カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

物語。

2016-11-11 07:49:26 | Weblog

今朝、しごとに出掛ける前に、グレツキの第三交響曲〈悲歌のシンフォニー〉を聴きながら、以前から書き進めて目下停滞しているオルサブローの物語の検問所の次の場面の様子が胸に浮かんだ。アシジのフランチェスコのような修道士のいる修道院の朝の光景。その修道士はひっそりこつこつとたくさんの交響曲の譜面を書き溜めているのだ。。

 

 

 〈町〉へのただ一つの入り口の検問所脇の側溝に秋のある夕方、薄汚れた犬が死んでいたことがあった。その事実は、大きめのぶかぶかな毛糸靴下を履いて就寝しようとしていたメゲネル検問所長のもとにすぐに伝えられ、裁判所へも速やかに報告されたが、酒精で脂ぎった不夜城のごときお歴々の集う〈町〉の裁判所は案の定その犬が〈町〉に入ろうとしていたのか〈町〉から出ようとしていたのかを朝までおいてはおかれぬ大問題とし、検問所長に事実を直ちに判事の前で詳細に説明せよと出頭命令を下したので、犬の第一発見者たる検問所三等係官オルサブローはその夜のうちに寝室兼書斎代わりの家の物置から検問所に呼び出され、検問所事務棟の木製扉脇の壁に自転車を立て掛けた。検問所事務棟は其々の窓の大きく取られた石造りの三階建てで、一階の当直室の灯りと、三階の所長室の灯りが、煌々と外に洩れていた。
 制服のオルサブローは幾分俯きながら木製扉の前に立ち、「こんばんは。当直お疲れさまです。オルサブローです。」と軽く三回ほどノックをした。すると、しずかに扉が開いて、検問官の制服に身を包んだやや小柄な少女が顔を出した。それと一緒に外へハーブティーのよい香りがこぼれてきた。「オルサブローさん、たいへんなことになって。とにかく中へお入りくださいな。」彼女は、その夜の深夜当直の三等係官アスフィータだった。オルサブローは、アスフィータに軽く微笑みながら「アスフィータさん、君にもいろいろと心配をかけて済まない。それで、所長はもう部屋に来られているのですか?」と尋ねた。「はい、つい先程部屋に入られました。所長ったら、『〈町〉の裁判所の能天気な奴らと来たらまったく』とぶつぶつこぼしていましたよ。」アスフィータが所長の口真似をすると、オルサブローは思わず吹き出し、アスフィータもくすりと笑った。「ありがとう。では、所長のところへ行ってきます。」オルサブローは、当直室奥の階段を急いで駆け上がって行った。


 その翌朝のことである。〈町〉を取り囲むように広がる森の中のこじんまりとした修道院では、たいへん豪勢で荘重なオルガンがひとしきり鳴り響いて朝の礼拝が行われたところだった。オルガンが止むと、小柄で初老の修道士がひとり聖堂の扉を開けて出て来て、辺りを見渡し優しく微笑んだ。聖堂の前の木々にはたくさんの小鳥たちが思い思いに枝へ留まって歌をうたっていた。

ちなみに〈朝の礼拝〉の音楽の譜面は以下の通り。
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