すいかの記録

けんきゅー関係のメモ(学術書籍、覚え書きなど)。

“死にたい病”の男

2009-12-28 14:50:00 | books read
だったらしい、太宰治(実娘の太田治子氏いわく)。

『斜陽・人間失格・桜桃・走れメロス 外七篇』(太宰治 著、文春文庫、2000年)

『人間失格』、『斜陽』……学生時代に、手に取ったけど、どこがいいのかまったくわからず、面白いとも思えず挫折した(実家に行けば、両方とも文庫本があると思う)。「恥の多い人生を送って来ました」と言われてもねえ、ってかんじだったもんね、あの頃のワタシ。『走れメロス』は、学校で読まされた気がするけど、「ローマ時代の謂われのパクリ」と勝手に解釈したことしか覚えていない。

今回は、森見登美彦の『新釈 走れメロス他四篇』を読みたいがために、まず本家に弟子入りした次第。かなり動機が不純。あ、あとは、上記の太田治子のインタビューを聞いて、関心を持ち直した、というか。

で。

いまの時代の若者に支持されているらしい、太宰。なるほど、生きることへの執着のなさ、人生の意味が見いだせないことへの絶望に近い日常的な失望感と虚無。「もう死んでしまいたい」。分からなくもない。それをここまで書けるのもすごいと思う。

けどさあ、「なに眠いこと言ってんだ」ってかんじ。

最近気づいたのだけど、男性作家の文芸作品、もっと狭めていうとエンターテインメントものには、面白いものが多い。だけど、ほとんどがそれどまり。ムラカミくんしかり、ケンザブロウ先生しかり。外国の作家も似たり寄ったりではないかと思う(ドストエフスキーは別格)。

生きることについては、女のほうがよく知っていて、それをうまく表現できるのも女である。と、ものすごい差別的な考えを持ってしまった(ことに、いま気づいた)けど、アトウッドを、須賀敦子を、吉野せいを、読め。そうすれば、わかる。

これが今年の読書から得た最大の収穫かも。


いや、けれど。こんな偏見と差別でくくってしまって、いいのか…たぶん、だめ。なので、来年は、これを覆すような作家と出会いたい。男女も時代も国籍も関係ないって思えるような、作品に。

初チェーホフ

2009-12-21 16:22:47 | books read
ロシア文学には、チェーホフも欠かせない存在らしい。
「チェーホフを読むか?どの作品が好きか?」と尋ねることを、相手の趣味と教養を測るものさしにされることもあったとか(誰だったっけなあ)。

んなわけで、図書館でいちばん薄かったのを借りてみた。

『可愛い女・犬を連れた奥さん 他一篇』(チェーホフ著、神西 清訳、岩波文庫、1940年)

解説にもあるのだけど、とにかく訳文が美しい。
内容は、独特の世界に浸ることはできるのだけど、読み終わったあとの印象が薄い。なんというか、何を読んでいたのか覚えていない。うまく思い出すこともできない。文章は流麗なんだけどね。なんでだろ。刹那的?そういうのとも、ちょっと違うような。

でも、ますますロシアに魅力をかんじさせる1冊ではありました。
ロシア、とくに19世紀半ばから終盤にかけてのロシアって、本当におもしろい。

みのうえばなし

2009-12-18 18:40:35 | books read
『身の上話』(佐藤正午 著、光文社、2009年)

これまた週刊ブックレビューのおすすめの1冊から。
公開録画では、司会者4人が異口同音に“ページを開いたら、徹夜覚悟の本”と評していましたが、それが嘘でないことを身をもって知った次第。

夜の10時頃から読み始めて、ふと気づいたら午前2時。徹夜を避けるため(生活パターンが乱れるとまずいので)、泣く泣く本を閉じて就寝。翌朝から、最後まで一気読み。

キャリアの長い作家だとか。でも今まで一度も名前を聞いたことがなかったです。恥ずかしながら。でもこの1冊で、独特のテンポの良い語り口に魅了されて、もっと読みたくなった。てなわけで、次は『正午派』を読む予定。

来し方と、終わりの過ごし方

2009-12-17 11:33:28 | books read
先日、週刊ブックレビューの公開録画@芦屋ルナホールへ行ってきた。
司会者4人の合評コーナーで取り上げられる本が事前に通知されていたので、そこから1冊ピックアップ。梯久美子のおすすめの1冊。

『土に書いた言葉-吉野せいアンソロジー』(吉野せい著、山下多恵子編、未知谷、2009年)

年も押し迫ったところで、今年のベスト3に躍り出た1冊。
50年にわたって書きたくても書けなかった“百姓女”が、最後の数年間でほとばしらせたことば。自分には残された時間がない、という思いが書かせたというのも的を射ていないと感じさせるほどの、迷いのない文体、ことばのえらびかた。どこをとっても、すばらしい。今年のベストどころか、『海からの贈り物』以来の、読む者を変えてしまう力をもつ1冊。

公開録画は、レギュラー司会陣が一堂に会して、豪華ゲストを迎えるという贅沢な内容(渡辺淳一御大のしれっとしたセクハラ発言に、思わず感服してしまった。勝間和代は、200メートル離れた客席から見ても、暑苦しかった。差別的な視点についていうと、渡辺淳一は確信犯。勝間は自覚がないだけに、タチが悪い)。個人的には非常に刺激的な3時間だった。作家というのは、結構“天然”なのかもしれない、とか。小説を書くということは、本当に天賦の才能なのだと思う。自分が選ぶ職業ではなくて、“気づいたらそうなってしまった”職業。

客席のノリがいまいち悪かったうえに、発言したと思ったらトンチンカンな内容だったりしたので、司会者、ゲストはやりにくかったのじゃないかとは思うけど。本放送は、12月26日(土)。

waiting for TAMURA

2009-11-28 13:45:04 | books read
『田村はまだか』(朝倉かすみ著、光文社、2008年)

タイトル通り、「田村はまだか」と言いながら、とある飲み屋で田村を待つ5人とマスター。それぞれが主人公になった短編作品をまとめたもの。まあ、軽い読み物、といったかんじ(なので、中古で買えば十分)。言葉遣いが独特というか、そこに当てはまることばを丁寧に選んでいることがよく分かるタイプの作家かな。かといって、計算高さをまったくかんじないところに好感がもてる。

読んでいて「わたしも、彼らに近づきつつあるのかあ」ということに気づいて、ちょっと焦る。ちょうど昨日、友人と話していたところだったのだけど、本当に切れることない友人関係って、大人になるとなかなかできにくい。学生時代の友達って、ほんと貴重だなあということ。こんなふうに40になっても、(いくら酔っぱらってへべれけとはいえ)言いたいこと言いながら飲める友達って何人いるだろうか。