たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

建築規制のあり方 地下室マンションの建築確認取消判決を見て

2016-12-28 | 都市のあり方

161228 建築規制のあり方 地下室マンションの建築確認取消判決を見て

 

今日の日経アーキテクチャ・ウェブ情報に、<東芝襲った「原子力」の負の連鎖>というタイトルで、会計不正後建て直しを図っていた東芝が従前より指摘されていた原子力事業の闇というか不正会計ともいうべき状態が明らかになったことをクローズアップされていました。各紙朝刊も取り上げていたようですし、私も気になっていましたので、この内容を読もうとしたら、もう一つの地下室マンションの裁判例が昨日の記事で掲載されていて、担当した弁護士が以前も一緒にやったことのある呉東さんだったので、懐かしさもあり、この問題を取り上げてみることにしました。

 

呉東さんは、サラ金問題や原子力空母入港問題など重大な訴訟事件をたくさん手がけ、さらにはまちづくりなど幅広く活躍しており、とくに横須賀地域では頼られる存在だと思います。その彼から、地元の地下室マンション事件について協力依頼があり、それから4年くらいでしょうか一緒に住民・業者双方の仮処分事件、建築確認取消の審査請求、その取消訴訟、業者からの損害賠償請求訴訟など一連の事件を闘い、後の2つの訴訟ではいずれも勝訴しました。

 

当時、呉東さんは、建築確認取消審査請求や、その取消訴訟については初めての経験でしたが、鋭い感覚と貪欲なまでの熱心さで、建築確認取消という行政訴訟分野では極めて希な勝訴判決を得ました。私自身、当時は常時510件程度の建築・開発案件を抱えていて、いずれも他の弁護士と共同していましたが、呉東さんの熱心さは舌を巻くほどの印象でした。

 

で、私は、この訴訟を含め横浜市や川崎市等での多数の地下室マンション事件で、地盤面設定の問題提起を行い、わずかな例外を除き多くの訴訟では残念ながら敗訴が続いていました。私が手がけた事例では、地下6階地上3階といった信じられないような地下室マンションが、第一種低層住居専用地域で高さ制限10m、しかも風致地区で立地されていました。そのほか横浜山手地区は、これらの規制に加えて、市認定歴史的建造物が見事に建ち並び、また、歴史的要綱に基づく景観風致の保全地区指定を受け、とりわけ風致や景観の保全が要請される地域でしたが、その環境に適合しない地下室マンションが建てられていましたので、マスコミ報道もかなり取り上げていました。

 

しかしながら、これらの訴訟を通じて、横浜市が、たしか中田市長の時代だったと思いますが、それらの事件検討を内部で行い、地盤面設定の意図的な加工を制限する条例を制定したところ、川崎市や横須賀市も同様の条例を作りました。その結果、その後は上記のような極端に悪質な地下室マンションはなくなったと思っています。

 

しかし、これらの条例は、いずれも地盤面を自由に設定すること自体や一定の加工を認めているので、基本的な問題の解決にはなりません。ことの本質は、現行建築基準法や都市計画法に問題があり、それ自体を改正しないと、切り土盛土を自由にしたうえ、開発規制を骨抜きにしつつ、建築物は別個独立に審査する制度設計ではこの問題に適正に対処できないのです。そして地盤面設定を巧妙に加工して、高さ制限規制の趣旨を実質に逸脱する建築物を計画することは容易ですので、今後も程度の差はあれ、地下室マンションはなくならないと思っていました。

 

で、日経アーキテクチャ情報によれば、当該マンションは、横浜市金沢区に立地しているのですが、東京地裁で判決されています。以前は建築確認を行うのは立地場所の行政庁でしたので、横浜地裁で審理されていたのですが、建築基準法の改正により指定確認検査機関が行えるようになり、多くの大企業はこちらに建築確認申請しているため、その本社が東京にあるので、東京地裁になったのだと思います。地元住民にとっては不便なことになります。このような事態は、仮に当該指定確認検査機関の本社等が遠く離れた場所、たとえば大阪市などであれば、そちらの管轄地裁本庁に取消訴訟を提起しないといけなくなるので、これも大変です。

 

ただ、余計な話ですが、建築物が完成した後は建築確認取消請求が訴えの利益なしということで審理されないため、違法を理由に損害賠償請求に訴え変更する場合がありますが、この場合の被告は行政機関となり(これは私が担当した最高裁判決で判例となっていて姉歯事件でも援用されています)、おそらく横浜市になるのではないかと考えます。すると管轄は横浜地裁になるのか、と余分なことまで頭に浮かんできました。

 

さて本題のどこに違法があったかについて、この情報では、高さ制限違反があったといのです。建築物の高さはどのように算定するか、普通の人は道路など建築物が接している地点が地盤面で、そこからの高さと考えるのではないかと思います。私も97年頃にこの種の訴訟を手がけた最初はそんな意識でした。それが常識だと思うのですが、この建築行政訴訟分野で長年活躍する業者側の高名な弁護士は、審理の中で、建築規制は常識とは違うんだとのたまいました。

 

建築物の高さについて、建築基準法施行令216号は「地盤面からの高さ」としています。そこまでは誰もが理解できるでしょう。その「地盤面」とは何かについて、同条2項が「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面」としている点も一応、納得できるかもしれません。問題は、これを斜面地に適用する場合です。同項は、続けて、「その接する位置の高低差が3mを超える場合は、高低差3mごとの平均の高さにおける水平面」と定めている点が問題になります。

 

そもそも斜面地においてどのような開発(切り土・盛土)が許容されるかが検討されるべきなのですが、それは都市計画法の開発許可制度によっており、そこでは景観的な配慮規定はありません。ここがおそらく欧米の開発・建築行政との大きな違いではないかと思っています。北米などでは各地で高層ビルが乱立したり、都市域がどんどん広がっていますが、現況地形自体は割合、保全されていて、大きな改変がないのが普通ではないかと思います。

 

これに対し、わが国では、上記の高低差3m基準の平均地盤面構想は、斜面地開発についてなんらかの景観配慮がないと、山全体を巨大建築物に改変させることもできるものです。そのため、熱海や鎌倉などで、多段階の山の麓から頂上まで続く多段階マンションも当然可能になります。それでもまだ、本来の地形はわずかながら原形を偲べるものでした。

 

しかし、この斜面地開発に新たな動きが始まりました。90年代後半以降から飛躍的に大規模化し増大した地下室マンションなどです。これらは第一次分譲開発では開発不適として残されていた斜面地が対象となっています。本来開発対象とならなかった箇所が、バブルがはじけ、公共事業が大幅に削減する中で、コンクリートや重機・トラックなどの利用先として斜面地開発が狙われたという別の側面も感じています。

 

斜面地開発自体に規制がかかっていないという都市計画法上の緩い規制に加えて、このような特異な開発が可能になったもう一つの要因は平成6年の建基法改正で導入された住宅地下室容積率緩和制度です。ただ、この制度導入の際の政府説明は、一戸建ての地階の活用で(当時は)高い地価を有効活用できるとのことで、国会議員もそのような理解でほとんど反対もなく成立させています。そのため改正当初はさほど大きな地下室マンションはありませんでした。

 

しかし、建築規制をいかに巧妙に解釈して実質的な使用容積率を高めるかが腕の見せ所、あるいはノウハウかと考える建築士や企業が、わが国の緩い規制の中でも最も規制の厳しい第一種低層住居専用地域の高さ制限10mという低層住宅地、そのほとんどが一戸建ての高級住宅地において、(高層)地下室マンションを首都圏各地で競うように高さ・容積をアップし、中には実質高さがその2倍とか3倍とかになるような大規模マンションまで作り出したのです。

 

それは「建築物が周囲の地面と接する位置」を人工的に加工して切り土・盛土することにより、いくらでも地盤面の位置を作り出せ、それぞれの人工的な地盤面から高さ10m未満にさえすれば、地面と接していない建築物の外形の高さが10mを優に超え、20mでも30mでもそれ以上でもなんら差し支えないのです。斜面地は地下が割合低くて、そこで実質・高層マンションを低層住宅地にランドマーク的に立地させるのですから、販売側としてはとても魅力的な存在にもなり、他方で、容積率が実質アップする分(地下室なので)床面積が広がり価格的に割安な、消費者に受ける商品となるわけです。しかし、それは本来の都市計画や建築規制の趣旨を逸脱するものです。

 

その後この容積率不算入制度は、平成16年に地下室マンションについて地盤面にかかわる条例規制を認め、また、容積率緩和を制限する法改正がなされ、若干の歯止めができました。

 

しかしながら、今回取り上げる地下室マンションのように、いまなお問題のある建築が横行しているのが現状です。

 

日経アーキテクチャ・ウェブ情報を参考に以下のように考えます。斜面地の開発で切り土・盛土が行われるわけですが、当該地下室マンションでは、切り土後に一部だけ高さ約3m1m四方の突起状の部分を残しています。なぜここだけ残したか、その必要性・合理性が明らかでありません。こういう場合高さ制限を回避するため意図的に偽装したと認定される場合と考えます。

 

その突起部分以外は約84mの区間あり、高さ約3m下の位置で周囲の地面と接しているにもかかわらず、その1mしか接していない突起部分の頂点を地面として扱うので、高さ算定の基点が約3m底上げできるわけす。つまり建築主は、この突起状の部分の上部を、平均地盤面を算定する際の基点となる、「建築物が周囲の地面と接する位置」、つまり地面に扱い、そのわずか接している地面の平均地盤面からの高さが9.93mと算定したわけです。

 

原告は、突起状の部分は「意図的に偽装された」ものであり、正しく算定すると、当該敷地の建築物は高さ10mを超えるから違法であると訴えた部分が認められ、建築確認を取り消す判決となったのです。

 

地下室マンションの問題はほんの一例です。このような建築規制を実質的に逸脱することがノウハウとされ、商品価値を高めるという現状は、都市計画法および建築基準法の基本的な見直しなしには、近隣住民との軋轢や紛争をこれからも発生させることになることを懸念します。

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