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ローサは密告された

2017年08月25日 | 洋画(17年)
 フィリピン映画『ローサは密告された』を渋谷のシアター・イメージフォーラムで見ました。

(1)主役の女優がカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞したというので、フィリピン映画は初めてですが、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭は、スーパーで、自分の店用の商品を買っている主人公のローサジャクリン・ホセ)と次男のカーウィンジョマリ・アンヘレス)。
 ローサは支払いをしますが、店員が「釣り銭がない」「小銭を切らしてしまった」と言うので、「こんな大きな店なのに?」「困る」と言い返します。でも、店員が「すみません」と謝るので、仕方なく、代わりに飴を幾つかもらって店を出ます。
 ローサが「タクシーひろって」と言うので、大きな袋を手にしたカーウィンが、近くにいた少年のボンに頼むと、ボンはタクシーを導いてきます。
 カーウィンがチップとして飴をボンにやると、ボンは「くそったれ!」と呟きます。

 タクシーの中でローサはもらった飴を口にします。
 しばらくすると稲光がして、雨が激しく降り出します。
 ローサは、スラム街に入る路地の入口で、運転手に「そこを左に曲がって」と言いますが、運転手は「行き止まりだ」「歩いていくしかない」と応じ、ローサは「ここで降ろされても困る」と文句を言いながらも、料金の150ペソを支払って車を降ります。

 土砂降りの雨の中、ローサとカーウィンは、傘をさしつつ大きな荷物を抱えて歩き出します。
 カーウィンは「重くて歩けないよ」と訴え、またローサも「あの運転手のせいでズブ濡れだ」と悪態をつきます。
 途中にあった屋台に入って雨宿りをし、ビニール袋に入った冷たい水を飲んでいると、長男のジャクソンフェリックス・ロコ)がやって来ます。
 ジャクソンがローサの荷物を持ち、3人が雨の中を家に戻ります。
 ただ、ジャクソンは、途中で、カラオケ機を貸している店に用事があると言って、2人から離れます。

 それで、ローサとカーウィンは、ようやく「Sari-Sari Store ROSA」の大きな看板のある家にたどり着きます。



 次女のジリアンイナ・トゥアソン)が出てきて、ローサたちの買ってきたものを陳列用のビンの中に入れたりします。
 ローサが「店番は誰が?」と訊くと、ジリアンが「誰も」と答えるので、さらに「パパは?」と訊くと、ジリアンは「アイス」と言います。
 ローサが「父さんの誕生日なのに」などと呟きながら、カーウィンに手伝い賃を手渡します。カーウィンは、それを手にすると、上着を着替えて外に出ていきます。

 ローサが2階に上がっていくと、寝室のカーテンの奥で、夫のネストールフリオ・ディアス)がアイスを食べてボーッとしています(注2)。

 この後、覚醒剤の売人のジョマール(クリストファ・キング)が、集金にローサの店にやってくるのですが、さあ、物語はどのように展開していくのでしょうか、………?

 本作は、フィリピン映画で、首都マニラのスラム街でたくましく暮らす主役の女性とその家族の様子を描いています。彼女は雑貨屋を営む傍らほそぼそと麻薬を売っているところ、それが警察に密告され、夫ともども逮捕されてしまいますが、云々という物語。実に貧しい暮らしぶりであり、また麻薬を取り締まっているはずの警察の腐敗ぶりも信じられないレベルです。そんな中にあっても家族の絆は強く、もしかしたら明日が信じられるのかもしれないと、思わせます。

(2)本作の舞台となっているフィリピンの首都マニラのスラム街は、『スラムドッグ$ミリオネア』で描かれたムンバイのスラム街とか『ワイルド・スピ-ド MEGA MAX』で描かれたリオ・デ・ジャネイロのファベーラなどと同じように(注3)、酷く貧しいながらも、また一方で活気に溢れた町でもあるようです。
 本作は、そんな中で生き抜く、いわば“肝っ玉母さん”とも言うべき、4人の子持ちのローサが主人公。
 ただ、ローサは、スラム街で雑貨屋を営んでいて、様々の商品を取り扱っているのですが、その中に覚醒剤も含めていたところから、警察に踏み込まれて、夫のネストールともども逮捕されてしまいます。



 本作では、警察署でローサが見た警官たちの凄まじく酷い有様が中心的に描かれます。
 なにしろ、警官がローサの店に踏み込んだのは、麻薬密売を取り締まるためではなく、捕まえたローサとネストールの保釈に必要な金を巻き上げるためなのですから。
 2人は、誰かに密告されたがために捕まったのですが(注4)、保釈されるためには、自分たちもまた密売人を密告しなくてはなりません。
 そればかりか、今回の場合は、それでも足りないとして、さらに5万ペソを要求されてしまいます(注5)。

 「そんな大金は支払えない」とローサは抵抗しますが(注6)、警官らは聞く耳を持ちません。
 それで、心配して警察にやって来た子供たちと相談します。
 長男のジャクソンは「家を売ればいい」などと言いますが、ローサは「そんなことをしたら、どこで暮せばいいの?」と強く反対します。
 そこで、家族がそれぞれのやり方で金策に走りますが、その姿からもまた、このスラム街の現状が垣間見られることになります。



 先ず、長男ジャクソンは、持っていたTV受像機を知人に買い取ってもらおうとしますが、いい値ではなかなか売れません(注7)。
 次男カーウィンは、驚いたことに、金を持っていそうな男に身を売るのです(注8)。
 長女ラケルアンディ・アイゲンマン)は、ローサが酷く嫌っている親戚の家に行って借金を頼みます(注9)。
 それでもまだ足りないので、最後に、ローサ自身が、娘の携帯を売って残りの金額を賄おうとします(注10)。
 こうした家族の頑張りがあって、ローサとネストールは釈放され、雨が降る中で、ローサは涙を流しながら肉団子(注11)を口にすることになります。

 言ってみれば、本作は、警察の腐敗をメインにしながらも、合わせて家族の絆(注12)といったものを描いた作品と言え、それぞれは映画でよく見かける事柄にしても、本作のように、雨が絶えず降る暗いスラム街を背景にして合わさって描き出されると、また独特の雰囲気が醸し出され、それに主演のジャクリン・ホセの肩肘をはらないどこまでも自然な演技が、見る者に深い感銘を与えます。

(3)渡まち子氏は、「本作が優れているのは、社会派のテーマを内包しながらも、家族の絆を描くドラマが秀逸で胸を打つからだ。何が何でも家族を守ると決めたローサの生命力と家族愛は、堕落しきった警察の姿と対をなして、鮮烈に記憶に残る」として80点を付けています。
 宇田川幸洋氏は、「最後まで、まちの騒音と人いきれにみちたなかを駆けぬけていくようなエネルギッシュな映画だが、ふりかえると古典的な構成の美もあり、ふと、名作「自転車泥棒」(1948年)を思い出させたりもする」として★4つ(「見逃せない」)を付けています。
 藤原帰一氏は、「ドゥテルテ大統領を生み、ドゥテルテ自身がそれを体現している、出口のないフィリピン社会の姿が、皮膚感覚で感じられる作品」と述べています。



(注1)監督はブリランテ・メンドーサ
 脚本はトロイ・エスピリトゥ。
 原題は「Ma' Rosa」(この記事によれば、「Ma'」は「Mom.」ということで、「mother」の短縮形ということになります)。

(注2)アイスとは覚醒剤のこと(例えば、この記事)。

(注3)他に有名なスラム街としては、『ナイロビの蜂』でも描かれた、ケニアの首都ナイロビの郊外に広がるスラム街キベラがあるでしょう(例えば、この記事)。

(注4)上記(1)で触れているボン(皆からは「ボンボン」と言われています)という少年が、自分の兄の釈放と引き換えに密告したようです。あとで彼は、ジャクソンに遭遇し、ボコボコにされます。

(注5)当初の警察官の要求額は20万ペソ(1ペソ=2円とすると、およそ40万円)。
 ですが、ローサが密告したジョマールが捕まって10万ペソ持っているとわかり、さらにその妻が見逃し料5万ペソを支払ったために、ローサらは残りの5万ペソを支払えば保釈されることになります。

(注6)例えば、フィリピンの一人当たりGDPは、2017年に82千ペソほど(この記事)なのですから。

(注7)この記事によれば、ジャクソンは、最後に「バランガイキャプテン」と呼ばれる男(本作で見た感じでは、派出所の警察官といった風情の男ですが←その男がいる事務所の中に留置所が設けられています)にTVを高い値段で買ってもらいます。

(注8)どうやら、カーウィンはこれが初めてということではなさそうです。
 なお、カーウィンは、相手の男が「給料そっくり渡した」というお金をすぐには受け取らず、なんとか粘ってその増額を図ろうとし、相手の男をATMまで連れて行って、金を引き出させます。

(注9)親類の女は、「私達がマニラに引っ越して来た時に何をしてくれた」「自業自得だと伝えておくれ」などと酷い言葉をラケルに投げつけますが、最後には金を貸してくれます(無論、返済など期待していないでしょうが)。

(注10)相手が「偽物だから、そんな金は出せない」というところを、ローサはなんとか頼み込んで必要額を獲得することに成功します(ローサに金を与える男は、上記「注7」で触れている記事が言う「ブンバイ」でしょうか?)。

(注11)公式サイトの「キーワード」の「フィリピンの屋台フード」によれば、「ラストシーンでローサが食べるのはキキアム。果物や酢を使ったソースにつけて食べる」とのこと。ただし、本作の映像からするとフィッシュボールのような気もしますが。

(注12)公式サイトの「ブリランテ・メンドーサ監督の制作ノート」に掲載の「映画の意図」によれば、同監督は、「悪い事をしたせいで捕らえられた家族の一員を助けるためなら、何でもするのか。社会の基本的な価値観を犯してでも。強いものしか生き残れない、それがどうしようもない現実であるような社会の中で、家族は道徳を踏み外してしまう」ことを本作が描いているように述べています。
 ただ、ローサとネストールを助けるために家族がしたことは、決して「道徳を踏み外して」いるようには思えないところです。尤も、カーウィンは男娼まがいのことをしていますが、これとても、腐敗した警察官の行為に比べたらそんなに強く非難すべきこととは思えないのですが。



★★★★☆☆



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2 コメント

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こんにちは (ここなつ)
2017-08-25 12:36:36
こんにちは。
私はこの作品のポスターの「それが日常。」というコピーに強い関心を持ちました。
今自分のいる周囲の社会では想像もできないのだけれど、ローサのような「日常」に居れば、ローサの身に起こったことも「日常」の延長線であり、貴記事(注12)でおっしゃられている
>ローサとネストールを助けるために家族がしたことは、決して「道徳を踏み外して」いるようには思えないところです。
というのも(勿論「日常」を維持するために欠かせなかったというのはあるにしろ)、色々な手段でカネを稼ぐことがすなわち「日常」の行為だからだ、彼らの中の道徳は外していない、ということが一因でもあるような気がします。
Unknown (クマネズミ)
2017-08-25 21:26:49
「ここなつ」さん、TB&コメントを有難うございます。
なるほど、「ローサのような「日常」に居れば、ローサの身に起こったことも「日常」の延長線」なのであり、「色々な手段でカネを稼ぐことがすなわち「日常」の行為」ですから、「彼らの中の道徳は外していない」ということなのですね。
確かに、“サリ・サリ・ストア”で覚醒剤を一般の商品と同じように販売すること自体、まさに「日常」の商行為そのもので、悪事を働いているという感覚はおそらくないのでしょう。

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