その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

田中周紀 『会社はいつ道を踏み外すのか 経済事件10の深層』 (新潮新書、2016)

2017-01-28 08:00:00 | 


 ベテランの経済記者が昨今の10の経済事件を振り返り、解説した本。タイトルに魅かれて手に取ったが、私の期待であった「失敗事例から、会社が道を踏み外さないための教訓を学ぶ」という内容ではなく、むしろシンプルな事件簿であった。

 それでも、純粋に事件記録として面白く読める。バブル時代のハチャメチャな会社の財テクぶりや企業が裏社会に絶妙に取り込まれていく様など、今の世の常識では考えられないようなことが起こっている。許永中による石橋産業の詐欺事件などは、そのスケールやプロセスはあまりにも常識離れしており、こんなことが現実にありうるのかと驚きを禁じ得ない。一方で、この手の悪は世の中からなくなるとも思えず、姿、形は変われど、今の世も別の新たな呪縛や裏の手口が進行しているであろうことが予想され、怖さも感じる。

 後半の2つの章は、東京地検特捜部の「国策捜査」の非道ぶりを糾弾する内容。「国策捜査」については、以前、元外務省の佐藤優氏の手記を読んで知っていたが、権限は行使するが、責任を問われない国家権力の怖さが分かる。

 限られたページの中で10の事件を扱うということで、事件の紹介が中心で分析・考察は簡単にとどまるのが残念だが、巻末には参考文献もついているので、気になる事件はそちらを参考にすればよい。



目次
はじめに――経済事件は決して他人ごとではない

1、東芝「不正経理」問題(2015年)
歴代3社長はなぜ「チャレンジ」を求め続けたのか?

2、山一證券「飛ばし」事件(1997年)
老舗証券を破綻させた「エリート」の資質とは何か?

3、オリンパス巨額「粉飾決算」事件(2012年)
巨額損失は如何にして20年間も隠蔽され続けたのか?

4、NHK記者「インサイダー取引」問題(2008年)
NHK記者に良心の呵責は存在していなかったのか?

5、第一勧業銀行と大手証券4社「総会屋利益供与」事件(1997年)
大銀行はなぜ気鋭の総会屋に絡め取られたのか?

6、石橋産業「手形詐欺」事件(2000年)
稀代の詐欺師許永中の“人たらし"の手口とは?

7、早稲田大学・マネーゲーム愛好会の「相場操縦」事件(2009年)
仕手筋顔負けの早大生は如何にして転落したのか?

8、ニューハーフ美容家「脱税」事件(2010年)
ニューハーフ美容家は誰にカネを渡したかったのか?

9、クレディ・スイス証券元部長「脱税(無罪)」事件(2009年)
単なる勘違いの申告漏れがなぜ脱税に問われたのか?

10、ライブドア「粉飾決算」&村上ファンド「インサイダー取引」事件(2006年)
誰が無敵のホリエモンを潰したかったのか?

おわりに

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