「被害者は誰でしょうか?」
これは昨年、とある法科大学院の入試の面接で最初に聞かれた質問だ。社内規則に違反して取引をしたが結果として利益が出たという場面で、当該社員に会社はどのような対応をすべきか、という設問があった。私が規則どおり何らかの処分は免れないと切り出したのに対して出された質問がこれだった。ある規則が何を守ろうとしているのか、どういう性質をもっているのか、を考えさせる非常にいい質問である。単に「規則だから」という思考では不十分な場合もある。
今回の参議院選、gooブログの編集ページには「公職選挙法について」という注意書きがあった。その内容は次のようなものだ。
「選挙に関する記事を投稿の際は、公職選挙法違反(刑事罰の対象となります)および利用規約違反にご注意ください。主な注意点は以下の通りです。①特定の候補者を「応援したい」といった表現は選挙の事前運動、選挙運動またはこれらに類似する活動とみなされる可能性があります。「選挙区の友人に薦めます」といった表現も含まれます。②単に街頭演説があったという出来事を記述するだけであっても、特定の候補者ばかりを掲載するような場合には、当該候補者を支持する選挙運動とみなされる可能性があります。③街頭演説を撮影した写真や動画を投稿することは、選挙運動用の文書図画の頒布に該当するとみなされる可能性があります。④特定の候補者の失言シーンだけを集めた「落選運動」は選挙運動またはこれらに類似する活動とみなされる可能性があります。この他にも公選法違反に問われかねないケースが想定されますので、記事投稿の際には十分ご注意ください。」
私はいつも選挙後しばらくして記事を書くので問題はないのだが、この注意書きを見て「被害者は誰ですか?」と問いかけたくなった。先の設問と同じく直接の被害者を観念しにくい性質をもつ規則だが、ここに挙げられている行為が選挙の公正を害するのか、非常に疑わしい。早急に公選法をネット社会に対応させる必要があるだろう。海外でもこの状況は"Surprisingly"と形容されている(参照)。
さて、前置きはこれくらいにして本題に入ろう。私の地域は東京選挙区で、定数5人のところ候補者は20人。今回は自民対民主という構図に乗っかる気になれなかったのと、参議院選ということで、「こういう人が議員として発言してくれたら」という候補者本位で選んでみることにした。とはいっても、候補者は衆議院より全般的に小粒である。略歴と実績をみてみると民主党の鈴木寛氏が図抜けている。政策をみても概ね常識的だ。
となると普通ならこのまま鈴木氏への投票ということになるが、ここは5人区。今の衆議院選にはない戦略投票の醍醐味がある。事前の選挙情勢を伝えるニュースでは、5枠のうち4枠を民主党の2人と自民党・公明党1人ずつで確保する見込みで、残りの1枠を自民党の丸川氏・無所属の川田氏が争い、共産党の田村氏が追いつくか、という構図と説明されていた。中でも鈴木氏はトップということで、私の票にかかわらず当選は確実な情勢である。残りの1枠の争いに関わることにした。
まず丸川氏であるが、選挙権問題で自爆し、このままでは当選しないほうが本人のためにもいいのではないか、という状況であった。キャッチフレーズ「日本人でよかった」にも違和感がある。「○○人」という表現は出自のニュアンスも含むので、「日本国民」と表現したほうがいいのではないか。多様性に配慮し切れていないという感想をもった。インタビューでも予め用意していたこと以外は要領を得ず、投票する気にはなれなかった。
対する川田氏。公示があり選挙ポスターが一斉に貼られたころ、まず目を引いたのが川田氏であった。「あ、立候補するんだ」という感想。無所属ながら、行く先々の掲示板できちんとポスターが貼ってあり、ちゃんとした支持組織があることがうかがえた。これは見込みがあるかも、と思っていた。政策等をみても投票をやめようかな、と思う事柄は概して見当たらず。こういう独特のバックボーンのある人が議員になるのもいい、と感じた。
ということで選挙区は川田氏に投票することにした。比例も同じく候補者本位で田中康夫氏に投票することにした。
~~~
以上が投票日までの話。以下結果について。
~~~
結果は次の通り(確定投票、8位以下は長くなるので省略)。
大河原雅子 民主 新 当 1,087,743
山口那津男 公明 現 当 794,936
鈴木 寛 民主 現 当 780,662
丸川 珠代 自民 新 当 691,367
川田 龍平 無 新 当 683,629
保坂 三蔵 自民 現 651,484
田村 智子 共産 新 554,104
意外性を多く含む結果であった。感じたことは、東京は浮動票がかなりの影響力をもつ、戦略投票が顕著、アナウンスメント効果も絶大、ということであった。民主2人については鈴木氏から大河原氏への票の流れがあったことは間違いない。自民の保坂氏も磐石という予測で油断した面もあったあだろうし、票も丸川氏へ流れただろう。収入と政治が直結しない境遇にある有権者が特定の支持政党をもたないことは自然なことであるが、ここまで結果が読めないとは思っていなかった。戦略投票ができるのは参議院選しかないが、次回は素直に投票を決めようかと思っている。
比例も田中康夫氏が当選。今回は冒険に出て死票も覚悟していたが、両方とも死票にならないという結果になった。さらに全体をみてみれば、民主党の躍進と自民党の大敗。岡山で自民党大物の片山氏が落選したのが象徴的で、「姫の虎退治」という何とも絶妙なキャッチフレーズ。こんな面白い選挙区があったとは知らなかった。また、公明党が選挙区で3議席落とすという激震。なんとなくつけていたTBSラジオで、勝谷誠彦氏が「みんなが選挙に行けば公明党も落とせるんだ、選挙の面白さがわかったか」といった趣旨のことを話していて印象的だった。
選挙報道に言及すれば、NHKは大河原→鈴木→川田→山口という順番で当確を出していった。川田氏の当確はNHKが他局よりかなり早い段階で出した。出口調査に自信を持っているんだなと最初は思ったが、結局3万票しか差がなかったことを考えると、与党候補者の当確判断を慎重にし後にすることで苦戦を演出する意図があったように思う。実際は丸川・川田・保坂が三つ巴で激戦という開票状況であった。
今後の国会運営について、法案審議において民主党が硬直的に出るか現実的に協調の態度に出るか、難しいところである。国会が麻痺してしまえば批判が民主党にも向かいかねないが、一方で妥協すると今回支持した人から失望されてしまう。「民主が勝ったのは自民の批判票だ、必ずしも全面的に支持されたわけではない」という理解に立つならば現実路線をとるべきだが、メディアから批判されてしまうだろう。自民党がこれを見越して法案をどう提出するかも興味深いが、極端な内容のものは出せなくなっただろう。
今回の選挙はついつい開票情報を夜遅くまで追ってしまったが、早く日々の仕事に帰ることとしよう。
これは昨年、とある法科大学院の入試の面接で最初に聞かれた質問だ。社内規則に違反して取引をしたが結果として利益が出たという場面で、当該社員に会社はどのような対応をすべきか、という設問があった。私が規則どおり何らかの処分は免れないと切り出したのに対して出された質問がこれだった。ある規則が何を守ろうとしているのか、どういう性質をもっているのか、を考えさせる非常にいい質問である。単に「規則だから」という思考では不十分な場合もある。
今回の参議院選、gooブログの編集ページには「公職選挙法について」という注意書きがあった。その内容は次のようなものだ。
「選挙に関する記事を投稿の際は、公職選挙法違反(刑事罰の対象となります)および利用規約違反にご注意ください。主な注意点は以下の通りです。①特定の候補者を「応援したい」といった表現は選挙の事前運動、選挙運動またはこれらに類似する活動とみなされる可能性があります。「選挙区の友人に薦めます」といった表現も含まれます。②単に街頭演説があったという出来事を記述するだけであっても、特定の候補者ばかりを掲載するような場合には、当該候補者を支持する選挙運動とみなされる可能性があります。③街頭演説を撮影した写真や動画を投稿することは、選挙運動用の文書図画の頒布に該当するとみなされる可能性があります。④特定の候補者の失言シーンだけを集めた「落選運動」は選挙運動またはこれらに類似する活動とみなされる可能性があります。この他にも公選法違反に問われかねないケースが想定されますので、記事投稿の際には十分ご注意ください。」
私はいつも選挙後しばらくして記事を書くので問題はないのだが、この注意書きを見て「被害者は誰ですか?」と問いかけたくなった。先の設問と同じく直接の被害者を観念しにくい性質をもつ規則だが、ここに挙げられている行為が選挙の公正を害するのか、非常に疑わしい。早急に公選法をネット社会に対応させる必要があるだろう。海外でもこの状況は"Surprisingly"と形容されている(参照)。
さて、前置きはこれくらいにして本題に入ろう。私の地域は東京選挙区で、定数5人のところ候補者は20人。今回は自民対民主という構図に乗っかる気になれなかったのと、参議院選ということで、「こういう人が議員として発言してくれたら」という候補者本位で選んでみることにした。とはいっても、候補者は衆議院より全般的に小粒である。略歴と実績をみてみると民主党の鈴木寛氏が図抜けている。政策をみても概ね常識的だ。
となると普通ならこのまま鈴木氏への投票ということになるが、ここは5人区。今の衆議院選にはない戦略投票の醍醐味がある。事前の選挙情勢を伝えるニュースでは、5枠のうち4枠を民主党の2人と自民党・公明党1人ずつで確保する見込みで、残りの1枠を自民党の丸川氏・無所属の川田氏が争い、共産党の田村氏が追いつくか、という構図と説明されていた。中でも鈴木氏はトップということで、私の票にかかわらず当選は確実な情勢である。残りの1枠の争いに関わることにした。
まず丸川氏であるが、選挙権問題で自爆し、このままでは当選しないほうが本人のためにもいいのではないか、という状況であった。キャッチフレーズ「日本人でよかった」にも違和感がある。「○○人」という表現は出自のニュアンスも含むので、「日本国民」と表現したほうがいいのではないか。多様性に配慮し切れていないという感想をもった。インタビューでも予め用意していたこと以外は要領を得ず、投票する気にはなれなかった。
対する川田氏。公示があり選挙ポスターが一斉に貼られたころ、まず目を引いたのが川田氏であった。「あ、立候補するんだ」という感想。無所属ながら、行く先々の掲示板できちんとポスターが貼ってあり、ちゃんとした支持組織があることがうかがえた。これは見込みがあるかも、と思っていた。政策等をみても投票をやめようかな、と思う事柄は概して見当たらず。こういう独特のバックボーンのある人が議員になるのもいい、と感じた。
ということで選挙区は川田氏に投票することにした。比例も同じく候補者本位で田中康夫氏に投票することにした。
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以上が投票日までの話。以下結果について。
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結果は次の通り(確定投票、8位以下は長くなるので省略)。
大河原雅子 民主 新 当 1,087,743
山口那津男 公明 現 当 794,936
鈴木 寛 民主 現 当 780,662
丸川 珠代 自民 新 当 691,367
川田 龍平 無 新 当 683,629
保坂 三蔵 自民 現 651,484
田村 智子 共産 新 554,104
意外性を多く含む結果であった。感じたことは、東京は浮動票がかなりの影響力をもつ、戦略投票が顕著、アナウンスメント効果も絶大、ということであった。民主2人については鈴木氏から大河原氏への票の流れがあったことは間違いない。自民の保坂氏も磐石という予測で油断した面もあったあだろうし、票も丸川氏へ流れただろう。収入と政治が直結しない境遇にある有権者が特定の支持政党をもたないことは自然なことであるが、ここまで結果が読めないとは思っていなかった。戦略投票ができるのは参議院選しかないが、次回は素直に投票を決めようかと思っている。
比例も田中康夫氏が当選。今回は冒険に出て死票も覚悟していたが、両方とも死票にならないという結果になった。さらに全体をみてみれば、民主党の躍進と自民党の大敗。岡山で自民党大物の片山氏が落選したのが象徴的で、「姫の虎退治」という何とも絶妙なキャッチフレーズ。こんな面白い選挙区があったとは知らなかった。また、公明党が選挙区で3議席落とすという激震。なんとなくつけていたTBSラジオで、勝谷誠彦氏が「みんなが選挙に行けば公明党も落とせるんだ、選挙の面白さがわかったか」といった趣旨のことを話していて印象的だった。
選挙報道に言及すれば、NHKは大河原→鈴木→川田→山口という順番で当確を出していった。川田氏の当確はNHKが他局よりかなり早い段階で出した。出口調査に自信を持っているんだなと最初は思ったが、結局3万票しか差がなかったことを考えると、与党候補者の当確判断を慎重にし後にすることで苦戦を演出する意図があったように思う。実際は丸川・川田・保坂が三つ巴で激戦という開票状況であった。
今後の国会運営について、法案審議において民主党が硬直的に出るか現実的に協調の態度に出るか、難しいところである。国会が麻痺してしまえば批判が民主党にも向かいかねないが、一方で妥協すると今回支持した人から失望されてしまう。「民主が勝ったのは自民の批判票だ、必ずしも全面的に支持されたわけではない」という理解に立つならば現実路線をとるべきだが、メディアから批判されてしまうだろう。自民党がこれを見越して法案をどう提出するかも興味深いが、極端な内容のものは出せなくなっただろう。
今回の選挙はついつい開票情報を夜遅くまで追ってしまったが、早く日々の仕事に帰ることとしよう。