向ける。
「まだやりますう……」
 ここで人形は気付く、これは彼女達なりのコミュニケーションなのだと。巳様虹乃花はどこかの軍隊に所属した経験があって、リリスさんは後輩なのだろう。過剰な暴力に見えるが、彼女達には何てことはないのかも知れない。そして何となく楽しそうだと勝手に想像し、すぐに反省する。彼はいつもそうだった。それは懸命な判断で、彼の想像は大抵現実と乖離する。九条リリスは立ち上がったが、その場から動かなかった。いや、動けなかったのだろう。しかし、数秒間の沈黙の後、九条リリスが先に動いた。左手をポケットに入れ、右手は拳を握り胸元まで上げた。
「どちらに入ってるでしょうかあ?」
「何が?」
「あーそれ聞いちゃいますかねえ」
 九条リリスが左手をポケットから引き抜くと、白いハンカチが手の中にあった。そしてそれを右手の上へ被せる。しかし、その時既に虹乃花がハンカチを撃ち抜いていて、右手が透けて見えていた。
「どうしたの? 戦闘中よ、そうね、1ヶ月は入院して貰おうかしら。負けたなら仕方ないわよね。その間に私があなたの組織を調べて、それでおしまい。お互いまた無関係に戻れるわ」
 虹乃花が九条リリスの右足へ向かって発砲する。銃弾は九条リリスの能力により空中で砕けるが、分散したエネルギーはまともに受けることになった。
「虹乃花さん、相変わらず武闘派ですねえ。だから彼氏が行方不明になるんですよう。わたしもう本気でやります」
 九条リリスが悪態を吐きつつ、右手の小指に指輪をはめる。アームはシルバー、ストーンは透明感のある青い指輪だ。先程の素振りはこの指輪が目的だったのだろう。
「人形くん。あの指輪、多分危ないわ。身を隠して。もしかしたら、洗脳能力があったりするかも。私は訓練しているから平気だけど、あなたに効くかはわからない。今から10分は観測も間接的なものに控えて」
「わかりました」
「虹乃花さん、違いますよお。この指輪は、お守りです。幸運が巡って来るんですよう。わたしが作りました。アナスタシアって言うんですよ」
 九条リリスが笑顔になった。流血も止まっており、先程より自信に溢れている。そして虹乃花へ向かって右手を突き出し、手のひらを向ける。虹乃花が指輪を狙って発砲するが、銃弾は割れる。ここまでは想定通りだが、今後は破片がまるで九条リリスを嫌がるように避けて飛んで行く。九条リリスが無傷のままでにっこり笑う。
「虹乃花さん。守ってみせてください」
 その時、空から何かが降ってきた。虹乃花が真っ先にそれが何かに気付いた。そして、落下地点を見定めると、まるで飛ぶように走った。全くの無表情ではあるが、彼女なりに不安であったのだろう。落下物を見定め、それを受け止めた。落下物は、人形だった。意識が無く、身体は冷たかった。彼がこんな短時間でやられてしまう訳が無いのだが、それでも無視は出来ない。虹乃花が九条リリスを睨むと、九条リリスはまた笑った。次の瞬間。人形が爆発した。青い光と衝撃が辺りを包んだ。九条リリスはその場に立ったままで、爆風を浴びながら青い光を笑顔で眺めていた。爆破の衝撃は部屋の全体に広がり、床が割れ、水が抜ける。非常事態を検知したのか、天井が赤く光る。一人の人間をターゲットとするには、明らかに過剰な量の爆薬だった。
「綺麗……」
「同感。出来れば恋人と見たかった」
 九条リリスが驚いて振り向こうとすると、首筋にナイフが見え、それは叶わなかった。そして背後に、巳様虹乃花が立っていた。
「あなた、今のはちょっと卑怯だったわね。少し血を抜いた方が良いんじゃないかしら」
「ええー、虹乃花さん。今の完璧にやったと思うじゃないですかあ普通。ずるいですよう」
 九条リリスが頬を膨らます。ナイフが首筋に軽く触れる。
「馬鹿」
 虹乃花が九条リリスを突き飛ばした。背中を押され倒れ込む九条リリスの手足には、線が走り、血が滲んでいる。まるで模様のように線が走り、単なる外傷よりも別の何かを目的としているようだ。
「水が抜けてて良かったわね。呼吸が出来て」
 虹乃花が自由を失い転がる九条リリスを見下ろす。その表情には全く油断は見られない。
「私は帰るわ。また今度会いましょう、ひとまずあなたのことはもう調査しません。もう少し特異点について情報が集まったら、共有するわ。我々の活動で変化があるだろうから。その時、必要であれば協力しましょうよ。きっと上手く行くわ」
 虹乃花が振り向き、出口を探す。2~3秒考えると、壁へ向かって歩き出した。その時、上の方で声がする。
「リリス様っ、大丈夫ですか!」
 声の主は、高さ20mに存在する高い方の出口から、二人を見下ろしそう言った。そして、あっさりと飛び降りた。大きな黒い袋を丁寧に持ち、両手で抱えていた。数秒後、全く音も無く、着地する。着地の衝撃で揺れたのは長い銀髪だけで、黒いボーラーハットと丸いサングラスは微動だにしない。背は低めで、150cmあるかないかだろう、10代の少女だった。
「あら、月下ちゃん。こんばんは。ちょっとお邪魔してるわね」
 虹乃花が作り笑いを浮かべながら挨拶する。しかし、その声は無視され、彼女、二色空木月下は九条リリスのもとへ走る。九条リリスがあまり力の入らない四肢をなんとか動かし、二色空木月下の方を向く。
「月下、あなたの警備が突破されたことは気にしないで。彼女は化物だから。ところでその袋はあ、お土産かしら?」
「リリス様、お怪我をされてますね。あまり動かないでください。巳様虹乃花、邪魔するなら排除するわ」
「待って、月下ちゃん。やるつもりならもうやってるわ。まあ、話を聞いて頂戴よ」
「黙れ」
 二色空木月下が吐き捨てる。その声とは裏腹に、九条リリスへ触れる手つきは丁寧で、優しさを含んでいた。致命傷ではないことを確認し、少し表情に安堵が交じる。
「ありがとう、月下。相変わらず可愛いし、仕事も出来る」
「いえいえ、実はご報告が」
「そちらの荷物はあ? なんだか、人間でも入ってそうだけど」
「人間です。まだ生きています。先程侵入者二名を確認したため、捉えました。もう一名は取り逃しました。申し訳ございません」
「ありがとう、じゃあ、また警備に戻って貰えるかしら」
 九条リリスと二色空木月下が会話している間に、巳様虹乃花は既に地下を脱出していた。廊下を走り、3階の窓から建物を脱出し、人形と示し合わせていた緊急時の合流地点へ向かう。その時、人形は一人で地下へ降り立っていた。彼は巳様虹乃花の知らない情報を掴んでおり、彼なりの判断の上だった。人形が部屋に入っても、九条リリスと二色空木月下は気付かない。人形は静かに彼女達の後ろへ周り、大きな黒い袋を持ち上げ、また歩き出した。意識を失っていてくれて良かったな、と人形は考えていた。
「リリス様、あれどうしましょう」
「月下! 動かないで! 聞いて、侵入者さん。姿を現さなければ、巳様虹乃花を襲いまあす……なんて」
 九条リリスが見えない侵入者の方を向く。その言葉に、人形は一瞬考えたが、観念して姿を現した。そして、九条リリスの方を向き、黒い袋を破く。
「すみませんねお嬢さん。この方は知り合いなんです。ここは、見なかったことにしていただけないでしょうか?」
「……ああ、あなたね。帰っていいわよお、男性とはあまり戦いたくないの」
「なるほど、中の方の照会は可能という事ですか。見た目も目立ちますしね、ですが、横のお嬢さんはやるつもりに見えます」
 黒い袋の中には、巡音奏(めぐるね かなで)が入っていた。意識は無いようだが、穏やかな表情だった。虹乃花へ仕事を依頼したことがあり、人形も見知っていた。整った顔立ちに、紺色の髪がよく似合い、服装も虹乃花よりずっとお洒落に見えたが、人形に今はそれを意識出来る余裕は無かった。
「リリス様。ここは私にお任せを」
「言いたかったのねえ、そのセリフ。わかりました、どうぞ。でも決して、殺してはいけないわ。そしてあなたも死なないで」
 九条リリスが出口へ向かう、この状況は自身が有利だとは認識してはいるが、組織のトップとしての責務を意識していた。人形が携帯端末を取り出すが、取り出した側から携帯端末が砕けており、気不味そうな顔をする。
「待って下さい。リリスさん。決定権を持つあなたが居なければ、収集が付かなくなるかも知れません。報復合戦はしたくない」
「それはないわ、だってあなたは……」 九条リリスが、二色空木月下の言葉を遮る。
「わたしもそうですう。…………では、その冷静なあなたに2つお願いがあるの、聞いてくださりません? 1つ目は悪いこと……少し彼女と遊んで貰えるかしら。あなたなら出来るでしょう? そして2つめは、良いこと。虹乃花さんに伝えてえ、特異点は55日後。5月5日の日曜日、全てはそこから始まるわ。わたしはもう寝かせて貰うわねえ、明日は月曜日ですし、あなたも早く寝て頂戴ね。では、おやすみなさあい」
「わかりました」 人形があっさりと受け入れる。
「リリス様……」
 九条リリスが軽く伸びをしてから、ゆっくりと扉を開く。彼女の姿が扉の向こうへ消えるのを確認すると、部屋の中の二人は向き合った。
「ここはとても広いですよね、何に使う部屋なのですか?」
「教える必要は無い。我々は敵対関係にある」
「そうですか、残念です。真面目なんですね、虹乃花さんやリリスさんだったら、『今夜のあなたの寝室よ』とか、言ってくださりそうなのに」
「殺し合いもコミュニケーションだって話なら、同感。だがあなたは、私を侮っている。そんなあなたも、弱い私も許せない。しかし、やってみなければわからない。全ての物事は、これから決定されるのだから」
「うむ、かかってきなさい」
 人形の言葉を聞くが早いか、二色空木月下が行動を開始する。二人の距離は約12m、周囲に遮蔽物は無いが、床が割れており、足場は悪い。赤色の照明は薄暗いが、月明かりよりは明るいだろう。二色空木月下は、ライフルを取り出し発砲する。そして撃った瞬間には、ライフルを後方へ投げ捨てている。次に、横へ回避した人形へ向かって、白色で5cm程度の箱のような物体を投げた。手榴弾の類だろうか。人形はそれを確認したが回避せず、真っ直ぐ距離を詰める。二色空木月下は、振りかぶった後の体勢のまま、しまったという顔をした。既に目の前へ迫っていた人形が、右足で飛び蹴りを見舞う。それは素人に近い動きだったが、極めて速かった。二色空木月下は両手でかろうじて防いだが、そのまま吹き飛ばされる。しかし、倒れはしなかった。
「素晴らしい動きですね」
 二色空木月下が体勢を立て直す前に、人形が既に間合いを詰めている。右手で二色空木月下の服を掴み、左手で腹部を殴打する。相手が少女であろうと、全く油断や手加減は見られなかった。二色空木月下の口から、息が苦しそうに漏れる。だが、かろうじて蹴りで反撃する。人形は掴んでいた手を離し、咄嗟に足払いを見舞う。二色空木月下の肉体が回転し、宙を舞う。致命的な隙。次の1、2秒で勝負は決するかに思えたが、二色空木月下が何かに引っ張られるように、突然空中で素早く移動した。その先には、先程投げた箱があり、その手前に着地した。
「なるほど、そういう風に使うのですか。さっきの隙は誘いだったと。やりますねえ、ところで、あなたはナイフが得意と聞いています。立っている内に見せていただきたいのですが」
「…………」
 二色空木月下がナイフを取り出す、今度は人形が誘った形だ。ナイフは刃渡り15cm程で、サバイバルナイフのような形をしていたが、一部に美しい女神の彫刻が刻まれていた。右手でナイフを構える姿に、人形は思わず見惚れる。少しずつ間合いを詰める二色空木月下を、少しずつ下がりながらあしらう。ナイフを受け止めるか迷っているのだろうか。その迷いを見逃す程、彼女は甘くなかった。急に素早く距離を詰め、人形の左足を踏んだ。そして、何故か飛び退きつつ、ナイフを人形の首筋へ滑らせた。人形の首筋に線が走り、血が噴き出す。しかし、首筋の動脈を切られたにしては、出血量が極端に少なく見えた。
「若いのにリスクをよく考えていて偉いですね。毒を塗っているのは、あまり感心しませんが。己の成長を妨げる。今のだって、毒が無ければもう少し踏み込む必要があった」
「そう。戦力分析は終わった? だがあなたはそれだけで首を切られている」
「どうぞご心配なく、そろそろあっさり勝たせて貰います」
 人形が足元に落ちている床の欠片を、二色空木月下へ向け蹴飛ばす。だが彼女はそれを躱しもせず、人形の動きだけを見ていた。こんなコンクリートの欠片が当たったところで、さしたるダメージは無いからだ。だが、それでも尚、人形は二色空木月下の視界から消えた。そして次の瞬間には、二色空木月下は背後から右手を捕まれ、背中へ捻り上げられていた。強い力で握られ、ナイフを落としてしまう。首には人形の腕が絡み、確実に彼女の意識を奪おうとしていた。
「力を抜いて。大丈夫。怖くない、安心して。何も傷付きはしない、約束する。怖くない」
 人形がよくわからない言葉を投げかける。二色空木月下が一瞬泣きそうな顔する。しかし、自由な左手で、左足に仕込んだナイフを掴むと、人形の脇腹へ突き刺す。しかし、それでも人形の腕は彼女を離さなかった。そして二色空木月下は、ナイフを握ったまま意識を失った。人形は、人形のように静かになった少女を開放すると、床へ寝かせる。そしてわざわざ投げ捨てたライフルを拾い、丁寧に少女の横へ置いた。人形は二色空木月下に勝利した。静かになった地下室で、立っているのは彼だけだった。そして、ふと、この少女を目茶苦茶にして、心まで壊してしまったらこの先面白いのではないか、という考えが人形の頭に浮かぶ。しかし、浮かんだだけだった。彼は巳様虹乃花の考える未来を信じていたし、彼女に嫌われたくなかった。
「何の毒か聞けば良かったですね」
 人形は疲れ傷付いた身体をなんとか動かし、巡音奏を背負い、地下から脱出した。遠くに九条リリスがこちらを伺う様子が見えたが、何も見なかったことにした。

9 金魚は蛇の餌
「悪かったわ、虹乃花。足手まといになってしまって」
 巳様虹乃花の事務所で、隣人愛(りんじんあい)が謝罪する。落ち着いた雰囲気で、とてもこの業界の人間には見えない。身長は平均より少し低いくらいだろうか。髪色ははっきりとした深い茶色で、瞳は明るい茶色だった。シンプルなストライプのワンピースに、紺色のカーディガンを羽織っていた。
「まあ、過ぎたことよ。あなたが私の仲間であってくれたことが嬉しいわ。でも、奏さんを巻き込んだのは肯定出来ない」
 巳様虹乃花が返答する。右眼はもう黒さを取り戻しており、まるで彼女の感情までを閉じ込めているようだ。何故か黒い修道服を着ていたが、誰もそれを指摘しない。ベールが不思議と似合っていた。
「大変ご迷惑おかけしました。申し訳ございませんでした。ですが、私は自分の意思で行ったのです。愛さんは責めないでください!」
「…………はい……大体察したわ。もう話さなくても大丈夫よ……」
 巡音奏が意見する。巳様虹乃花の中では、数々の不満が渦巻いていたが、単にそれを口にすることはしない。不確定要素は幾らでもあり、物事は常に曖昧だと理解しているからだ。必要であれば行動するが、今は先を見るべきだ、と考えていた。
「ところで、特異点とは何なのでしょう? 虹乃花さん。そもそも、リリスさんとは何者なのでしょう? 今回の件、僕はそれなりに活躍したと思うので、教えていただく権利はあるかと」
 人形が話を変える。彼は壁にもたれかかり、立ったままだった。
「確かに、あなたが居なければ、こんなに上手く行かなかった。リリスが今日攻めてこないのも、多分、あなたのおかげ。そうね……聞くと責任が発生するけど、ここに居るメンバーには話しておきたいわ」
 巳様虹乃花が立ち上がり、カーテンを閉める。ノートPCを持ち、自分のデスクから、応接用のソファーへ移動する。ノートPCをテーブルへ置くと、何かを探すように歩き出した。そして、キャスター付きのホワイトボードを押して来て、ソファーの横へ置いた。
「では、始めさせていただきますね。手短に話したいけど、それでも7~80分はかかると思う」
 そう言うと、ホワイトボードをペンでなぞる。虹乃花がペンを置くと、"目的"、"行動"、"対価"、"未来"、と書かれていた。
「シスター、始める前に一つ質問しても良いですか?」
 人形の発言は無視されるが、虹乃花の表情が少し緩む。そこで4人は、お互いの認識を共有し、以前よりも無関係ではなくなった。

エピローグ

 わからないことばかりだ。イレギュラー達に関わったばかりに、近頃は危ない橋を渡ってばかり。特異点とかいう、滅茶苦茶なイベントについて知れたことは、情報屋として冥利に尽きるし、誰も嫌いにもなれないが。長生きしたければ引いた方がいいのだろう。大国の意思を無視して、個人レベルで未来に干渉するだなんて危険過ぎる。それでも、あの黒い魔女がやられてしまうとも思えないけど。隣人愛は、一人自分の部屋で悩んでいた。一匹狼の彼女は、毎日同じ場所で眠ることはせず、複数のマンションを借りては、気紛れにそれを使用していた。今日は、巳様虹乃花の事務所の近くの部屋だ。安物のソファーに腰掛け、赤ワインを飲んでいた。赤ワインは、まるで赤さが自分の中まで浸透するみたいで、なんだか安心する。表情は少し眠そうで、ゆったりとした時間を過ごしてはいるが、靴は履いたままで、ソファーの隙間には拳銃も隠していた。彼女にとっては当たり前の習慣。テーブルの上のノートPCには、複数の監視カメラの映像が表示されている。
「こんな仕事辞めて、結婚でもしちゃおうかしら」
 自分で言っておいて、なんだか笑いそうになる。普通に学校へ行って、普通に仕事して……。そんな生活があることは知っていても、体験したことは無かったからだ。しかし、彼女はとびきり賢かったし、気付けば認識を操作出来る能力を持っていた。そのおかげで、生活には困らず、情報だけを売ることでここまで生きることが出来ている。情報を集め、捌く内に巳様虹乃花や人形のような、世の中の多数派とは異なる生き方をする人にも出会えた。いや、人形は人かどうかすら怪しいけど……。この出会いが、自分にとって本当に幸せかどうかはわからない。それでも、この選択が今考えられる最善であるし、後悔もしない。誰しもそうであるように、彼女は幸せになりたいと願っていたし、未来を信じていたからだ。

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