Carry on!! ~旅のお供に音楽を~

アラカン過ぎてクラシックやオペラの旅が何よりの楽しみです。旅先で街の人たちと音楽談義をしたり、暮らすように旅したいです。

私のオペラノート69

2017年09月21日 | オペラ

            《演奏会形式の『オテロ』を観に行く》

 例によってオペラノートに取り掛かれない事態が起きて、2週間も経ってからのノートづくりとなってしまいました。    4月に新国立劇場で上演された『オテロ』に引き続き、エミーリア役の清水華澄さんが出演されることと、少しご縁のあるオーケストラメンバーがオケピに入るということで、急きょチケットを探したところ貴重な席を譲ってくださる方が見つかり、1年半ぶりのバッティストーニの指揮ぶりとともに、デズデモーナ役のエレーナ・モシュクの前評判とともに気分は高まりつつオーチャードホールへと足取り軽く向かったのでした。といいつつも、実はオーチャードホールでのオペラはリヨン歌劇場の『ホフマン物語』以来ということで、音響はどうだったかなどの心配がよぎりましたが、それよりもバッティストーニの迫力ある指揮ぶりで、前回観た『オテロ』とどう違って聴くことが出来るのか、そのことがすごく楽しみでワクワクしながらその時を待ったのでした。

         ☆2017年9月10日(日) 開演15:00 オーチャードホール

         ☆ヴェルディ 『オテロ』(演奏会形式)

         ☆出演 オテロ:フランチェスコ・アニーレ

             デズデモーナ:エレーナ・モシュク

             イアーゴ:イヴァン・インヴェラルディ

             ロドヴィーゴ:ジョン・ハオ

             カッシオ:高橋 達也

             エミーリア:清水 華澄

             ロデリーゴ:与儀 巧

         ☆指揮&演出 アンドレア・バッティストーニ

         ☆映像演出 ライゾマティクスリサーチ

         ☆演奏 東京フィルハーモニー交響楽団

         ☆合唱 新国立劇場合唱団 世田谷ジュニア合唱団

         ☆オペラ難易度 C (黒田恭一さんの著書によるもの)

 

          

                              当日配られた無料のプログラムです。音楽評論家・加藤浩子さんの作品解説と

          バッティストーニの特別寄稿文も寄せられている充実した内容となっています。

 

 同じ年に同じオペラを観ることはほとんどなかった私にとっては、まだ新国立でのパフォーマンスが頭の隅には残っていましたので、ついそれと比べてしまうところがありましたが、何より演奏会形式というのは音楽と歌がストレートに入ってきてわかりやすいのであまり字幕をチラ見しなくても結構楽しめるものです。ましてや今回の指揮者はヴェルディの申し子みたいなバッティ様ですから・・・最初の一音からドーンときました。まさにネーメ・ヤルヴィも真っ青のインパクトありの出だしでした。いきなりオテロの世界がオーチャードホールいっぱいに広がる感じです。そして「あ、これ知ってる!」というアリアがほとんどないこのオペラではじめのわくわくは、そう『喜びの炎よ(焚火の合唱?)』という合唱です。音楽的解説が満足にできない私は、得意分野の合唱にだけは敏感に反応します。人数が少ない時でもきちんとまとまって動き出すのが新国立合唱団の実力です。印象的なメロディはあの『トロヴァトーレ』の『鍛冶屋の歌(炎は燃えて)』ほど有名ではありませんが特徴的な音で耳に入ってきます。万歳、万歳とだんだん高まってきて、きくものを物語に引き込んで行く合唱の組み入れ方をしたヴェルディ、はやっぱりすごい人なんですね。で、その音楽力に応えられる新国立の合唱団はやはり世界一ではと思ってしまうのでした。

 ところが私の気持ちの高まりに水を差す出来事がありました。それは今回の『オテロ』の売り物?の一つと言われていた『ライゾマティクスリサーチ』という、いわばプロジェクションマッピング?のようなものでした。やたら賑やかな投影が稲妻のように舞台に降り注ぎ、私は上を向いていられなくなりました。(目に悪いし…気持ち悪くなりそうだし・・・)はっきり言って私はこのライゾマとやらの演出は必要ないのではと思いました。のちに、バッティストーニ自ら演出に手を加えたりしたそうですが、さすがにこのライゾマティクスリサーチを全部消滅させることは出来なかったようで、ところどころ音に集中できなかったのはこのせいだとはっきり言うことが出来ます。ああ、勿体ないことでした。https://www.youtube.com/watch?v=LwYdk2BshZo(プロモーション動画です。コピペしてご覧あれ

 そして、肝心の歌手たちですがオテロ役のアニーレが大不調。舞台に割と近い歌声やバッティの指揮や知っているオーケストラのメンバーが見える特上の席なので、余計に荒れた声はごまかしようがありません。8日の方はまだましだったようですが、新国立のオテロの方が安定感ありましたので、コスチュームを付けていない分を差し引いても、オテロの哀れさよりもアニーレの残念さの方が気になって仕方がありませんでした。

 それを補って余りあるというよりもはや今回の『オテロ』でさすがの歌唱を聴かせてくれたのが、エレーナ・モシュクでした。彼女のコンサート、と言っていいぐらい最初から最後まで抜群の歌唱力と表現力、そして小柄な体でも存在感の大きさはさすが世界で活躍するだけのことがあると大満足の歌声でした。特に、涙なしでは聴けなかった『柳の歌』とそのあとの『アヴェ・マリア』には共演されていた清水 華澄さんでさえもらい泣きしながら舞台からはけてしまった、というぐらいの歌唱でしたので、これだけでも「苦手な渋谷に来て良かったー!!」と誰かれ構わず言いたくなるほどの感動を覚えたのでした。どうして今まで『アヴェ・マリア』に気づかなかったのでしょう。CDの全曲盤でもさらっと流してしまっていたのです。でも、今回はFBの記事で加藤浩子さんがリハーサルでのモシュクの『アヴェ・マリア』の動画を紹介してくれたことで、そのアリアの素晴らしさ、モシュクのドレスリハーサルから気を抜かない歌手であることを知ることが出来ました。おそらく、モシュクの日本でのリサイタルでも歌われたのではないかと思うと、そのコンサートにも行って見たかったと未練がましく思ったぐらいです。

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=1602552643100561&id=194937737195399 (モシュクのオフィシャルサイトに投稿されたものを加藤先生がUPしてくださいました。いつか削除されるかもしれませんが、バッティの美しいヴェルディワールドに引き込む力とモシュクの最後まで途切れずに紡ぎだされる悲哀の想いを聴いてみてほしいです)

           

           『ルイザ・ミラー』以来の歌声でした


 あとはひいきのエミーリア役、清水 華澄さんも忘れてはなりません。今回はとにかく女性陣が抜群の歌唱だったと思います。新国立劇場公演に引き続きの役どころですが、演奏会形式では私が座っている方に向いて歌っていますので(というか、歌手の方はみな観客の方を向いて歌うことが多いわけですので)その表情も声もききてのところによく届き、優しさあふれる情感のこもった歌唱に満たされたのでした。ひょうきんでチャーミングな印象の歌手ですが、役の幅がとても広くとにかく芸達者な方だと思います。私は今回もエミーリアの出番が少ないことをヴェルディさんに苦情を言いたいところですが、『トロヴァトーレ』でのアズッチェーナ役の時と違った声の表情を聴かせてくれたこと、一音一音大事に歌われる姿に胸が熱くなる私でした。とにかく今回は女性陣の勝利としかいいようがありません!!

           

           現在はもっとスリムでお綺麗です

 もうひとりの、というか陰の主役はイアーゴですが、イヴァン・インヴェラルディという歌手は体つきからしてイアーゴというよりファルスタッフのような、コミカルな表情が得意な歌手だったので、悪(ワル)な役どころには合わないような気がしました。声のトーンもファルスタッフにしか見えなくて、悪であってこそ、そこが『オテロ』というオペラの肝、と素人めの私でも思ったのですから、オペラの達人や先輩方からも同様なご感想が聞けたのは、あながち的外れな感想ではなかったのだと、変なところで感心したのでした。このイアーゴに対しても指揮者のバッティストーニからちょっとした演出のアドバイスがあったとのことですから、歌手の不調をかなりリカバリーできる俊敏な観察力のある、やはり魅力的な指揮者なのですね。ですから、そのバッティの指揮を再び目の当たりにできたのですから、結果的には良い公演だったと思いました。バッティストーニの指揮する後ろ姿もかなり絵になります。でも、カーテンコールでは珍しく映像演出の例のライゾマ・・・に対しては「ぶぅ~っ!!」が聞こえましたけどね。ま、私もつい同調してしまいそうでした。すみません。

 この公演と同時期にかの超人気テノール、カウフマンがROHでオテロ役に臨んで大成功を収めたとのニュースが流れ、それを映画館でビューイングできるとのことでしたが、見逃してしまいました。これからカウフマンの当たり役になるかも、とのことですので、DVD化されるといいなと期待しているところです。そして出来ればこれから『オテロ』を観る機会のある方にぜひ加藤浩子さんの”作品解説”を読んでいただきたいと強く思いました。新国立劇場でのプログラムにも作品ノートを寄せられています。やはり、的確で詳細な解説を事前に読んでこそのせっかくのオペラなのだと思いますから。

☆オペラのことはやはりこの方に、音楽評論家・加藤浩子さんのブログはこちら

http://plaza.rakuten.co.jp/casahiroko/ 

 

☆オペラの愛にあふれる草間文彦さんのブログはこちら http://provenzailmar.blog18.fc2.com/

 

                               

 

 

 


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