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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

源氏物語―千年の謎―

2012年01月06日 | 邦画(12年)
 『源氏物語―千年の謎―』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)本作では、原作小説(注1)に従って、光源氏を中心とする純然たるフィクションの物語と、紫式部を中心とするいわば“映画的”な「現実」の物語とが交錯して描かれていて、その狙い自体は随分と興味をひかれるところです。ただ、それが狙い通りにうまく仕上げられているか、という点になるとイマイチの感が否めません。

 光源氏生田斗真)の物語である『源氏物語』はよく知られているところ、本作においては、それは藤原道長東山紀之)が紫式部中谷美紀)に命じて書かせた、ということになっています。



 というのも、一条天皇にできるだけ長い時間自分たちの邸宅(土御門邸)に滞在してもらって、娘の彰子に男の子を生んでもらいたい、そのためには天皇が虜となってしまうほど面白い小説を式部に書いてもらうに如くはない、と道長が考えたから、となっています。
 道長は、当時大層貴重品とされた唐からもたらされた紙を式部に与え、彼女はそれを使って物語を書き始めます。

 映画で描き出される光源氏の物語は、実際の『源氏物語』と同様、桐壺の更衣真木よう子)の話から始まるところ、六条御息所田中麗奈)が、光源氏が自分のことを顧みなくなったとして、生霊となって夕顔芦名星)や、光源氏の正妻・多部未華子)に取付く場面がクライマックスと思われます(注2)。



 そして、まさにここらあたりが、「現実」の世界における式部と道長との関係を暗示しているのでしょう。
 というのも、本作の冒頭において、式部は道長と一度契りを結んでしまうものの、なおかつ式部がその時の思いをズット胸に持ち続けているように見えるにもかかわらず、道長との関係はそれっきりになってしまいますから(注3)。
 さらには、映画で描かれる『源氏物語』の中にも登場する安倍晴明窪塚洋介)が、「現実」の世界において、道長に対して、式部が書き続けるのを止めさせるべきと進言したりしますから(注4)。

 ただ、このラインをより明確にするのであれば、光源氏のように、道長が他の数多くの女性と懇ろにしている姿を描いて、式部の嫉妬心を激しく煽る必要があるのでは、と思われます。ですが、本作において描かれる道長は、安倍晴明とか藤原行成甲本雅裕)と一緒にいる場面が殆どなのです(注5)。
 となると、現実の物語とフィクションの物語の交錯という肝心な点が曖昧になってしまう、と思われるところです(注6)。
 ですから、本作全体からは、なんだか以前見た『Flowers』のような美人女優のオンパレードみたいだな、との感じを受けてしまいました。なにしろ、中谷美紀や真木よう子、田中麗奈、芦名星、多部未華子の他にも、蓮佛美沙子(彰子の役)とか、更には佐久間良子(王命婦の役)までも出演しているのですから(驚いたことに、田中麗奈は両作に出演しているのです)!

 本作で紫式部に扮する中谷美紀は、昨年は『阪急電車』に出演していたところ、映画自体の評価はともかく、そちらの方が本作よりもズット生彩があったのでは、という気がします。やはり、歴史上余りにも著名な人物に扮すると、嫌でも背伸びせざるを得なくなってしまうのでしょうか。
 これに対して、六条御息所役の田中麗奈は、一昨年、『Flowers』とか『森崎書店の日々』で見かけましたが(昨年はこの作品まで映画では見かけませんでした)、嫉妬に悩む年増の女性(都言っても30歳前ですが)と生霊とを実に巧みに演じていると思いました。
 また、光源氏に扮する生田斗真については、『人間失格』から、『シーサイドモーテル』、『ハナミズキ』と見てきましたが、本作が彼の類い希な容貌と一番ピッタリ合っているように思われました(もう少し人間臭さが出れば、言うことなしでしょう)。


(2)映画では、藤原道長の取り巻き連の一人として藤原行成が描かれていますが、なんだかいつも同じ本(『白氏文集』)ばかり読んでいる大層つまらない男のようにしか思えません。
 ですが、よく知られているように、彼は、小野道風や藤原佐理とともに三蹟の一人とされる超ビッグな能筆家なのです。

 折よく、書家の石川九楊氏が著した『説き語り 日本書史』(新潮選書)がこのほど刊行されましたが(注7)、そこでは、藤原行成の「白氏詩巻」(1018年)(注8)は、「日本文字=日本語の典型という意味で」、「物語・源氏物語や詩歌・和漢朗詠集と並ぶ表現で」あり、「日本を代表する書」であって、「日本や日本語、日本文化とは何かと問われた場合、黙ってこの「白氏詩巻」を示せばいいといっていいほど、日本文化の精髄は、すべてこの表現のなかに表されているといっても過言では」ない、などと述べられています(P.59)。

 こんな素晴らしい藤原行成ですから、本作においても、もう少し活躍する場面を設けてもらったらな、と思いたくなってしまいます(注9)。

(3)この映画について、映画評論家の前田有一氏は、「『源氏物語 千年の謎』最大の問題は、コンセプトがはっきりせず、いったい誰に向けて、何をしたかったのかがさっぱりわからないところだ」として、「現実の紫式部と、フィクションたる光源氏の世界が、境界をあいまいにして混じりあう独特のファンタジックな世界観を追及するのか。それとも女性向けに甘く絢爛な時代劇にするのか。あるいはお父さん向けにエロエロ官能もありとするのか。どれも中途半端で煮え切らない」と述べています(評点はなんと15点!)。

 前田氏の見解が分からないわけではないものの、この映画が、前田氏の挙げる三択の内のどれにするのか「中途半端」だという点については、そうかなという感じがします。
 というのも、前田氏が「女性向け」とか「お父さん向け」といった古語を未だに使い続けている事はサテ置くとして、映画のチラシや予告編で事前に誰が出演しているのかを見れば、本作が「エロエロ官能もありとする」方向に走るはずがないこと、そして主演が生田斗真で光源氏に扮するとなれば、「甘く絢爛な時代劇」となるのはいわずもがな、問題はそこに「独特のファンタジックな世界観」がどのくらい添加されるのかといったことになるのは、自明ではなかったかと思えるからですが。
 いってみれば、前田氏は、本作が明らかに狙いとしていない観点をぶつけて、「コンセプトがはっきり」していないから駄目な作品だと騒ぎ立てているようにしか思えません。
 なおかつ、前田氏が、「鶴橋康夫監督のような人物に現場を任せておきながら」、「人気重視で制約の多い俳優をキャスティングしたりと困らせている様子が目に浮かぶようだ」とか、「この品質のまま、監督が得意な(?)官能ロマンに仕上げていれば、相当なものができただろうに」などと述べていることからすると、前田氏は、どうも「お父さん向け」の作品だとわけもなく「期待」して映画を見に行ったところ、それが大きく外れてしまったたために、15点という極端な評点を与えてしまっているように思われるところです!

(4)前田氏の極端に低い評価に対し、渡まち子氏は、「壮麗な寝殿作りのセット、優雅な衣装、美男美女の登場人物たち。美しき王朝絵巻は、時空をも越える陰陽師・安倍晴明を登場させて、アクション・ホラーの隠し味も。映画は、女性の手の中で踊る光源氏の、マザコン風味の青春物語というイメージだ。しばし風雅な世界を楽しみたい」として60点を付けています。



(注1)高山由紀子著『源氏物語―千年の謎―』(角川文庫)〔ただし、単行本『源氏物語 悲しみの皇子』(2010年)を加筆訂正したもの〕。
 高山由紀子氏は、元々が脚本家(監督作品もあります)で、これまで自身が発表した二つの小説も、自分で脚本化しているところ、本作についてはなぜか脚本を担当していないようです。
 なお、宮城とおこ氏によるコミック版が2巻本として角川書店から刊行されています。

(注2)例えば、六条御息所は夕顔のところに生霊となって現れ、「私がこんなに愛しているのに、そんなつまらない女を愛するとは」と夕顔を苦しめ、遂に夕顔は死に至ります。

(注3)式部がここら辺りの物語を読み上げている最中に、道長が現れ、「その続きはどうなるのだ」と尋ねると、式部は、「夕顔の君のお命を奪うことになります」と平然と答えます。
 道長が、「御息所は、恐ろしい女。どこまで源氏を苦しめるのだ」と聞くと、式部は、「私にもわかりませぬ。書いて初めてこうなることが分かるのです」と答え、道長が、「恐ろしい女だな、そなたは」と言うと、式部は、「それが分からないあなた様ではありますまい」、「遂げぬ思いが、私の筆を持たせるのでありましょう」と答えます。

(注4)安部清明は、式部の顔を見て「凶相が出ている」と言います。
 さらには、安部清明は、道長に対し、「式部の筆を止めるのです。それができるのは道長様しかありませぬ」と進言しますが、道長は「それはできぬ。式部の筆の行き着く先を見たいのだ」と答えます。
 また、旅に出る式部を見て、安部清明は、「あの女、我が身が鬼となる前に身を引くとは」と感嘆します。

(注5)何も映画が原作本をなぞる必要性はありませんが、原作においては、道長と式部の逢い引きの場面はいくつか設けられているのです(例えば、原作のラストは、廬山寺における二人の密会のシーンとなっています)。その上で(あるいは、他の女と道長が懇ろにしていて)、道長が式部のことを顧みなくなれば、六条御息所と類似した境遇だと観客によくわかることになるのではないでしょうか?
 他の方法としては、道長が伊周との政争に没頭したがために、式部のことを顧みなくなったという筋も考えられます(この筋は、本作では、極く簡単に触れられているに過ぎません)。
 要すれば、本作においては、道長を、娘に帝の子を産ませることだけを願っている矮小な男として描いてしまっているところに問題があるのかな、と思ったりしています。

(注6)あるいは、光源氏が、桐壷の更衣〔さらには藤壺(真木よう子の二役)〕をどこまでも慕う様が、道長を式部が慕っていることを暗示しているのかもしれませんが。

(注7)石川九楊氏が著した大著『日本書史』(名古屋大学出版会、2001.9)については、このブログの2009年11月29日のエントリで触れているので、ご覧ください。
 (いうまでもなく、藤原行成については、『日本書史』の第18章においてより詳細に論じられています。)

(注8)「考古用語辞典」掲載の「白氏詩巻」によれば、唐の詩人白居易(772−846)の詩文集『白氏文集』巻第65から8篇の詩を、藤原行成(972〜1027)が寛仁二年(1018)に書写したもの。行成47歳の書であり、東京国立博物館所蔵の国宝です(ちなみに、来年2月7日(火) 〜3月18日(日)に同館にて展示されます)。

(注9)原作では「端整な顔」とされている藤原行成(P.138)を、こともあろうに甲本雅裕が演じるのをとやかくはいいませんが、せめて道長が異形の霊魂に襲われたときに、彼が「身を投げだして」庇う場面くらいは取り入れてもらえたらなと思いました(P.189)〔帝に、彰子の子を東宮にするよう進言したりはしますが〕。



★★★☆☆




象のロケット:源氏物語―千年の謎―
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六条御息所 真木よう子 高山由紀子 ファンタジック 多部未華子 宮城とおこ 国立博物館 映画評論家 名古屋大学出版会 1018年
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Unknown (愛知女子)
2012-01-10 01:30:28
こんばんは!トラバとコメントありがとうございました。
すみません。角川作品だから仕方ないのかな・・・。
と毎回角川映画についてコメントしてしまいますが、今回はちょっとどの女性向けなのかな・・・・。
と考えてしまいました。
もう冒頭からいきなりのシーンでひいてしまいましたよ。
見た目優先で創ってありますが基本的なものがちょっと残念でした。特に語尾がおかしいのにはズッコケてしまいしまいました。
役者の力量の差が目立ちすぎて途中見ながらなんとかならないかと思ってました。
時代劇でも今回は古の貴族rしくない現代劇風にしたものなのですね。


時代劇or現代劇? (クマネズミ)
2012-01-10 21:47:47
「愛知女子」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「冒頭からいきなりのシーン」でしたが、そうした高いテンション(!)で突っ走るのかなと思っていたら、そのあとは腰砕けの感じで、生田斗真と美人女優との埒もない関係が描かれるだけで、なかでは田中麗奈の生霊が目ぼしいくらい。道長だって、様々の女性と関係を持っていたのではと思われるものの、安倍晴明や藤原行成といつもくっついてばかり。これでは、「語尾」に注目されてしまうのもムベなるかなです。
ただ、映画の時代考証は限度を置いているようで、それに元々、時代劇といっても現代劇に毛の生えたものしかできないのですから、余り目くじらを立てない方が、とも思うのですが。

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