水の門

背景をながれるもの。ことば。音楽。スピリット。

『山谷集』より

2016-08-30 05:59:37 | 本に寄せて
土屋文明の歌集『山谷集』を読了。目に留まった歌を引いておきます。


父の罪に警察に引かれ偽証せし幼き夜の記憶は打ち消しがたし

墾道に土負ふみれば若きものも苦しみ負ひてをののき歩む

道の上に人とかたれば手づくりを吾に売らむと持ち出して来(き)ぬ

心ひそかに思ひはやりし日もすぎて吾が生(よ)静かにきまるにやあらむ
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『高志』より

2016-08-29 16:14:13 | 本に寄せて
木俣修の歌集『高志(こし)』を読了。目に留まった歌を引いておきます。


・悲しみて聖書(バイブル)を読むと少年は口もとかそかに笑ひて言ひぬ
・訓戒(さと)されし少年のひとりは扉(ドア)開けて室(へや)を去るとき啜り泣きにき
・少年はをさなき悩み言ひ継ぎて眩(まぼ)しかるらし灯に目叩(またた)けり
・少年の懺悔聴きゐる夕の窻(まど)をしづかにうちて春雪(しゆんせつ)降りぬ
・懺悔して心(うら)やすからし少年の両(もろ)の瞳のいろ落付きぬ *ママ

・眼を病みて秋夜しづかに坐(ま)す君の眼鏡に映り灯のいろ寒し
・眼を病みしみ言(こと)すくなき師のみ前白菊の花の灯にぞ冴えたる
・毛の帽の下にかがやく瞳(め)を見ればこの夜発ち征く兵うらわかし
・告げたかること多からむ下心(した)堪へて笑ひ征きしか老いづく兵は
・わが君が視力乏しく坐(ま)す昼の春雨の空にほふ玉蘭(はくれん)

・塹の夜をひとりが擦りし煙草火にいくたりの兵の顔か照りたる
・傷兵は眼帯しろく昼を寝て青葉嵐をしづかに聴きゐつ
・楽の音に何を想ふやこの兵の生きたる隻眼に涙たまれり
・戦ひに盲(し)ひたる兵はたどたどと習ひゐにしか指に点字を
・とどろ墜ちし敵機の余燼あかあかと映ゆる地平を想ひつつ熱し

・襤褸服の(ぼろふく)の俘虜が廃墟に逐ひこまるる一瞬を写し画面は断(き)れぬ
・冬薔薇の咲くショーウインドの前過ぎてほぐれくるひとつの記憶がありぬ
・ほしいままなる学童の絵か翼(よく)燃えて墜ちてゆく機を無数に描きたり
・北欧の学生軍はクリスマスの鐘鳴る街をいそぎけむかも
・病む父の湯たんぽいくつかへ終へぬ雪夜(せつや)しらしらと明くるころほひ

・父の煙管(きせる)にたばこつめつつ夜半を吹かす寂(しづ)かなるかもこの悲しみは
・鉢植ゑの白梅咲きぬこの朝は目見(まみ)浄(きよ)らにも父は瞻(も)ります
・廚にて鼠啼くなりいま捨てしパンの屑などに早やも寄るらし
・遺児たちが神なる父に会ひし記事は涙とめどなくて早や読みがたし
・老すでに眼に来りしと友言ひてや羞しむがごと眼鏡かけたり

・画面にてひとりの俘虜がまたたきぬ鍋のごときを片手に提げたり
・絶間なく草生(くさふ)よりたつ蚊柱は夕ひかり暑き路面になだる
・画面にていま祈れるは戦ひに敗れむとする国の聖処女
・小休止に入りたる兵が崖に寄りて手紙書くさまも映画は見しむ
・所在なさのいよよさぶしも番茶召してまた睡りつがす父に添ひつつ

・とめどなき父のねむりや今日もまた百舌鳥のこゑ寒き夕(ゆふべ)となりぬ
・両(もろ)の御眼(みめ)かそけく父は笑ませども常にしかはるみ呼吸(いき)なるはや
・眼のくぼにありありと死の影揺れて早やすべもなく冷えゆかす父は
・白鬚に微動すら絶えしこのうつつまさしく父は逝きまししなり
・滅びの音(おと)すでにしづまれる火葬炉の扉(と)に対ひつつたどきを知らず

・声を呑み額伏す前にあらはれて父の御骨(みこつ)は息づくごとし
・父の舎利あはれにいまだぬくしとぞ骨箱は兄と互(かた)みに抱きぬ
・亡き父の手沢(しゆたく)の書冊積み上げて浄き机や霜夜の灯(ともしび)
・亡き父の手まはりのものが影ひきておだしき室に今朝も眼ざめつ
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元気そうじゃん!と言いながら。

2016-08-28 03:44:07 | 人(またはその作品)に寄せて
わが句載る お茶のボトルを
ダンベルのように振る君と
雑談少し
(とど)

2012年10月14日 作歌、2016年8月28日 改作。
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いい気分転換。

2016-08-26 20:11:56 | 風景にあわせて
五分おきに 時計を見やる 昼下がり
患者図書室 開くを待ちて
(とど)

2012年4月22日 作歌。
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『明る妙』より

2016-08-25 14:51:15 | 本に寄せて
尾山篤二郎の歌集『明る妙(たへ)』を読了。目に留まった歌を引いておきます。


あはたゞしく路のかたへにかける落葉樹(おちばぎ)は空にあり祈りをあげぬ

われらなにの罪をばになひ生(あ)れ来しぞひとしほほそりすばりけるかな

聖(たふと)き、受胎のひかり玉のごとしひとみつぶらに生きよ嘆きそ

わが嘆きふかきにありて青のうを水錆(みさび)のくまにめしひけるかな

つやゝかに松葉牡丹の照るところおのが乳汁をしぼるわが妻

フリジヤのあはれに白き花ゆゑに乳ばしる乳房さすりたるかも
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