映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

11.25自決の日

2012年06月13日 | 邦画(12年)
 『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』を渋谷のユーロスペースで見てきました。

(1)若松孝二監督の作品は、以前は余り見なかったものの、このところ『実録・連合赤軍』、『キャタピラー』そして『海燕ホテル・ブルー』とお付き合いしてきましたので、この作品もと思って映画館に行ってきました。

 ただ、映画の主題である三島事件自体については、その後何度もTVの特別番組などで取り上げらたりしていますから、事実経過はかなり知られているでしょうし、元々三島由紀夫はノーベル文学賞の有力候補とされるくらい著名な作家ですから、その作品(映画『憂国』を含めて)もかなり知られていると思われます。
 そこでクマネズミとしては、反体制的な雰囲気を濃厚に漂わせている若松監督が、この事件をどのような視点から如何に料理するのか、というところに専ら関心を持ちました。
 ですが、全体として、『実録・連合赤軍』の三島事件版といった感じで、専らよく知られている事柄が次々と展開されていて、特異な観点からの描写といったものには余りお目にかかれないな(注1)、という感想を持ちました。

 とはいえ、本作において楯の会のメンバーが自衛隊体験入隊する時の舞台となる東富士演習場は、前作『海燕ホテル・ブルー』の舞台となった伊豆大島の砂漠とそっくりの感じです。そうなると、後者を取り上げたエントリでも申し上げましたが、これは1969年の『処女ゲバゲバ』などを見る者に思い起こさせ、いつもとは違った事柄を扱いながらも、本作はやはり若松ワールドに属する作品なのだなと納得してしまいます。
 それに、なんといってもその演習場に三島の妻を演じる寺島しのぶが現れるのですから、『海燕ホテル・ブルー』の砂漠を歩く梨花片山瞳)の再現そのものでしょう(注2)!



 というところからすれば、本作は、一見すると三島事件をドキュメンタリー的に描いているように見えながらも、実は若松色があちこちに漂っているのではないかとも思えてきます。

 特にそれを体現しているのが、三島由起夫を演じている井浦新ではないでしょうか?
 本作では、登場人物につき三島由紀夫以下すべて実名が使われています。辞世の句も本物が使われ、また市ヶ谷駐屯地のバルコニーにおける演説も実際に三島が喋ったとおりなのでしょう。
 でも、肝心の三島を演じる井浦新は、実際の三島とはほど遠い肉体的風貌です(注3)。ですが、若松監督はあえて彼を起用しました。ということは、全体の物語は三島事件を借りながらも、そこに込められているものは、監督自身の何らかの思いなのではないでしょうか。
 それが何なのかは非才なクマネズミには言い当てられそうもありませんが、本作を見ながら、少々陳腐ながら、真摯に生きる姿とはこうしたものなのか、という思いにとらわれました。

 それにしても、主演の井浦新の演技は素晴らしいものがあります。
すぐ前の『海燕ホテル・ブルー』では、幸男(地曵豪)に計画の実行を迫る役柄でしたが、本作においては、逆に森田に決起を迫られる役柄ながら、体の隅々まで気力が漲っているかのような見事な演技ではないかと思いました。



 なお、本作で興味深かったのは、このところあちこちで見かける渋川清彦が(注4)、楯の会結成にあたって重要な役割を果たす人物・持丸博を演じていて、映画に出演するたびにそのウエイトが高くなってきている印象を受けたことです。

(2)若松監督は、「戦後のあの時代に何が起きたかを、きちんと描きたい。そして僕は、人間を描くことを通してしか、それを表現できない。『レンセキ』では、左の若者たちを描いたのだから、今度は、逆の立場で同じように立ち上がり挫折していった存在を描きたいと思った」と述べています(注5)。
 ですが、三島由紀夫の場合、最後まで小説家でもあったわけで、その彼と自決した彼との関係が一番興味深いにもかかわらず、本作では、冒頭に『英霊の聲』の話が出て、ラスト近くで『豊穣の海』第4巻「天人五衰」の完成原稿が映し出されるに過ぎず、文学関係の話は映画から完全に排除されてしまっています(注6)。
 確かに、小説家の部分は専ら三島由紀夫の内面にかかわることですから映像とするのは酷く難しいとは思います。ですがだからといって両者を峻別することなど無理な話で、にもかかわらず一方の側面を本作のように完全に省いてしまったら三島由紀夫という一人の「人間を描くこと」にならないのではないかと思われます。

 そのためでしょうか、本作では、むしろ三島と一緒に自決した森田必勝の存在が膨らんでいる感じです。
 そして、この森田役を、満島ひかりの弟(満島真之介)が演じているところ、映画初出演とは思えないほどの迫真の演技で、三島事件自体が2.26事件を模したものに見える上に(注7)、三島に決起を促す森田の必死の形相は、「楯の会」の内部における2.26事件のような感じに思えました。




(3)渡まち子氏は、「本作は三島の美学や右翼的政治思想などには深く言及せず、あくまでも世界的な文豪が壮絶な最期を遂げるに至った経緯を、淡々と描くことで、当時の空気を読み解こうとしているのだ。だがいいようのない怒りをスクリーンにぶつけた前作「キャタピラー」に比べ、メッセージ性は薄い」などとして65点をつけています。
 また、日経新聞の編集委員古賀重樹氏は、「壮大で複雑な文学世界をもつ三島の全体像を期待する向きには不満だろう。ただ若松の視点は明確で、三島の一面に迫る。何より、政治的に三島と対極にあった若松の、時代への落とし前をつけようとする迫力がみなぎる。結局、何も変わらなかったという怒りも」などと述べています。
 ただ、本作では随分と時代性が強調されているように二人が述べている点については(注8)、本作では単に当時のニュース映画とか新聞記事の映像や画像が種々ふんだんに挿入されているにすぎないのであり、そんな表面的な手法では時代性を描いたことにならないのではないか、とクマネズミは思います(注9)。




(注1)三島が決起するかどうか逡巡していた最中に、少年が三島邸を訪れ、「先生はいつ死ぬんですか?」と尋ねるシーンがあるところ、その少年は、冒頭すぐのシーンに登場する山口二矢(収監先の少年鑑別所で自殺します)なのです。これは、本作の数少ないファンタジックな場面と言えるでしょう。
 ただ、三島と森田が道場で剣道の稽古をするシーンとか、三島が能舞台で剣舞を舞うシーンなども、随分と幻想的な雰囲気が漂っており、さらには、井浦新が三島を演じるというところなども考え合わせれば、本作全体がファンタジーと言えるのかもしれません。

(注2)とはいえ片山瞳は、砂漠を全裸で歩くシーンがありますが、本作における寺島しのぶについては、あの『キャラクター』の主演女優でありながら、期待されるような(?!)シーンにはお目にかかれません(三島由紀夫が自身で制作・出演した映画『憂国』には性愛シーンがあるところから、寺島しのぶが本作に出演すると聞いた時は、当然そうしたシーンも挿入されているはずと思っていましたが、本作が政治的側面に専らの焦点をあてて制作されていることからすれば、そうしたプライベートな側面を描くことは当初から考えられていなかったのでしょう)。

(注3)そうした点からすれば、やや飛躍しますが、井浦新は、『サッチャー』におけるメリル・ストリープではなく、どちらかと言えば『J・エドガー』におけるディカプリオの位置にあるのではないかと思われます。

(注4)『セイジ-陸の魚-』とか『生きてるものはいないのか』、『海燕ホテル・ブルー』など。

(注5)公式ガイドブック『若松孝二 11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(遊学社)に掲載の「若松孝二インタビュー「世界に希望し、絶望する存在への変わらぬ眼差し」」より(P.99)。

(注6)東富士演習場内で行われた自衛隊体験入隊における休憩時に、森田が三島に「ぼくは先生の作品を読んでも全然分からない」と言ったところ、三島は「なんだ、そんなことか。俺はお前たちと一緒にいるときは作家や文学者じゃないんだ」と応じます。本作では、楯の会のメンバー抜きの三島由紀夫はほとんど描かれませんから、必然的に文学方面は本作から排除されてしまいます。

(注7)三島が命をかけて自衛隊の決起を促したという点で、軍部中枢の決起を促すべくクーデターを起こした陸軍皇道派の若手将校らの行動を模しているのではと考えられます。

(注8)渡氏は、「若松監督らしいのは、ニュース映像をふんだんに用いて、時代の空気を再現していることだ」と述べ、また古賀氏も、「若松の視点は「時代」にある。60年代から70年代にかけて高揚した政治の季節。安保闘争を巡り、左も右も国を憂い、行動した。その時代の空気を体現した若者たちを描く、という意味で両作品(『実録・連合赤軍』と本作)は通底する」などと述べています。

 なお、いささか些細な点ながら、古賀氏が「60年代から70年代にかけて高揚した政治の季節。安保闘争を巡り、左も右も国を憂い、行動した」と述べているところ、60年の安保闘争に至るまでの反体制運動と、70年あたりにピークとなるその後のベトナム戦争反対運動とか大学闘争とは、かなり質的には違っているのではないかと思われます。それを「左も右も国を憂い、行動した」などと一括りにしてしまうようでは、「時代」をいささか捉えそこなうのではないでしょうか?

(注9)上記「注5」のインタビューにおいて、若松監督は、「僕がこだわっているのは、あの時代なんでしょうね。やっぱり、戦後のあの時代に何が起きたかを、きちんと描きたい」と述べているところですが(P.99)。




★★★☆☆



『映画・DVD』 ジャンルのランキング
コメント (3)   トラックバック (7)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 私が、生きる肌 | トップ | ロボット »
最近の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ご指摘ありがとうございました (杉山泰彦(やっちゅ))
2012-06-17 19:34:02
クマネズミさん、こんにちは。
 当方のブログにご丁寧なコメントありがとうございました。
 また、トラックバックの件でご迷惑をお掛けしてしまい、この場を借りてお詫び申し上げます。
 トラックバックの件は先日ブログシステムをアップデートした影響と思われますが、クマネズミさんからコメントで初めて事象に気づきました。今後詳しく調べて対処したいと思います。

 しばらくの間ご迷惑をお掛けすることになると思いますが、TBが重複して届いた場合は削除していただけますようお願いいたします。
 ご指摘ありがとうございました。

 映画とは直接関係なくて申し訳ありませんが、この場をお借りしてお礼とお詫びを申し上げます。
 今後ともよろしくお願いいたします。
全然迷惑ではありませんが、 (クマネズミ)
2012-06-17 20:24:38
「杉山泰彦(やっちゅ)」さん、早速のコメント、誠にありがとうございます。
全然迷惑ではないのですが、お言葉に従って対応させていただきます。
これからもよろしくお願いいたします。
Unknown (Nakaji)
2012-10-22 14:51:26
こんにちは♪いつもありがとうございます。

そうなんです。。富山に来られたのは先月末だったのでびっくりしました。台風のおかげというかで、交通機関がダメになったので連泊になったので、舞台挨拶ではない回とかもゲリラ舞台挨拶とか言われて出て行かれていたそうです。
パワーあふれる方だったので残念です。

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

7 トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。
11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち (佐藤秀の徒然幻視録)
公式サイト。若松孝二監督、井浦新(ARATA)、満島真之介、タモト清嵐、岩間天嗣、永岡佑、鈴之助、渋川清彦、大西信満、地曵豪、中沢青六、韓英恵、小倉一郎、篠原勝之、寺島しの ...
11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち (映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評)
'>'>文豪・三島由紀夫の衝撃的な自決とそれに至るまでを描く「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」。三島よりも時代にフォーカスしている。1960年代、三島由紀夫は「仮面の告 ...
11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち (映画とライトノベルな日常自販機)
★★★三島由紀夫が若者たちと結成した楯の会は、非戦の憲法の改正、再び天皇を神とし、天皇の軍隊による治安維持などを掲げ、自衛隊は日本の軍隊であり有事の際には自衛隊とともに敵なるものと戦うとしていました。 日本の文化は武士道であり、美しく死ぬことこそ生きる...
11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち  監督/若松 孝二 (西京極 紫の館)
【出演】  井浦 新  満島 真之介  岩間 天嗣 【ストーリー】 「仮面の告白」「金閣寺」「憂国」など、次々に話題作を発表し、人気絶頂期にあった文豪・三島由紀夫。時は学生運動全盛期。三島は文筆業の傍ら、民族派の若者たちを組織化し、有事の際には自衛隊と共に決....
11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち (ダイターンクラッシュ!!)
2012年6月3日(日) 16:00~ ヒューマントラストシネマ有楽町2 料金:1000円(Club-C会員料金) 『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』公式サイト 過激派のシンパで極左の親爺だと信じて疑わなかった若松孝二。右翼の大将の映画を撮るというので、どんな差別した...
11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち (C’est joli~ここちいい毎日を♪~)
11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち '11:日本 ◆監督:若松孝二「キャタピラー」「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」 ◆出演:井浦新、満島真之介、岩間天嗣、永岡佑、鈴之助、渋川清彦、大西信満、地曵豪、タモト清嵐、寺島しのぶ ◆STORY◆仮面の告白」「金閣...
【11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち】憂国の徒 (映画@見取り八段)
11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち    監督: 若松孝二    出演: 井浦新、満島真之介、タモト清嵐、岩間天嗣、永岡佑、鈴之助、水上竜士、渋川清彦、地曵豪、大西信満、中泉英雄、橋本一郎、よこやまよしひろ、増田俊樹、中沢青六、長谷川公彦、韓英恵、小林三...