紅烏のにわにわブログ ~カラスが為に急所に当たる~

移転しました。→http://beni-sou.hatenablog.com

【短編小説】俺とヤミカラス

2017-04-27 07:25:49 | ポケモン
※このおはなしはあっしの妄想から生み出されたポケットモンスターを元にした二次創作です。それらの関係者や団体とは一切関係はございません









俺はアローラ地方、メレメレ島でポケモンのどうぐビジネス関係の仕事に就いている。俺は出身こそジョウトだが、仕事の都合で(俺自身が行ってみたかったのもあったが)ここアローラ地方の支社で上司に小言を言われながらもバリバリ働いている(つもりだ)。

俺は小さな頃からポケモンが好きで、特に気に入ってるのは「あく」タイプに分類されるポケモンである。しかし何をどうもって世のポケモン博士達はポケモンのタイプを分類しているのか、俺はよく知らない。ポケモンスクールもミドルスクールで卒業し、その後就職したので珍しいポケモンなんかはその姿名前さえも見たことはない。


仕事から帰ったある日のこと。最近はアローラと言っても冬。夜風も涼しく感じられた頃、家の前に、黒いポケモンが1匹倒れていた。

「おいおい…」

思わず嫌悪感を抱いたが、それはすぐに好奇心へと変わった。倒れているそのポケモンの黒い体、帽子の様なトサカ、小さな翼、黄色いクチバシを見た時、昔習ったポケモンにこんなやつがいたことを、思い出した。
…名前は確か……ヤミカラスだったか。
朧気な記憶だが、こいつはポケモンスクールの授業で習った気がするし、俺の住んでいたジョウトでも見たことがある。
あく、ひこうタイプのヤミカラス。俺の好きなあくタイプに分類されるポケモンだ。
いま思うと俺は会社に入ってから、ポケモンを捕まえる余裕が無かった。だから家に帰っても真っ暗で、待ってくれる妻はおろかニャースやポッポすらいない。
俺は抵抗しないヤミカラスを無意識に抱え上げ家に運び、消費期限ギリギリと思われるキズぐすりで治療した。ポケモンスクールにいた頃でもポケモンの治療は得意で、あの頃の記憶が呼び起こされた。
本来ポケモンを家に連れ込む時はモンスターボールを使わなくてはならないが、まあ治療のときぐらいどうってことないだろう。
脚を怪我していたヤミカラスは治療してやるとすぐに立ち上がり、その傷が深いものでないことを教えてくれた。

この際だ、ひとつ久々にポケモンを捕まえてみるか。
俺は戸棚の奥に閉まっておいた貴重品の「ダークボール」を取り出し、ヤミカラスに向かって、下投げでボールを投げた。
狭い散らかった部屋の中で、光に包まれ、ボールに吸い込まれていくヤミカラス。ボールが揺れる。
するとこいつは案外素直に、モンスターボールに入ってくれた。
子供の頃捕まえようとしたニューラなんかは全く捕まらず、半泣きになったものだが、傷を治したことで恩でも感じたのだろうか。俺は数十年ぶりに、ポケモンゲットの感覚を味わった。

それからヤミカラスは俺の久々の「手持ち」になった。朝起きれば親しげに鳴いてくれるし、そこらの店で買ったポケマメをあげれば美味そうに啄く。留守番を任せられるほど頑強でもないので、毎日会社に連れていき、昼休みにボールから出して可愛がっている。
そんな俺の姿を見るのはポケモンを何匹も連れているアローラ支社に移って以来の同僚も初めて見た様で、非常に驚いていた。

「お前、ポケモンなんか捕まえるような奴だったのか?」
「悪いか?」
「いや、悪くはないが…意外だったもんでさ。」

普段から、そういうポケモンを捕まえて愛でるような性格だと思われていなかったのだろう。様々な人に驚かれた。まあ、俺もその驚いた内の1人ではあるのだが。


ヤミカラスと出会い、数ヶ月が経った。俺は仕事で、隣島のポニ島へ出張することになった。1週間ほどあちらに泊まり、村などを回って、取引先との商談や、調査などをするらしい。妻子を持ってない俺が率先してやるべきだと思い、自ら立候補した。
勿論ヤミカラスも連れていく。やはりこいつにも新たなる世界を見せてやりたい、そう思ったからだ(大袈裟な気もするが)。

俺はポニ島に着き、様々な調査をした。アマカジが野原を群れる陽気も、ブビィも汗ばむほどの熱気になる季節である。潮香る海風も迫りくる夏を感じさせ、ホエルコの鳴き声もあちこちで聞こえる。

俺は予定より少々早く仕事を片付け、残すは明日の出張最終日で取引先と幾らかの確認を残すだけだ。
ポニ島の気候は俺にあってるのか、思いの外、仕事が捗った。ポニ島ならではの海の幸も堪能し、半分休暇の様な気持ちで、メレメレとはまた違ったアローラを楽しんだ。

しかし、少し気になることもある。

この島に来てからというものの、何となくヤミカラスがそわそわしている気がする。いつもと少し、違う気がする。


夕方、俺はヤミカラスと共にポニ島を散歩して回ることにした。
海に沈む橙色の夕日が、ポニ島の豊富な自然と、その昔栄えていたであろう何かの文明の遺跡を照らしている。
太古の昔はここに、栄えた民族とそのパートナーのポケモンもいたのだろうか…。

そう感傷に耽っていた所に、俺は、何者かの複数の鋭い視線を感じた。
視線の元を振り返るが、そこには草むらが広がるばかり。
足元にいるヤミカラスに目を向けたが…怯えている。感じていた俺の、このいつもと違う感覚は間違っていなかったらしい。

再び視線を感じた時には、その視線を向けている不埒な輩の正体が分かった。
…野生のヤミカラスだ。
俺達は、ポニ島に棲むヤミカラスの、洗礼を受けようとしているのか。
もしくは他所から来たヤミカラスを警戒しているのか。

と、ふと考えたが、そういえばジョウトでは飽きるほど見たヤミカラスを、アローラではあまり見ない。「ヤミカラスが鳴く前に家に帰れ」という諺が残る地方ではあるが、少なくとも俺が住んでいたメレメレ島では鳥ポケモンと言えばツツケラかキャモメが主であった。

もしや、このヤミカラスはこのポニ島から、飛んできた、もしくは逃げてきたのか?
脚の側で震えるヤミカラスを見て、俺は、真実が知りたくなった。

俺は怯えるヤミカラスを抱え、遺跡の点在する薮の中を歩きまわり、存在するであろうヤミカラスの住処を探した。

そしてそれは案外すぐに見つかった。

草薮の少し拓けた場所、そこにはこの地の守り神を象ったであろう朽ちた遺跡が遺されていた。

その遺跡の…屋上と言って良いのだろうか。その部分に数え切れないほどの黒い影が連なっていた。こちらを目でしきりに威嚇するヤミカラス達である。

そしてそのヤミカラス達の中に二回りは大きなポケモンがこちらを睨み据付けていた。

帽子の様なトサカ、凍えるような冷たい目、胸にかけて掛かる純白の羽毛、全身を覆う漆黒の羽根。ヤミカラスには、似ている、だがあんなポケモンは少なくとも俺の人生の中では見たことがない。
しかし見ただけで、そいつが群れの「首領」であることは感じ取ることができた。…しかしヤミカラスに進化系などいたのだろうか。ポケモンスクールではヤミカラスに進化系はいないと、習った筈だったが。
群れの「首領」は低く鳴き、ヤミカラス達を数匹けしかけてきた。なるほど、自分では手を汚さず、飽くまで部下の仕事にすると…ふむ、ポケモンに上司部下の関係を垣間見ることがあるとはな。
しかし、無論こちらも、黙って啄まれる訳にはいかない。

俺のヤミカラスは翼に力を込め、前方を全力で斬り払った。それに驚いたのか、ヤミカラス達は散り散りに逃げ帰って行く。

実は、先日同僚に貰ったわざマシン「つばめがえし」をヤミカラスに覚えさせておいたのである。
俺のヤミカラスは、「つつく」や「つばさでうつ」攻撃などで襲い来るヤミカラスをつばめがえしで一掃していく。
…何だか、頼もしくなったもんだ。

そして、驚く程軽快につばめがえしを使いこなし、ヤミカラスの大群を追い返す俺のヤミカラスを、冷たく睨みつけていた「首領」が遂に俺達の前に静かに降り立ってきた。
その威風は、周りのヤミカラスとは違う、ピリピリとしたものを纏っている。ブレることのない、冷酷な眼。俺も、ヤミカラスも、内心震えていた。

「首領」は、翼の内で力を溜めた。その力は禍々しく、怒りが込められている気がした。その力は程なく解き放たれ、波動の様に、俺達に襲い掛かった。
ポケモンならまだしも、人間がこんなものを喰らったらひとたまりもないだろう。
俺は…、大袈裟だが死を覚悟した。

しかし、一閃、光の刃が切り裂いた。俺を庇ったヤミカラスのつばめがえし。それの威力は「首領」の悪の波動を断ち切るには十分なものであった。
それを見て、明らかに「首領」は、狼狽している。こんな奴に、俺の力が止められた、そんな事実に、愕然とせざるを得なかったのだろう。

だが、依然としてこの状況は変わらない。こちらは人間1人、ポケモン1匹。相手は数え切れないほどの連帯された集団である。このままだと夜も暮れてしまう。

この状況を打開するものはないか。

俺が再びこちらを睨み付けた「首領」の威厳に後ずさりした時だった。

かかとに何かが引っかかった。
人も滅多に踏み入らない様な荒れ地である。普通ならなんてことは無い事だが、その時は、違った。俺がかかとで躓いたその石は、黒く吸い込まれるような漆黒の色をした、透き通る様な石。
やみのいしだった。

今回のポニ島での出張の目的は不思議な力を持った、「進化の石」と呼ばれるもののビジネスについてのもので、やみのいしのサンプルも幾度か目に焼き付けている。間違いない、こいつはやみのいしだ。

何故こんなところに…俺がその石を手で拾い上げた時、足元にいた俺のヤミカラスはその石を見つめだした。
俺はもしやと思った。
俺のヤミカラスにその石を渡すと、そいつは石を、クチバシで咥えた。

すると…なんということだ。
ヤミカラスが、懐かしいような光に包まれた。

幼い頃、授業で見た石を使ったイーブイの進化の光景。
その光景を、ふと思い出した。

そして俺のヤミカラスは、目の前にいる「首領」と同じ姿に進化をした。
…今思うと、ヤミカラスはやみのいしの力によって、「ドンカラス」というポケモンに進化したのだった。

俺のヤミカラス…いやドンカラスは、目の前の群れを束ねるドンカラスを睨み付けた。
そして瞬く間に飛び立ち、ヤミカラスの時では考えられなかったような鋭い光を、翼に纏わせた。
それは俺の気持ちも乗せた、ゼンリョクの、つばめがえしだった。

致命の一撃を喰らったであろう群れのドンカラスは、よろめきながら低く大きな声で鳴いた。その声を聞いて、部下のヤミカラスはバラバラ飛び去り、見えなくなった。
ドンカラス同士が睨み合う。
奴らにだけ解る、何かがあったのだろう。俺はその光景を、見つめる事しか出来なかった。
群れのドンカラスはそのまま、夕暮れの闇に飛び去り消えていった。

ここはこの島の守り神を祀った遺跡のようだ。この島には彼岸の遺跡という海辺の遺跡もある様だが、ここはその…支部のようなものだったのだろうか。
俺はこのポニ島の守り神に祈り、感謝した。
ポニ島の自然とはまた違った、何かに、触れることが出来た気がした。

そして俺は、沈んでいくポニの陽を背に向けながら、より頼もしくなった相棒の頭を撫でた。ドンカラスは、睨み合っていた時の冷たい眼とは違う、暖かな眼で、俺を見つめてくれた。

コメントを投稿