→ from Takydromus tachydromoides:01
・顎 jaws:
頭蓋骨(cranial skeleton)と言えば、
脳ミソを護る不動のカプセル、という見方が一般的だが、
実は大多数の脊椎動物において頭蓋は関節を持った、可動式の複合骨格要素だ。
むしろ哺乳類ほど各骨が完全に固定されて自由度が少ないのは珍しい。
だから骨格標本にしやすいんだけどさ…。
ハトの項で見たのと同じ様に、トカゲ類も顎を動かすことができる。
有鱗類(Lepidosauria)の頭部キネシス(cranial kinesis)はFrazzetta(1962)により記載されている。
frontal-parietal
maxilla-jugal
squamosal-quadrate
quadrate-下顎
の4箇所が主に関節になっており、顎を開くと上顎の先端が持ち上がって口が僅かに大きく開く。
重要なのが口を閉じるとき。
例えば二枚の板を単に1つの関節で繋げ、ボールを持とうとしてもうまく掴めない。
上下顎の閉じる力がボールに対して斜めにかかるため、ベクトルが複合されてボールに外に転がる力となって働くからだ。
この構造にもう1つ関節を追加すると、ボールに対して上下から垂直に力をかけることができるようになる。
これにより効率的な捕食が可能となる。
トカゲ類(こいつはアガマか)が捕食する様はこちらの動画↓ …ってこれじゃ分かんないか(汗)。
Slow motion lizard eating 1
ヘビ類などの顎も、原理的にはこれと同様のものの派生。
・"第三の眼"
トカゲには属に"第三の眼"などと呼ばれる頭頂眼(parietal eye)がある。
ある、というよりは"残っている"と言った方がよいかどうかは未だ分からない。
本来は脊椎動物全般に渡って頭頂に1対の光受容機関が存在していたという説も有名だが、
現在そんな動物はどこにもおらず、本当のところは謎といったところである。
多くの動物では、相同物としてここに松果体(pineal body)がある。
ヤツメウナギから鳥からヒトまで、ほぼみんなここに松果体。
トカゲでは、1対の構造
(デカルトは"松果体はヒトの脳の中で唯一無対の構造体"と勘違いして「魂のありか」と呼んだが、実際は1対になっている)
のうち、片方のみが松果体になって、もう一方は頭頂眼になっている。
水晶体、硝子体、視細胞に視神経まであるのだから驚きだ。
頭頂眼は頭頂骨(parietal)の頭頂孔(parietal foramen)の下にあり、表皮を局所的に半透明の鱗が覆う。
おそらく光を感じているのだろう、とはされてきたが、具体的な機能はあまり分かっていない。
体温調節に働いている、との研究報告はある。
って、松果体にしてもほとんど正体不明なのだが…
メラトニンなどの分泌により概日リズム(circadian rhythm)の調節などに関わっているらしいと最近分かってきたが、
思春期にめっちゃ縮小したり、人によっちゃ石灰化したり…。
謎なんである。
羊膜類(Amniote)の中で、ついつい比較的祖先的な特徴を保持していると考えられがちなトカゲ類だが、
今回いざ観察してみると、考えていた以上に派生的な特徴が多く、正直驚きだった。
頭蓋も複雑だしね。
突き詰めると、面白いことがあるかもしれんなぁ…。
<weblog内-関連記事LINKS:>
・specimens: その他の収蔵標本。
・vertebrata:01・02 脊椎動物。
・reptile evolutions:complex and processive "爬虫類"の系統。
・Oryzias latipes:01 メダカの透明標本。
・gecko:skelett トッケイヤモリ全身骨格
・to-ka-g : 山で見かけた、尻尾チョン切れニホントカゲ。
・spectacle! 山で見かけた、ニホントカゲのイシノミ捕食シーン。
・dinosaur expo 2009:01 - 05 『恐竜2009 砂漠の奇跡』
・Futabasaurus suzukii: フタバスズキリュウ。
・avian digit: 鳥の指パラドックス。
References:
・Cranial Kinesis in Lepidosaurs: Skulls in Motion
Keith Metzger Topics in Functional and Ecological Vertebrate Morphology, pp. 15-46. (2002)
・『Functional Anatomy of Vertebrates: An Evolutionary Perspective 3rd. edition』 (Hardcover)
Warren F. Walker :著/編, Karel F. Liem :編 (Brooks/Cole Pub Co, 2000)
・『The Vertebrate Body』 (Hardcover)
Alfred Sherwood Romer, Thomas S. Parsons :著 (W.B.Saunders, 1977)
・『Studies on the Structure & Development of Vertebrates』(Hardcover)
Edwin S. Goodrich :著 (Macmillan and co., limited, 1930)
・『爬虫類の進化』
疋田 努 :著, (東京大学出版会, 2002)
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