売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

『幻影2 荒原の墓標』第23回

2014-06-20 19:57:05 | 小説
 車の冷房、ひょっとしたらコンプレッサではなく、リードという部品を変えれば直るかもしれないといわれ、期待して部品を取り寄せてもらいましたが、やはりだめでした。安い中古のコンプレッサが見つかるといいですが。
 まもなく新刊が出るので、わたしの本のチラシを作り直し、今日近所で300枚以上巻きました。
  クリックすると、チラシが拡大します。

 団地ではなく、一般の宅地なので、時間がかかります。
 終わった後、近くのスーパーにガリガリ君の梨があったので、買いました。
 私はガリガリ君は梨が一番好きです。
 

 今回は『幻影2 荒原の墓標』第23回です。

            
            

 大岩は警察にマークされたことを武内に報告した。自宅の固定電話や携帯電話は使わず、自宅から離れた公衆電話から連絡した。警察に見張られていることを警戒し、プッシュしたボタンが外からわからないよう、ボタンを身体で覆い隠した。大岩自身、他人がプッシュしたボタンを高倍率ズームのビデオカメラで撮影し、どこに電話をしたかを調べた経験がある。警察はそこまでしないだろうが、用心に越したことはない。
「おまえにしては、ドジを踏んだもんだな」
 受話器の向こうで、武内が非難した。
「すまん。警察も北村と接触する人物に目をつけていたようだ。その可能性も考えるべきだった」
 大岩は自分のうかつさを悔やんだ。
「まさか、俺たちのことは感づかれとらんだろうな」
「ああ、大丈夫だ。警察は俺のことを次の犠牲者候補として、警護してくれるようだ。ある意味、俺も安心だが。これでもけっこう殺人予告には怯えているんでな。見張られているので、当分は何もできんがな」
「しかし定職もなく、ぶらぶらしとっては、怪しまれるだろう? まさか詐欺カンパニーの事務所に出勤するわけにもいかんし。あそこを警察に目をつけられるのは、まずいがや」
 武内が不安そうに言った。
「俺は容疑者ではないので、あまりうるさくは訊問されなかったがな。仕事のことは、命が狙われているのが不安で、ここしばらくは仕事も手につかん、あんな小説を書きやがって、北村に損害賠償をしてもらいたいぐらいだ、と言っておいた。とにかく、北村を悪者にして、俺は善意の被害者を装っておいたが」
 大岩は武内の不安を拭い去ろうとした。ここはともかくあまり動かず、じっとしているほうがいいかもしれない。
「しかし、北村がなぜ俺たちの名前を織り込んだ作品を書いたんか? 北村の作品を利用して誰かがたまたま同じ名前の者を殺している、としか思われないが、それにしても俺たちのグループの名前が出ているのがわからん。ここまで一致していては、絶対偶然は考えられん。警察はもちろん、書いた北村本人も首をかしげているそうだ。前は秋田の線かと思っとったが、やはり詐欺に遭い、自殺したやつの家族などが復讐している、というのが最も考えられるな。それに北村も一枚噛んでいる。ということは、北村も俺たちの正体を知っているということになる」
 大岩は自分の推測を話した。
「それなら、北村は危険だな。ちょっと痛めつけて、バックに誰かいるのか、吐かせたろうか?」
 武内は北村を拉致することを提案した。
「だめだ。やつにも警察の監視がついている。それに、あいつもこの事件に噛んでいるのなら、俺たちのことはサツには話さんだろう。それから、おまえに頼みだが、もう俺たちの出来町(できまち)のアジトは、引き払ったほうがいい。俺はサツに目をつけられ、動けんで、あそこを始末してくれんか? 俺たちが残した書類等はすべて廃棄し、あの部屋のものは処分しといてくれ。書類はシュレッダーにかけて、絶対に再生できんようにしといてくれんか」
 学生時代、左翼運動に関わったことがある大岩は“アジト”という言葉を使った。
「ああ、わかった。そうするほうがいいようだな。その件は任せろ。証拠になるようなものは、すべて破棄する。指紋なども、きれいに拭き取っておくよ。もう俺とおまえの二人になってまったんだし、事務所はいらんからな」
 武内も事務所を残しておくことに不安を覚え、処理をすることを約束した。
「世話かけてすまん。頼んだぞ。それじゃあ、テレカの残り度数ももう少なくなったんで、そろそろ切るぞ。携帯にかけると、テレカの度数がどんどん減ってしまう」
 そう言って大岩は電話を切り、電話ボックスから出た。しばらくすると、後ろから、 「大岩さん、どこに電話してたんですか? 自宅にも電話があるし、携帯も持っているのに、わざわざ公衆電話で電話されるとは」 と問われた。振り向くと柳が立っていた。
「友達だよ。急に用事を思い出したんだが、あいにく携帯を忘れてね。俺は被疑者じゃないんだから、プライバシーは守ってもらいたいね」
 大岩は声が聞こえる範囲には誰もいないことを確認しながら小声で武内と話していたので、先ほどの会話が聞かれたとは思わなかった。
「ええ。善良な市民のプライバシーまで踏み込むつもりはありません。ただ、立て続けに殺人事件が起きているので、しっかり警護をしなければと思いましてね」
「事件は今まで、深夜にしか起こっとらんのだろう? 昼間からあまり付きまとわらんでくれ」
「それは申し訳ありませんでした。以後、気をつけます。しかし、昼は絶対安全だとも言い切れませんから」
 柳は謝った。しかし、柳は大岩を胡散臭いと思っている。北村弘樹の作品に名前が挙がった四人は、ひょっとしたら何かの犯罪グループに関係あるのかもしれない。だから大岩を善良な市民とは考えていない。
 捜査本部では、今回の一連の事件は、詐欺グループの被害に遭った人が、復讐しているのではないかという意見が多数派になりつつある。詐欺グループに生活資金のほとんどをだまし取られ、自殺したお年寄りもいるので、その家族、もしくは関係者の復讐だというのだ。
復讐者は大岩たちの犯罪を知っているのなら、なぜ警察に知らせてくれないのだろうか。個人的な復讐で人を殺すことは、犯罪でしかない。
 北村弘樹もそれに絡んでおり、犯人グループに恐怖感を与えるために、あえて殺人予告を行った、という意見も出ている。
 北村は詐欺グループに恨みを持つ者から示唆をされ、それが復讐に使われると知らずに、あるいは事情を知った上で自分の作品に名前を使ったのかもしれない。それが最も合理的な解釈だ。山下和男、佐藤義男両殺人事件の捜査本部は緊密に連絡を取り合い、改めて北村弘樹に事情を聞くことになった。

 鳥居と三浦は、北村弘樹のアパートを訪れた。まだ捜査本部は正式に合同していないが、二つの捜査本部が協力し合うこととなり、鳥居と三浦のコンビが復活した。
「やあ、刑事さん、また何かご用ですか?」
 三人はすでに顔なじみになっている。
「突然恐縮だが、いろいろな状況がわかってきたんで、また話を聞きたいと思ってな。今は仕事中かな?」
 鳥居が北村に尋ねた。
「いや、僕は最近すっかり夜型になって、執筆は夕方から始めます。今はぼんやりしている時間帯ですから、何なりとどうぞ。言ってみれば、今は瞑想タイムみたいなものです」
「それじゃあ、玄関先で立ち話も何だで、ちょっと邪魔するぞ。センセもここで警察と立ち話しとるとこを近所に見られては、世間体もわるいだろうしな」
「散らかってますが、どうぞ、お入りください」
 北村は仕事場に二人の刑事を招き入れた。机の上には、原稿執筆用の省スペース型パソコンが置いてあった。液晶モニターは27インチの大型のものが使用されている。外出のときには、小型のノートパソコンで原稿を打っている。データはUSBメモリーに入れて持ち運んでいる。
仕事場には、こぢんまりとした応接セットもある。散らかっていると言いながら、部屋は意外と片付いている。地元の新聞社の担当がときどき打ち合わせに来るので、部屋はそれなりに整頓してある。北村は東京の出版社のほかに、地元のブロック紙にも作品を連載している。
「コーヒーを淹れますから、しばらくお待ちください。いちおうインスタントではなく、粉からドリッパーで抽出しますので」
「あまり気を遣わないでください」
 三浦が遠慮すると、 「いや、僕が飲みたいんですよ。昼間はどうも頭がぼんやりしてるので、カフェインの刺激が欲しいのです」 と言って、コーヒーを淹れ始めた。
 北村は応接セットのテーブルに、コーヒーカップを三つ置いた。そして、ドリップ式コーヒーメーカーで淹れたコーヒーを注(つ)いだ。三人はまずコーヒーをいただいた。
 美奈のように、あらかじめカップを温めておくというような配慮は北村にはなく、味も美奈が淹れたコーヒーに比べれば、大味な感じがした。それでもインスタントのものよりはうまかった。
 北村はたばこを吸っていいかを尋ねた。鳥居と三浦は喫煙しない。鳥居は妻と娘がたばこを嫌うので、喫煙をやめた。
「最近、ちょっと被害者(ぎやーしや)のことがわかってな。それでいろいろ訊きたいんだがや」 と鳥居が切り出した。
「最初の犠牲者の徳山久美と、二人目の山下和男は、どうやら詐欺グループのメンバーだったようだ。佐藤義男については、まだわからんが、たぶん同じグループに属しとったと思われる」
「被害者(ひがいしゃ)は詐欺グループだったんですか?」
 北村は驚いて尋ねた。
「そうです。そして、大岩康之もその一員と思われます。大岩は先生を監視していました。そこを職務質問し、事情を訊きましたが、現時点では大岩が詐欺グループの一員だったかどうかの確証は得られていません」
 今度は三浦が応えた。
「大岩が現れたのですか。僕を見張っていたのですね。全然気がつきませんでした」
「それで先生にとってはちょっと都合が悪いことになったんです。捜査本部では、先生が詐欺の被害者と組んで、詐欺グループの殺害に協力していたのではないか、と推測する者が出てきたのです。先生の作品に詐欺グループの名前を出したのは、彼らに復讐するため、恐怖感を与えるためだという」
「そ、そんな馬鹿な。僕はそんなことは全然知らない。あり得ない。彼らが詐欺グループだったことも知らないし、圧力を加えるために作品を利用して殺人予告を行ったこともありません」
 思いもかけない三浦の話を聞いて、北村はうろたえた。
「おみゃーさん、ちょっと立場がまずくなってまったがや。捜査本部では、その意見が大勢を占めとるんでな。確かにセンセはアリバイがあり、コロシには直接関わってはおらんがな」
「そ、そんなことを言われても……。ぼ、僕は何も知らないんだ。何もやっていない。そんな犯罪の片棒を担ぐなんてことは、いっさいしてません。警察も、僕の無実は認めてくれたはずですよ」
 北村はソファーから立ち上がり、後ずさった。
「以前は先生と犠牲者たちとの間に、何もつながりを認めることができなかったので、先生をシロとみていましたが、犠牲者が詐欺を働いていたという状況が明るみとなり、警察としても、事態を見直さざるを得なくなってきたのですよ。本来なら、先生には署まで任意出頭をしてもらい、事情聴取させてもらわなければならないんです」
 三浦は事態が深刻であることを説明した。
「そんな馬鹿な。さっきも言いましたが、本当に僕は何もしていないんだ。作品だって、誰かに相談したことはない。完全に自分自身の創作なんです。登場人物の名前も」
 北村は取り乱して、強い口調で言った。
「まあ、そう興奮しやーすな。ほかのやつらはともかく、俺とトシは、おみゃーさんの無実を信じとるでな」
 鳥居が北村をなだめた。
「本当ですか? 信じてもらえるんですか?」
「ええ。ただ、先生の立場が厳しいことは確かです。捜査本部では、ほとんどの者が先生は加害者と関係があると睨んでいます。予知能力がある超能力者でなければ、三件もの殺人事件を的中できるはずありませんからね」
「そこなんですよ。書いた僕自身、不思議でしょうがないんです。自分でも予知能力があるとは、思ってないし。占いだって、よく知りません」
「そこで、警察としてこんなことを言うのはおかしなことですが、この事件は心霊現象が絡んでいると僕個人としては考えているんです。もちろん科学警察がこんなことを認めているわけではなく、あくまでも僕一個人としての考えなんですけどね」
 三浦は警察の一員としては、事件に霊が絡んでいるということは考えたくなかった。しかし、北村が犯行とは無関係なら、北村は超能力者としか考えられない。警察が超能力など信じるわけにはいかなかった。
 捜査本部では、これまでも北村弘樹は、殺人実行犯ではないが、犯人と何らかの関連を持っているという意見が根強かった。だが、北村のアリバイは完璧だし、いくら捜査しても、被害者とは何の関連も見いだせなかった。それに徳山久美の事件は、もう犯人が捕まっている。犯人の山岡は北村とは全く面識がないし、作品を読んだこともないと証言している。それで捜査本部は、北村を灰色だと認識しながらも、事件との関連の確証を持てなかった。
 ところが、連続殺人の被害者たちのうち、徳山と佐藤が詐欺グループとしてのつながりがあるということが判明し、殺人予告された四人はそのグループのメンバーではないかと疑われるようになった。彼らの犯行の被害者も何人か見つかった。中には自殺者も出ている。それで、北村は詐欺の被害者と何らかのつながりがあり、復讐に荷担しているのではないか、という意見が大勢を占めるようになった。
 鳥居も三浦もそう考えていた。しかし美奈から、今回の連続殺人事件には、強い怨念を持った霊が関与しているという情報がもたらされた。捜査本部としては、取るに足らない話だ。それでも橋本千尋と繁藤安志の事件で、今は美奈の守護霊となっている千尋からの霊界通信で事件を解決したという事実があった。鳥居も三浦も、そのことは否定できなかった。
「それで、変なことを伺いますが、先生は最近、何か不思議な体験をしたことがありませんか?」
 三浦は美奈から、北村が南木曽岳で不思議な声を聞いたことを聞いていた。それがすべての始まりではないかと美奈は推測した。
 美奈はオアシスの客のことを外で話すことは決してしないが、北村のことだけは、事件と関係がありそうなので、三浦に話していた。
「そうですね。そういえば、去年の一〇月の末でしたかね。南木曽岳で不思議な声を聞きました。実を言うと、その頃の僕は、作家として行き詰まって、自殺しようとしていたんですよ。南木曽岳中腹の深い森林の中で、夜中に睡眠薬を飲んで自殺しようとしていたところ、『死ぬな』という声が聞こえてきたんです。聞こえた、というより、頭に響いたというか。それで僕はもう一度やり直す気になり、寒い夜を何とかしのいで、翌朝下山しました。そのあと自費出版した作品が、昔のなじみの評論家に評価され、再デビューとなったんですが」
 その作品が『鳳凰殺人事件』だ。その中で徳山久美という登場人物が殺されている。そのモデルは美奈だった。登場人物が背中に鳳凰のタトゥーを背負っているということも、実際に起こった事件と一致していた。
「その本は、ひょっとしたら、そのとき僕に声をかけた悪霊が書かせたのかもしれません。そのあとに出した『荒原の墓標』も。悪霊は僕を利用するために、死なせたくなかったのでしょうか? 本が売れたのは、僕の実力ではなく、悪霊のなせる業(わざ)だったのかもしれません」
「いや、そんなことはない。その悪霊は、センセを利用はしたが、本が売れたのは、おみゃーさんの実力だがや。だいたい幽霊がベストセラーなんか、書けるわけないがや。ゴーストライターなんていうけどな。捜査本部としては、おみゃーさんをマークしとって、厳しい状況だが、俺とトシはおみゃーさんを信じとるでな。負けとってかんぞ。悪霊が絡んどるといっても、事件を起こしたのは人間だで、きっと犯人を捕まえて、おみゃーの無実を証明したるでな」
 鳥居が落ち込んだ北村を勇気づけた。北村は、むっつりした威圧的な外見に似合わぬ鳥居の優しさに触れ、改めて感激した。
「ただ、いくら僕たちが先生を信じているといっても、厳しい状況には変わりありません。警察には霊に操られたといっても、通用しませんから。今は確たる証拠がないから、逮捕しないでいるだけです。先生には監視がつきますが、決して逃げようなどと思わないでください。そんなことをすれば、即逮捕の口実となりますから。我々が真犯人を見つけるまでは、自重してください」
「わかりました。刑事さんたちを信じ、早まった行動を慎むようにします。だけど、いくら犯罪を犯した人は普通の人間だとはいえ、悪霊がらみの事件に警察は対処できるのですか?」
 北村は不安そうに疑問を口にした。
「そのへんは心強い神霊関係の顧問がいますから。もちろん警察で正式に認めているわけではありませんけどね。最近もその顧問の活躍で、二つの事件を解決しています」
 三浦は冗談っぽく笑いながら応えた。刑事たちはその後しばらく北村と事件関係の話をした。もちろん北村は事件のことに関しては、全く知らないの一点張りだった。秋田宏明とも全く面識がないとのことだ。
 三浦にしても、もし北村が言っていることが本当ならば、いくら北村をマークしたところで、無駄でしかないと思っている。それより、人間サイドの犯人が必ずいるはずなので、そちらのほうの捜査を進めなければならない。山下和男事件の小幡署、佐藤義男事件の篠木署共に、交友関係の調査、現場の聞き込みや残留物の調査、そして捜査二課と協力して詐欺事件の調査など、鋭意捜査を続けている。
 山下和男の件は、事件発生時の豪雨で、目撃者も見つからず、証拠物件などが洗い流されてしまい、捜査も行き詰まったかの感がある。しかし必ず犯人を捕まえてやると三浦は改めて決意した。北村の無実を証明するには、それ以外にないであろう。
 鳥居が別れ際に、余計な疑惑を招かないためにも、居所をはっきりさせておくよう、釘を刺した。北村は明日、明後日は盆だから、墓参りで実家に行くと答えた。実家は名東区にあるとのことだ。
「そういえば、巷(ちまた)ではもう盆休みだな。早いもんだ。俺たちには盆も正月もあってないようなもんだがや」
 鳥居が事件でばたばたしているうちに、もうそんな時季になってしまったのかと、感慨深げに呟いた。


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