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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

マイウェイ

2012年01月29日 | 洋画(12年)
 『マイウェイ 12,000キロの真実』を渋谷TOEIで見ました。

(1)この映画については、評価がすごく分かれるのではないかと思います。
 クマネズミは、当初、オダギリジョーが久しぶりに主演する映画(注1)だから見なくてはと思って、映画館に駆け付けたのですが、半分過ぎまでは違和感に翻弄されてしまいました。
 本作が韓国映画ということはわかっていたものの、こんなにも戦前の日本や日本人が悪者に描かれるのか、という感じですから。

 でも、オダギリジョーが主演とされているのですから、どこかで流れが変わるのかなと思って見続けました。ところが、全般にわたって、むしろ相手役のチャン・ドンゴンがすごく格好よく描かれているのです。



 となると、本作は、オダギリジョーが主演となっていますが(クレジットの扱いなど)、実は隅から隅まで韓国映画であって、チャン・ドンゴンが主演の作品と考えるべきなのではないかと思えてきます(注2)。
 そうであれば、半分過ぎまでのストーリーも、あり得ないなどと言って否定ばかりもできないのかもしれません。韓国では、日本が戦前の朝鮮において甚だ酷いことをしたと、今以て学校で教えられているようなのですから!

 さて、本作の冒頭は1948年のロンドンオリンピックのマラソンの場面ですが、引き続いて、1928年に、ソウルに赴任する父親と共にやってきた11歳の長谷川辰雄少年が、地元のキム・ジュンシク少年(注3)とかけっこを競い合うというシーンが描かれます。
 それからおよそ10年が経ち、オダギリジョーの扮する青年の長谷川が登場し、ソウルで開催されたマラソン大会に、チャン・ドンゴン扮するキム・ジュンシクとともに出場します(注4)。



 実際は、ジュンシクがテープを切ったにもかかわらず、進路妨害をしたとのデッチ上げの理由で失格となり(注5)、2位だった長谷川が優勝し、その判定に怒った朝鮮人と日本人との間で乱闘騒ぎとなり、捕まったジュンシクを含む朝鮮人は満州辺境の軍隊に投入され、ノモンハン事件(1939年)が起きます。
 その戦場に突如として青年将校として着任した長谷川(注6)は、めちゃくちゃな国粋主義者で、ソ連の戦車に爆弾を持って体当たりをしろと朝鮮人たちに対して強制するも(注7)、圧倒的なソ連戦車隊に蹂躙されてしまいます。



 それでも、辛くも生き残った長谷川とジュンシクを含む日本兵は、ソ連軍の捕虜となってシベリア捕虜収容所に送られ(注8)、そこでも朝鮮人と日本人との間で乱闘騒ぎが起き、関与者として2人は銃殺される寸前のところで、今度は独ソ戦の最前線に投入されて(1941年)(注9)、……。
 そこらあたりから、ジュンシクと長谷川との間に友情が芽生えてきて、……。
 といった具合です。

 本作は、リアルという観点から見ると、ありそうもない映像が至るところに転がっている感じがします。

 例えば、長谷川は、着任するなり、前線から部隊を退却させた日本軍の大佐に、皆の見ている前で切腹させます。
 確かに、丁度折よく刊行された『はじめてのノモンハン事件』(森山康平著、PHP新書)にも、例えば「ソ連軍の8月大攻勢で、フイ高地の指揮官だった井置栄一中佐が、独断撤退して自決を強要され、それに従ったこと」(P.314)と述べられており、自決の強要はあったのでしょう。ですが、それはあくまでもピストルによるものであって、いくらなんでも切腹(それも、皆の眼前での)など考えられません(注10)。

 また、ノモンハン事件の後、長谷川やジュンシクらは、ジュコーフスキーで戦われていた独ソ戦の真っ只中に投入されます(注11)。その悲惨な戦場を生き延びた長谷川とジュンシュクは、目の前に聳えるとてつもなく高い山を越えてドイツ側に向かいます。
 地図で調べると、ジュコーフスキーはモスクワに近いところにあって、ドイツへ向かう方角に映画で描かれているような峻厳な山があるようには見えません。それに、仮にそんな山が存在するとして、冬期と思われる時期に、食料を携行せず、耐寒装備も何ら持たずに(おまけに、長谷川は負傷しているのです)、山を越せるなんて、と思ってしまいます。

 すが、こうした点をいくら論っても意味がないでしょう。
 製作者側は、おそらくは、リアルという面よりもむしろ、別の面を強調しようとして、重々分かっていながらも意図的にそうしたシーンを挿入しているものと考えられるからです。
 例えば、日本軍の大佐の切腹は、日本軍が持っていた非合理性・残虐性(あるいは、戦争が引き起こす狂気でしょうか)を強調するための演出であり、またジュコーフスキーの前面に聳える高山は、長谷川とジュンシクの前途に待ち受ける計り知れない困難さを表現しているのだ、などというように。

 更にまた、この映画からは、戦時中の日本をどのように韓国の人たちは見ているかがある程度分かりますし、また男の友情といったものもよく描かれているといえるかもしれませんし、何よりも戦闘場面の迫力はとても日本映画ではうかがえない凄さです。

 としても、やっぱり前半の描写のせいで、そんなことは有り得ないと批判すべきではないと分かっているつもりながらも、なかなかこの映画を高く評価する気にもなれないといったところが実情です。

(2)ところで、本作は、“真実”の物語(“based on a true story”)であることが売り文句になっています(注12)。
 確かに、3つの最前線で戦った男が実在したのでしょう(注13)。でもその男は、映画を見る前までクマネズミはそう思っていましたが、日本人ではないと考えられます。形式的には戦前では日本人ながらも、実は朝鮮人なのでしょう(内地出身者なら、その実名が明かされているはずですし)(注14)。
 ただ、韓国映画において、そういう男をまともに主役とすると、今の韓国がとっている見解と齟齬を来す恐れがあるところから(志願して日本陸軍に入り、積極的に日本人になろうとした男のようにみえますから)(注15)、本作ではその男を、日本人(長谷川)と朝鮮人(ジュンシク)とに人格を分割して描き出そうとしたのではないか、と思っています。
 そして、二つに分割されて描かれていた人格が一つのものになった姿が、冒頭とラストで描かれている「J.S.KIM」とランニングシャツに記されている日本人ランナー(オダギリジョー)ではないでしょうか(注16)?

 さらには、“true story”というのも、“1人の男が3つの最前線で戦った”という点についてだけで、それ以上のことでこの映画で描き出されているものは、上でも述べましたように、すべてフィクション、あるいは幻想とみなすべきではないかと思われます。
 上記の「J.S.KIM」とランニングシャツに記されている日本人ランナーについても、舞台とされている1948年のロンドン・オリンピックでは、日本人の出場はまだ認められてはいませんでした。それに、仮にゼッケン「265」を付けて走り、最後でラストスパートをかけるのが韓国人選手だとしても、実際に上位に入ったのはアルゼンチン、イギリス、ベルギーの選手でした。というところから、このランナーは、霊的なものと見なすべきではないでしょうか?

(4)渡まち子氏は、「満州、ソ連、ドイツ、フランス・ノルマンディーと、どれほどの危機に瀕してもしっかり生き残る展開には苦笑するのだが、歴史の大きなうねりに翻弄されながらも、生き抜く生命があるというメッセージは力強い」などとして65点をつけています。
 他方で、前田有一氏は、「主軸となる、日本人と朝鮮人の、最初はいがみ合っていたものの最後は友情で結ばれるドラマも、この歴史描写では台無しである。監督が本当に描きたかったのはこちらなのだと思うが、日韓に中立的な描写ができない今の韓国社会の偏向ぶりが、彼の演出の腕を縮こませてしまった。この映画は韓国資本100パーセントだが、もし韓国以外で同じ映画を作ったならば、ここまでひどくはならなかったのではないか」として40点をつけています。



(注1)オダギリジョーは、最近では、『悲夢』(2009年、韓国)とか『Plastic City』(2009年、香港)といった外国映画に出演することが多くなっている感じで、邦画では『奇跡』くらいでしょうか。

(注2)登場するヒロインが思慕の対象とするのがヒーローであり、それが主役だとすれば、長谷川には一切そういう要素は見られず、むしろジュンシクにはそれに近い場面が設定されていることから、やはりジュンシクが主役と考えられるところです。
 すなわち、本作に登場する唯一といってもいい女優(ファン・ビンビン)が、戦闘機に追いかけられているジュンシクを助けようと、自分の身を投げうって、地上から戦闘機めがけて射撃するシーンが描かれます。
 なお、ファン・ビンビンが扮するシュエライは、いくら天才的な狙撃手だとしても、そして、いくら日本兵によって一家が蹂躙された過去があるからといっても、朝鮮人兵と一緒になって駐屯しているにもかかわらず、その中から日本兵だけを選択して遠くから狙撃して殺してしまうなどという芸当ができるものなのでしょうか?

(注3)長谷川少年の祖父(憲兵隊司令官)の家の使用人の息子。

(注4)長谷川は、記者会見の席上で、「車引きが自分たちに勝つことが出来るのか」と、車引きのジュンシクを挑発します。その背景には、祖父を爆死させた朝鮮人に対する深い憎しみがあるのでしょう。
 他方、そのテロ事件で、関係者としてジュンシクの父親は酷い拷問を官憲から受けたうえで、使用人として働いていた家からも追い出され、その結果、ジュンシクは今や車引きになっているわけです。
 そして、ジュンシクの家には、ベルリンオリンピック(1938年)のマラソンで優勝したソン・ギジョン(孫基禎)が、マラソン出場許可証を持って現れ、「車引きの凄さを見せてやれ」とジュンシクを励まします。

(注5)映画では、むしろ、日本人選手がジュンシクの進路を妨害したりします。

(注6)最前線に登場する長谷川は、なんと長髪なのです!でも、相手役のジュンシクも長髪ですから、問題ないでしょう。

(注7)長谷川は、体当たりを敢行しないで逃げ帰ってくる兵士を、背後から撃ち殺したりします。

(注8)ノモンハン事件の際に、長谷川の部下だった朝鮮人イ・ジョンデが、すでに捕虜の班長となってソ連の監視将兵に取り入っているのです!

(注9)1941年6月の独ソ戦当初については、昨年4月30日のエントリの(2)で触れています。
 なお、Wikipediaの該当項目によれば、ソ連側は、「10月以降、満州やシベリア地区の精鋭部隊をモスクワ周辺に投入した」とのことで、あるいは、長谷川やジュンシクらもその中に混じっていたとされているかもしれません。

(注10)ノモンハン事件については、2009年7月19日のエントリでも少しばかり触れております。
 なお、日本軍がソ連軍の機械化部隊に徹底的に撃破されたにもかかわらず、軍部はその事実をひた隠しにして、兵器の近代化を推進することなく旧式の武器を精神力で補うという姿勢で大東亜戦争に突入してしまったから、結局は負けてしまったのだ、云々という説明が従来からヨクなされてきて、それはそうに違いないと鵜呑みにしてきたところ、ソ連崩壊後、当時のソ連軍の内情に関するヨリ詳しい情報が公表されるようになってきて、どうも日本軍は簡単に撃破されたのではなく、むろん勝利したわけではないにせよ少なくとも引き分けくらいではなかったのか、と言われるようになってきました(半藤一利氏の『ノモンハンの夏』など)。
 ただ、日本軍は勇猛に戦ったのだとしたら、なぜその事実を隠蔽してきたのか、また新たな謎が出てきてしまいますが。

(注11)ソ連軍からは粗末な兵器しか渡されなかった日本人兵や朝鮮人兵は、ドイツ軍の餌食となって次々に撃ち殺されていきますが、収容所で班長を務めていたイ・ジョンデは、機関銃にめちゃくちゃに撃たれても、ジュンシクに抱きかかえられるまでは簡単には死にません。
映画で中心的な位置を占める登場人物は、時代劇そっくりの壮烈な死に様がどうしても必要というわけでしょう!

(注12)本作の邦題には「12,000キロの真実」とあり、劇場用パンフレットのIntroductionも、「1枚の写真から始まった真実の物語」とのタイトルがつけられ、同パンフレットの裏表紙にも「based on a true story」とあって、どこまでも“真実”であることを強調している感じです。

(注13)劇場用パンフレットのIntroductionでは、「ノルマンディー上陸作戦後、アメリカ軍に捕らえられたドイツ軍捕虜の中から東洋人が発見された」と述べられています。
 なお、Wikipedeiaの該当項目によれば、「Dデイ当時のフランスには約200個大隊もの東方大隊が存在しており、この約半分はフランスに駐屯していたドイツ国防軍の師団に配属されて」おり、その「東方部隊」とは、「主にドイツより東方に位置する国からの出身者で構成された部隊」であり、「戦局が悪化するにつれ占領区域からの強制徴募や捕虜収容所から志願者を募ると言う方法で部隊が編成」されたとされていますから、その中に長谷川とジュンシクが混じっていたとしてもおかしくはないかもしれません。

(注14)ベルリンオリンピックのマラソンで優勝したソン・ギジョンは、朝鮮生まれですが、「日本代表」として出場しました(Wikipediaの記事によれば、民族意識が相当強かった人物のようです)。

(注15)『ほんとうは、「日韓併合」が韓国を救った!』(松木国俊著、ワック、2011年9月)によれば、「朝鮮人特別志願兵制度」が昭和13年度(1938年度)より実現して、「物凄い数の志願者が殺到した」とのこと(P.238)。
 ついで、昭和19年(1944年)の4月に朝鮮でも徴兵令が実施されました。
 時期的にも、さらにまた同書によれば、「徴兵令で召集された朝鮮人兵士は訓練中に終戦を迎えたために結局、戦地におくられることはありませんでした」とのことでもあり(P.240)、仮にノモンハン事件に朝鮮人兵士が参加していたとしても、志願兵だったことになり、ましてジュンシクのように刑務所に入っている者が戦地に送られたとは考えられないのでは、と思われます。
 なお、この著書は、決して反韓国キャンペーンの本ではないと思われるものの、「朝鮮が自ら近代化を遂げることは、残念ながら不可能」だったとして、その理由をいくつか掲げていますが、仮にそうだとしても、だからといって「朝鮮併合」が直ちに正当視されるとは思えないところです。

(注16)実況中継のアナウンサーは、「韓国のキム・ジョンシク」と叫びます!





★★☆☆☆






象のロケット:マイウェイ 12,000キロの真実
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3 コメント

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Unknown (けん)
2012-01-30 09:52:30
TBさせていただきました。
またよろしくです♪
Unknown (KLY)
2012-01-31 17:44:36
良くも悪くもやっぱり韓国映画ということに尽きると思うんですよ。で、今回は必ずしも監督の意図したとおりに受け取られなかった部分もあるのではないでしょうか。
仰るように無理を承知の描写は全て日本軍の悪逆非道さを描くためでしょうし、それは韓国人からしたら事実関係は違っていても大枠あっているということなんでしょう。更にこの過激な戦闘シーンなどは邦画では中々難しいもので、このあたりにも韓国映画らしさを感じます。
ただ一方でジュンシクを物凄く善人に描きすぎたとも思うのです。これまた韓国人にしたら当然のことなのだと思うのですが、ある意味贔屓の引き倒し状態とでもいいますか、単調なまでに善人過ぎて、悪逆非道な日本兵から親友へと変わって行くオダギリジョーに比べると、チャン・ドンゴンの印象はどうしても薄くなっていたように思えました。結果的に全体ではそう意図したのかどうかは解りませんが、オダギリジョーの存在感がやたらと強くなってしまっています。個人的には別に構いませんけども、韓国で公開される分にはどうなのかなぁと少し心配になりました。
興収はいかに (クマネズミ)
2012-01-31 22:31:56
KLYさん、TB&コメントをありがとうございます。
そうですね、韓国の人が見たら、日本とは逆に、前半は拍手喝采で、後半になると静かになってしまうかもしれませんね。そんなこんなで、興収はどちらの国でも余り見込めないかもしれません(いったい25億円の製作費を回収できるのでしょうか?)!

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 素晴らしい!  そう素直に感嘆した。  人々の対立と葛藤、壊れる友情と生まれる友情、そして彼らを取り巻く数奇な運命。物語は波乱に富んで飽きさせないし、喜怒哀楽すべての感情を揺さぶるエピソードに...
マイウェイ 12,000キロの真実 (こんな映画見ました~)
『マイウェイ 12,000キロの真実』---MY WAY---2011年(韓国)監督:カン・ジェギュ出演:チャン・ドンゴン キム・ジュンシク オダギリジョー 長谷川辰雄  「シュリ」「ブラザーフッド」のカン・ジェギュ監督がチャン・ドンゴンとオダギリジョーを主演に迎えて贈...
マイウェイ 12,000キロの真実 (映画とライトノベルな日常自販機)
★★★★★ “対立するものの間に友情が育つまでには長く険しい道のりが必要なのか” 祖父の死で辰雄は朝鮮人へ憎しみの感情を抱くようになります。このことが引き金になったかのように、映画の中では日本人による朝鮮人差別がエスカレートしていきます。選考会でのジュン...
マイウェイ 12, 000キロの真実 本年度ワースト1決定かな? (こんな映画観たよ!-あらすじと感想-)
 今日は、2011ベスト10をお休みして、正月から劇場で観た映画を紹介したいと思います。先ずは、昨日観た「マイウェイ 12, 000キロの真実」を紹介します。 【題名】 マイウェイ 12, 000