映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

幕末高校生

2014年08月01日 | 邦画(14年)
 『幕末高校生』を渋谷TOEIで見てきました。

(1)時代劇コメディというので『超高速!参勤交代』と同じように面白いかもと思って見に行ったところです。 

 本作(注1)の冒頭では、スマホのアプリ「江戸時代」の「入る」をタッチすると、突然、コートを着た石原さとみが、階段や木の橋を走り回る姿が描き出され、でも用水桶の陰に隠れたところで、追手の同心らに捕まってしまいます(注2)。



 次いで、場面は、石原さとみが扮する高校教師・川辺未香子がクラスで日本史の幕末を教えています。
 と、大きなイビキがするので、川辺先生がイビキの主の生徒・高瀬柄本時生)に対して「寝るなら保健室で」と注意すると、彼は素直に立ち上がって教室を出ようとするものですから、彼女は慌ててしまいますが、折よく終業のベルが。
 教室では、生徒の森野川口春奈)がクラスメイトの沼田千葉雄大)に「志望校はどうするの?」と訊くと、沼田は「俺には関係がない」と応じます。

 さらに場面は、川辺先生と生徒の沼田と母親との三者面談に。
 先生が「志望は獣医学部とのことだけど?」と尋ねると、母親は「医学部です」と答え、先生が「医学部に行ける力はある」と付け加えると、沼田は「先生は親の味方ですか」と非難して、その場を立ち去ってしまいます。

 そして、高校の中間テストの場面、高瀬は先生に隠れてアプリの「体感ヒストリー江戸時代」を見たりしています。
 テストが終わって、川辺先生は車に乗って帰ろうとしたところ、車の前に高瀬と沼田と森野が。
 その時、「体感ヒストリー」のアプリが光りだしたので、高瀬が慌ててタッチしてしまいます。
 すると、そこにいた4人と車は一瞬で消え去ってしまい、慶応4年(1868年)3月へとタイムスリップしてしまいます。
 さあ、彼らの運命は果たしてどうなるのでしょうか、………?

 本作は、高校教師と3人の生徒が、幕末にタイムスリップして勝海舟玉木宏)と出会い、江戸城無血開城を巡る事件に巻き込まれるというものですが、こういう単純なタイムトルップ物は色々矛盾が生じてしまうために、それを補って余りあるストーリーの奇想天外さが求められるところ、本作はその辺りを随分と無難な線でまとめてしまっているために、全体として面白さもそれほど感じませんでした(注3)。

(2)本作では、勝海舟とか西郷隆盛佐藤浩市)といった飛びきりの歴史上の人物が描かれています。
 ただ、彼らについて既に定められた枠を超えた遊びができないためでしょう、川辺先生と高瀬は、勝海舟の屋敷という格好の場所にいるにもかかわらず、3月15日の江戸無血開城に至る4日間を、他の森野と沼田を探し出すことに費やしてしまうだけなのです(注4)。



 これは、タイムスリップしても、過去を眺めるだけで過去に参加できないというルールが設けられているためだとしたら、それはそれではかまわないとはいえ、それでは一体何のためにこうした映画を製作するのか、ということになってくるのではないでしょうか?そんなことでは、単なる歴史再現ドラマにすぎないわけですから。

 そればかりか、映画では、実在しなかったとされる柳田・幕府陸軍副総裁(柄本明)が(注5)、勝が推し進める江戸城無血開城の策に反対し、勝から西郷への書状を破り捨てたり(注6)、勝海舟に暗殺団を送ったりするなどといった妨害工作を企てたりします(注7)。
 4人は一体どの江戸時代にタイムスリップしたことになるのでしょうか?
 あるいは、4人は、現在をもたらした過去とは異なる過去を持つパラレルワールドの一つに行ってしまったのかもしれません。
 仮にそうだとしたら、歴史を変えたら自分たちは元の現代に戻ることが出来ないとして川辺先生たちは焦りますが(注8)、既に史実とはいろいろ違っている世界(注9)でそれをおおまかに元に戻したところで(注10)、川辺先生たちの元いた現代に戻れるとは限らないようにも思えるところです。

(3)前田有一氏は、「どうもいろいろとずれを感じる企画である。あんなにかわいらしい歴史教師を出していながら色気ゼロ。ということは、ようするに男性よりも歴女向けということなのだろうが、かといって男性キャラにさほど魅力的な人物が配されているわけでもなく」として45点をつけています。
 柳下毅一郎氏は「太秦映画村狭しと石原さとみが着物姿で駆けまわるバラエティ番組」ではないかと述べています。



(注1)原案は、眉村卓氏の短編『名残の雪』(角川文庫『思いあがりの夏』所収)とされ(未読)、同作は2度ほどTVドラマ化されているようです。

(注2)高瀬もつかまって、川辺先生と一緒に町奉行所のお白州に引き出されます。

(注3)最近では、玉木宏は『大奥』、石原さとみは『カラスの親指』、柄本時生は『超高速!参勤交代』、佐藤浩市は『清須会議』、柄本明は『許されざる者』、谷村美月は『白ゆき姫殺人事件』で、それぞれ見ました。
 また、囚われた川辺先生や高瀬を裁く町奉行役の伊武雅刀は『終戦のエンペラー』で、勝海舟や西郷隆盛などが立ち寄る蕎麦屋の主人役の石橋蓮司は『超高速!参勤交代』で、それぞれ見ています。

(注4)森野と沼田は、川辺先生や高瀬と同時にタイムスリップしたにもかかわらず、映画の中では、別の場所とか別の時点で江戸時代に来ていることになっています!
 すなわち、森野は、幕府の重鎮である柳田の屋敷に潜り込むことになり、沼田については、1年の“時差”が設けられています〔1年も前から江戸で千代(谷村美月)とともに暮らしています〕。

(注5)Wikipediaのこの項目では、陸軍の副総裁は藤沢次謙とされており、また劇場用パンフレットに掲載に「あらすじ」には、「勝の政敵・柳田某などという人物は、その「歴史」に全く登場しないとも………」と書いてあります。

(注6)勝海舟は、辛抱強く西郷隆盛からの返事を待ち続けて毎日をのんべんだらりと過ごしています。その姿を見て、川辺先生は焦ります。

(注7)柳田は「徳川のためにはここで戦をやるしかない」という信念の持ち主ですが、さらにそれを補強したのが、森野から聞いた「徳川家は未来でも存続している」という情報。
 ここで興味深いのは、柳田は、森野の姿を見て、勝海舟と同様に未来から到来した人間であることを信じてしまう点です。これだと、保守派である反勝派の頭目も、勝と同様に柔軟な頭脳を持っていたことになるのですが。

(注8)期限前のぎりぎりのところで、勝海舟と西郷隆盛とは蕎麦屋で顔を合わせることになりますが。

(注9)例えば、史実によれ(Wikipediaによります)ば、勝海舟と西郷隆盛との会談については、山岡鉄舟が下交渉をしていますが、本作においては、勝海舟は「手紙を届けたのは鉄舟ではない」と言っています。また、史実によれば、勝海舟と西郷隆盛との会談は、13日と14日の2回行われていますが、本作では14日の1回だけ。

(注10)映画で描かれる過去においても、結局は江戸城無血開城が達成されるのですが。



★★★☆☆☆



象のロケット:幕末高校生