たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

「先占」と「防衛」 『新・先住民族の「近代史」』を読んで

2017-02-14 | 差別<人種、障がい、性差、格差など

170214 「先占」と「防衛」 『新・先住民族の「近代史」』を読んで

 

今朝も結構なしびれる冷え込みでした。寒さを感じながら、やりかけの仕事をしたり、来客者との面談をしたりして、いつの間にか夕方になっています。

 

さて今日は毎日朝刊で取り上げられていた、シャープの黒字化とそれを導いた新しいいつくかの施策、労務管理や資材調達などとともに、ソフトバンクの新たな働き方改革施策をとりあげようと思って、毎日のウェブ情報を探したのですが、見つかりません。事実確認に手間がかかりそうなので、また別の機会にして、昨日読み終えた見出しの本について、書くことにしました。

 

先住民族の本はいま5冊くらい平行して読んでいますが、通読することはほとんどありません。パラパラとみて、興味があるところだけ適当に読んでいます。ただ、この見出しの本は、私にいろいろと刺激的な情報をもたらしてくれたので、ほぼ通読しました。

 

それは現在話題になっている、アメリカの民主主義、自由と平等といった基本原理について、私自身が以前から疑念を抱いていたことに少なからず応えてくれるものであったからです。151月出版ですが、資料自体は20年以上前のものです。著者の上村英明氏は長く先住民族問題に関わってきた方で、01年にほぼ同名の書籍を出版されており、これをわかりやすい表現で復刻したもののようです。その意味で、内容自体は少し資料を基にしていますが、現在の状況にも当てはまる、現代的問題に当てはまるものと思います。

 

すべてを取り上げることができませんが、アメリカ建国の理念が先住民の知恵に基づいてること、先占と実効的支配という「国際法」が先住民族の権利、国を奪ったこと、大規模水銀中毒の最初の被害者が先住民族であったこと、原爆・原発の被害は先住民族で常に発生したことを主に取り上げてみたいと思います。

 

アメリカ映画というと、子ども時代は西部劇が人気の的でした。保安官やガンマンなど名前が次々と浮かんでくるのは団塊の世代であれば普通でしょう。インディアンはいつも悪役を演じていました。それを倒すことが正義であり、その攻撃に対して、先制攻撃も含め防衛のために当然のように許されるというのが、映画を見ながら自然に受け入れていました。

 

あるときは競争して先にその場所にたどり着けば、そこが自分の所有地になるとかといったことが当然視されていました。油田も、鉱山も、先に「発見」すれば自分の利権となっていました。

 

こういった、「先占」「防衛」という基本的な概念は、現在もアメリカの法制に生きているように思えます。ある時点以降、勝手に移民してきたアイルランドやイングランド、ヨーロッパの人々は、先住民族の権利・テリトリーを無視して、自分たちの誰かが先に支配すれば、その土地や水、地下資源すべて自分のものとしてきたのだと思います。簡単に述べることはできませんが、先住民族には居留地を与え、それ以外は移民者である彼が自由に使える状況にしたのだと思うのです。

 

そして防衛の観念は、私には潜在的に人の権利を奪って獲得したという意識があるために、襲撃されるおそれを常に抱いているのではないか、常に襲われる不安を抱くため、防衛本能が鋭く、ちょっとした不穏を感じたら、いつでも先に攻撃できるという、特異な「正当防衛」の思想が刑事法という一般法にも、また、軍事上はより明確に、確立しているように思うのです。

 

だからこそ、アメリカのアフガニスタンやイラク攻撃が多くの国民から支持されたのだと思うのです。最近、北朝鮮の挑発的なミサイル発射や核実験などについて、東アジアの戦略的問題の専門家が話し合っている中で、アメリカ人の意見は、北朝鮮にわが国への発射の兆候が見られれば、先制攻撃することができるし、やるべきだと当然のように述べていました。これこそ、アメリカ人の「防衛」思想だと思います。

 

さて前置きが長くなりましたが、では上村氏はどんなことを言っているのか、まず先住民族の伝統的知恵を披露しています。ときとしてアメリカの西部劇などにかぶれた人の中には先住民族が遅れた知識・知恵しかないと考えがちではないかと思います。

 

しかし、彼が指摘したのは、合州国(和訳としてはこれが正しいという、本多勝一氏の意見によっており、私も同意見です)という連邦制は、先住民族が長い間採用し実施していた制度を、ジョージ・ワシントンやベンジャミン・フランクリンなど建国の父が採用したのだというのです。アメリカが独立宣言したとき、先進国と言われたヨーロッパにもない(スイスのみ採用)制度で、独立をうたったものの、どのような政治制度にするか、それぞれ意見が異なり、具体的なものがきまっておらず、独立宣言後、政治体制が固まらなかったというのです。

 

この事実は、米国連邦憲法の施行200周年にあたる1988年、連邦議会が、上下両院の合同決議で、先住民族が採用していた『「イロクォイ連邦」とインディアン国家―合州国への貢献を認める』と題する決議をして、裏付けられています。

 

先住民族がもつ伝統的知見の数々は、時代を経て、さまざまな形で評価されてきていますが、国家制度といった、政治制度について、しかも民主主義の旗頭ともいうべきアメリカ合州国の政体の基礎となった制度をすでに確立していたという点は、高く評価されてよいとお蒙のです。

 

ちょっと余談になりますが、イザベラ・バードの『日本奥地紀行・アイヌの世界』は1878年当時の、アイヌの生活を見事に活写しており、当時のアイヌ人の世界を知る数少ない資料として評価されてよいと思うのです。で、その中で、イザベラは、彼らがよそ者を排除せず、だれもが快く受け入れてくれ、食事もなにもかも平等に分配する、そこには一切の差別もない社会を続けていること、必要以上にものを求めず、なければないで満足することで、幸せな心持ちを共有している様子を取り上げています。

 

おそらく先住民族のインディアンの多くの種族も、同様の生活形態ではなかっただろうかと思うのです。現在、トランプ氏やそれを支持する人は、すべて移民してきた人々の末裔の一人ですが、新たな移民の一部を「テロ」とレッテル張りをして排除しようとしています。それは、アメリカという国が、後述するように、原爆や原発の開発・実験、その廃棄処分にあたって、先住民族の利益をほとんど無視してきたこととも関係するように思います。

 

次に、国民国家という、民主的で近代的な国家という像は、明治維新の理想像ではないかと思いますが、それは同時に、当時の近代国家とされる西欧列強が帝国主義・植民地主義を繰り広げていた競争に、日本も参画することになったに一面をぬぐい去れないように思うのです。

 

上村氏は、『「国民国家」形成という名の植民地化』というタイトルで、北海道と沖縄を取り上げています。日本の歴史教科書では、台湾や大韓民国などが植民地化の対象となりそうですが、この南北2つの先住民族の世界こそ、明治政府が最初に行った植民地化というのです。わが国はいわゆる鎖国から開国に向かって各国と条約締結をしていきますが、日本が最初に領土境界を定めた条約を締結したのはロシアでした。その長い交渉の中で、先占と実効支配という国際ルールを知り、千島列島や樺太の境界線を確立したのです。しかし、それは法的な意味で、先占といえるか、実効的支配といえるか、本来疑問がでておかしくないのですが、わが国はアイヌ人を属人として、彼らが拠点とする領域を全部わが国の領土として認めさせたのです。

 

さてアイヌ人は先住民族ですが、それまで日本国民として取り扱われていたかというと、江戸幕府は異なる味方をしていたと思います。北海道という国土の20%を超える領土さえ、アイヌ人が実効的支配や先占していたといえるかも、問題になるところですし、属人といったとらえ方も疑問があります。しかし、ロシア側はその主張を受け入れ、まして北海道についてはまったく異議なく認めています。その後アイヌ人がその固有の生活利益や権利を尊重されたのならまだしも、土人として扱われ、自分たちの慣習や言語を捨て去るように強制されたうえ、本土からは開拓農民などという形で一方的にそのテリトリーを侵奪されたのですから、その問題の本質は深いと思います。

 

もう一方の沖縄県となった諸島は、長い歴史をもつ琉球王国の領土でした。わが国の領土の一部ではなかったのです。上村氏の著作を参考にして、概要を述べます。琉球王国は、薩摩から1609年侵攻を受け、薩摩に「附庸」という形で朝貢していたようですが、元々、中国の冊封を受けていたので、いずれにも属さない形で、平和的な均衡外交を続けていたのでしょう。だから琉球王国は、日本とは別個に、1850年代に米国、、フランス、オランダとの間で条約を結んでいます。それを明治政府から一方的に、王国を廃して琉球藩にするとか、いわれても応じるわけにはいかないでしょう。それで1878年まで、明治政府の一方的な併合策に抵抗して国際世論を味方にしようとしましたが、結局、翌年79年に大量の日本軍を動員して、強制的に琉球王国の廃止と沖縄県の創設という琉球処分を行ったのです。

 

尖閣問題は、琉球民族の生活圏を考えれば、当然その領土でしょうが、それを奪ってしまった日本国が領土権を主張することが、はたして公正なものか、疑念を抱かざるを得ないのです。むろん琉球民族、沖縄県民の意見は、さまざまでしょうし、日本から独立するといった意見は少数派でしょう。ただ、先住民族の権利・利益を無視してきたわが国あり方は、司馬遼太郎氏の高い見識ではどのように評価するのか、知りたいところです。

 

続いて、水俣病を含水銀中毒や原爆・原発問題について言及しようと思ったら、時間切れになりました。関心のある方は、上村氏の著作をぜひ購読してもらえばと思います。賛否両論あると思いますが、より詳細で的確な分析をされていますので、非常に参考になると思います。

 

 

 

 


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