映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

人生はビギナーズ

2012年02月21日 | 洋画(12年)
 『人生はビギナーズ』を日比谷のTOHOシネマズシャンテで見ました。

(1)最近あちこちの映画で見かけるユアン・マクレガーメラニー・ロランが共演するというので、見に出かけました。

 本作の舞台はロサンジェルス。そして、またまた「癌」を巡るものです(注1)。
 といっても、本作の場合、そのことがメインテーマではなく、むしろ、時点の違ういくつかのお話が、入り組んだ形で映し出される構成になっています。

 一つのお話は、母親が亡くなった後、75歳になる父親ハルクリストファー・プラマー)が、自分は昔からゲイだったとカミングアウトし、これからはゲイに生きると宣言し、その周りにはこれまでとは違った男友達が現れるようになります(注2)。

 息子オリヴァーユアン・マクレガー)は、酷く驚きつつも、だとすると父親と母親との関係は何だったのかということで(注3)、自分が小さかった頃の家庭の様子などを回想します(美術史家の父親は、どうも余り家にはおらず、母親は、息子と二人で不満を募らせていたようです)。

 他方で、この父親は、末期癌であることも宣告されます。そのことを知った息子は、父親を分かろうとして、父親につききりになります。といっても、父親は、寝たきりというのではなく、かなり活発に動き回るのですが。

 その後、父親は亡くなりますが(注4)、オリヴァーは、彼のことを回想しつつ、なかなか深い悲しみから抜け出せないまま落ち込んでいたところ、あるパーティーでアナメラニー・ロラン)に遭遇して(注5)、2人は恋に陥ります(注6)。

 こうした中に、父親の愛犬アーサー(ジャック・ラッセル・テリア:今や息子が面倒を見ています)がいろいろ意見を言ったり、またオリヴァーはアートディレクターなのですが、その描くユニークなイラストが何度も画面に登場したりします(肖像画とか『わが悲しみの歴史』のイラストなど)。

 全体としてはかばかしく物事は進展せず、時間が緩慢に過ぎて行く感じですが、これこそが「人生」だという雰囲気が漂っていて、なんともいえない味のある映画になっているなと思いました。
 ただ、父親ハルとオリヴァーの恋人アナとの接点がないために、二つの物語が切れてしまっているのが難点といえるかもしれません。それも、75歳での突然のカミングアウトという点が強いインパクトを持っているために、オリヴァーとアナとの恋愛を巡るお話が何となくありきたりな感じがし、アナの影が薄くなってしまうような印象を持ちました。とはいえ、これも、オリヴァーが主人公の映画なのですから、かまわないといえばかまわないのですが。

 主演のユアン・マクレガーは、『ゴーストライター』とか『ヤギと男と男と壁と』と同様、この作品でもその持ち味を遺憾なく発揮していて、彼が出演している作品なら間違いないだろうという予想は今回も外れませんでした。



 また、父親役のクリストファー・プラマーですが、『終着駅』においてトルストイに扮した重厚な演技が印象的ながら、本作では、軽妙洒脱な演技が冴えていて、その演技の幅の広さには驚かされます。
 そのためもあるのでしょう、今度のアカデミー賞では助演男優賞候補としてノミネートされています(注7)。



 さらに、メラニー・ロランです。このところアチコチの映画で見かけますが(『黄色い星の子供たち』や『オーケストラ!』、『イングロリアス・バスターズ』)、この映画でもその魅力を画面いっぱいに振りまいています。ですから、きっと23歳くらいなのかなと思って家に帰って調べてみたら、何ともうすぐ29歳とのことなので驚いてしまいました(注8)!



(2)本作は、このところ邦画でよくみかける父と息子との関係(注9)に焦点が当てられています。と言っても、『リメンバー・ミー』のように父と息子との間で葛藤があるというわけでもなく、父の病気に際して、それまで疎遠にしていた息子が父親に接近するというにすぎませんが。
 それに、父親ハルの方は、新しいゲイの関係の方にのめり込んでいて(注10)、オリヴァーはその様子を遠巻きに眺めざるを得ないこともあります。
 それでも、寝ているハルにいろいろな本(その中には、日本の石庭の写真が挿入されているものもあります:ハルは美術史家ですから)を読み聞かせるシーンがあり、こういったことがあれば(注11)、父親がなくなった後オリヴァーがなかなか立ち直れないでいるのも、観客として分からないわけではない感じになります。

 逆に、そうした関係があっがために、オリヴァーは、わざわざ恋人アナを自分の家に連れてきて住まわせたりするものの、結局は彼女との別れを選択してしまいます(注12)。
 どうも、オリヴァーの方が、父親を亡くした悲しみの中に埋没したまま抜け出せずにいて、それを察したアナが身をひいた感じもあります。

 総じて見ると、オリヴァーは、38歳になるまで独身でいて、イラストを描いているだけの酷く地味な生活を送っていますが、あるいは父親ハルは、そうした息子を励ます意味もあって、大々的にカミングアウトをして、家で開かれるゲイ仲間とのパーティーなどでも、至極はしゃいだ姿を息子に見せようとしたのではないでしょうか?
 そういった父親の気持ちを受け取ったオリヴァーは、アナとなんとかうまく一緒の生活を送れるようになるのかもしれません(注13)。

(3)渡まち子氏は、「人生に臆病な主人公が知る“始まり”を描く秀作「人生はビギナーズ」。愛犬アーサーが超がつくほど最高!!」として75点をつけています。
 また、前田有一氏は、「コメディー風味ではあるが、監督の実話というだけあって思い入れが非常に強く、終盤に行くほど重さを感じてしまうのが難点か。さらに軽快に、ユーモラスに描いてもよかったように思う。とはいえ、国や人種を超えた普遍的なメッセージを描いた感動的な作品であり、大人の観客を納得させるだけの説得力もある」として60点をつけています。




(注1)最近のものでは、『私だけのハッピー・エンディング』とか『50/50』。

(注2)父親がこの宣言を行ったのは1999年で、母親はその4ヶ月前に亡くなっています。父親は、「これからは、その方面をつきつめたいのだ、実践したいのだ。ゲイのクラブにすでに入っている」などと話します(なお、父親によれば、15歳ですでに自分はゲイだと自覚したとのこと)。

(注3)両親は1955年に結婚し、その結婚生活は44年も続いたとされています。
 父親によれば、自分から母親に求婚し、ただ自分がゲイであることを言うと、「かまわないわ、治してあげる、どんな努力でもする」と彼女が言ったとのこと。さらに、彼は、「自分としても、44年間何とか治そうとしたし、ソコには愛があった。でも彼女には物足りなかったようだ」などと話します。
 彼女の方も、「気分が晴れないときは、大声で叫ぶの」などとオリヴァーに言ったりします。

(注4)カミングアウト宣言から4年後に亡くなりました(2003年とされています)。オリヴァー38歳。映画の冒頭は、父親の遺品をオリヴァーが整理している場面で、不要となった薬品を便器に捨てているところが描かれたりします。

(注5)父親のハルが亡くなってから2ヶ月後のこと。
 仮装パーティーで、オリヴァーはフロイト博士に扮していたところ、アナがその患者として「寝椅子(Couch)」に横になるのが出逢いです。アナはオリヴァーに、「悲しいのならどうしてパーティーにきたの?」と尋ね、彼は「隠していたつもりが、どうして分かった?」と訝しがりますが、アナは仮装の奥のオリヴァーの目を見たようです(ただし、その時アナは咽頭炎にかかっていて声が出ないため、筆談によっています)。
(なお、フロイトといえば、『マーラー 君に捧げるアダージョ』が思い出されるところです)

(注6)アナ自身も、父親のことで問題を抱えていて(「自殺をする」といった電話が頻繁にかかってきます)、なんだか2人は似た者の雰囲気を持っているのです。

(注7)評論家の粉川哲夫氏は、アカデミー賞を予想する記事において、本作における彼の演技につき、「彼自身はストレイトらしいが、ときとして見せる目の「あやしい」輝きが、この作品ではうまく活かされていた。まあまあ、達者な演技ではある」とし、「「功労賞」的な評価に一味違うアルファーが加味しているという点で、クリストファー・プラマーが一番有利である」と述べています。

(注8)以前なら、こうした所にはスカーレット・ヨハンソン(27歳)が登場したかもしれないな、そういえば、『それでも恋するバルセロナ』(2009年)以来彼女を見かけていませんが、どうなってしまったんでしょう〔尤も、マット・デイモンと共演の『幸せへのキセキ』(We Bought a Zoo)が、6月に公開されるようですが(エル・ファニングも出演するとか)〕。

(注9)少し前なら『ちゃんと伝える』とか『プリンセス トヨトミ』、最近では、『麒麟の翼』とか『ヒミズ』といったところでしょうか。

(注10)なかでもアンディとの中が深くなり、父親は家に彼を住まわせるまでになります。
 ただ、父親は、自分が末期癌であることをアンディに言えず、オリヴァーに依頼しますが、そのオリヴァーも言い出せませんでした。

(注11)父親ハルは、「お前と親密になりたかった」とオリヴァーに行ったりします。

(注12)アナがてっきりニューヨークにいるもの思って、その後を追ったところが、ニューヨークの家に彼女がいなかったものですから、オリヴァーはアナに電話を入れます。すると、アナはロスに居たままだったとのこと。その時の電話の会話では、アナはオリヴァーに対して、「どうしてあなたは、いつも私を去らせようとするの?」と問い質し、それに対して、オリヴァーは、「何だかうまくいかないような気がして」と答えます。

(注13)ニューヨークから戻ってきたオリヴァーのところへアナがやってきます。オリヴァーは、アナに対して「なんとか試してみよう!」と言って、エンデイングとなります。



★★★☆☆






象のロケット:人生はビギナーズ
ジャンル:
映画(DVD)
キーワード
オリヴァー 人生はビギナーズ カミングアウト クリストファー マクレガー ニューヨーク アカデミー賞 ハッピー・エンディング スカーレット・ヨハンソン それでも恋するバルセロナ
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