その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

宮地正人 『歴史のなかの新撰組』 (岩波現代文庫,2017)

2018-01-31 08:00:00 | 


 図書館の新刊棚に置いてあったので、何気なく借りてみたら、期待以上に面白く、この一週間の通勤電車が随分充実した。

 2004年に単行本として発刊されたものを、その後の研究成果も織り交ぜながら、文庫本として改訂されたもの。小説、漫画、時代劇として取りあげられる物語としての「新撰組」から、史料を基にして歴史学としての「新撰組」について歴史的位置づけを解明しようとしたものである。

 「新撰組」は小説で幾つか読んでいて、物語として面白いし、ユニークな人材集まりなので好きなトピックなのだが、その歴史的意義についてはしょせん幕末の混乱期に咲いたあだ花的なもので、有象無象のテロリスト集団というのが私のイメージだった。だが、この本書を読んでより客観的に「新撰組」分かった気になった。

 幕末の政治情勢が「勤王」対「佐幕」ではなく、正常期の幕藩体制への復帰を望む「将軍譜代結合」・幕府を排除し朝廷と諸大名との直接結合を狙う「外様諸藩の政治集団」・孝明天皇と幕府との結合に活路を見出そうとする「一会桑」の三者の複雑な政治闘争であったこと。近藤勇の確固として明確な政治的見解と立場が、新撰組の長期的存続に大きな役割を果たしたことなど、私には新しい視点で興味深かった。

 たかだか150年前の出来事ではあるが、史料により「事件」の記述は大きく異なり、歴史家は事実との「風聞」「でっちあげ・自慢話」などの違いを見極める必要がある。また、地域の地道な史料の収集や編纂の重要性など、歴史学の面白さも垣間見れる。

 学術書ではないが真面目な歴史書なので、固くなってもおかしくない内容だが、意外にすいすいとページが進んだのは、筆者の筆力のおかげだろう。脚注や人名索引もついており、しっかりした一冊となっている。

〈目次〉
序章 問題の所在
第一章 幕末の政治過程をどう見るか
第二章 一会桑政権と近藤勇
第三章 有志集団としての浪士組・新選組
第四章 八月一八日事件以前の壬生浪士組の特徴
第五章 新選組の性格の多重化
第六章 超法規的武装集団化
第七章 他の諸集団との対立・抗争
第八章 「死さざれば脱退するを得ず」
第九章 組織矛盾とその展開
第一〇章 史実と虚構の区別と判別
第一一章 新選組研究の史料論
終章 結論
補章 その後の新撰組研究

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