見ないフリ

一時的な対応策にしかならない現実逃避をずっとするブログ

エベレスト3D

2015-11-19 | 本と漫画と映画とテレビ
娘さんよく聞けよ 山男にゃ惚れるなよ
山で吹かれりゃよ 若後家さんだよ

―『山男の歌』より




『エベレスト 3D』
監督:バルタザール・コルマウクル (2015年米・英)
1996年にエベレストで起きた大量遭難事故を映画化した作品。

以前『ジュラシック・ワールド』を観に行ったときに流れていた予告編が
めちゃくちゃかっこよかったので、IMAX3D(2300円!高っ!)上映の
劇場を探して、ウッキウキで観に行く。


その前に。
ざっくりとエベレスト登山の基本を予習しておきましょう。
(真面目!)

まずは、エベレスト登山の歴史から。

1852年、インド測量局により世界最高峰の山(8848m)だと認められ、
当時の同局長官ジョージ・エベレストにちなんで
名付けられた「エベレスト」。

北極点・南極点制覇に敗れていたイギリスは、国の栄誉を示すために
1921年、エベレスト登頂を国家プロジェクトと位置づけ、遠征隊を派遣。



「そこに山があるから(Because it's there.)」で有名な
ジョージ・マロリー(後列左から2人目)も、このエベレスト遠征隊の一人。
1924年、ベースキャンプでこの写真を撮ったあと、彼は山頂付近で消息を絶ちます。
(遺体は75年後の1999年に発見)

1953年、イギリス探検隊のエドモンド・ヒラリーと
シェルパのテンジン・ノルゲイによって世界初登頂。



登山における「登頂」とは、生きて帰ってこそナンボなのです。

1963年、アメリカ隊が登頂に成功。
1970年には、松浦輝夫と植村直己が日本人初登頂。

次第に、<登頂>=<国家プロジェクト>という要素は薄れ、
エベレスト登山はグイグイ商業化。

1990年代半ばになると、公募隊(要は、ガイドとツアー客)による登山が主流に。
ガイドとシェルパ(ヒマラヤの現地人登山ガイド)が、
前もって登山に必要なルート整備や荷揚げを行い、
客を山頂まで導いてくれるようになります。

余談ですが・・・
2014年4月に起きたエベレストの雪崩事故では、
こうした登山客のためのルート整備や荷揚げをしていたシェルパが
たくさん犠牲になったそうな。
登頂のピークが5月なので、4月はその準備で大忙しなわけで・・・
そんななか、大雪崩が・・・南無。


(氷河の割れ目・クレバスにはしごをかけ、ルート工作するのもシェルパの仕事)


話をもどして。。。
つまり、ガイドやシェルパの力を借りることで
登山技術や経験の低いアマチュア登山家でも、必要な費用さえ払えば
エベレストに登れるようになったということ。

とはいえ、
エベレスト登山には、目をむくほどのお金と時間が必要。
遭難事故の起きた1996年当時のツアー費用は、一人あたり約650万円!
そして、ベースキャンプ入りしてから登頂までにかかる期間はおよそ1~2カ月!
(身体を高所に慣らすのと、天気待ちがその目的らしい)

庶民にはそう簡単にチャレンジできる山ではない。
いろんな意味でトップ・オブ・マウンテンってなわけ。

今でいうところの、民間宇宙旅行のノリ??
宇宙旅行の費用はケタが違うけれど、感覚としては似てる気が・・・
国家プロジェクトから商業化っていう流れとかさ。

ま、とにかく
同じツアー客といっても、一括でポンッと支払う富裕層から、
スポンサーを見つけたり、寄付を募って登る人まで
登山者の懐事情もいろいろ。1度のアタックにかける思いも人それぞれ。

加えて、
ツアーに参加する登山者は、みんなそれなりの登山歴があるとはいえ、
体力も経験もピンキリ。言語も宗教観も登山哲学も多種多様。

さらに、公募隊による登山が主流になったことで、
登山者数が増え、狭いルートでは登山者の渋滞が日常化。
バカみたいに寒いなか、長時間の渋滞待ちをすることもざらに。


(写真は2012年、頂上付近の岩壁・ヒラリーステップの渋滞)


己の登山技術・体力はさておき、高いお金を払っているのだから、
なんとしても登頂したいと考えるツアー客と、
できるだけ多くの登頂者を輩出して、実績&評判を高め
もっともっと儲けたいと願うツアー催行会社。

こうしたなか起きたのが、
映画で描かれている1996年の大量遭難事故なのです。

もう、悪いことしか起きる気がしない・・・!

そんな不吉な予感いっぱいの1996年5月のエベレスト。




ちなみに、同事故を映画化した作品には、
『エベレスト 死の彷徨』(1997年 監督:ロバート・マーコウィッツ)
というのもあり、この作品は、ロブ・ホール(AC隊)の客だった
雑誌編集者のジョン・クラカワー目線で描かれている。
(この人は、下山後、事故の出来事を本にまとめて出版したらしい)

あと、この事故が起きたとき、
たまたま映画撮影のためにIMAXの撮影隊も入山していて、
その時の出来事や、事故の数日後に登頂した撮影隊の記録を収めた
ドキュメンタリー映画『エベレスト』(1998年)という作品もある。らしい。
死人が出てもなお撮影を続けるプロ?根性。さすが。

『エベレスト 3D』の中でも、このIMAX隊の人が、
事故後の救助支援を申し出るシーンがちょいちょい差し込まれています。
ホント実際助けたんだろうけどさ・・・
けど、そのシーンそんな何回も要るかね??ってちょっぴり思う。
なんか・・・ちゃんと救助活動はしましたからね!アピールがすごいっていうか、
言い訳がましいっていうか。。。モヤモヤ。


まぁ、
とにもかくにも、IMAX3Dで観るエベレストは壮観で荘厳!!

鑑賞前は、クッソ寒い雪山を登る奴の気が知れん!と思ってたけど、、
観ると、頂上を目指す人の気持ちも分からんではないな・・・と思う。

ただ、1つ注意しておくなら、
『クリフハンガー』や『バーティカル・リミット』的な
雪山アクションを期待して観てはいけない、ということ。
テロも殺人も起きない代わりに、
どんだけ低体温症になろうが、どんだけ高山病で意識朦朧としようが、
マクレーン刑事も、ターミネーターも助けに来てはくれません。

実際にあった話ですから…ドキュメンタリーに近い?のかな?
あえていうなら、雪山版『クラッシュ』とか、『バベル』という感じ。


登山事故に限らず、なんでもそうなのかもだけど、
なにかしら悪いことが起きるときってのは、
誰が悪い、何が悪いとかじゃなく、みんながちょっとずつ悪くて
がんばったからって報われるわけじゃなくて。。。

なんだろう…覆水って盆に返らないんだ。と改めて思う。

14時で引き返してたら。
郵便局員が登頂をあきらめてたら。
ファッションジャーナリストにもっと体力があれば。
フィッシャーが肺水腫になった友人を送り返す役を担わなければ。
天気が急変しなければ。
そもそも山なんかに登らなければ・・・!

なんて、
結果だけを見て、あのときこうしてたら・・・ああしてれば・・・
つってごちゃごちゃ言うことは簡単なのだけれど・・・ねぇ?

んで、あとさ、
各ガイドとシェルパたちの仕事に対する考え方が、なんつうか。。。
誰が間違っているとか、誰が正しいとかじゃないのよ。
ただただ、チームで仕事するって難しいなぁ。。。と思う。
みんな山のプロだけど、それぞれ正義とか哲学が違うんだもの。

ついでに、そもそも、
高さ8000mの極寒のデス・ゾーンなんて呼ばれるところで、
冷静な判断なんてムリムリ!
自分のことで精一杯!

AC隊サブガイドのアンディだって、
高山病で意識がフラフラで「酸素ボンベがカラだ!」ってカン違いしてたし!
(南峰に準備してた酸素ボンベは、実際は普通に満タンだったらしい)

ま・・・その・・・なんだ。

山に魅せられる気持ちはすっごい理解できた。
山に憑りつかれる気持ちもわかった。

だけど。
守るものがある人は、
悲しむ人がいる人は、
エベレストとか行かない方がいいよ!

っていう感想。