映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

幼な子われらに生まれ

2017年09月19日 | 邦画(17年)
 『幼な子われらに生まれ』をテアトル新宿で見ました。

(1)浅野忠信の主演作ということで、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭は、遊園地の入口。
 親子連れが何組も見受けられ、子どもたちが「パパ、早く」などと言って走ったりしています。
 浅野忠信)は、しゃがんで靴の紐を結び直して後ろを振り向くと、沙織(注2:鎌田らい樹)が「パパーッ」と言いながら歩いてきます。
 信は「お早う」「また大きくなったな」と応じると、沙織は「157cm」と答えます。
 さらに沙織が「パパ、元気だった?」と訊くと、信は「元気だよ」と答えます。
 2人は遊園地に入って、メリーゴランドやゴーカートに乗ります。

 遊園地内の池の前にあるテーブル席に2人は座ります。
 沙織が「パパと会うと、いつもお昼はホットドッグ」と文句を言うと、信は「その方が夕ご飯に期待が高まるでしょ」と応じます。
 笑顔で沙織を見ながら、信が「本当に大きくなったね」と言うと、沙織は「だって小6だから」と答え、更に信が「あっと言う間だった」と言うと、沙織は「薫ちゃんもそうでしょ?」と尋ねます。それに対し信は、「毎日会っていると、そういう気がしない」と答えます。

 次いで、観覧車のキャビンの中。
 信が「沙織、弟か妹ができたらどうする?」「もしもできたら反対する?」と尋ねると、沙織は「反対しない」「あたしが余りになっちゃうんだ。でも、お父さんは私を余りになんかしない」と答えます。

 次の場面で信は、途中でケーキを買ってから、通勤電車に乗って、随分と高いところにあるマンションの自宅に戻ります(注3)。
 信が鍵でドアを開け、ポストから新聞を取り出すと、恵理子新井美羽)が「パパ、お帰り」と出てきて、「早く来て」と信の手を引いて、子供部屋に連れていきます。
 そして、「上手でしょ?」と言いながら、一枚の絵を見せます。そこには「おとうと」「いもうと」と書いてあり、2人の子供が描かれています。
 信が、出てきた奈苗(注4:田中麗奈)に「言っちゃったの?」と尋ねると、奈苗は「言わない方が良かった?」と聞き返します。
 恵理子は「どっちかな、赤ちゃん。男の子かな、女の子かな」とはしゃぎ、「えり、こっちが良い」と男の子の絵の方を指します。
 信は「弟が良いの」と応じ、さらに「下駄箱の上にケーキがあるよ」と言います。

 テーブルでは、奈苗と恵理子がケーキを食べています。
 信は、「南沙良)、まだ食べないのか?」と子供部屋の方に向かって叫びます。
 奈苗は「ショックだったみたい」、「やっぱり、言わなかった方が良かったみたい」と言います。
 信はさらに、「薫、ビール飲まないかい?乾杯しよう」と言いますが、奈苗は「何に乾杯するの?」と訝しがり、薫からの返事はありません。

 こんなところが本作の始めの方ですが、さあ、これからどのような物語が展開するのでしょうか、………?

 本作は、バツイチの主人公が、2人の子供を持つ女性と再婚して、新たに子供が生まれる事態になった時、離婚した妻に引き取られた子供をも含めて、子どもたちと主人公の関係がどうなるかを描いています。それを通じて、主人公と現在の妻や元妻、現在の妻の元夫といった人たちとの関係が少しずつ変化する様も描き出され、ホームドラマではありながらも、現代社会の一端をうまく捉えている感じがして、興味深いなと思いました。

(2)本作の脚本を荒井晴彦氏が書いたということを知り(注5)、「荒井氏は、こんなホームドラマそのものみたいな作品も書くんだ」と驚いてしまいました。
 と言って、クマネズミは、荒井氏の作品をそんなに知っているわけではありません。
 ただ、この拙エントリの(2)でも申し上げましたが、『さよなら歌舞伎町』とか『海を感じる時』のように性的シーンが多い作品でないとしたら、『戦争と一人の女』や『共喰い』のように体制批判的・反戦的な要素が加味された作品になるのかな、と思って映画館に出かけたものですから、「アレッ」と思ったところです(注6)。
 とは言え、本作においても、奈苗の前の夫で、薫や恵理子の父親である沢田宮藤官九郎)の職業が、自衛隊の給食を担当する調理師であり、信は、横田基地のゲート前で沢田と会ったりするのです(注7)。
 でも、そのシーンはごく短く、そのことが本作において何らかの意味を持っているようには思えません。

 本作で専ら描かれるのは、再婚相手の奈苗に子供が生まれることがわかった時に、主人公の信及びその関係者がどのように振る舞い、そしてどのように変化するのか、ということでしょう。

 主人公の信は、奈苗に自分の子供が生まれることに、そんなに積極的ではなさそうです。
 例えば、上記(1)に書きましたように、沙織に対し、「今度、子供が生まれるんだけど」と断定的に言わないで、「もし子供ができたら、反対する?」などとかなり曖昧な言い方をしていますし、奈苗が、薫や恵理子に妊娠を喋ってしまったことについて、「言わない方が良かった?」と尋ねたのに対し、「だって、まだ、…」と逃げるような返事をします(注8)。

 これに対し、奈苗の方は、信との絆がしっかりすると考えたのでしょう、産むことにずっと前向きです。上記(1)に書いたシーンの直後のシーンで、奈苗は信に対し「産んでもいいのよね」と念押しをします(注9)。

 さらに、幼い恵理子は手放しの喜びようですが、小6の薫は、丁度初潮を迎えたこともあり(注10)、信に対し酷く反抗的になります。例えば、薫は信に、「あたし、この家、嫌だ」「(実の)パパと会いたい」「関係ない人と一緒にいたくない」などと言います(注11)。



 また、信の前の妻・友佳寺島しのぶ)に、信が奈苗の妊娠を告げると、友佳は「沢山、後悔することがあった」「赤ちゃん、堕ろさなきゃよかった」「沙織、産まなきゃよかった」などと言います。

 これらのことを背景に一つの山場が描き出されます。
 沙織の継父・江崎の臨終のシーンです(注12)。
 入院先の病院に沙織を乗せた車が着き(注13)、沙織が病院の中に入っていくと、信は、同乗していた奈苗に「一緒に行ってあげなさいよ」と言われて、沙織を追いかけます。
 それで追いついた信に、「お見舞いに行っても、泣けない」と言っていた沙織は、「あたし泣ける」「あたしのお父さんに会って」と言い、信も病室に入ります。



 江崎の手にすがって泣いている沙織の様子を見て、信は江崎に対して、「沙織を育ててくれて有難うございます」「大好きでいてくれて有難うございます」と言うのです。

 もしかしたら、信は、沙織と江崎との関係を目の当たりに見て、それまでの自分の薫や恵理子に対する接し方が甘かったのではないか、自分としては随分と頑張ってきたものの(注14)、やっぱり血の繋がらない子供として見てしまっていたのではないか、などと気がついたのではないでしょうか?
 それで、薫や恵理子に接する時に無意識的に装っていた鎧が、信から消え去ったのかもしれません。
 そして、そうだからこそ、約束を破って家にいた薫(注15)に信が相対した時、薫は信を受け入れたのではないか、と思います。

 とにかく、本作全般に渡って、信を演じる浅野忠信の演技が素晴らしいなと思いました。
 職場では、配送センターのようなところでロボット同然の仕事をして、上司から成績を上げてもらわないと困ると言われ、家に戻ると、女3人が待ち構えていてやいのやいの言う、という息も継げないような生活をしているサラリーマンを演じているのですが、その生活ぶりがとてもリアルに見る者に迫ってきます。

(3)渡まち子氏は、「観ている間はずっと息苦しいのだが、悩んだり失敗したり、傷ついたり傷つけられたりしながら、懸命に家族になろうとする不器用な人々の姿には、感動すら覚える」として、65点を付けています。
 日経新聞の古賀重樹氏は、「原作は21年前に書かれた重松清の小説。社会の空気も夫婦の力関係も微妙に変わったが、脚本の荒井晴彦、監督の三島有紀子はそんな変化を取り込み、現代の物語に仕上げた。女の寸鉄は三島の手柄。そこから波立つ男の感情を繊細に表現する浅野の演技力に驚いた」として★4つ(「見逃せない」)を付けています。
 金原由佳氏は、「(三島有紀子監督は、)主人公、田中信が直面する「中年期の憂鬱」に伴う苦みを真正面から観客に提示する。それは、脚本家、荒井晴彦がまぶす毒に加え、浅野忠信による暴発寸前の、耐える夫像、父親像の表現力が大きい」などと述べています。



(注1)監督は三島有紀子
 脚本は、『この国の空』の荒井晴彦
 原作は、重松清著『幼な子われらに生まれ』(1996年作、幻冬舎文庫)。

 なお、出演者の内、最近では、浅野忠信は『沈黙-サイレンス-』、田中麗奈は『葛城事件』、宮藤官九郎寺島しのぶは『ぼくのおじさん』、水澤紳吾は『怒り』、池田成志は『ちょっと今から仕事やめてくる』で、それぞれ見ました。

(注2)沙織は、信と、別れた妻・友佳との間にできた子供(小6の薫と同い年なのでしょう)。信は、年に4回、会うことになっています。

(注3)本作で映し出されるマンションは、このブログ記事によれば、「グランドメゾン西宮名塩」のようです。ただ、本作全体は、東京を舞台にしていると思います。
 なお、信が通勤で乗り降りする駅については、下記の「まっつぁんこ」さんのコメントと、それに対するクマネズミのコメントをご覧ください。

(注4)奈苗は、信の再婚相手で、結婚する時、奈苗は薫と恵理子の2人の子供を連れていました。

(注5)雑誌『映画芸術』2017年夏季号(第460号)に掲載の原作者・重松清氏と脚本家・荒井晴彦氏の対談において、荒井氏は「(原作が出版された翌年の)98年に初稿を書いた」と述べています。
 なお、つづけて荒井氏は、「あの時は松岡錠司とやろうとした」「主人公は役所広司」「半家庭主義者の父親は柄本明で考えていた」と述べています。

(注6)尤も、本文で触れた拙エントリの(2)でも書きましたように、『この国の空』では、かなりこうした傾向は後退しているように思いました
 また、『大鹿村騒動記』では、ここで挙げた2つの傾向は全く見当たりません。あるいは、阪本順治監督が脚本作りに加わっているためでしょうか?

(注7)原作小説では、沢田の職業は建設会社の社員のようですが、荒井氏が脚本を書く際に、自衛隊関係者に改めています。
 さらに、横田基地は米軍基地ではないのかと思っている信に対して、沢田は、米軍再編に際して、府中基地から航空自衛隊が移転してきていること(2012年)を説明します。
また、空には、輸送機が飛んでいます。

(注8)奈苗が「おしっこに蛋白が出た。妊娠高血圧症になる恐れがあるって医者が言っていた。どうすれば良い?」と尋ねた時、信は、「俺に聞かれてもわかんない。堕ろすしかない」、「子供堕ろして別れようよ」とまで言います。

(注9)奈苗の念押しに対し、信は「うん」と頷くばかりです。

(注10)恵理子が信に、「お姉ちゃん、お腹が痛いって、病気なの?」と訊くと、信が「病気じゃなくてもお腹が痛くなることがあるよ」と答えるシーンがあります。

(注11)信は、薫の父親の沢田にお金を支払ってまで、薫と会わせようと段取りを付けます(あるデパートの屋上で沢田が薫と会う日時を取り決めます)。



(注12)友佳の今の夫・江崎は大学教授。ただ、まだ40代にもかかわらず末期がんとのこと。

(注13)沙織が信と会っている時に、友佳から沙織に江崎の危篤の知らせが入り、ただ、雷雨のために電車が止まってしまったために、信が奈苗に連絡を取り、車で迎えに来てもらい、その車で病院に向かいます。

(注14)信は、一家団欒用に帰宅途中でケーキを買ってきたり、薫が「(実の)パパに会いたい」と言えば、沢田と会うよう段取りをつけたり、薫が部屋に鍵をつけてと要求すれば鍵を取り付けたりするなど、精一杯頑張っているのですが。

(注15)上記「注11」で述べたような経緯があったにもかかわらず、薫は、決められた場所に当日姿を見せませんでした(そのことは、信がその日時にデパートの屋上に行ってみてわかります)。
 薫は、一緒に暮らしていた当時、沢田からDVを受けていますから、実際は会いたくなかったのでしょう。ただ、信が沙織と定期的に会っていることや、信に対する反発心から、「自分も(実の)パパに会いたい」と言ったのでしょう。



★★★★☆☆



象のロケット:幼な子われらに生まれ

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2 コメント

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四方津 (まっつぁんこ)
2017-09-20 07:13:48
あの駅は四方津で、新木場まで毎日通うのはムリだろと思いました(^^)/
Unknown (クマネズミ)
2017-09-20 20:46:09
「まっつぁんこ」さん、TB&コメントを有難うございます。
信が乗り降りする駅が「四方津」だとすると、それは山梨県の駅ですから、配送センターがあるという「新木場」まで毎日通うのは、あるいは無理かもしれません。
ただ、「四方津」駅は、石井裕也監督の『ぼくたちの家族』でも使われており、その作品でも、父親(長塚京三)は東京に通っているという設定でした。実際にも、四方津から通勤快速で新宿まで73分で、新宿から新木場まで36分とすれば、2時間弱で行けますから、無理をすれば通えないこともないかもしれません。

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