アート・ペッパーには、麻薬治療のために長期間のブランクがあります。
その間にジョン・コルトレーン(ts)の奏法を研究し復帰後のプレイに取り入れたので、ブランク前後ではスタイルが変わってしまいました。
そこで「復帰前と後ではどちらが良いか」でファンの意見は別れることになるのですが、恐らく「復帰前」がベストという意見が優勢だと思います。
タンパ・レーベルの2作、イントロ・レーベルの「モダン・アート」、コンテンポラリーの「ミーツ・ザ・リズムセクション」などでのペッパー独自の美しさに彩られたプレイを愛したファンは、復帰後の唐突に飛び出す「雄叫びフレーズ」に違和感を覚えたことでしょう。
一方で復帰後のペッパーを聴いてファンになった人は、若いころのプレイも抵抗なく受け入れたように思います。
私も復帰後のペッパーから聴いたので、どちらのプレイも好きです。
さて、このアルバムはペッパー最後のレコーディングです。
復帰後のペッパーが愛し、「ミスター・ビューティフル」と呼んだというピアニスト、ジョージ・ケイブルスとのデュオ演奏です。
ペッパーは、このアルバムやその前に録音されたライブ・アルバムで復帰後のピークにありました。
唐突と感じられたフレーズも、ソロ中の自然な流れとして違和感なく納まるようになっていました。
彼自身も演奏することに喜びを感じていたことでしょう。
とてもリラックスした落ち着いたプレイをしています。
ケイブルスとの協調も見事で、お互いに信頼し尊敬しあっているのが感じられます。
ペッパーが逝ってしまったのは残念ですが、このレコードを聴いていると彼は悔いを残さなかったのではないかと思えてきます。
同日の未収録曲と数か月前のセッションからの曲を収めたこちらのアルバムも、劣らず素晴らしい内容です。