水の門

背景をながれるもの。ことば。音楽。スピリット。

『薔薇窓』より

2016-12-28 14:21:37 | 本に寄せて
葛原妙子の歌集『薔薇窓』を読了。目に留まった歌を引いておきます。


・ゆだやびと花の模様をもたざりきその裔にして生(あ)れしきりすと
・キリスト敎徒ならざる吾が告解(こくかい)といふをおもへりそは密室の懺悔なり
・芥子群(むら)は花首曲りて戰ぎたり惡魔は痩せをりとおもへる時に
・點滴の土を穿てる無數なり濡れたる樹々は⾭夜身慄ふ
・中世の畫人描きしフレスコに⾭鷺のごとき聖女禱りき

・ミケランジェロ彫りたるヴィンコリ聖堂のモーセとおもふ御顏(みかほ)を拜す
・削ぎおとす毛髪は石の床に落つめぐりはだらとなりし白晝
・美容院のうしろに廻り女の剪毛を蒐むるなりはひありき
・人々の罪淺からず佛壇のうちら黄金に燦きし家
・にくしみのうちなるこゑは徹りたれ若き害意のなべてを讚へん

・窶(やつ)れたる人の生活(くらし)を覗きしが冒せるごとくわれは立ち去る
・癌の轉移礫(れき)のごとしも總身に脈絡なせる若きしかばね
・癌細胞冒し得ざりしは毛髪と長き眸の水晶體
・尖塔雲刺す寺院に薔薇窓の高く盲ひし刻(とき)を痛みつ
・寺院シャルトルの薔薇窓をみて死にたきはこころ虔しきためにはあらず

・伽藍の内暗黑にして薔薇形の彩の大窓浮きあがりたり
・黄金の杖(じやう)もつ司敎のみちびけるふはふはと白き少年の列
・罪科犇き燦然たらむ内陣の奥深きところ蠟を燃えしめ
・茨より變身せしかの聖者息絕えしかしら右に垂れたり
・燃えてゐる二本の蠟の閒(あひ)にくる手弱薄女(たをやうすらめ)テレーズ・デケイルウ

・雪烟を巻ける岩山よこたはる巨人アダムの骨にあらじか
・愛されず 人を愛さず 夕凍みの硝子に未踏の遠雪野みゆ
・對話なき者は狂はむ積雪を割りて流るる黑き川見ゆ
・氷翼を負ひたる嬰兒雪(せつ)天使ゆめなるあをき眸瞬かず
・懲罰のごとく雪積み閉ぢゐたり氷の壺となりしみづうみ

・寒き椅子離るる深き外套に「緋の硏究」つつみもてるも
・ふりさけてゆふ水をみる うち絕えて泣かざるわれにみなぎらふ水
・山蟻の引きゆく破れ蝶々にサタンの色の綠混りゐき
・肉焙る火の嵐聽こえ 夜の雨聽こえ 厨に人は居ざるも
・秋の夜の白き手袋外科醫わが家人(いへびと)手指(しゆし)を勞はるなれば

・病棟に人の死にたるゆふべにてあまねき平和ゆきわたりたり
・刑務所の後庭に咲きし秋の薔薇、秋の鮮紅を刷りしマガジン
・石壁に直射の陽あるときしも窪める窓なべて盲ひつ
・空かけて石積む牢獄(ひとや)やや傾き寫されし 石理(いしめ)あきらかにして
・いづこにかガラスを挽ける 薄き日の中より聽こえ現實(うつつ)なりしか

・淡黄のめうがの花をひぐれ摘むねがはくは神の指にありたき
・汝實る勿れ、とキリスト命じたる無花果の實は厨に影する
・死の道にあゆみ入りたるキリストは赤き外套を剥がれたまへり
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